ガルパン日和   作:アセルヤバイジャン

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鶏がらスープの素&ゴマ油のTKG…(´・ω・`)


もぐもぐ…ピキーン!(´・ω・`)


ガツガツガツガツガツガツ…うまーい!(´・ω・`)テーレッテレー



げふぅ、ごっつぁんです(´・ω・`)










Aパートの登場人物に共通点があります、正解者には114514点です(´・ω・`)


くろもりみねzwei

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、小山先輩どこ行くんですか?」

 

「あ、武部さんにおりょうさん?珍しい組み合わせね」

 

「武部殿にちょっと幕末の恋愛事情を聞かれてたぜよ」

 

「いやー、やっぱり昔の人がどうやって恋をしてたのとか聞くのも勉強になるかなって思って~」

 

「相変わらず貪欲ね…」

 

学園の廊下で、どこかへ行こうとしていた柚子に声をかけるのは沙織とおりょう。

 

珍しい組み合わせに疑問を口にする柚子だが、相変わらず恋愛ごとに貪欲な沙織に苦笑する。

 

「私は、これから長野くんのお家に行くの」

 

「え!?長野さんの!?」

 

「何しに行くぜよ?」

 

柚子の言葉に驚く沙織とおりょう。

 

まだ叢真は帰ってきていないのに、家に行くと言うのだから疑問は最も。

 

沙織の恋愛脳は、まさか先輩と叢真はそういう関係なのでは…!?と素早く誤解する。

 

「長野くん、急に出ていったでしょう?そのせいで冷蔵庫の中身とかそのままらしいの。そろそろ危ない食材があるから処分して欲しいって電話報告の時にお願いされたから」

 

そう言って、学園で管理している学生寮や家の鍵を見せる柚子。

 

大洗学園では、生徒の意思で学園に鍵を預けるか預けないか選択出来る、万が一の為に学園に鍵を預ける生徒も多い。

 

鍵は厳重に管理されていて、一般生徒は勿論教師でも簡単には手が出せない。

 

が、そこは生徒会、普通に取り出せる辺り権力の強さが分かる。

 

「あ~、なるほど」

 

「帰ってきて冷蔵庫が腐海になっていたら嫌ぜよ…」

 

「あとついでにお部屋のお掃除してあげようかなって」

 

そう言って微笑む柚子、おっとりお姉さんキャラは伊達ではない。

 

「あ、なら私も手伝います!男の子の部屋って興味あるし!」

 

「武部殿はそっちが本音でしょう…まぁ私も興味あるし手伝うぜよ」

 

「ありがとう~、でもあんまり部屋の中漁っちゃダメよ?」

 

「大丈夫ですよ、ちゃんとお掃除しますから!」

 

まぁこの2人なら大丈夫か…と思い、同行を許可する柚子。

 

冷蔵庫の片付けなら1人で事足りるが、部屋の掃除までとなると1人では時間がかかる。

 

なお部屋の掃除は柚子達の完全な善意だ、叢真も冷蔵庫の中身の処理しか頼んでいない。

 

「ふんふんふ~ん♪ぴよ?小山さん達何処へ行くの?」

 

「あ、ぴよたんさん。これから長野くんのお部屋の掃除に行くの。今日はゲームは良いの?」

 

「ねこにゃーとももがーが用事があるから今日は無しだっちゃ。長野くんのお部屋かぁ、私も行ってもいいぴよ?」

 

「大歓迎です、行きましょうぴよたんさん!」

 

「う~ん、なんだかどんどん増えていくなぁ…」

 

沙織のウェルカムでぴよたんが仲間になった。

 

同行者が増えていく事に苦笑する柚子。

 

今日の練習の事を話ながら校門を出て、通学路を進んでいく4人。

 

「あ、掃除道具あった方がいいよね?先輩、お店寄って行きましょう」

 

「そうね、雑巾とかあった方が良いもんね」

 

叢真の家に掃除道具があるか不明なので、100円均一のお店で買っていこうと提案する沙織。

 

流石のおかん力、よく気がつく。

 

「あれー?沙織先輩達もお買い物ですか?」

 

「奇遇ですね~」

 

雑巾やゴミ袋を購入していると、小物や日用品を籠に入れているあゆみとあけびの2人が現れた。

 

誤解されがちだが、あけびは列記とした1年生である、桂利奈ちゃんと比べてはいけない、いいね?

 

「うん、これから長野さんのお家行ってお掃除するんだよ」

 

「へー!先輩のお家かぁ…」

 

「楽しそうですね、私達も行っていいですか~」

 

「勿論いいよ、その代わりちゃんとお掃除するんだよ?」

 

「「は~い!」」

 

沙織、いや沙織ママの言葉に元気に返事をする2人。

 

一応補足するが高校1年生である。

 

「6人…お部屋入れるのかな…」

 

大所帯となったパーティーに、心配になる柚子。

 

「佐々木さんは今日の練習は良いの?」

 

「はい~、今日は遅くまで卓球部が練習する日なので。その代わり戦車道の授業中に練習しましたし」

 

勿論休憩時間中にである。

 

相変わらずのバレー部に逞しいなぁと苦笑する面々。

 

「あゆみちゃんは今日は別行動なの?」

 

「消耗品が切れちゃったんで、買いに来たんです。梓達は今頃桂利奈に付き合って仮面ライダー鑑賞会だと思います」

 

沙織の質問に、買った消耗品を掲げながら笑うあゆみ。

 

梓達は、例の叢真出演の特別番組で仮面ライダーに興味を持ったらしく、桂利奈の部屋で鑑賞会だと言う。

 

「えーと、ここかな?」

 

「一軒家なんだ…」

 

柚子が地図を片手に確認すると、住宅地にポツンと立つ平屋に辿り着いた。

 

てっきりアパートか学生寮の部屋だと思っていた沙織は意外そうに呟く。

 

「結構新しいお家ですね、壁とかコンクリート製だし」

 

「お庭もあって良いですね~、練習とか出来そう」

 

壁を触るあゆみと、建物の横にある庭を覗き込んで羨ましそうなあけび。

 

庭には、ベンチプレスみたいな物や雲梯のような物が置かれている。

 

「お邪魔します」

 

「お邪魔しまーす!」

 

柚子が鍵を使って玄関を開け、それに沙織が続く。

 

後に続く面々。

 

「結構広いぜよ…」

 

「でも整理整頓されてて綺麗ぴよ」

 

玄関を入って先ずあるのが廊下、右手には脱衣所とお風呂場。

 

その隣にはトイレがあり、その先にはリビングとキッチンが1つになった部屋。

 

「こっちが…長野さんの寝室かな」

 

「こっちは…わぁ、和室だぁ」

 

リビングの隣には寝室として使われている部屋、その部屋と廊下から繋がる扉の先は、6畳程の小さな和室。

 

こちらは書斎として使っているのか、座椅子とローテーブルが置かれ、その上にデスクトップPC。

 

「歴史書に戦術指南書、戦車道関連書籍にバレー関係の書籍…あともっとらぶらぶ作戦です!なる漫画…」

 

「学校の教科書とかもあるし、お勉強部屋ですね~」

 

和室に入ったおりょうとあけびが、置かれた本などを眺めて感嘆する。

 

「それじゃ、私は冷蔵庫の中身を処分するから、手分けしてお掃除お願いね」

 

「はーい、それじゃ私はキッチン回りを担当するね。終わったら他を手伝うから」

 

「では書斎を担当するぜよ。自分の部屋で慣れているので」

 

「なら私、廊下とトイレやっときます」

 

「私はお風呂を掃除しておくぴよ」

 

「なら私はコーチの寝室ですね~」

 

テキパキと担当を決めて掃除に入る面々。

 

床や家具の埃を取るだけなので手間ではないし、叢真が定期的に掃除しているから汚れてもいない。

 

「わ、結構食材とか作り置きの品が多いなぁ…勿体無いけど処分しないと…」

 

冷蔵庫の中はタッパーやラップされた作り置きの食材が多い。

 

毎日丁寧に料理しているのだろう、使いかけの食材や調味料なども多い。

 

「キッチンはあんまり汚れてないなぁ…小山先輩、終わったら手伝いますね」

 

「うん、お願い~」

 

手早くシンクやキッチン台を雑巾で掃除し、水切りの為にカゴの中に置かれたままの食器を拭いて食器棚へ戻す沙織。

 

「わぁ、チャーシューとか手作りしてるのね…後で作り方聞いてみよう」

 

「そう言えば料理好きって言ってましたよ長野さん」

 

味が染みたチャーシューを見て感想を漏らす柚子。

 

何度か一緒に料理を作った事がある沙織は、主夫力高いなと改めて感じた。

 

しばらく掃除していると、おりょうとあけびが部屋の掃除を終わらせてやってくる。

 

次にあゆみ、そしてぴよたんが掃除を終わらせて使った雑巾などを袋に入れる。

 

「全然汚れてなかったねー、ちょっと水跡とか埃が付いてた位だし」

 

「コーチ結構綺麗好きですからね~、バレーの練習後とか率先して掃除してますし」

 

あゆみとあけびがゴミ箱のゴミを回収しながら談笑する。

 

「お風呂結構広くて羨ましいだっちゃ。私の部屋アパートだから狭くて…」

 

「ウチは一軒家だけど古いからお風呂は結構狭いぜよ…」

 

掃除の為に脱いでいた羽織を着るおりょうと、水を使ったので脱いでいた靴下を履くぴよたん。

 

「よし、後は冷蔵庫に入れておけば大丈夫かな。皆ありがとう、手早く終わったわ~」

 

「生ゴミは帰る時に捨てれば良いし、これで完了ですね」

 

冷蔵庫の中身の処理も終わる。

 

柚子1人なら冷蔵庫の中身の処分だけで時間が掛かっていただろう。

 

「沙織先輩、長野先輩の寝室にある洗濯物どうします?」

 

「あー、寝間着の服かな…う~ん、洗っても干して取り込むのが必要だし…洗濯機の前に置いておけば長野さんが洗濯するでしょ」

 

「はーい、持って行っちゃいまーす!」

 

沙織の確認を取ってからベッドの上に置かれた、叢真が寝巻きに使っていると思われるシャツとズボンを脱衣所に持っていくあゆみ。

 

「あけびちゃん、ベッドの下も掃除した?」

 

「あ、忘れてました~、すみません…」

 

「良いの良いの、そんなに汚れていないし…あれ、なんだろこれ…紙袋…?」

 

「ちょ、ちょっと武部さん!ベッドの下は弄らない方が…!」

 

「そこはダメぜよ!男子の秘密の花園ぜよ!」

 

ベッド下を確認する沙織に気付いた柚子とおりょうが慌てて止める。

 

2人は男性の部屋のベッド下に何があるのがお約束なのか分かっている様子。

 

「紙袋に入った…なんだろ、重さからして本…かな?」

 

「結構入ってますね~」

 

出てきた大きな紙袋、その中身を確認する沙織とあけび。

 

柚子とおりょうが真っ赤になってそれを止める。

 

「小山先輩?おりょうさんもどうしたのそんなに慌てて」

 

「武部さん、これはあれだよ…その、男性向けの…!」

 

「男子用解体新書ぜよ、見てはダメぜよ、武士の情けぜよ…!」

 

「まさか…夜の攻略本ぴよ!?」

 

「夜の…?」

 

「え~っと……え、まさか…これ…えぇ!?」

 

「戻りましたー…え、どうしたんです?」

 

慌てて止めてくる柚子とおりょうに不思議そうにする沙織だったが、彼女達の言葉に段々とソレが何であるか理解し始める沙織。

 

戻ってきたあゆみが不思議そうに首を傾げる中、徐々に真っ赤になる沙織。

 

「そ、そんな!長野さんがそんな…!嘘よ、お母さんそんなの許しませんよ!?」

 

「武部殿落ち着くぜよ、長野殿は息子じゃないぜよ」

 

「そ、それに、長野くんだって健全な男の子なんだし、こういう本を持っていても、その、おかしくないし…!」

 

「むしろ長野くんが女性に興味を持っていた事が驚きぴよ…」

 

「えっと……もしかしてそれ、エッチな本ですか…?」

 

「うそ、先輩も持ってるんだ…この前クラスの男子が持ってきてて凄い騒ぎになったよ」

 

真っ赤になって大混乱の沙織に対して、比較的落ち着いているおりょうと柚子。

 

ぴよたんはあの叢真が異性に興味があった事に純粋に驚き、やっと沙織が持つ袋の中身を理解したあけびが恐る恐る確認。

 

あゆみが驚きながら、同級生がエロ本を学校に持ってきた事を話す。

 

どこの学校にも居るのである、自慢する為か貸す為か、クラスに女子が居るのに持ってくる男子というのは。

 

今後その男子がどんな生活を送るのか考えると泣けてくるが、それは兎も角。

 

「ど、どどどどど、どうしようこれ…!?」

 

「落ち着いて、そっと元に戻して、私達は何も見てない、そうしましょう?」

 

「長野殿も健全な男子、それが分かっただけでも良いことぜよ」

 

顔を真赤にして目をグルグルさせている沙織に対して、流石は柚子、叢真の事を思って見なかった事にする事を提案。

 

貴重な情報が手に入っただけでも僥倖と賛同するおりょう。

 

「勝手に掃除したのは私達なんだから、問い詰めたりしたら可哀想ぴよ」

 

「そ、そうですよ~、コーチだって年頃の男性なんですし…」

 

ぴよたんが苦笑し、あけびも顔を赤くしつつも同意する。

 

「…………でもこれ、中身見れば先輩の好みが分かるんですよね…」

 

「「「「「……………」」」」」

 

あゆみの、ふとした言葉に沈黙して、沙織の手の中にある紙袋を見つめる全員。

 

ゴクリと、誰かの、いやもしかしたら全員の、喉が鳴る。

 

あの、あの恥ずかしがり屋でヘタレで奥手な叢真の女性の好み。

 

それが今、手の中にある。

 

それは、年頃の乙女であり、現役女子高生には耐え難い誘惑。

 

お忘れか、彼女達も青春真っ盛りの女の子である。

 

当然、そちらへの興味は強い。

 

ふらふらと紙袋の口へと手が伸びる沙織。

 

「だ、ダメよ武部さん!長野くんにもプライバシーが…!」

 

「そう言いながら副会長の手も口に伸びてるぜよ…」

 

「だ、大丈夫、大丈夫よ…まだえ、エッチな本と決まった訳じゃないし!もしかしたら古い参考書かもしれないもの!」

 

「夜の参考書じゃない事を祈るぜよ…」

 

「「「(ドキドキ、ワクワク)」」」

 

眼の前の甘美な誘惑に抗えない沙織と柚子、もはやこれまでと心の中で叢真に詫びて、見守るおりょう。

 

自分も興味津々じゃないかと言ってはいけない、歴女とはいえ彼女もお年頃の女子高生である。

 

内心のドキドキを抑えられずに、沙織と柚子の行動を見守るぴよたん、あけび、あゆみの3人。

 

ガサリと音を立てて、袋から中身が取り出される。

 

蛍光灯の光の下に照らし出された本、そのタイトルは――

 

 

 

 

『完熟乙女~畳と線香の香り、孫には内緒の夏の秘め事~』。

 

 

 

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

ビキリと音を立てて固まる6人、地獄のような沈黙が部屋に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰ぇ…ですかね…の場合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰女学園の誇る、広大な戦車演習場。

 

その中にある森林と山岳エリアを、まほ達白組の戦車が一列になって進んでいく。

 

「厄介な場所に逃げ込まれましたね…」

 

「あぁ、この先は森が深い上に高低差もある。全車周囲に警戒しろ、迂闊に飛び出すなよ」

 

エリカの言葉に頷きながら、部下に指示を出すまほ。

 

開始早々に、叢真は「あばよとっつぁ~ん」と叫んでこのエリアへと逃げ込んだ。

 

誰がとっつぁんだとツッコミながら追撃するまほ達。

 

だが相手はⅢ号戦車を主軸にした機動力に優れた編成。

 

対してまほ達はヤークトティーガーとエレファントを含む重戦車陣営。

 

接敵する事叶わず叢真達に逃げられてしまった。

 

だがそこは黒森峰、焦ること無く陣形を維持したまま進軍し、狭い山道へ突入していく。

 

叢真の戦法を知るまほは、待ち伏せと強襲に十分に注意しろと厳命。

 

「相手がいくらあの長野叢真とは言え、車両の性能差はこっちが上、その上このフィールドを知り尽くしてる西住隊長が指揮するんだから、恐れる事はないわ」

 

ヤークトパンターに乗る車長が、自分の車両のメンバーに言い聞かせる様に口を開く。

 

そう、彼女達は西住まほを信頼している、彼女が指揮するのだから自分達は負けるわけがない。

 

相手が車両も劣り、操縦するのは準レギュラーと新人の1年生達。

 

恐れることはない、いつもの王者の戦いをしようと考えていた時だった。

 

「っ!?3時の方向、砲撃あり!あれは…ラングです!」

 

突然の砲撃、山道を上りきった所で横合いからの一撃は装甲に弾かれた。

 

咄嗟に確認すると、木々の間からこちらを狙うラングの姿。

 

その車体には、フラッグ車を意味する旗が見える。

 

「フラッグ車が単身出てくるだと…全車警戒しつつ発砲、他の方向からの強襲に注意しろ」

 

砲塔が回転出来る車両が一斉にラングに向けて砲身を合わせ、発砲。

 

その砲弾を後退しつつ装甲で受けるラング、反撃の一撃が、ヤークトパンターの履帯に直撃する。

 

「あぁ!?履帯が…なんで私の車両ばっかりぃ!」

 

全国大会で散々ヘッツァーにやられた苦い記憶が蘇る車長達。

 

黒森峰は重戦車が主体、その履帯も当然のごとく重い。

 

「ちょっと、そんな所で止まらないでよ!」

 

「仕方ないでしょ履帯切られちゃったんだから!」

 

後続のエレファントとヤークトティーガーが、山道の坂で立ち往生してしまう。

 

その様子を確認したラングは、そのまま後退して森の中へ消えていく。

 

「全車追撃!」

 

「待て。迂闊に追うな、奴の思う壺だ」

 

追撃を指示するエリカを、冷静に止めるまほ。

 

何の考えも無く姿を現す叢真ではない、その事を知っているまほは冷静に回りを見渡し…叢真の狙いに気付く。

 

「全車反転!別働隊が崖向こうに居るぞ!」

 

まほの視線の先、自分達が登る山道の脇を通る崖、その対岸の森の中に隠れていたⅢ号戦車が4両。

 

『さぁ牙を剥け!全車砲撃ッ!』

 

「「「「撃てー!」」」」

 

叢真からの通信に、発砲を命じる車長達。

 

その砲撃は、全て山道の途中で立ち往生していたエレファントとヤークトティーガー。

 

その足元へ着弾した。

 

「次弾装填急いで!」

 

「ほ、本当に狙いこれでいいの!?」

 

「隊長が狙えって言うんだから良いの!良いから撃って!」

 

砲手からの疑問に、自分でも疑問に思っているが命令だからと従う車長。

 

続けて放たれた砲弾は、数発はヤークトティーガーに命中するが装甲で弾かれる。

 

「はは、焦ったけど所詮1年生ね、てんで狙いが甘いわ…そんなんじゃ履帯すら切れないわよ~」

 

「回転する砲塔が欲しいぃ~」

 

狙われた事で肝を冷やしたヤークトティーガーとエレファントの車長達だが、相手が1年生のⅢ号戦車だけだと分かって安堵する。

 

「撃て!」

 

砲塔や車体の旋回を完了したまほ達が射撃を開始。

 

「撃ってきた!?」

 

「きゃー!?」

 

『はい撤収!急げ!』

 

「は、はいぃ!」

 

反撃されてパニックになる1年生達だが、叢真の素早い指示に悲鳴を上げながら従い、車両を後退させる。

 

「あ、あの、失敗しちゃったんですけどこれからどうすれば…」

 

『失敗?何が失敗したんだ?』

 

「え、あの、エレファントもヤークトも倒せなくて…履帯すら…」

 

『あぁ、心配要らん。ヤークトは時間が倒してくれる。良くやった、次のエリアへ移動しろ』

 

「へ…?」

 

叢真へ報告したら、失敗を咎められるどころか褒められた。

 

これには1年生達も唖然とする。

 

「こちらの機動力を削ぐのが狙いでしょうか…」

 

「それならパンターも使うだろう…各車被害を知らせろ」

 

「こちらヤークトパンター、履帯の修理に入ります…うぅ、重いのに…」

 

被害は山道を上りきった位置に居たヤークトパンターの履帯だけ。

 

エレファントとヤークトティーガーの側面を狙ったにしては、待ち伏せしていたのはⅢ号戦車だけ。

 

「………いかん、後続衝突してもいい、そこを離れろ!」

 

「「え?」」

 

まほが叢真の狙いに気付いた時に、それは起こった。

 

突然揺れる地面、踏み固められた筈の山道に亀裂が走る。

 

「登れ!ぶつけても構わん!ヤークトは下がれ!」

 

「は、はい!」

 

「全速後退!急いで!」

 

まほの指示に慌てて坂を登るエレファントと逆に降りるヤークトティーガー。

 

だがその移動の振動が止めとなった。

 

「きゃぁぁぁぁぁ!?」

 

ヤークトティーガーの足元が砕け、崩れていく。

 

土砂に流されるヤークトティーガーは、そのまま横の崖へと滑り落ちて、見事に直立して土砂に埋まる。

 

崩落はエレファントが居た場所まで及んだが、衝突覚悟で前進した結果、ヤークトパンターに衝突したが落下は免れた。

 

「最初からこれが狙いか…だがこれで退路は無くなったぞ叢真」

 

「魔王長野の十八番…崖崩し…!で、ですが、崖を崩すのは大会規定で禁止されて…!」

 

「よく見ろエリカ、奴らは足場を崩して落としただけだ、大会で禁止されている崖を崩して生き埋めにするのとは違う」

 

実に細かい違いだが、大会で明確に禁止されているのは、崖を崩して下に居る車両を生き埋めにする方法。

 

今回の、山道の上に居る車両を足場を崩して落とすのは禁止されていない。

 

まぁ、禁止されてないからと言ってやるのがどれだけ居るかだが。

 

残念ながら、まほ達が対戦している相手はやる、むしろ十八番である。

 

実行するのに一切の躊躇いが無い。

 

『ハーハハハハハ!禁止事項に追加させたのが誰だと思っている、ルールの細かい隙を突くのは卑怯ではない、戦法だ』

 

「うそ…先輩達のヤークト倒しちゃった…しかもあんなにあっさり…」

 

紅白戦を監視している審判役の生徒からのヤークトティーガー行動不能の報告に、嗤う叢真と、自分達の戦果を信じられない1年生達。

 

ヤークトティーガーと言えば、黒森峰保有の戦車の中で、マウスに次いで最強と言われている車両だ。

 

機動性が劣悪なのを除けば、だが。

 

今回はそれが裏目に出た、重戦車特有の車体の重さと、機動性の悪さが山道の崩落から逃れられず餌食になった。

 

「また落ちたぁぁぁぁ!」

 

垂直に立ったまま土砂に半分埋まったヤークトティーガーから出てきた車長が叫んでいる。

 

全国大会でもウサギさんチームにやられた子である。

 

『さぁ邪魔なヤークトは退場した、後は正面切っての戦闘だ。準備は良いか?』

 

『こちら赤星、別働隊配置に付きました』

 

「こちら本隊、隊長車と合流するポイントに向かってます!」

 

『宜しい、さぁここからが本番だ、全員考えろ、思考を止めるな、1人1人が頭を使え!何も考えずに命令に従うだけで勝てる相手じゃないぞ!ここからが始まりだ…!』

 

叢真の言葉に、自然と力が入る紅組の生徒達。

 

全体的な作戦は説明された、だが各々の役目は自分で最善を考えろと言われてしまった。

 

大洗では1年生でも作戦を考えて実行するぞ?同じ1年生だろう、負けたくないだろう?さぁ今までの努力と知識と知恵で考えろ、お前達の最善を!

 

そう言い放った叢真の姿を思い出す1年生達。

 

「自分達に出来る事…自分達の最善…」

 

「い、いいのかな、そんな事して…そんな動き方なんて習ってないよ…?」

 

「習った事だけやっているんじゃ、ダメって事じゃないかな…」

 

「わかんない、わかんないけど…考えよう、だって同じ1年生なのに大洗は出来たんだよ?なら私達だって…!」

 

不安そうにする1年生達、だが先程の光景から、少しずつ変化が生まれ始めている。

 

その様子を無線から聞こえる声で判断し、笑みを浮かべる叢真。

 

「さぁ…お客様を会場に案内するぞ」

 

「はい!」

 

ラングの操縦手に命じて森から出る。

 

叢真が乗っているのが、フラッグ車であるラングだった。

 

「正面、フラッグ車のラングです!」

 

「全車前進、深追いだけはするな!」

 

「隊長、履帯の修理が…!」

 

「後から来い、森の中からの砲撃に注意しろ、行くぞ」

 

ラングが見えた方へ向けて進軍するまほ達。

 

先頭を行くのはエリカのティーガーⅡ。

 

置いて行かれる形になったヤークトパンター車長は、なんかデジャブ…と呟いて修理に戻るのだった。

 

「この先は…採掘場か」

 

地図を確認するまほ、山岳エリアの奥に再現された、採掘場のような拓けた場所。

 

複数の山道と広場で構成され、防御陣形を組むと攻略が難しくなる場所だ。

 

「全国大会の再現と言う訳か…ならば捻り潰すまで」

 

叢真の意図を読んで、あえて前進する事を選ぶまほ。

 

森の中をラングを追いながら砲撃するが中々当たらない。

 

やがて、ラングの姿を見失う先頭のエリカ。

 

「隊長、ラングが消えました、待ち伏せの可能性が…正面から砲撃!」

 

後続のまほに知らせるエリカだが、その時全方の森を突き抜けるように砲撃が飛来、咄嗟にキューポラの中へ入る。

 

「榴弾か…全車前進、消えたラングに注意しろ」

 

砲撃が飛んでくる方へ前進するまほ達。

 

やがて森が拓けて、広い場所へ出る。

 

「正面崖の上、パンター2両とヤークトパンター、Ⅲ号戦車2両が陣取っています!」

 

「こちらを足止めしている間に赤星達に陣地を構築させたか…隊列を組め、すり潰すぞ」

 

崖の上に陣取る紅組5両に対して、8両で囲むまほ達。

 

そして始まる壮絶な砲撃戦。

 

「フラッグ車を狙って!落ち着いて冷静に!装甲がダメでも履帯を狙えばいいの!」

 

指揮を任された赤星が、周りの車両に指示を飛ばす。

 

「この為にヤークトを最初に狙ったか…だがヤークトだけが主力ではないぞ叢真。エリカ、頼む」

 

「はい!」

 

まほの指示で、エリカが車両を前進させる。

 

彼女の車両はティーガーⅡ、ヤークトほどではないが攻守ともに優れる重戦車である。

 

「赤星副隊長!ティーガーⅡが来ます!」

 

「大丈夫、登り切るには時間がかかるから落ち着いて履帯を狙って」

 

仲間からの報告に、落ち着かせるように指示をする赤星。

 

「長野さん…お願いします…」

 

火力をティーガーⅡに集中させながら、自分達にこの陣地を任せた叢真に願う赤星。

 

「さて、そろそろか…」

 

「行きますか?」

 

「その前に、もう一度お約束をやっておこう」

 

「はいぃ?」

 

見上げてくる装填手に、叢真は嗤った。

 

凄く意地の悪い笑顔だった。

 

「ふぅ~、なんとか間に合ったぁ……あれ、なんか凄く嫌な予感が…」

 

森の中を走るヤークトパンター、履帯の修理を大急ぎて終わらせて合流を急いでいる。

 

ふと、自分が言った言葉で嫌な予感を覚える車長。

 

慌てて後ろを見ると、そこにヘッツァーの姿が。

 

あるわけない。

 

安堵して前を見る車長、その時妙に茂った木々の前を通ったら、そこから砲身が伸びてきた。

 

「え”」

 

口をあんぐりと開けて横を見れば、そこには枝や木で姿を隠したラングの姿。

 

その上で足を伸ばして座る叢真と目が合うと、彼はニッコリと笑った。

 

轟音が響き、ラングの砲身から飛び出した砲弾がまた履帯に直撃。

 

「いやぁぁぁぁぁ!?また履帯がぁぁぁぁ!?」

 

「頑張って直してまたおいで、また壊してあげるから」

 

「鬼ー!悪魔ー!魔王ー!!」

 

笑いながら後退していくラングと叢真に、両手を振って叫ぶ車長。

 

ラングの乗員達は「エゲツない…」と叢真の嫌がらせにドン引きしていた。

 

撃破も出来ただろうに履帯を狙って逃げる辺りが実にエゲツない。

 

「さぁ、おちょくり作戦長野式行くぞぉッ!!」

 

森を突っ切り、砲撃陣を敷くまほ達の中へ突っ込んでいくラング。

 

「フラッグ車で敵陣に突撃するなんて…!」

 

「包囲されたら終わりますよ!?」

 

「何事もノリと勢いだ、さぁ行くぞ!」

 

砲手と装填手の言葉に、アンツィオみたいな事を言って突撃させる叢真。

 

キューポラから身体を出して、砲撃が続く中獰猛に嗤う。

 

そして砲撃して進軍するエリカのティーガーⅡとエレファントを援護している車両の隙間にすっぽり収まるラング。

 

横に現れたラングと、そこから身体を出してこちらへ手を振る叢真に気付く隣の車長。

 

「ん…?なぁ!?6号車!7号車!脇にヘッツァーが居るぞ!?」

 

「いたたたたっ、車長!ヘッツァーなんて居ません!」

 

「落ち着いて、ラングです!ヘッツァーじゃなくてラングですよ!」

 

どっかで見たことがある事態に、ヘッツァーの幻影を見る車長。

 

相当インパクトが強かったらしい、すっかりトラウマである。

 

「キングタイガーの重い尻を押してやれ!」

 

「はい!」

 

ラングが狙うのは、こちらに後ろを見せているエリカのティーガーⅡ。

 

周りがあまりに近すぎて撃てずに居るのを良いことに、じっくり狙わせる。

 

確り狙って放たれた砲弾は、ティーガーⅡの後部に直撃。

 

しかし撃破には至らず。

 

「次弾急いで!?」

 

「いやいい、前進だ!」

 

砲手が叫ぶが叢真は前進を指示、慌てて操縦手が前進させると居た場所に砲弾が着弾する。

 

「二度も同じ手を食うと思うなよ叢真」

 

まほだ。

 

叢真が現れると同時に後退し、ラングの後退を遮る様に位置して狙ってきた。

 

「ジグザグに走れ!多少ぶつけてもラングなら問題ない!」

 

「こんな…不良みたいな…!」

 

「ひぃぃぃぃ!?」

 

叢真の指示で滅茶苦茶に走るラング、こんな動かし方なんて黒森峰では練習しないだろう。

 

揺れる車体に装填手が涙目で砲弾を装填する。

 

「基礎は出来てるなら後は応用だ!実地で掴め、今までやってきた事は裏切らん!さぁ踊れ踊れ踊れぇぇぇ!!」

 

「もうどうにでもなれーーー!!はいだらぁぁぁぁ!!」

 

叢真の鼓舞なのか扇動なのか分からない言葉に、自棄になってラングを動かす操縦手。

 

お忘れかもしれないが、叢真はアンツィオで長年戦車道に関わってきた人間だ。

 

当然、アンツィオの生徒達をノセるノリと勢いはお手の物である。

 

今回はそれに黒森峰の生徒を無理矢理引きずり込んだ。

 

包囲しようとするまほ達の車両の隙間を縫って暴れ回るラング。

 

「撃てッ!」

 

すれ違いざまに砲撃して履帯を切る、そして動けなくなったその車両を盾にする。

 

まほの車両だけは正確に砲撃してくるが、ラングの装甲がそれを弾く。

 

「凄いよこのラング!流石ヘッツァーのお兄ちゃん!!」

 

「あの!ラングとヘッツァーは兄弟じゃないんですけど!?」

 

「知ってる」

 

でもヘッツァーのお兄ちゃんで通る、それが大洗クオリティ。

 

「ラングが…!隊長を援護するわよ!」

 

「副隊長!崖の上の車両が降りてきてます!」

 

下の方で大暴れするラングに、まほを援護しようとするエリカ。

 

だがその前に赤星達が陣地を放棄して迫ってきていた。

 

「エレファント!下がりなさい!迎え撃つわよ、勝負よ小梅!」

 

「長野さんの援護をしつつ山道を下って下さい、この場所を放棄します!」

 

火力をティーガーⅡとエレファントに集中させつつ、Ⅲ号戦車にラングの援護をさせる赤星。

 

恐ろしいのがこの乱戦状態で、ラングのキューポラから身体を出している叢真だろう。

 

「慌てるな、崖を利用して囲い込め」

 

まほの冷静な指示に、動ける車両でラングを崖の方へ追い詰める白組。

 

「Let's show time!ルーキーの登場だ!」

 

無駄にカッコつけながら叫ぶ叢真。

 

その言葉にハッとしたまほが森の方を見ると、森を突き破って一列で突撃してくるⅢ号戦車が4両。

 

ヤークトティーガーを倒した1年生達だ。

 

「「「「突撃ぃぃぃ!!」」」」

 

初々しい叫びと共に、包囲陣に突撃してくる1年生達。

 

砲塔や車両を崖の方に向けていたまほ達は対応が出来ない。

 

「二段構えか…!」

 

「お前達に足りないものは、それは!情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ!!大胆さが足りない!!」

 

「誰に向けて言ってるんですか!?」

 

舌打ちするまほ、それに対してなのか誰に対してなのか、早口で謎の言葉を叫ぶ叢真。

 

思わず装填手ちゃんが渾身のツッコミである。

 

「いけー!」

 

「撃て撃てー!」

 

「隊長と赤星先輩を助けるんだー!」

 

「おどりゃーーー!」

 

一列になって周囲に砲撃しながら包囲陣に横から喰い付く1年生達。

 

ラング乱入からようやく立ち直った所で間を開けずにまさかの1年生の総突撃である。

 

1年生達の勢いと突然の事態に浮足立つ白組、それを見逃す叢真ではない。

 

「右側面を突破して1年生と合流するぞ、さぁ牙を剥け!食い破れ!」

 

「ヒーーーハーーー!!」

 

「操縦手がおかしくなりましたー!」

 

黒森峰じゃ考えられない作戦ややり方、勢いについにラングの操縦手が壊れて装填手がガチ泣きしている。

 

1年生の突撃で隙きが出来た場所へ突撃し、1年生と合流する叢真。

 

「オープン・セサミぃぃぃぃ!!包囲陣を抉じ開けろぉ!!」

 

「浮足立つな、一度後退して陣形を組み直せ!相手はこちらの前面装甲を抜けない、側面を晒すな!」

 

叫ぶ叢真と冷静に指示を出すまほ。

 

「スネーク作戦開始!着いて来い、遅れた奴は死ぬだけだ、安心しろ!!」

 

「「「「Jawohl!!」」」」

 

叢真のラングを先頭に、その後に続く1年生達。

 

浮足立つ包囲陣の中と外を、蛇が這いずる様にすり抜けて行く。

 

「好きに狙って好きに撃て!ここがお前達の魂の場所だ!!」

 

「履帯を狙って!Ⅲ号の主砲でもいける!」

 

「側面撃ち放題!撃て撃てー!」

 

「他に負けるな撃てー!」

 

「先輩達相手にこんな好き放題…ん!ふぅ…あ、撃っていいよ」

 

同士討ちなんて気にせずに撃ちまくるラングとⅢ号戦車達に、後退するまほ達。

 

2両がすれ違いざまに近距離で撃たれて行動不能、1両が履帯をやられて動けなくなる。

 

「きゃぁ!?す、すみません、9号車行動不能です!」

 

「同じく8号車やられましたー!」

 

「良くやったぞ、最後の言葉は撃った車両と『後はお願いします』だ、仇はとってやる!」

 

「ティーガーⅠにやられました、後はお願いします!」

 

「ヤークトパンターです、後はお願いします皆さん!」

 

だが流石のまほ、冷静に反撃して最後尾のⅢ号戦車とその前を行く車両を撃破してくる。

 

「隊長!正面にエレファントが!」

 

「赤星!助けろぉぉ!」

 

「はい!」

 

スタイリッシュ援護要請にすぐさま応える赤星。

 

1両で奮戦するエリカのティーガーⅡを無視して崖を下り、こちらに尻を向けているエレファントに突撃。

 

正面をラング、後方を赤星のパンターに挟まれたエレファントは対応に困りとりあえずラングを狙ってくる。

 

「ユニヴァァァァス!!」

 

「おかーさーん!?」

 

エレファントの砲撃を前進しながら紙一重で避けるラングの上で叫ぶ叢真と、砲弾を抱えながらガン泣きの装填手ちゃん。

 

「廃棄ハッチを狙って!」

 

エレファントの背後に着いた赤星のパンターが放った一撃で、行動不能になるエレファント。

 

「対戦相手の1年生が考えた方法を使うなんて…敵に教えられてしまいましたね」

 

「敗北から糧を得る、それが敗者の特権だ、それが出来るのが人間だ。さぁ次へ行くぞ!」

 

「はい!」

 

苦笑する赤星に檄を飛ばし、赤星と着いてきたパンターとⅢ号戦車が蛇の胴体に合流して森を目指す。

 

「残り2両どうした!?何故逃げない!」

 

「行って下さい隊長!ティーガーⅡは引き受けました!」

 

「ここが私達の正念場です!自分達で考えて自分達で決めました、ここでティーガーⅡは倒します!」

 

崖の上で、エリカを足止めしていたヤークトパンターとⅢ号戦車が降りてこない。

 

「お前達……分かった、任せる!後のことは考えずに全力を尽くせ!」

 

崖下ではまほ達が態勢を立て直している。

 

もう脱出は叶わないだろう。

 

正面からやりあえば地力で劣る叢真側がピンチになる。

 

それに無茶な行動で1年生達が限界だ。

 

何よりも、あの黒森峰の、命令を受けてただ動くだけだった生徒達の、自ら示した行動を無駄には出来ない。

 

ラングを先頭に森へと入っていく紅組の車両。

 

「私達じゃこれ以上隊長達について行けない…!」

 

「未熟な自分達が恨めしいね…でも!」

 

「ここが私達の正念場ぁぁぁ!逸見副隊長覚悟ぉぉぉぉ!」

 

果敢にエリカへと挑むヤークトパンターの生徒達。

 

彼女達は準レギュラー、まだ未熟と言われて公式大会にも出たことがない。

 

一応レギュラーのヤークトパンターが出れない場合の控えだが、中々機会など巡ってこない。

 

だからこそ、ここが彼女達の正念場。

 

レギュラー陣への下剋上の時。

 

「上等じゃない!かかってきなさい!」

 

それを迎え撃つエリカ、彼女にも副隊長として、まほの右腕としてのプライドがある。

 

「西住隊長が来るよ!」

 

「先輩たちを守るんだ、ここで止め…きゃぁぁ!?」

 

「こ、行動不能…でも、これなら登ってこれないね…えへへ、私達役に立てたかな…」

 

崖を登る山道の1つで陣取る1年生達のⅢ号、崖を登ってきたまほ達に撃破されてしまうが、車両が道を塞いでそれ以上登ってはこれない。

 

これでヤークトパンターが奮戦する時間が稼げたと笑いながら、涙を流す1年生達。

 

「まほさん相手に完全勝利は無理と分かっていたが…情けないな俺は」

 

「隊長…」

 

森を進むラングの上で、呟く叢真。

 

そんな叢真を見上げて瞳を細める装填手。

 

「エレファントとヤークトは葬った、後は地力での勝負になる。各員、思考を止めるな、命令に従うだけの人形に、勝利を掴む事は出来んぞ!心配するな、これまでの経験も練習も努力も、全て己の糧になっている、それらは決して裏切らない」

 

『紅組ヤークトパンター、行動不能』

 

「………散っていった仲間のためにも、各員の奮戦を期待する」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「死んでないですよ…」

 

「ノリだよノリ。雰囲気って大事だろう?」

 

「はぁ…」

 

無線で鼓舞していると、最後まで残ったヤークトパンターが撃破された報告が審判団から流れる。

 

奮戦した彼女達の事を思いながら、言葉を締める。

 

装填手から冷静なツッコミが入るが、叢真は笑って答える。

 

たぶん紅組で1番冷静なのはこの子である。

 

「これより、深き森の呼び声作戦を開始する!」

 

「「「「「Jawohl!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石は叢真と言った所か…みほより大胆で奇抜な作戦をしかけてくる…」

 

「隊長、態勢の立て直し完了しまいした」

 

「うむ、ヤークトパンターはどうした?」

 

「遅れてすみませぇぇん!また履帯破壊されて修理に手間取りましたぁ!」

 

「何やってるのよ!」

 

「ひぃ!」

 

採掘場(っぽい場所)で態勢を立て直すまほ達。

 

そこに履帯を修理したヤークトパンターが合流、エリカに怒鳴られている。

 

「頑張って履帯直してきたのに怒ることないじゃないですか副隊長…」

 

「よせエリカ。これで6両、数の上では互角だ」

 

「しかし1年生と準レギュラーだけでここまでやるとは…特に1年生です、2両もやられました」

 

「わざわざ全国大会の再現をした上で、な…」

 

悔しそうなエリカの言葉に、ため息を小さくつくまほ。

 

「隊長…?」

 

「叢真が本気なら、森の中で確実にこちらを狙ってくる。アイツはゲリラじみた局地戦も得意だ、継続高校を指揮した時なんて一度も自分の姿を晒す事無くマジノ女学院を殲滅する程にな」

 

「……聞いた事があります、マジノ女学院の悲劇…」

 

「それをやらないのは継続ほど部下の練度が高くない事と、奇策慣れしていないからだ。そして大洗との戦いや戦法を再現する事で、大きな印象を与えたいんだろう……私の思惑通りにな」

 

「隊長?」

 

「何でも無い、追撃に入るぞ」

 

「はっ!」

 

最後の言葉だけはエリカに聞こえないように呟いたまほ、エリカ達に指示して叢真達の追撃に入る。

 

第二ラウンドの開始だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所で、長野さんってあんな性格なんですか?凄いハイテンションで叫びまくってましたけど」

 

「………ストレス溜まっていたのかもしれないな、色々な学園艦を巡ってきたから」

 

「はぁ……ストレス…」

 

叢真には優しくしてあげよう、そう思うエリカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公…酸素欠乏症で…(´・ω・`)



怒ってないのでひたすらテンションが高い状態、全部ストレスって奴が悪いんや(´・ω・`)




小梅ちゃん大勝利はどこ行ったかって?(´・ω・`)



ふ~ふ~ふ~、次回とは言ってないじゃないかのび太くん(´・ω・`)ねっとり











ネタバレ:エロ本ネタは次回も続く模様(´・ω・`)テデドン

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