いくでがんす(´・ω・`)
ピギィィィ!(´・ω・`)
「戦車道全国大会優勝校特集ですか…」
「そ、優勝後のインタビューと違って、こっちは写真と戦車がメインなんだけどねー」
生徒会室へと呼び出されたみほ達、各チームの車長達に、干し芋を齧りながら説明する会長。
その隣にはお茶を飲む蝶野教官の姿。
先に会長達に説明したのだろう、会長の言葉に教官は静かに頷く。
「優勝校は代々受けている事だから、承諾して欲しいの」
「はぁ…そういえば確かに毎年特集してましたね…」
「文章より写真の方が多いですね」
「大会に出た車両とその操縦手が1枚に収まる感じか…」
蝶野教官の言葉に、月刊戦車道で確かに毎年そんな特集していたなと思い出すみほ。
資料として教官が持参した過去の特集号には、去年のプラウダやその前の黒森峰が特集されている。
それを見ながら感想を言う磯辺とカエサル。
因みにカエサルは車長ではないが歴女チームのリーダーなので、会議や作戦立案には彼女が参加する。
「まぁ各チームの写真と、メンバーの優勝後の感想とか今後の意気込みとかを載せる感じだねぇ」
「去年の奴以外はずっと黒森峰特集ですね…」
前もって説明されている会長は既に承諾しているのだろう、説明側に回っている。
過去号を見ていた梓だが、去年のプラウダは兎も角、それまで大会9連覇していたのが黒森峰なので、過去9年分は全て黒森峰特集である。
なので月刊戦車道編集部は、プラウダに続いて今度は無名校だった大洗が優勝したので取材と撮影に気合が入っているらしい。
黒森峰は代々真面目で堅実、西住流の色が濃い学校なので、取材や撮影も基本真面目な物になってしまい、面白みがないのだ。
編集部としては、もっと高校生らしいはっちゃけとか弾ける若々しさが欲しいのである。
一応水着撮影とか真面目なので受けてくれるのだが、どうにも高校生らしさが無くてここ数年特集担当が悩んでいたりする。
去年はプラウダが優勝して、女子高生らしい写真や記事を期待したのだが。
「プラウダも結構真面目な学校らしいからねぇ、固くなっちゃうのは仕方がないのかな」
「これはむしろ、緊張してるようにも見えるにゃー…」
去年の特集号を見て苦笑するナカジマと、写真撮影なんて慣れてないのだろう、ガチガチになっている生徒を指差すねこにゃー。
「その点、貴女達は実に女子高生らしくて良いわ、色々な所で教官をしてきた私が保証する。是非受けて欲しいわ」
「えっと、皆さんはいいですか?」
「構いません!」
「問題ない」
「学校としては是非受けたいからねー」
「ちょっと恥ずかしいけど大丈夫です」
「問題ないよ」
「恥ずかしいけど頑張るにゃー」
「……………」
みほの問い掛けに、元気に答える磯辺、マフラーを掻き上げて答えるカエサル。
会長はむしろ受けて欲しい側、真面目な梓は恥ずかしいが光栄な事だと承諾、ナカジマは笑顔で頷き、ねこにゃーも気合を入れる。
だが、そど子だけは答えない。
「園さん…?」
「西住隊長…これ、水着写真もあるんだけど…」
そう言ってそど子が開いたページは、1ページまるまる水着の生徒と戦車が写った写真。
みほは見覚えがあった、まほの前の隊長だ。
「安心して、水着撮影があるのは隊長とその車両の搭乗選手だけだから」
「え、えぇ!?」
「なら良いです、了解しました」
「園さん!?」
教官の説明に、聞いてないとばかりに慌てるみほだが、自分達が水着撮影をしないと分かってあっさり承諾するそど子。
「みんなやってる事だから、ね!」
「そーそー、あの真面目な黒森峰だって何年もやってきたんだから頑張って西住ちゃん」
「そ、そんなぁ…」
「西住隊長、根性ですよ!」
「これも優勝校の責務だ」
「頑張って下さい隊長!」
「どうせ読者は女性が殆どだから大丈夫だよたぶん」
肩を叩いて念押ししてくる教官と、あの黒森峰がやってたんだからと追い詰める会長。
磯辺はいつもの根性理論、優勝校の隊長なんだからと頷くカエサル、純粋に応援する梓と、一応フォローしてくれるナカジマ。
そど子とねこにゃーは、過去の隊長や搭乗生徒達のスタイルを見て、自分達じゃなくて良かったと心底安堵していた。
「わ、分かりました…沙織さん達にもお願いしておきます…」
親友達が何と言うか、今から不安なみほ。
まぁ沙織辺りは「水着写真で読者からファンレター来ちゃうかも!」とむしろ乗り気になると思われるが。
「で、ここからが本題なんだけど」
「え、取材と撮影が本題じゃないんですか…」
みほが承諾したので席に戻って話を切り出す教官に、嫌な予感を覚えるみほ。
他の車長達も姿勢を正し、会長だけが干し芋を食う。
「優勝校特集と並行して、長野君の特集も行うんだけど、彼に拒否されちゃったのよね。優勝したのはみほちゃんと選手達全員の努力の結果だから、自分がしゃしゃり出るのは良くないからって」
「叢真さんらしいですね…」
叢真は謙遜しているが、みほに代わって隊列維持の練習や作戦遂行のコツ、各対戦校の特徴や弱点など、叢真が指導した内容は多い。
みほとしては、色々な雑務や自分では教えられない部分を代わりに教えてくれた、縁の下の力持ちという重要な役目を担ってくれたと思っている。
叢真が手助けしてくれるから、自分は作戦立案や対戦校の勉強に時間を使えたのだと。
黒森峰戦ではマウス撃退の作戦を瞬時に授けてくれた。
とはいえ叢真としては、みほ達の頑張りを間近で見てきたので、彼女達の努力を、長野叢真が居たから優勝出来たという風評で塗り潰したくないのだ。
だから優勝後のインタビューでもみほ達の努力の結果だと猛プッシュし、自分は裏方に徹していたと主張した。
そのため、みほはネットで軍神西住みほとして畏怖される事になったのだが…。
なので叢真は戦車道特集を断ったのだが、戦車道連盟がそれではいそうですかと諦める訳がない。
過去に戦車道を盛り上げてくれたアイドルが復活したのだ、逃がすなんてありえない訳で。
「なので、是非貴女達からも長野君を説得して欲しいのよね」
「はぁ…でも、叢真さんが嫌がっているのに…」
「コーチ、恥ずかしがり屋ですからね」
「本人が嫌がっているのに無理強いするのはよくないわ!」
乗り気じゃないみほや、苦笑する磯辺。
真面目なそど子は拒否の構えだ。
なお嫌がっているのに一日風紀委員として働かせたのはこの人である。
本人曰く、それはそれ、これはこれ、だそうな。
他の車長陣も乗り気ではない、ナカジマなどは本人の意思が1番だよねと笑っている。
この反応に、みほと叢真、両方を脅迫紛いの方法で…叢真に関しては完全に脅迫だが、無理矢理戦車道に引き入れた会長は、窓の方を向いて冷や汗を流している。
会長も罪悪感があったのだろう。
「勿論タダじゃないわ!長野君を説得してくれた子は…なんと!長野君とツーショット写真が撮れます!しかも長野君にお姫様抱っこしてもらう形で!」
「「「「「「「ガタッ!」」」」」」」
「え、ちょ、皆さん…!?」
イイ笑顔で叢真本人が承諾していない事を勝手に決定事項として話す教官。
その言葉に思わず立ち上がる車長陣。会長も干し芋を咥えながら身を乗り出している。
周りの反応に慌てるみほ、冷静なのは彼女だけである。
「今ならおまけで長野君との水着写真撮影タイムと、更に過去に出版された写真集も付けちゃうわよ!」
「そんな、通販番組じゃないんですから…」
教官の言葉に、冷や汗を流しながらツッコむみほ。
だが蝶野教官は止まらない。
そしてその言葉に煽られた面子も止まらない。
「コーチと写真…これは根性だ!」
「撮影の時にひなちゃ…カルパッチョも呼んだら喜ぶかな…」
「いやー、燃えるねぇ…」
「先輩と写真…先輩と写真…先輩のお姫様抱っこ…!」
「これは、そうよ、風紀違反しないように私が見張る必要があるからよ、そうなのよ…!」
「甘やかすのも良いけど、甘やかされるのも……良いかも」
「お姫様抱っこで写真だにゃんて、そんなリア充みたいな事が本当に…夢じゃないにゃー」
何が根性なのか不明だが気合を入れてる磯辺、カルパッチョも呼んで2人でお姫様抱っこという欲張りな事を考えるカエサル、いつもの調子だが唇をペロリと舐める妙に色気のある会長に、目がグルグルしている状態で呟く梓。
変な言い訳を自分に言い聞かせるそど子に、想像して頬を緩ませるナカジマ。
そして自分には無縁だと思っていたリア充イベントに胸をときめかせるねこにゃー。
素晴らしいほどに欲望に忠実な姿だった。
これには提案した蝶野教官も「ちょっと燃料投入し過ぎたかしら…」と笑顔のまま冷や汗たらり。
「み、皆さん!叢真さんの気持ちもあるので、あまり乱暴な事は…!」
「大丈夫です!根性ですから!」
「そうです!梓大丈夫です!?」
「あ、もしもしひなちゃん?あのね、今…」
みほが慌てて止めようとするが、こういう時1番に反応する磯辺は意味不明な根性魂に火が着いている。
梓は目がグルグルに顔が真っ赤で全然大丈夫には見えないし、カエサルはカルパッチョに電話して相談を始める。
他の面子も火が着いていて止められそうにない。
「そ、それじゃ、撮影と取材は長野君が帰ってきてからの予定だから、なるべく早く説得をお願いね」
冷や汗を浮かべながら、持ってきた資料を回収して笑顔で出ていく教官。
残されたのは、謎の原動力に突き動かされる戦車道乙女達だけ。
「……叢真さん、帰ってきたら危ないかも…」
ただ1人だけ、みほは叢真の身を案じるのだった。
黒森峰の場合
「ついにやって来たわに!戦車道の名門黒森峰女学園!」
………わに?
わにって何だ。
と言うか俺は何を叫んでるんだ、まるっきり変質者じゃないか。
連絡船の甲板には俺しか居ないから良いけど…。
何故か叫ばないといけないという使命感に駆られてしまった、そして何故か逸見さんの顔が過った。
俺彼女と全然親しくないんだけど何でだ…。
日本海を航行する継続高校から船と飛行機を乗り継いで、やってきました黒森峰女学園の学園艦。
噂には聞いていたが、巨大な学園艦だ、大洗の何倍あるんだか…。
継続では平穏無事に戦車道の授業を視察し、平穏無事に学園艦を後にした。
それもこれも大天使アキエルのおかげである、彼女のお蔭でカンテレ使いのミカさんからの被害が減った。
学園艦を去る時にミカさんが付いてこようとしたのでミッコと協力して簀巻きにして、後のことはアキちゃんに任せて船を降りた。
あの人を連れて黒森峰なんて行ったらどんな惨劇が起きるか…、想像もしたくない。
黒森峰を訪れるのは初めてだ、西住流の影響が絶大でドイツ風の学園艦であり、戦車道の強豪。
そしてまほさんが居る場所、みほちゃんが去った場所、その程度の認識しかない。
初めて行く場所だけに、どんな歓迎があるか分からない。
俺の所属が大洗という事もあって、下手をすると生卵で歓迎を受ける可能性もある…。
懐かしいな、黒歴史時代に俺の過激な戦法に異議を唱える連中が俺の遠征先で生卵ぶつけてきたっけ。
全部受け止めてお手玉して遊んでたらドン引きされたけど。
戦車の砲弾に比べたら、人が投げた卵なんて止まってるも同然である。
冗談で映画で有名な箸でハエを捕まえるのをやったら出来ちゃって、どうしようとハエを摘んだまま1人慌てた経験もある。
箸が割り箸で良かったな、アレ。
たぶんみほちゃん達も出来るんじゃないかなぁ。
連絡船が接舷し、観光客に紛れて乗り込む。
流石名門、戦車道のファンが多いな。
「なにあれ…」
「誰か偉い人でも来てるのかしら…」
最上部の甲板まで登ってきたら、何やら観光客が騒がしい。
人混みから顔を出してそちらを見ると。
「ブッ!?」
思わず吹いた。
「総員、気を付けぇ!!」
ザッ!と音を立てて休めの姿勢から気を付けの姿勢になるのは、黒森峰女学園の戦車道履修者達。
パンツァージャケットに身を包み、見事な気を付けの姿勢になる。
上部甲板の出入り口前の広い道路、その左右に並ぶのは黒森峰の保有戦車。
その前に乗員達が整列し、1本の道になっている。
その道の中央に立つのは、黒森峰で唯一見知った顔の…まほさんと、副官の逸見さん。
俺の姿に気付いた逸見さんが号令を叫び、生徒達が気を付けの姿勢になった。
その光景に、驚く観光客。あと俺。
え、何この状況…まさか、俺の歓迎なのこれ…?
アンツィオ以上に恥ずかしいんですけど!?
「総員、長野さんに敬礼!!」
ザッ!と見事な敬礼を群衆…の中に居る俺に向ける生徒達。
困惑する群衆がざわざわと誰に対して敬礼してるのかと視線を彷徨わせる。
に、逃げてぇ…!超逃げてぇ…!
逃げていいかな、大天使ミホエル様。
――――ダメです♪――――
ミホエル様はスパルタだった、厳しぃ!
俺がどうしようかと群衆に紛れて悩んでいると、カツカツと靴を鳴らしてまほさんがやってきて。
「よく来たな叢真、歓迎するぞ」
と言って、俺に真っ直ぐに視線を向けた。
その視線と迫力に、俺の周りに居た人は自然と左右に分かれ、モーゼのあのシーンみたいに群衆が割れた。
その中に取り残される俺、もう逃げられない。
「お、お久しぶりですまほさん…」
「あぁ、全国大会以来だな。よく来てくれた、歓迎するぞ」
――――盛大にな!――――
誰だ今の。
「さぁ、車を用意してある。行こうか」
「あ、はい…」
するりと俺の腕を組んで歩き始めるまほさん。
群衆と、俺に敬礼する生徒達の視線が刺さる。
群衆はあの男子は何者だという視線、生徒はあの西住隊長が腕を組んだ!?という驚愕の視線。
あと逸見さんの羨ましそうな視線、あの視線は見たことがある、俺がみほちゃんと居ると時々秋山さんが向けてくる視線だ!
一列に綺麗に並び、見事な敬礼をする生徒達の中を歩いていく。
なんだこれ軍隊か!?
礼節でも生活でも厳しいとはみほちゃんに聞いてたが、こんな軍隊みたいな教育してるのか黒森峰!?
そりゃ黒森峰卒業生に陸自へ行く人が多い筈だよな!
母が卒業生だが、基本自慢話しかしないので聞き流してたからなぁ…。
用意されていた車はオープンカー。
俺はまほさんと共に後部座席へ。
俺が乗り込むと、逸見さんが「総員搭乗!!」と叫び、生徒達が敬礼をやめて素早く戦車に乗り込んでいく。
そして逸見さんが運転席に乗り込むと、ゆっくりと進み始める。
その後を隊列を組んで進む戦車隊。
車長がラッパを取り出し、行進曲みたいなのを演奏し始める。
その様子を写真に収める観光客達。あと住民。
「ほら叢真、皆に手を振って。笑顔も忘れずにな」
「あははははははは………」
アハハハハハハハハいっそ殺せぇぇぇぇぇ!!
俺は外国の要人でも、皇族でもないぞやめてぇ写真に撮らないでぇぇいやぁぁぁぁぁ!?
「隊長、やはり少し派手だったのでは…長野さんが困惑しておりますし…」
運転席から苦言を呈する逸見さん、いいぞもっと言ってやって!
「何を言うエリカ、これは叢真の為でもある。叢真は大洗の生徒であり、みほ達を導いた存在だ。いわば黒森峰の優勝を遮った存在とも言える。こうして派手に出迎え、私自ら歓待する事で黒森峰は長野叢真に敵意は無く、友好的な存在であるとアピールする狙いがあるのだ。叢真を敵視する存在を抑える事も出来る」
「な、なるほど…流石です隊長!」
あっさり丸め込まれた。
確かに言っている事は尤もなのだが、俺の腕にしがみついて手を恋人握りしているのは必要なんですかねぇ…。
学園艦の大通りをゆっくりと進行する車列。
校舎に着くまで盛大な羞恥プレイを受ける羽目になった。
「流石は戦車道会のプリンス、急なパレードなのに堂々として素敵な笑顔だったぞ」
昔散々鍛えられた営業スマイルが無意識に出てたらしい。
母に徹夜で覚えさせられたからな…歩き方とか手の振り方まで。
車列は校門から入場し、校舎前を横切って進んでいく。
校舎の前を通る時に、履修者じゃない生徒達が凄い見てきて恥ずか死するかと思った。
車は一際大きな校舎の前で停車し、まほさんが降りる。
「学園長が挨拶をしたいと申してな、頼めるか」
「えぇ、それ位なら別に…」
アンツィオでもちゃんと帰る前に学園長に挨拶した。
聖グロとプラウダはしなかったが。
何故かって?聖グロは理事長もOG、プラウダは戦車道履修者の権限が強いので。
サンダースに至っては学校に行ってない、ケイさんは問題ナッシングとか言ってたけど。
継続?うん、鍋食ってる時にひょっこり来て鍋食って帰ったおっさんが学園長です。
ちゃんとした学園長って俺、アンツィオでしか会ったことないんだけど…。
大洗の学園長に至っては生徒会長の方が権限強いとか言われてるし…。
「エリカ、後は頼んだ」
「はい、隊長!」
まほさんに後のことを頼まれた逸見さんは凄く嬉しそうだ、秋山さんを連想する。
案内されて校内を進む、校舎もドイツ風なんだな…。
途中に優勝トロフィーや表彰楯、写真などが飾られている場所を通過する。
「今年こそはここに新しいトロフィーを追加出来ると思ったんだがな」
そう言って苦笑するまほさん。
1番目立つ場所に並んでいるのは戦車道の大会9連覇中のトロフィーか。
戦車道の強豪らしいな、他のスポーツとかでも活躍してるけど扱いが違う。
案内された理事長室に居たのは、初老の女性。
黒森峰の元教官で、西住流の師範で、なんと俺の母の事を知っていた。
「昔からやんちゃで自慢が好きな子でねぇ、何かが出来る様になると直ぐに自慢しに来て、褒めると大喜びで走り回るのよ」
ついた渾名が黒森峰の暴走特急。
車長としては優れていたのだが、無茶な突撃や暴走が多くて教官や当時の隊長も手を焼いたらしい。
お恥ずかしい限りです…。
「その息子が、まさか盤上のプリンスと呼ばれるようになるとは…世の中分からないものねぇ」
俺の事をよくご存知で…。
その後簡単な話をして、理事長室を後にする。
てっきりチョビ髭の男性かと思っていたが、聖グロと同じで女性だったのか。
「さぁ、それでは戦車道の校舎と戦車倉庫を案内しよう」
それは良いんだけど、何で腕を組むかな…理事長の前では自重してくれてたのに…。
黒森峰はなんと機甲科が存在し、戦車道履修者は全員この学科に所属している。
流石西住流の本拠地、戦車道への力の入れ具合が段違いだ。
そりゃ常勝にもなるよな…。
授業でも戦車道を優先して教えるのだ、生徒の習熟具合が段違いで高くなる。
そのせいで、軍隊っぽくなって、女子高生らしさが無いんだろうな、黒森峰…。
プラウダも結構真面目で形式的なのだが、隊長の性格で結構変わる。
カチューシャが隊長になってからは結構砕けたとニーナとアリーナが言っていた。
なお真逆なのがアンツィオと大洗である。
サンダースはおおらかだが規律とかは結構確りしてたりする。
しかし廊下を歩いていると生徒達、恐らく先程の車列に参加してない選手だとは思うが、視線が痛い。
殆どがあの西住まほ隊長と腕組んでる!?という驚愕の視線である。
みほちゃん曰く、毎年バレンタインとか大騒ぎになる位人気らしいし…俺刺されるんじゃなかろうか。
嫌だなぁまた刺されるの…。
傷跡こそ残ってないけど雨の日とかちょっと痛くなるんだよなぁ…。
「この先が戦車倉庫だ」
校舎から出て舗装された通路を歩く。
流石黒森峰、広大な敷地に戦車倉庫や演習場、射撃場などが整備されている。
……あの遠くに見えるの、飛行船か…?
戦車倉庫の前に来ると、倉庫前に整列して並ぶ戦車の数々。
黒森峰が保有する、ティーガーやパンター、エレファントなどだ。
ウサギさんチームが刺し違えて倒したヤークトティーガーもあるな。
マウスは…並んでないか。
しかし充実した戦力だな、車両数も多い、サンダースやプラウダみたいに校内紅白戦が毎日出来るんだろうなぁ。
大洗でも紅白戦はやるが、毎回俺とみほちゃんでどのチームを自軍に入れるかで壮絶なじゃんけんになる。
アヒルさんカバさんレオポンさんを取った方が勝つと会長に言われたりする。
上手い具合に別れると、俺とみほちゃんで奇策合戦になって大騒ぎになるんだよな…。
ただ、俺が負ける場合は大抵みほちゃんの殺伐薩摩スタイルな特攻でやられる。
みほちゃんってそれが最善と思えば、進んで特攻して相打ち狙うから怖いんだよなぁ…。
あの辺の思い切りの良さと覚悟決まりっぷりは流石西住流である。
なお、俺指揮でみほちゃん隊長というチームを組んだ場合、相手が泣く。
レオポンさんカバさんカメさんアリクイさんという火力重視のチームでも、泣く。
それだけみほちゃんとあんこうチームがヤバい。
そんな事を考えていると、逸見さんが号令をかけて生徒達を整列させる。
見事な動き、流石軍隊じみた教育をしているだけはある。
「休め。事前に通達した通り、戦車道連盟からの依頼で、長野叢真殿が視察に来て下さった。彼を知らない者も居ると思うが、彼は男性ながら優れた指揮と発想で戦車道会でも一目を置かれ、様々な流派が引き込みたいと思う程の人物だ。今回の視察も、我が黒森峰が授業の一環としてお願いしたから実現した事だ。全員失礼の無いように!」
『はい!』
まほさんの言葉に綺麗に揃って唱和する生徒達。
うーん、真面目だ。
大洗やアンツィオならここで質問とかが飛んでくるぞ、しかも戦車道関係ない質問が。
「そして私の婚約者でもある、手を出すなよ?」
「ちょ!?」
『え…!?』
まさかのまほさんの大暴投。
なんでわざわざ言うかなそれ!?
しかも俺が手を出される方かよ…。
この発言に生徒達が一斉にざわつく、そうだよね普通そうなるよね。
真面目で堅物なまほさんからのまさかの爆弾発言だものね!
「ではこれより、特別紅白戦を開始する!呼ばれた者は組分け表を取りに来い、赤星!」
「はい!」
「長野さん、こちらをどうぞ」
まほさんが生徒、恐らく車長の子を呼び出しているのを横目に見ていると、やってきた逸見さんに黒いものを手渡される。
「………パンツァージャケット?」
「はい、長野さん専用です。あちらで着替えて下さい」
「……サイズとかどうしたのこれ」
「隊長が、ダージリンに聞いたと…」
おのれダージリン、略しておのダ。
俺の個人情報漏れすぎじゃない…?
逸見さんに案内されて、戦車倉庫の隅に作られた簡易更衣室で着替える。
「うーむ、色々コスプレしたけど着心地が違うな」
当たり前と言えば当たり前だが、色々な国の軍服のコスプレと、戦車道専用のジャケットとでは着心地が違う。
聖グロのタンクジャケットとは作りは違うが、着心地は良い。
着慣れた大洗のジャケットの方が良いけど。
黒森峰のジャケットを男性化した見た目と、男性用の帽子。
なんだか武装親衛隊みたいだが、良いのだろうか…。
「大変お似合いです」
「ありがとう、他校に専用のジャケットを作って貰うのはなんだか変な気分だよ…」
褒めてくれる逸見さんにお礼を言いつつ、ちょっと軽口を口にする。
逸見さんは苦笑するだけだった、真面目だなぁ軽口返してもイインダヨ?
「着替えたか、似合うぞ叢真。ついでに黒森峰の制服も作らせようとしたんだがエリカ達に止められてな…すまない」
「いえいえ…逸見さんグッジョブ」
「あはは…」
小声とハンドサインで逸見さんを褒める、よくぞ止めてくれた。
「では叢真は紅組の指揮を頼む、副官は赤星が担当してくれる。行くぞエリカ」
「はい!」
「着替えさせられたからそんな気はしたが、いきなり実戦指揮とはまほさんも人が悪いな…」
まほさんから手渡された地図と書類を眺めながら苦笑する。
「長野さんを知らない生徒に、分からせるのに1番効率的だからと仰ってました…あ、失礼しました、本日副官を務めさせて頂く、赤星小梅と申します」
そう言って頭を下げるのは、温和そうな雰囲気の女の子。
はて、赤星…どこかで聞いたことがあるな。
「みほさんはお元気ですか?」
「……あぁ、君が小梅さんか。みほちゃんから聞いてるよ、中等部からの友達だって」
そうだ、みほちゃんとの話題で出てきた子だ。
全国大会で再会して、自分が戦車道に復帰したことを喜んでくれたって言っていた。
あれがこの子の事だったのか。
臨時の副官に指名されるのだ、恐らく逸見さんに次いで優秀な人か、皆の纏め役のような人なのだろう。
「未熟な身ですが、精一杯支えさせて頂きます」
「こちらこそよろしく、頼りにしてるよ」
同級生だとみほちゃんが言っていたから、多少フランクでも良いよな…。
彼女に案内されて、まほさん達が集まる場所とは反対の、戦車が並ぶ方へ。
………うん?こっちの戦車、気のせいか…いや、確実に向こうより劣るな。
あっちがティーガーⅠやⅡを主体にエレファントやヤークトティーガーを含めているのに対して、こちらはパンターは居るもののⅢ号戦車が主体。
一応ヤークトパンターは居るが1両のみ。
あ~…これは……そういう事か。
まほさんも人が悪いなぁ。
「総員整列!車長前へ!」
赤星さんの号令に、準備をしていた生徒達が整列し、その先頭に車長が立つ。
「気を付け!敬礼!」
確りとした敬礼に、俺も敬礼を返す。
母に仕込まれて良かった…。
「休め。さて…突然見ず知らずの男に指揮をされる事になった訳だが……」
俺の号令に休めの態勢になった生徒達を見渡す。
う~ん、やっぱりか…。
「赤星さん、失礼を承知で聞くが…ここに居る生徒全員、レギュラーじゃないね?」
「………はい、その通りです」
俺の質問に、言い難そうにしていた赤星さんだが、頷いて答えた。
並んでいる生徒は、どの生徒も何処か初々しい…悪く言えば精強さに欠ける印象が強い。
今も不安そうにしていて、どこか落ち着きがない。
「この中でレギュラーなのは私と私が車長を務める車両の搭乗者だけです。残りは準レギュラーの2年生と、今年から主力戦車の搭乗者に任命された1年生です」
『……………』
赤星さんの説明に、休めの態勢のままだが、視線を下に向けたり、表情を落ち込ませたりする生徒達。
なるほどなぁ。
「来年のレギュラーと準レギュラー候補か、これだけ揃ってるんだから来年も安泰だな黒森峰は」
「え…」
『………!?』
俺の言葉に、思わず声を漏らす赤星さんと、声こそ出さないが動揺する生徒達。
「まほさんが率いるのは3年生と現レギュラーだろう?それも全国大会出場選手のみの」
「は、はい…よく分かりますね…」
「車両と顔ぶれを見ればね…なるほどなるほど、まほさんも改革に乗り出したか」
1人納得する俺に、怪訝そうな顔をする生徒達。
まぁそうだよね。
「なんで俺の指揮下に、自分達が選ばれたと思う?そこの君」
「え、えっと、その…あの…」
俺に指名されて突然のことで口籠る生徒、たぶん2年生だな。
「構わない、好きな通りに意見を述べてくれ」
「は、はい……経験も技術も未熟な私達を指揮させて、その…大洗の監督である長野さんに勝つため…でしょうか」
「うん、普通はそう思うよね。で、君達の隊長はそんな事をして喜ぶ人間かな?」
「そ、そんな事ありません!隊長はいつも真面目で正々堂々とした、卑怯な事はしない立派な方です!」
俺の問い掛けに、思わず両手を握って否定する生徒。
うん、俺もそう思う。
あのまほさんがそんな小細工をする訳がない。
「そう、まほさんはそんな小細工はしない。つまりは他に理由があって君達は選ばれた訳だ」
「理由…ですか?」
赤星さんが首を傾げる。
他の生徒達も首を傾げている。
う~ん、思ったよりも重症だなこりゃ…。
大洗ならガンガン意見が出て、ウサギさんチームや歴女チームが珍回答連発するんだけどなぁ。
これも長年の教えの弊害か…。
「落ち込むことも、怖気づく事も、ましてや悲観する事もない。君達は選ばれた、王者黒森峰の、新たなる姿への先駆者として」
「長野…さん…?」
「全くもってまほさんも人が悪い、こんな役目を校外の、しかも弱体化した男にやらせようって言うのだから。あぁだが…」
受けて立とうじゃないか、西住まほ。
貴女が踏み出した、改革への第1歩、その勇気を称賛して!
久しぶりに血が滾る…何年ぶりだろうこの感覚。
あれはそう…あの愚か者共を駆逐した時以来の感覚だ。
「君達に見せよう、新しい黒森峰の、その勝利を…!」
さぁ、改革を始めよう…!
後に赤星小梅はただ一言だけ語った、『魔王再誕』と…。
主人公のヤル気スイッチ・オン!(´・ω・`)
なお弱体化した魔王化の模様(´・ω・`)
怒ってないので全盛期みたいに魔王100%ではない残念仕様(´・ω・`)
ドラクエで例えろって?昔がゾーマならバラモスかな、ヤマタノオロチでもいいかな(´・ω・`)
TKGで例えると醤油のないTKGかな(´・ω・`)
専用のダシ醤油も良いけど、らんらんは醤油と味の素に鰹節とネギのシンプルなのがちゅき(´・ω・`)
ネタバレ:小梅ちゃん大勝利