ガルパン日和   作:アセルヤバイジャン

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クラーラの口調はもっとらぶらぶ作戦です!を参考にしております。
ノンナにだけは口調を崩す形です、その方が仲良し加減が出るかと思ったので。








けいぞく

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ~、なにこれ凄いよ…」

 

「これなんてすっごいキマってるよね~」

 

「わたしはこっちが好きかなぁ~」

 

夕暮れの戦車倉庫、その一角で何かを囲んで会話するウサギさんチームの山郷あゆみ、大野あや、宇津木優季の3人。

 

木箱に囲まれた隅っこで、周りから隠れる様にしている姿に、戦車から降りてきた澤梓が首を傾げながら近づいてく。

 

「何見てるのみんな」

 

「あ、梓。梓も見てみなよこれ」

 

「もうすっごいんだからぁ~」

 

声を掛けてきた梓を呼び込むあゆみと、頬を押さえて興奮気味の優季。

 

「何が凄いの……こ、これって!」

 

「じゃ~ん、長野センパイの写真集~」

 

梓が覗き込んだそれ、あやが持つのは見知った青年の写真が乗った本。

 

中学時代の長野叢真の写真集であった。

 

戦車道連盟販売の今では絶版となった叢真にとってモノホンの黒歴史である。

 

本人が居たら発狂間違いなしの一品でもある。

 

「ま、まずいよ、そんな本学校に持ってきちゃ…!園先輩に見つかったら大変だよ!」

 

「えー、大丈夫だよ、ただの写真集だよ?」

 

「そうそう、ちょ~っと露出が多いだけの健全な写真集だよぉ~」

 

「水着写真とか半裸の写真とかあるけどセーフセーフ」

 

慌てる梓に対して、ケラケラ笑う3人。

 

勿論そど子に見られたらアウトである。

 

「ねぇねぇ梓はどの写真が好きぃ~?」

 

「えぇ…そんな急に言われても…」

 

良くないと思いつつも、好奇心は抑えられない梓。

 

つい優季から本を受け取ってペラペラと1枚1枚吟味しながら見ていく。

 

「梓ってばもう夢中じゃなぁい~」

 

「いやいや、しょうがないって、センパイの写真だもん、夢中になるよ」

 

優季がくすくすと笑い、あやが肩を竦める。

 

「う~ん…こ、これとか…かな」

 

そう言って頬を染めて指さしたのは、コメット巡航戦車のキューポラから上半身を出した叢真の写真。

 

戦車道連盟が出した写真集だけに、ほぼ全編戦車や関連車両と写った写真である。

 

「おー、半脱ぎ軍服とか梓も通だねー」

 

「胸元がセクシィ~、中学生の頃からこんなに色気があるんだからせんぱいってば悪いんだぁ~」

 

「いや別にセンパイ悪くないでしょ…」

 

あゆみが言う通り、イギリス陸軍風の制服を着た叢真が、それを半脱ぎ状態にして撮られた写真。

 

優季に胸元がセクシーと指摘され、赤くなる梓。

 

「わたしはこっちかな、ポーズがイケてるんだよねー」

 

あゆみが開いたページには、ヤークトティーガーの上に立って、ライフル片手に佇む叢真。

 

ドイツ軍風の軍服姿で、何故か眼帯を付けている写真だった。

 

「わたしは断然これぇ~♪」

 

そう言って優季が開いたページを見て、思わず梓が吹き出して鼻を押さえる。

 

M24軽戦車の上にワイルドに座り、何故か上半身裸でチョコを齧っている叢真の姿。

 

アンニュイな表情と鋭い視線、そして中学生ながらに鍛えられた上半身。

 

かなり攻めた写真だった、中学生にこんな写真撮らせて良いのだろうか戦車道連盟が心配になる。

 

「優季ちゃん欲望に忠実過ぎ…」

 

「え~、じゃぁあやはどれがいいのぉ」

 

「私は勿論これ!」

 

開かれたページには、ホチキス軽戦車の写真。

 

戦車に寄り掛かる様にして立つ叢真、何故かお洒落眼鏡をしていてツルの部分を持って位置調整をしているような姿だ。

 

「皆、自分の好きな戦車と先輩が写ってる写真じゃない…」

 

「だって先輩と戦車だよ?2倍お得じゃん!」

 

苦笑する梓の言葉に、2倍2倍とピースしながら笑うあゆみ。

 

戦車と中学生という組み合わせなのに、販売当初は売り切れが出ている程の人気である。

 

戦車と叢真、どっちを目的に買っていく客が多いのかは謎だが。

 

まぁ戦車道関係者は両方だろう…。

 

「あれ、紗希…?」

 

「紗希はこれが良いの?」

 

ひょこっと、丸山紗希が顔を出し、ペラペラとページを捲ったかと思えば、1枚の写真を指さした。

 

その写真は、M36ジャクソンの上で胡座をかいた叢真が、指先に蝶を乗せて眺めている写真。

 

「ちょうちょ……」

 

「紗希…先輩じゃなくてちょうちょが良いの…?」

 

「………先輩も素敵だって」

 

思わず梓が聞き返すと、紗希に変わってあゆみが答える。

 

それに頷いているので、蝶は切っ掛けなのだろう。

 

「みんな何してるのー?」

 

「リーの整備に入ってもいいかなー?」

 

「桂利奈、それにツチヤ先輩も」

 

そこへ阪口桂利奈がツチヤを伴って現れた。

 

先輩であるツチヤに見られるのは不味いと思った梓だったが、隠そうとする前に桂利奈に見られてしまう。

 

「あー!せんぱいの写真だ!」

 

「どれどれ…あー、これは不味いよ、うん不味い。ダメだよ学校にこんな刺激の強いの持ってきちゃー」

 

きゃっきゃっと騒ぐ桂利奈と、写真集を見てこれは不味いと頷くツチヤ。

 

「そーですか?」

 

「これなんてほぼ全裸じゃない、これ長野っちが中学の時でしょ?攻めすぎだよ戦車道連盟…」

 

あやの言葉に、見開きページの写真を見せる。

 

戦車の履帯が下半身を隠しているが、隙間から肌色が見えている。

 

上半身は裸で、履帯交換に使う道具を手にし、何故かアーミーナイフを口に咥えて睨んでいる写真。

 

攻めすぎである。

 

なおこの写真を撮っている時の叢真の心境は、『いっそ殺せ』、である。

 

その他の写真も、あ~だめだめエッチすぎますと言いながら眺めるツチヤ。

 

ダメとか言いながら夢中である。

 

「あの、センパイ、私達にも…」

 

「ダメダメ、子供には刺激が強いから」

 

「先輩とは1つしか違わないじゃないですかー!」

 

写真集を独占するツチヤに、あやが袖を掴んで揺するがツチヤはお姉さん許しませんと見せてくれない。

 

それに対して頬を膨らませるあゆみ。

 

「おーいツチヤ、なにしてんの」

 

「リーの整備ほったらかして何遊んでるのさ」

 

「随分楽しそうだね」

 

そこへ、工具片手にナカジマ達がやってくる。

 

「見てよこれ、ウサギさんチームがこんなの持ってきてたんだよ」

 

「何これ、写真集…?」

 

「ちょ、長野のじゃん。何、アイツこんなの出してたの?」

 

「戦車道連盟…秋山さんが言ってたアイドル時代の奴かな、写真の長野君今より若いし」

 

ツチヤが差し出した本を見て首を傾げるナカジマ、タイトルを見て目を見開くホシノと、出版元を見て納得するスズキ。

 

そしてパラパラと中身を確認するナカジマ達。

 

「これは…ちょっと刺激が強いねぇ」

 

「ダメじゃないか子供がこんなの見ちゃ」

 

「武部ママに見られたら怒られるよ?」

 

叢真の水着写真を見て頬を染めるナカジマと、めっと怒るホシノ。

 

沙織に見られたら怒られるよと笑うスズキ、ウサギさんチームが時々沙織の事をママと呼ぶネタを出してる辺り、本気では怒ってはいないのだろう。

 

「だから、私達もう高校生ですってばぁー!」

 

「そ~ですよぉ~」

 

3年生にからかわれて、不満なあやと優季。

 

真面目な梓はすみませんすみませんと謝っている。

 

「まぁ、皆もお年頃って事で。でもこういうのはよくないって思う人も居るからあんまりひけらかしちゃダメだよ?園さんに見つかったら一発でアウトだからね」

 

「「「「は~い」」」」

 

流石の貫禄のナカジマの言葉に、素直に返事する梓達。

 

桂利奈だけは、よく分かってない様子で首を傾げているが。

 

「それでぇ~、ナカジマせんぱい達の推しはどの写真ですかぁ~」

 

「え…えぇっと…」

 

「結構あるから迷うな…」

 

「これなんて良いね、戦車のエンジン弄ってる写真」

 

優季に言われてつい写真集を見てしまうナカジマ達。

 

注意しておいてかなり真面目に選ぶホシノと、戦車のエンジンを弄っている写真を指差すスズキ。

 

当然写真の叢真は半裸である、半裸で修理とか危ないので注意しよう。

 

「わたしはこれがいい!」

 

元気よく写真を指差す桂利奈、その写真は露出が無く、KV-2の上でライダーのような変身ポーズを取っている。

 

桂利奈ちゃんらしい…と周りがほんわかする一方で、ナカジマが気に入ったのは一切露出の無い写真。

 

「この中学生らしい笑顔が良いね」

 

その写真の叢真は、操縦席から顔だけ出して、笑顔でピースをしている写真。

 

ヘルメットも被っており、露出は無いが、他の写真と違って楽しそうな写真だった。

 

「こうやって笑ってる長野くんって、つい甘やかしたくなるんだよねぇ」

 

そう言って笑うナカジマ、それを見て「バブみ…」「バブみだ…」「バブみのナカジマ…」と内緒話をするホシノ、スズキ、ツチヤの3人。

 

バブみが分からないウサギさんチームは揃って首を傾げている。

 

「アタシはこれかな」

 

ホシノが指さしたのは、海辺で撮られた写真。

 

波間に揺れる特二式内火艇というまた珍しい車両の上で、背中を向けて水平線を眺めている姿の叢真。

 

しかも水着である。

 

「やっぱり露出が好きなんですねぇ~」

 

「ちょっと待って、やっぱりって何、アタシどういう風に思われてるの、ねぇ」

 

優季の言葉に、1年生達からどういう風に思われているのかと不安になるホシノ。

 

「お、10式じゃん。いいなぁ私も乗りたいな~」

 

ツチヤが気に入った写真は、自身が好きな10式戦車との写真。

 

キューポラから上半身を出し、ヘルメットに内蔵されたマイクに何かを叫んでいる緊張感のある写真。

 

「それにしても、よくこれだけの戦車を集められましたよね」

 

「奥付に撮影協力で、色々な学校の名前が書いてあるねぇ。ほら、陸上自衛隊とかも書いてある」

 

梓の言葉に、奥付を開くナカジマ。

 

そこには戦車道をやっている学校の名前が並んでいた。

 

聖グロやサンダース、プラウダの名前もある。

 

「いいなぁ、せんぱいまた写真集出さないかなぁ…そしたらウチの学校も名前が乗るのにぃ」

 

「あー、Ⅳ号の外見仕様とかポルシェティーガーとかウチだけだろうしねぇ」

 

優季のナチュラルに叢真の精神を削る提案に、ホシノが同意する。

 

Ⅳ号は大洗特別仕様、ポルシェティーガーは非常に珍しい世界でたった数台しかないレア戦車。

 

全国大会優勝校の戦車であり、どちらも決勝戦で壮絶な戦闘を繰り広げた事で戦車道界隈では有名な車両だ。

 

特に弁慶の仁王立ちを彷彿とさせるポルシェティーガーの壮絶な最期は、男性視聴者の感動を呼んだ。

 

自分達の戦車と写真を撮ってもらいたいという話から、叢真にどんな格好やポーズをしてもらうかで盛り上がる面々。

 

この場に本人が居ない為に、皆言いたい放題である。

 

「なに盛り上がってるの?」

 

「長野くんにどんな写真を撮ってもらおうかって話を……あ」

 

背後から声をかけられて振り向きながら説明するナカジマ。

 

その視線の先には、そど子、ゴモヨ、パゾ美の3人。

 

思わず固まる面々。

 

「なによ、私達が来たからって急に黙り込んで……って、な、なによその破廉恥な写真集は!?」

 

訝しんでその場で固まる面々を見回すそど子だが、ホシノとあゆみが持って開いていた写真集を見て真っ赤になって叫ぶ。

 

開いていたページが、丁度叢真が戦車に寝転がって猫を抱いて居る写真。

 

当然の如く半裸である、誰が考えたんだこんなニッチな構図。

 

「な、長野君の写真集じゃない!い、違反よ、校則違反よ!これは没収します!」

 

「あぁ!そんなぁ!」

 

「あれ?写真集を持ってきちゃいけない校則ってあったっけ?」

 

「ないんじゃないかな?」

 

写真集が奪われて悲鳴を上げる梓と、素朴な疑問を口にする桂利奈と、それに答えるスズキ。

 

「うるさいわね!風紀違反よ、こんな破廉恥な写真集なんだから!全くもう!」

 

そう言って、写真集を持って行ってしまうそど子。

 

ゴモヨがすみませんと頭を下げ、パゾ美が後で引き取りに来て下さいと一言告げてそど子の後を追う。

 

「あちゃ~、つい夢中になっちゃったねぇ」

 

「ごめんねあや、折角持ってきたのに」

 

失敗失敗と頭をかくナカジマと、持ち主であるあやに謝る梓。

 

「へ?あれ私のじゃないよ?」

 

「え、じゃぁあゆみ…?」

 

「違うよ?」

 

「わたしでもないよぉ~」

 

持ち主だと思っていたあやが手を振り、次に向けられたあゆみも否定。

 

優季に視線が行くがこちらも首を振る。

 

梓とナカジマ達の視線が桂利奈に向かうが、向けられた桂利奈ちゃんは?を浮かべている。

 

「じゃぁ…」

 

「誰が…」

 

梓とナカジマが視線を彷徨わせると、1人明後日の方を見ている少女が。

 

「もしかして…」

 

「紗希の…?」

 

ナカジマと梓の言葉に、顔を向けると、こくんと頷く紗希。

 

『えぇーーー!?』

 

まさかの予想外の持ち主に、驚きの声を上げる面々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風紀委員室にて。

 

「なによこれ…違反よ、反則よ、校則違反なんだから…!」

 

「そど子、ページ捲るの速いよぅ…」

 

「……今の写真良い…」

 

「お前達、エロ本読んでる中学生みたいだぞ」

 

「「「冷泉さん!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

継続の場合(ポロロン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

水平線に沈む夕日を眺める。

 

人気のないフェリーの甲板の隅で、体育座りをして潮風に身を任せる。

 

「…………ダージリンなんて嫌いだ…」

 

呟いて膝に顔を埋める。

 

思わず零れ出た本心だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふぅっ!」

 

「あぁ!?ダージリン様が突然紅茶を吐血しましたですわ!?」

 

「紅茶なら吐血じゃないです…」

 

 

 

 

 

 

 

なんかどっかで誰かがダメージ受けてるけど気にしていられる精神状態じゃない。

 

プラウダで一晩泊まり、戦車道の授業を見学した午前中。

 

給食をご馳走になり、カチューシャのお昼寝に付き合い、この時なんだか物凄く写真とか撮られた気がするが。

 

カチューシャが目覚めて午後の授業となり、集められたのは講堂。

 

プロジェクターなどを用意するニーナとアリーナ達を見ながら、カチューシャに言われるがままソファに座り。

 

膝の上にカチューシャが乗り、ノンナさんとクラーラさんに左右を挟まれる。

 

この時点で逃げ場が無かった。

 

そして始まったのは、俺が大洗から逃げ出す切っ掛けとなった番組。

 

「ダージリンがね、すっごく素敵で面白い作品だって言うから、彼女が勧める通りに戦車道履修者全員で見る事にしたの!」

 

嬉しそうに話すカチューシャ、番組内容を知らないのかワクワクしている。

 

「大変素敵な番組です、是非大音響で見ましょう」

 

中身を知っているのか、微笑んで俺の腕を抱きしめるノンナさん。

 

『日本のヒーロー作品、大変興味深いです』

 

そっちの方面でも日本が好きなのか、こちらも楽しそうなクラーラさん、その腕は俺の腕を掴んで離さない。

 

「サンダースやアンツィオにもダージリンが勧めたらしいわ、プラウダも負けてられないもの」

 

この時点で俺の精神は限界だった。

 

その後、逃げる事も出来ずにはしゃぐカチューシャと擦り寄るノンナさんクラーラさんにされるがままに、番組を視聴する羽目に。

 

仮面ライダーパンツァーが活躍する度に、ニーナやアリーナ達から声援が飛ぶのがまた恥ずかしい。

 

「ちょっとソーシャ!なんで変身するのがミホーシャのⅣ号や黒森峰のティーガーなのよ!プラウダのは無いの!?かーべーたんとか!」

 

「次の撮影の時に出してもらえるように連盟にお願いしましょうかカチューシャ」

 

「それ良いわね、流石ノンナ!かーべーたんに変身したソーシャなら敵が何百人来ようとも負けはしないわ!」

 

次なんてありません勘弁して下さい死んでしまいます。

 

そして視聴が終わり、ざわざわと感想を言い合うプラウダの戦車道履修者達。

 

拷問である。

 

カチューシャにお手洗いと告げて退いて貰う。

 

「案内しましょう」

 

『お手伝いします』

 

腕を組んだまま付いてこようとする2人。

 

それに対して丁寧に断って腕を解放して貰い、少し歩いて全力疾走。

 

「ソーシャ!?ソーシャぁぁぁ!?」

 

突然走り出した俺に思わずカチューシャが叫び、戦車道履修者の視線が集まるが、構わず講堂を飛び出し、昨日泊まった部屋へ。

 

着替えを回収し、部屋を出ようと扉を開けたら真顔のノンナさんが立っていたので迷わず閉めて鍵を掛ける。

 

そして窓から脱出し、連絡船と接舷する場所へ。

 

途中クラーラさんが乗る車両に追いかけられるが、建物の上を行く事で撒く事に成功。

 

ちょっと寄り道してタイミングをずらし、この時にカチューシャに急用で帰るとメール。

 

そんなのダメとお怒りのメールが来るが、なんとか宥める。

 

連絡船が接舷する時間になると同時に移動開始し、連絡通路で見張るノンナさんとクラーラさんを確認。

 

連絡船から搬入される荷物と入れ替えに搬出される荷物に紛れて連絡通路を通過し、船に乗り込む。

 

気分はイーサン・ハントである。

 

そして客室に身を隠し、船が出発したのを確認して甲板へ。

 

接舷口から俺に気付いたノンナさんとクラーラさんが何か叫んでいるが、俺は手を振ってその場を後にする。

 

すると、携帯にメールが届く。

 

『次は逃しません』

 

怖いよノンナさん。

 

そして知らない人からもメールが届く。

 

『Я не пропущу следующий』

 

どうやって俺のアドレス知ったの、怖いよクラーラさん。

 

メールを見なかった事にして、甲板に座り込み、体育座りになる。

 

ダージリンの奸計によって、俺の出演番組が大洗だけじゃなく、サンダースやアンツィオにまで広がってしまった。

 

あのお祭り大好きなケイさんと、ノリと勢いのアンツィオである。

 

当然中身を知ったら大々的に知らせるだろう、と言うか見せるだろう。

 

メールが来た。

 

『ねぇなんでウチのシャーマンは無いの?』

 

『P40とか、無理ならCV33とかどうかな…?』

 

タイトル見ただけで携帯を仕舞うの余裕でした。

 

もう見られた、恥ずかしくて生きていけない…。

 

いざとなったらの逃げ場のサンダースやアンツィオでも見られてしまった、もう逃げ場が無い。

 

「俺の安住の地は無いのか…」

 

「孤独はね、とても大切なものだけど、心を癒やすのは人の温もりなんだよ」

 

ポロロンとカンテレが鳴いた。

 

「どっから現れたんですかミカさん…」

 

そこに、と言うか俺の背中に寄り掛かる形でカンテレを奏でるのは、継続のミカさんだった。

 

相変わらず神出鬼没な上に、俺の背中を取りに来る、アサシンかこの人は。

 

「風が教えてくれたのさ、大切な友と逢えるってね」

 

「友達でしたっけ…」

 

「………………」

 

「嘘です嘘、冗談ですって痛い痛い痛い!」

 

俺の返答に拗ねて背中を抓ってくる。

 

相変わらず打たれ弱い人だ。

 

その癖ズバズバ人の弱点を突いてくるのだからたちが悪い。

 

「で、なんで居るんですか。またプラウダから物資をくすねてたんですか」

 

そう言いながら、ミカさんの後ろ、台車に積み上げられたダンボール箱を見る。

 

こんな大荷物持って俺に気付かれずに来たのか、本当にアサシンだなこの人。

 

「違う、この食料達が私に囁いたのさ。僕たちを連れ出して、美味しく食べてって」

 

「カチューシャに伝えときますね」

 

「叢真、私と君の仲だろう?そんな無粋な事は…待って待って、本当にやめて」

 

俺が携帯を取り出すと途端に慌てて俺を止めようとしてくる、おいやめろ背中に胸を押し付けるんじゃない。

 

「賞味期限が近い食料を貰ってきただけだよ、盗んだ訳じゃないんだ」

 

「本当でしょうね…」

 

KV-1や試合の時に配られる連盟印の戦闘糧食の事があるので、疑うなという方が難しい。

 

「君との友情に誓ってもいいよ」

 

「友情なんてありましたっけ…いてててててて!」

 

シレっと返したら耳に噛みつかれた、小動物かこの人は!

 

「全く君は…どうしてそう私には捻くれた事を言うんだい?アキやミッコには好青年面するくせに」

 

「好青年面とか言わないでくれます?態度に関しては自業自得でしょう、散々俺の事好き勝手言ってたのは誰でしたっけ?」

 

「生きる為に必要なのは、過去を振り返る事じゃない、明日を思う事さ」

 

「誤魔化すな」

 

相変わらず都合が悪くなるとカンテレ弾いてそれっぽい事言って逃げるんだから…。

 

俺とミカさんの出逢いは、そんなに昔ではない。

 

ストーカーに襲われて戦車道から身を引いてからしばらくして、出会った。

 

出会いは最悪だった。

 

当時の継続の隊長に、記念パーティーをやるから顔を出して欲しいと言われて、渋々継続に顔を出した時。

 

その席で、突然現れたミカさんは、カンテレを奏でながら静かに呟いた。

 

『逃げるだけの人生に、意味はあるのかな』

 

『逃げる事も大切だけど、そればかりに夢中になると、大切なモノからも逃げる事になってしまうよ』

 

『時には、前に進む事も大切なんじゃないかな』

 

知ったような事を勝手に言うミカさんを、俺は最初警戒…いや、敵視していた。

 

俺の気持ちも知らずに勝手にべらべらと…そう思って俺が取った行動は、無視。

 

だがミカさんはそんな俺の態度に構わずに、好き放題に言葉を投げてくる。

 

いい加減我慢の限界になって言い返したら、ミカさんは微笑んでカンテレを奏でた。

 

『ほら、前に一歩進んだ』

 

その言葉と笑顔に毒気を抜かれた俺は、もう好きにしてくれと放置する事にした。

 

するとミカさんは、俺が構わない事を良いことにやりたい放題。

 

俺の分の料理を食うわ、俺の背中を背凭れにして演奏を始めるわ。

 

隊長が注意しても『彼とは心でつながっているんだ、彼の心が、私にこうして欲しいと訴えているのさ』と全く聞かない。

 

むしろこの反論に隊長が『お、おう…』となってしまった。誰だってそうなる、俺だってそうなった。

 

その後もミカさんは俺が継続を訪れる度に、グイグイ来ては好き勝手言ってやりたい放題やっていった。

 

行動がエスカレートして、俺が入っているサウナに入ってきたり、俺が寝ている部屋で寝ていたりと過激になっていったので。

 

流石に隊長が鉄拳制裁したが、本人は『ちょっと風に急かされ過ぎたね…』と、反省しているのかしてないのか…。

 

いい加減俺が慣れてきて、捻くれた回答や対応をすると打たれ弱い事を知った。

 

とは言え、あまり過激に対応すると押し倒してくるわキスマークを付けようとするわ、俺の方が致命傷になるので加減が難しいが。

 

で?それで?それに何の意味が?ほうほう、で?結論は?などなど、ミカさんが言う事を正面から迎え撃つと、黙り込み、そして拗ねる。

 

これはこれで面倒臭い。

 

飄々としてる癖に、変に構ってちゃんなので始末に負えない。

 

アキちゃんやミッコも苦労している。

 

そう言えば、いつも一緒の2人が居ないな…。

 

「アキちゃんとミッコは?」

 

「おや、私よりあの2人の方が良いのかい?幼女趣味は感心しないね」

 

「歳大して変わらないがな。2人が聞いたら怒られますよ」

 

「2人なら学校があるからお留守番だよ。今回は食料だけの予定だったから私1人でも事足りるからね」

 

今回は食料だけ…近々戦車を狙って動く気だなこの人…。

 

継続高校は貧乏だ、大洗やアンツィオもビックリの貧乏っぷりだ。

 

先ず学園艦の規模が小さい、戦車道は盛んだが、保有戦車の殆どが他校が廃棄したスクラップ寸前の車両や、勝ったほうが戦車を貰える「鹵獲ルール」で勝ち取った戦車など、自前の戦車が殆ど無い。

 

他にも大洗の様に過去に戦車道をやっていた学校などで放置されている車両などを持ってきたりして、車両を調達している。

 

そして、大洗の自動車部にも負けない整備能力と改造でスペック以上の性能を引き出している。

 

更には操縦する生徒の能力が異様に高く、貧乏高校と甘く見ると尻の毛まで毟られる。

 

そのいい例がプラウダである、度々継続にカモにされて戦車を持ってかれている。

 

あの黒森峰相手にあと一歩まで追い込んだりと、ある意味1番怖い学校だ。

 

なお1番怖いのは、試合後に戦闘糧食や備品がごっそり無くなる継続ショックだが。

 

そんな学校なので、生徒1人1人のサバイバル能力がやたら高い。

 

遭難してもひょっこり帰ってくる程度に高い。

 

なのでミカさんが行方不明になっても、誰も心配しない。

 

継続の良心であるアキちゃんは心配するが、探しに行く事はしない、探しに行ったらひょっこり帰ってきて入れ違いになって自分が遭難するからだと言っていた。

 

経験者は語るという事だろう。

 

因みに貧乏ネタで共に弄られるアンツィオだが、実際はそこまで貧乏ではない。

 

アンツィオは規模がデカい学園艦なので運営維持にお金が持っていかれるのと、戦車道以外の部活や委員会にも公平にお金を分配しているので、他の部活に比べて格段にお金のかかる戦車道が貧乏になってしまうという訳だ。

 

諸々の経費を考えると、学園艦としては大洗よりお金持ちである。

 

中学生が進学したい高校№1は伊達じゃない、制服は可愛いし料理は美味い、そして観光客が来る程にお洒落な校舎と街並み。

 

主におやつ代とか食費に金掛けすぎなんだよなアンツィオは…それが原動力だから制限したらガチ泣きするのでアンチョビも出来ないのだが。

 

それに対して継続は、自前のパンツァージャケットが用意出来ず、学校のジャージで試合を行う程の貧乏っぷりである。

 

用意出来なくはないのだが、用意すると車両の整備や改造に回せるお金が無くなる。

 

なので経費削減として昔からジャージで代用していると、俺が指揮した時に…確かルミさんだったか、愚痴っていた。

 

マジノ学園に勝った際の報奨金をジャケット購入に充ててはどうかと提案したが、結果は屋根の有る戦車倉庫が出来ただけ。

 

あとはパーティーと戦車の整備改造代で消えたと言われた。

 

どんだけ自分に無頓着なんだ継続…。

 

髪型もリーゼントにしてたりして、ちょっと…いや、かなり変わっているのが継続高校の戦車道履修者である。

 

その隊長がミカさんなのだ、言うまでもなく彼女も変わり者である。

 

まともなのって、アキちゃん以外居なくないか…ミッコも良い子なんだが走り屋と言うか、暴走族的な気質があるし。

 

夕日も沈み、冷えてきたので船内に入る。

 

学園艦連絡船の良い所は、船の中で乗船券を買える事だな。

 

接舷部分に発券所を設けている所もあるが、多くは連絡船に乗り込んで乗船券を買うスタイルだ。

 

プラウダでお金を下ろせたので今回は1等部屋、通称個室である。

 

アンツィオから出た時はお金を下ろすのを忘れて、2等部屋と言われる半個室の2段ベッドだった。

 

連絡船は継続まで行かないので、一度青森で降りてそこから別の連絡船に乗るか、石川県まで移動してからか…。

 

予定を立てながら部屋に入ると、背後でガラガラと音が鳴った。

 

「なんで付いてくるんですかミカさん」

 

「つれないね…君と私の仲じゃないか」

 

後ろを見れば、台車にダンボールを満載したミカさんが素知らぬ顔で俺が借りた部屋に入ろうとしていた。

 

「ここ、俺が借りた部屋ですから。1人部屋で・す・か・ら」

 

「そうだね、君の部屋なら安心してカンテレが弾けるよ」

 

入ってこようとするミカさんの肩を押して追い出そうとするが、彼女は涼しい顔でぐぐぐ…と押し返してくる。

 

えぇい、戦車道選手だけあって体幹が確りしてやがる…。

 

「そんなに照れなくても、一緒に身体を温めあった仲じゃないか」

 

「サウナに勝手に入ってきて入り口で座り込んで邪魔しただけでしょうが…!」

 

あの時はのぼせて死ぬかと思った。

 

「雑魚寝部屋が空いてますよミカさん…!」

 

「そんな場所で寝て、私に何かあったら責任取ってくれるのかな」

 

む…確かにミカさんは美人だ、スタイルも抜群に良い。

 

そういう考えに及ぶ男性が居ないとも限らない…が。

 

「そんな相手、片手で捻り潰せるでしょうが…!」

 

俺は知っている、彼女の異様に高いサバイバル能力と戦車道乙女特有のパワーを。

 

「良いのかい、アキに『部屋から追い出されて不特定多数の男性が居る場所で震えて眠る事になった』って伝えるよ」

 

悪質ぅ!

 

言い方悪過ぎだろそれ…。

 

しかも勝手に部屋に上がり込もうとしてるのに、俺が追い出した様に聞こえるとかタチが悪い。

 

「えぇい…変な事をしたら今度こそ叩き出しますからね」

 

「それは女性側の台詞じゃないかな」

 

「やかましい」

 

諦めてミカさんを部屋に入れる、彼女のダンボールで部屋が狭くなる…。

 

どんだけ持ってきたんだ賞味期限が近い食材…。

 

学園艦で賞味期限が近い保存食の処理方法は、入れ替え時期に生徒や関係者に振る舞って消費する事だ。

 

物によってはパーティー形式で消費してしまう、アンツィオで言うならパスタだ。

 

サンダースなら大抵が冷凍肉なので学校全体でバーベキューパーティーになる。

 

聖グロ?…知らなくていい事もある、いいね?

 

プラウダは給食制なのもあって消費する機会が少ないらしく、生徒や街の人に配るとかノンナさんが言ってたな。

 

それを貰ってきたのだろうとは思う。思うんだが。

 

これがアキちゃん達なら素直に信じられたんだが、ミカさんだと持ち前の胡散臭さのせいでどうも信じきれない。

 

これだけ大量のダンボールだ、配っている奴の倉庫から勝手に持ってきた可能性も捨てきれない。

 

「そろそろ夕飯の時間だね。食堂へ行こうか」

 

「…………奢りませんよ?」

 

「………………」

 

ポロロ~ンとカンテレが鳴った。

 

奢らせる気満々かこやつめ。

 

「奢りませんからね」

 

「大丈夫?おっぱい揉むかい?」

 

「揉まないよ身体で払おうとするな年頃の女の子でしょうが!」

 

ガシッと俺の手を掴んで胸に持っていこうとするのを必死に抵抗する。

 

これだから継続に行くのは嫌なんだ、俺が手を出せないと分かってて下ネタやセクハラをしてくるんだから!

 

「心配しなくても君以外にはやらないよ、安心して」

 

「何の安心だよ、別に気にしてないで痛だだだっ、何で握る力を強めるの!?」

 

「女心を理解しない無自覚無防備誘い受け色男には、ちょっとお仕置きが必要だからね…」

 

この上なく心外だ、俺の何処が無自覚無防備誘い受け色男なんだ。

 

 

 

 

――――叢真さん、そろそろ自覚した方が良いかと…――――

 

――――長野さん、こんな格言をご存j――――

 

――――ダーリン、そのギャグは笑えないわ――――

 

――――叢真、鈍感主人公は恋愛小説だから許されるんだぞ――――

 

――――ソーシャ、何でもう帰っちゃったの…――――

 

 

 

 

なんか多国籍総攻撃を受けた。

 

特にカチューシャの言葉が胸に突き刺さった、ごめんよカチューシャ…。

 

全部ダージリンって奴の仕業なんだ。

 

「なんだって、それは本当かい?」

 

「ノるなよ、なんで俺の考えてる事分かるんですか」

 

「君と私の仲じゃないか、君の心がね、私に伝えてくるんだよ…」

 

「赤の他人なのに?」

 

「……………」

 

「冗談冗談だからやめろ口に手を運ぶな舐めるな噛むなしゃぶるなぁぁぁぁ!?」

 

滅茶苦茶手を洗った。

 

結局奢る羽目になり、しかもガッツリ食われた。

 

食後、ミカさんを1度追い出して着替え、拗ねる彼女を部屋に入れてから、電話で小山先輩に急遽プラウダを出たことを連絡。

 

聖グロの時も同じことをしたので「またぁ?大変ね長野くんも」と苦笑された。

 

同時に「早く帰ってきてね、皆寂しがってるから」と囁かれた、耳が幸せになった。

 

小山先輩みたいな姉が欲しいだけの人生だった。

 

「叢真?良いんだよ…?」

 

「あ、間に合ってます」

 

両手を広げて微笑むミカさんに、顔をそむけて手を振る。

 

無言で押し倒されそうになった。

 

こんな人を姉と思うとか胃が死ぬわ!

 

抵抗していると携帯に着信が、ぱっと離れるミカさん。

 

この人電話とか持ってないらしくて、妙に携帯を怖がるんだよな…。

 

画面には武部さんの名前が。

 

「はいもしもし?」

 

『あ、こんばんわ長野さん、今大丈夫?』

 

「あぁ、平気だよ」

 

武部さんは毎晩連絡をくれる、どこで何をしてるか心配だからと言われた。

 

他の人が連絡してこないのは、恥ずかしい目にあって逃げ出した俺を気遣って連絡を控えているからと教えられたが、武部さんだけはこうして毎晩連絡してくる。

 

最初は恥ずかしさがあったが、彼女の気遣いを無駄にしては失礼だと思って俺も平常心で対応している。

 

流石コミュ力おばけと冷泉さんに言われる武部さんだ。気遣いが半端ない。

 

今日何をしたかや、大洗で何があったか、戦車道の授業はどうだったか等を話すと、ちょっと待ってねと言われる。

 

『も、もしもし…?叢真さん…?』

 

「みほちゃん?あれ、まだ武部さんと一緒に居たの?」

 

時計を見れば、もう直ぐ8時を過ぎる。

 

『あ、今日は会長さんの提案で皆でご飯を食べてるんです、叢真さんが送ってくれたお土産とかを使ってお鍋とか』

 

「あぁ、アレか。無事届いて良かったよ」

 

巡った学園艦の特産物、各学園艦では特色ある食品や製品を作っている。

 

それらを買ったり、移動中で立ち寄った港や空港でお土産を買っては郵送で送った。

 

急遽熊本に行ったりしたので、更にお土産が増える形になった。

 

耳を澄ますと、電話の向こうでお祭り騒ぎをしている声が聞こえる。

 

あいーとか根性とか、食事中でも騒がしいのは相変わらずか。

 

『小山先輩の携帯に叢真さんから連絡があったから、今なら大丈夫かもって沙織さんが…あの、忙しくないですか?』

 

「全然、今フェリーで移動中だから暇だったんだよ…ヒッ!?」

 

『叢真さん?ど、どうしました?』

 

「な、なんでもないよ…(何するんですか!)」

 

突然俺を襲ったのは、スベスベとした手の感触。

 

それが、俺の首筋を撫でたのだ。

 

犯人は当然彼女しか居ない。

 

俺が小声で問いただしても、彼女は微笑むだけで答えない。

 

『それでですね、叢真さん…』

 

「あぁ、何かな…ヒェッ!?」

 

『そ、叢真さん?』

 

「なんでもない、ちょっとシャックリが出ただけだから…!」

 

今度はシャツの裾から手を入れられ、背中を直に撫でられた。

 

こ、この…!人が話し中になんて事を…!

 

『えっと、聞きたい事があったんですけど、叢真さん私の家に行ったんですよね…?』

 

「あ、あぁ、ちょっと蝶野教官と会って、そのまま連れて行かれちゃ――うひっ!?」

 

『うひ?』

 

「シャックリが、シャックリがね!?」

 

背中を撫でていた手が脇を撫でたので思わず声が出た。

 

やめて、脇は、脇は弱いの!?

 

空いている手で止めさせようと手を掴むが、もう片方の手で撫でられる、おのれぇぇ…!

 

『蝶野教官と、一緒にですか…』

 

「う、うん、みほちゃんのお母さんがくひっ、家元を襲名するって事で、おふっ、そのお祝いに…くぅっ!?」

 

『そうでしたかぁ…なぁんだ、お姉ちゃんの事じゃなかったんですね!良かったぁ…』

 

「う、うん、別に大した用じゃなかったヨホホホ!?」

 

『よほほほ…?あの、本当に大丈夫ですか叢真さん』

 

「だ、大丈夫、大丈夫だから…!」

 

嘘です大丈夫じゃないです、背中に張り付いて胸を押し付ける人が、俺の胸板に手を回して擽ってきます助けて!

 

だ、だが、みほちゃんにミカさんの存在がバレたらどんな事になるか…想像が出来ない位怖い。

 

た、耐えるしか…!

 

『西住殿ー、そろそろ代わって下さいよー』

 

『あ、うん、今代わるね。それじゃ叢真さん、身体に気を付けて下さいね。今優花里さんに代わりますから』

 

「え、みほちゃ、ちょっと待って!?」

 

電話切れないよ!?

 

『お元気ですか長野殿、秋山です!美味しい食材のお土産、ありがとうございますぅ!』

 

「あはは、喜んでくれたならぁ!?お、俺も嬉しいよ…んぐっ!」

 

『…?長野殿、何かやってるんですか?苦しそうですが…』

 

「ちょ、ちょっと日課の筋トレを…ねぇぇぇ!」

 

『そうでありましたか、毎日欠かさずトレーニング、私も見習わないと!』

 

こんなトレーニングしたくないけどな!

 

「…………ふ~…」

 

「ひぃっ!?」

 

『ど、どうしました長野殿?』

 

「だ、大丈夫だ、何でも無い!」

 

耳に息吹きかけきた…本格的に悪戯し始めたなこの人…!

 

で、電話を、電話を切らないと…!

 

『優花里さん、次は私が…』

 

『あ、はい、それでは長野殿、お体に気を付けて!今次の人に代わりますね!』

 

「え、ちょ、待って!?」

 

『もしもし、お電話代わりました、五十鈴華です』

 

ひぎぃぃぃ、静止する間もなく五十鈴さんに代わっちゃったよぉぉ…!

 

『大変美味しい食材を、しかも沢山送って頂いて、ありがとうございます長野さん』

 

「い、五十鈴さんの事を考えて、多めに送りましたから…うごご…!」

 

『はい、大変美味しくて、私何度もお代わりしてしまいました…ちょっとお恥ずかしいです』

 

「一杯食べる君がすきぃっ!?」

 

『えっ…そ、そんな、好きだなんて突然…!』

 

「ち、違うんです!素敵って言おうとしたんです!」

 

『そ、そうでしたか…ちょっと残念です』

 

激しい言い間違いをしてしまった、それもこれも、人の乳首を抓りあげる後ろのカンテレ使いが悪い。

 

『あ、シメのご飯が来たみたいです』

 

「そ、そうですか、それじゃゆっくり食べて…く、下さいね…!」

 

『はい、それでは麻子さんに代わりますね』

 

「のぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

『もしもし…長野さん』

 

「や、やぁ冷泉さんん…」

 

『はやく依頼を終わらせて帰ってこい…朝起こす人が沙織だと寝起きが悪いんだ、朝食も長野さんのが良い…』

 

『ちょっと麻子ー!?私が起こしたり料理作ったりするのが不満なの!?』

 

『うるさいぞ沙織、今長野さんと話してるんだ…あ、あと、身体には気をつけろよ…』

 

今身体がピンチだよ助けて冷泉さん。

 

「叢真の朝食…なんだいそれは羨ましい…」

 

ボソボソと呟きながら耳を噛んでくる、やめろぉぉぉぉぉ!?

 

『ん……?今、誰か人の声がしなかったか?』

 

「き、気の所為じゃないかな!?」

 

『そうか?なんだか浮世離れしたウィスパーボイスが聞こえた気がしたんだが』

 

的確ぅ!

 

『まぁいい、変な事になる前に帰ってこいよ』

 

もう既に変な事になってるであります冷泉隊長!

 

『それじゃ…『冷泉先輩、誰とお話ししてるんですか?』『お友だちですかー?』…長野さんだ、代わるか?』

 

ちょ、冷泉さん!?今の声は、河西と阪口か!?

 

『えー、何々ー?』

 

『どうしたのー?』

 

『ちょっと皆、先輩が電話中じゃない…!』

 

『もしかして長野せんぱいですかぁ?』

 

『え、コーチから電話?』

 

『わー、今どこなんでしょうねコーチ』

 

『おい、シメのうどんは何処だ?こっちラーメンしか無いぞ』

 

『カエサル、うどんはアリクイさんチームの方だ、あと鍋のシメはご飯だろう』

 

『いやいや、とんこつ味なのだからラーメンであろう』

 

『もうご飯入れてしまったぜよ…』

 

『俺のエビチャーハンどこだよ!?』

 

『薬味こっちにありますからねー』

 

『今変なおじさん居なかった?』

 

『えぇー、こわぁい~』

 

ひぃぃ、なんか電話口にどんどん戦車道履修生が集まってきてる!?

 

「ん…ふぅ…はむ……ちゅ…」

 

背後の人は俺が抵抗出来ないからと調子に乗って耳を舐め始めている。

 

この…調子に乗ってからに…!

 

『コーチ、お元気ですか?忍です、コーチが出発してから練習に張り合いがなくて寂しいです…』

 

『せんぱい元気ですかー!?桂利奈ぜっこうちょうです!』

 

「ははは、元気そうで良かったぁはぁん!?」

 

『こ、コーチ?どうしました?あの、近藤ですけど、大丈夫ですか?』

 

『先輩どうしたんですかー、あゆみですけど分かりますー?』

 

「ふ、2人ずつ話してるのか、器用だなあばばばばば!」

 

み、耳に!耳の穴に舌が!舌が!

 

『佐々木です~、コーチ、いつ帰ってくるんですか~?』

 

『寂しいでーす、遊んで欲しいでーす、あやでーす!』

 

「あ、あと2校の予定だからぁん!す、すぐ帰るよぉぉぉぉ…!」

 

『せんぱぁい、優季でぇす…寂しいのぉ、はやく帰ってきてくださぁい~』

 

のおおおおお!電話でも甘いふわとろボイスがぁぁぁ!?

 

『コーチ!こっちは根性で頑張ってますからコーチも頑張って下さい!』

 

『あ、あの、先輩!お体に気を付けて頑張って下さい、ずっと待ってますから!』

 

「磯辺、澤君、が、頑張るよ、俺頑張るから…!」

 

絶対にカンテレ使いになんて負けない!

 

『………………』

 

「ま、丸山か?丸山なんだな!?心配するな、近い内に帰るからな!」

 

『…………はい』

 

やっぱり丸山だった、良かった合ってた。

 

『やはりうどんだろう!?そうだよな長野殿!?』

 

『いいやご飯だ!シメは卵で絡めた雑炊一択!だよね長野殿!』

 

『もうご飯入れちゃったんだから我慢しろぉ!あ、長野殿も実はラーメン派でござろう?』

 

『美味しいぜよぉ~…んぐ、長野殿、無事帰ってくるぜよー』

 

「俺は美味しければどれでも良い派だ!お前達ちょっと自重しろぉぉぉん!」

 

魚介ならご飯、味噌味ならうどん、とんこつならラーメン派だけどな!

 

「私はチーズ入れてリゾットにする派だよ…」

 

「トマト鍋ならそれで良いが…違う、そうじゃない、いい加減離れないと怒るぞ…!」

 

『何か言ったか?長野殿』

 

「い、いや!?何でもないぞエルヴィン」

 

『そうか?耳に心地よいけど童話とか歌わせると怖いと感じる声が聞こえた気がしたんだが』

 

具体的ぃ!

 

『まぁいい、お土産は皆でありがたく頂いたから、体に気をつけて残りを消化するんだぞ』

 

『やっと戻ってきた、私の携帯。もしもし長野さん?ごめんねー、皆長野さんの声が聞きたいって大騒ぎになっちゃって』

 

「い、いや、皆元気そうで良かったよほぉん!」

 

『よほん?』

 

「シャックリが酷くてねぇ!すまんねぇ!」

 

『そっかー、会長達も声が聞きたいみたいだけど、それならまた今度って事にしとこうか?』

 

「そ、そうしてくれるとたすかぁぁぁるぅぅぅぅ!」

 

『凄い巻き舌声!?ほ、本当に大丈夫なの!?』

 

「だ、大丈夫、大丈夫だからぁぁん!」

 

『ちょっと、そんな艶めかしい声出さないでよ、1年生の教育に悪いでしょ!?』

 

流石武部ママ、心配するのはそこか。

 

ちょ、やめて、ベルト外さないで!?

 

『それじゃまた明日ね、おやすみ長野さん』

 

「おやすみぃ…………さて」

 

「ハァ…ハァ…ハァ…おや?」

 

荒い息で俺のズボンのベルトを外そうとしていた手を両方掴む。

 

それで俺が電話を終えた事に気付いた背後の人物は、手を引き抜こうとするが俺の握力がそれを許さない。

 

グリンと首を後ろに回し、目を見開いて真顔で口を開く。

 

「……………覚悟ハ出来テルカ?」

 

「……………風が、囁いたんだ…今なら、悪戯し放題だと…」

 

 

 

 

 

 

――――ゴンッ☆――――

 

 

 

 

 

 

「お、女の子に、拳骨は酷いんじゃ、ないかな…」

 

「鉄拳制裁は暴力じゃない、教育的指導だ」

 

プシューと頭から漫画みたいなたんこぶと湯気を上げてベッドに崩れ落ちるミカさん。

 

全く…人が電話中なのを良いことに好き勝手しよってからに…。

 

ケイさんも似たような事をしてくるが、あっちははしゃいで巫山戯ている空気なので笑って流せ…ると思う、たぶん。

 

だがこの人はダメだ、どこからどこまでが冗談なのか分からない上に、途中からガチになるから。

 

「………叢真、何か気持ちの変化でもあったかい?」

 

「……なんです突然」

 

「いや、以前までの君なら、悲鳴を上げて一目散に逃げただろうと思ってね…」

 

出来るならそうしたかったよ、切実に。

 

「これも大洗での生活のお陰かな。私としては悔しくもあるが、嬉しくもある…堪能させてもらったよ」

 

畜生、ツヤツヤテカテカしやがって…。

 

「何処へ行くんだい?」

 

「風呂です。ついて来ないで下さい…本当に来るな公共施設なんだから他の人も居るっての!」

 

「残念だね…スイートなら部屋にシャワーがあるらしいじゃないか、次からそっちでどうだい?」

 

どうだい?じゃないが。

 

そんな無駄な出費はしません。

 

風呂から上がると部屋にはミカさんの姿は無かった、彼女もお風呂だろう。

 

「しかし参ったな…ベッド1つしかないんだが…」

 

一緒に寝る?ハハ、冗談がキツい。

 

仕方ない、床に毛布敷いて寝るか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てっきり雑魚寝部屋に逃げると思ったのに、同じ部屋で寝てくれるなんて…誘っているんだね」

 

「何かしたら拳骨と部屋から追い出してアキちゃんに細部まで説明する」

 

「………………」

 

ポロロ~ンとカンテレの音が寂しげに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうしてミカがこんなになるまで放っておいたんだ!(´・ω・`)









盛大に筆が滑りました、ミカが暴走してるけど許して?(´・ω・`)













重要な情報:(´・ω・`)は鍋のシメはご飯派(´・ω・`)

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