ガルパン日和   作:アセルヤバイジャン

30 / 35
遂に伝説のあのキャラが登場します(´・ω・`)

OPでも存在感を出していたあのキャラです(´・ω・`)









今回はらんらんの趣味が丸出しです、ご注意くださいらんらん♪(´・ω・`)


くろもりみねfünf

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園戦車倉庫、戦車道の授業のために使われる専用の倉庫で、一応それなりの広さがある。

 

昔は一応戦車道が盛んだった頃の名残であり、レンガ造りの確りとした倉庫だ。

 

実は2階建てであり、倉庫内の2階部分は現在作戦立案、休憩、軽食の調理などに使われている。

 

その部屋の中で、のそりと起き上がる影が1つ。

 

「――――っ!」

 

ぐいーーーっと伸びをして、それから大きな欠伸を1つ。

 

くしくしと顔を前足で撫でてから、眠っていた場所から降りる。

 

「ぶにゃー」

 

ちょっと野太い鳴き声を鳴らし、部屋の扉へ。

 

ドアの下に設けられた専用の扉を頭で押して開けて、部屋の外へ。

 

階段をのそのそと降りて、倉庫内をぽてぽてと歩いていく。

 

朝のひんやりとした倉庫内の空気を感じながら、尻尾をふりふり。

 

倉庫の扉の前に来ると、丁度ガコンと音がして扉が開いていく。

 

「おや、おはよう~お猫先輩」

 

「んなー」

 

扉を開けたのはツナギを着たナカジマ、朝練代わりの戦車の整備に来た様子。

 

毎朝、学校がある日は大抵自動車部が戦車倉庫の扉を開けている。

 

時々倉庫前で朝練をするバレー部が開ける事もある。

 

扉を開けているナカジマの隣をすり抜けてぽてぽてと外へ出る。

 

彼は猫である、名前はお猫先輩。

 

何処から来たのか、誰が飼っていたのか不明なちょっとぽっちゃりとした猫である。

 

ナカジマ達の話では、彼女達が入学した時には既に戦車倉庫の辺りを縄張りにしていたとの事。

 

見た目通りの肝の据わった猫で、戦車が動いてようが砲弾をぶっ放してようが逃げる素振りが無い。

 

見知らぬ生徒が来ても逃げない、触ってきても逃げない。

 

でも怒ると猫パンチしてくる、気安くはない様子。

 

戦車道の授業が始まるまでは、誰が世話していたのか不明だが、野生で生きていたにしてはちょっと…太い。

 

ナカジマ達もよく見かけていたが、特に世話していた訳でもないと言う。

 

そもそも本来ナカジマ達は自動車部、部室も別の場所である。

 

つい最近まで名前もなかった謎の猫。

 

学園の風紀に関わるからとそど子が校舎の外に連れ出したが、そど子が戻ってきたら既に倉庫前で丸くなっていた。

 

何度か同じことを繰り返し、遂にはそど子が折れた。

 

それ以来、お猫先輩は戦車道のペット兼マスコット兼最終兵器として君臨している。

 

最初は色々な名前が提案されたが、どれもお猫先輩は無反応。

 

沙織と呼ばれた時は少し反応したが、沙織本人から却下された。

 

この時、叢真が「ナカジマさん達より前から居たんだから、お猫先輩で」と冗談で口にしたら、お猫先輩が反応。

 

満場一致でお猫先輩と呼ばれるようになった。

 

それまで何処で寝ていて何処で餌を手に入れていたのか不明なお猫先輩だが、現在は戦車倉庫2階の部屋を根城にしている。

 

叢真が作った寝床で寝て、自動車部が作ってくれたお猫先輩専用出入り口で出入りする。

 

学園でペットを飼うのはどうなのかとそど子が会長に聞いたが、会長は「ネズミとか取ってくれるかもしれないし良いんじゃない」と呑気に笑っていた。

 

後日、巨大なネズミの死体を叢真に献上するお猫先輩、褒めれとドヤ顔だった。

 

当然履修生達は悲鳴を上げた。

 

ぽっちゃりぶにぶにスタイルなのによく狩れたものである。

 

さて、そんなペット兼マスコット兼最終兵器なお猫先輩。

 

毎日の日課がある。

 

朝起きたら戦車倉庫から出て、倉庫から程近い水道へ。

 

「あ、お猫先輩おはようございます!」

 

「「「おはようございます!」」」

 

そこに丁度、朝練中のバレー部が水を水筒に入れて粉を混ぜていた、熱中症対策だろう。

 

「んなー」

 

「あ、はい、お水ですね」

 

近藤の足元でひと鳴き、お猫先輩が何を求めているか何となく理解した近藤が水道の蛇口をひねると、ぽよんと跳ねる様にお猫先輩が飛び上がり、水道の前に着地。

 

流れる冷たい水に顔ごと近づいてピチャピチャと水を飲む。

 

「ぶなー」

 

「もう良いですか?」

 

ご馳走様と言いたげに鳴いて、水道から降りるお猫先輩。

 

近藤はそれを見て水道を止める。

 

誰も居ない時は戦車倉庫横に置いてあるバケツから水を飲むが、こうしてバレー部が居る時は水を飲ませてもらうお猫先輩。

 

練習を再開するバレー部に見送られ、校舎の方へ。

 

まだ朝早いので生徒の姿は疎ら、朝練の生徒や交代明けの船舶科の生徒などが居る程度だ。

 

ぽてぽてと優雅に通学路を歩くお猫先輩、すれ違う生徒が猫ちゃんおはようとかぶーちゃんやっほーとか声を掛けると、尻尾を振って答える、地味に対応が大人だ。

 

お猫先輩という名前は戦車道履修者しか知らないので、他の生徒からは猫ちゃんとかぶーちゃんとか呼ばれている。

 

登校する生徒達の流れを逆走し、校門に辿り着くお猫先輩。

 

ぽよぽよした体型の癖に、やはり猫は猫なのかぴょんぴょんと校門に飛び乗ってしまう。

 

「あら、お猫先輩おはよう」

 

「んなー」

 

校門前で登校チェックをしていたそど子がお猫先輩に気付いて挨拶すると、お猫先輩も鳴いて返す。

 

そして校門の上で丸まって登校してくる生徒を眺める。

 

お猫先輩と呼ばれる様になってから日課としている行動だ。

 

「おはようお猫先輩殿」

 

「チーカマ食べるぜよ?」

 

家が一緒なので揃って登校してくるカバさんチーム、おりょうがオヤツとして持ってきたチーカマを貰ってご機嫌なお猫先輩。

 

「おはようございます!お猫せんぱい!」

 

今日も元気だ桂利奈ちゃん、彼女は校門上のお猫先輩に手を上げて元気に挨拶。

 

「んなー」

 

お猫先輩も鳴いて挨拶、実は桂利奈ちゃん、普通の猫だと逃げられるので逃げないお猫先輩が大好きである。

 

その後も戦車道履修生がそど子とお猫先輩に挨拶して校門を通っていく。

 

「おはようございます園さん、お猫先輩もおはよう」

 

「ぶなー」

 

みほちゃん登校、背伸びして校門の上のお猫先輩の頭を撫でると目を細めて撫でられるお猫先輩。

 

「相変わらず西住隊長と長野さんにだけは甘えるのよね、お猫先輩…」

 

「あはは、何ででしょうね…」

 

そど子の呆れの混ざった言葉に、苦笑しながら喉をこちょこちょするみほ。

 

お猫先輩渾身のゴロゴロを披露。

 

みほが立ち去ると、またふてぶてしい態度に戻って登校してくる生徒を眺める。

 

そして校門が閉まる時間が近づくと、ここ最近見る2人組がやってくる。

 

「も~!自分で歩きなさいよ麻子ぉ~!」

 

「……んぐぅ…」

 

沙織と麻子である。

 

現在、麻子を普段連れてきている叢真が不在なので、沙織が代わりに彼女を起こして連れてきている。

 

「冷泉さん、長野くんが居ないからってだらけ過ぎよ…ちょ、抱き着かないでよ!?」

 

「んお~…そど子ぉ~…」

 

「まったくもう、麻子ってば…あ、おはようお猫先輩」

 

「ぶなー」

 

そど子に襲いかかる麻子を呆れ半分で見ていた沙織の言葉に、大変そうだねと言わんばかりに鳴くお猫先輩。

 

猫にすら同情されている。

 

その後、麻子と沙織が校門をくぐったのを確認すると、校門から降りて校舎の方へ歩き出すお猫先輩。

 

「長野くんが居ないと、さっさと行っちゃうのよね…」

 

校門を閉めながら、お猫先輩を見送るそど子。

 

叢真が居る時は、叢真の足にまとわりつきながら校舎の方に付いていき、朝ごはんを貰うのだ。

 

だが現在叢真は不在。

 

では誰がお猫先輩のご飯を用意するのか?

 

「んなー」

 

「あ、用意してありますよお猫先輩」

 

鳴きながらやってきたのは戦車倉庫横の日陰。

 

そこに、猫用餌をお猫先輩と書かれた皿に入れている梓の姿。

 

真面目な梓が、叢真の代わりに餌を出していたりする。

 

なお餌代は戦車道の経費から出ている、そこそこ良い餌を貰っていたりするお猫先輩。

 

「ふふ、今日はブラッシングしてあげますからねー」

 

ガツガツと餌を食べるお猫先輩の背中を撫でながら、楽しそうな梓。

 

戦車道の授業の時に、お猫先輩の蚤取りとブラッシングをする予定なのだろう。

 

予鈴が鳴ったので教室に戻る梓を見送り、戦車倉庫の前に移動するお猫先輩。

 

朝出た時と違い、扉が全部開かれ、戦車が外に出されている。

 

自動車部がやったのだろう、本日の授業で使うので用意しておくのだ。

 

その中の1両に飛び乗り、日当たりの良い場所で丸くなるお猫先輩。

 

戦車道の授業が始まるまで、こうして昼寝しながら戦車の警備をするのがお猫先輩の仕事である。

 

時々、お猫先輩を慕う野良猫や飼い猫がやってきて、猫団子になっていたりするがご愛嬌である。

 

時間は進んで本日の戦車道の授業時間。

 

足早にやってきた生徒達が乗車前の点検などを始め、全員が揃ったとろこで桃が号令して整列、今日の練習内容を発表する。

 

みほの指示で全員が演習場へ移動を開始する。

 

「お猫先輩、ちょっとごめんなさい」

 

謝りながらみほがお猫先輩を抱き上げ、もふもふしつつ倉庫の扉横に叢真が設置したお猫先輩専用ベンチに座らせる。

 

「なんで毎回操縦席の前で寝てるんだお猫先輩…」

 

「寝心地が宜しいのではないですか?」

 

「猫が寝る所って、温かい場所か涼しい場所ですからねー、きっと良い寝心地なんですよ」

 

麻子の疑問に、華と優花里が笑って答える。

 

あんこうことⅣ号だと、お猫先輩はほぼ必ず麻子が乗り込む操縦席ハッチの前で寝ている。

 

戦車によって寝る場所が異なり、Ⅲ突だとカエサルの出入りするハッチ前、ヘッツァーだと砲塔基部の辺り、八九式だと背部、リーに至ってはキューポラの上である。

 

他の車両でも寝る場所が決まっているので、履修生達は今日はここかーと確認するのが点検の一環となっている。

 

一度、お猫先輩が乗ったまま練習に出てしまい、練習中に気付いてパニックになった事がある。

 

戦車が全速力で走っていても砲撃していても逃げないお猫先輩、肝が据わっているというレベルじゃない。

 

そんなお猫先輩、ベンチの上で練習に出撃する戦車を見送ると、くしくしと顔を洗って、散歩に出かける。

 

暫く誰も来ないと分かっているからだ。

 

「あら猫ちゃん、また来たの?」

 

栄養科の校舎までやってきたお猫先輩、栄養科の生徒が実習を行っている調理室前までくると、窓の縁に飛び乗って室内を眺める。

 

するとエプロンを付けた1人の生徒がお猫先輩に気付いて、長い三つ編みを揺らしてやってくる。

 

「ぶなー」

 

「はいはい、ちょっと待ってね」

 

お猫先輩の鳴き声に、微笑んでから何かを取りに行く生徒。

 

戻ってくると、その手にはササミを茹でた物や白身魚を焼いた物などが入った小皿。

 

勿論猫用の味付けなしである。

 

「おいしい?」

 

「んなー」

 

窓の縁に置かれた小皿に顔を突っ込んでガツガツ食べるお猫先輩、生徒の言葉に鳴いて返事する。

 

「ごめんね、調理中だから撫でてあげられないの」

 

本当なら撫でたり遊んだりしてあげたい生徒だが、今は料理の最中、調理室は動物厳禁である。

 

だがそこはお猫先輩、入ったりはしない。

 

生徒達も賢い猫だと分かっているので、追い出したりはしない。

 

「ぶなー」

 

「またね」

 

ご飯をご馳走になったお猫先輩、ご馳走様代わりに鳴いて窓の縁から飛び降りる。

 

手を振る生徒に尻尾を振りながら散歩を再開するお猫先輩。

 

学園長の車に登って足跡残したり、農業科の畑を散歩したり、喧嘩している野良猫を喧嘩両成敗したり。

 

猫らしい散歩を終えて戦車倉庫に戻ってくる頃には、練習が終わって履修生が戦車と一緒に帰ってくる。

 

それを出迎えるのもお猫先輩の仕事である。

 

「お猫センパーイ、負けちゃったよぉー」

 

「慰めてよお猫先輩ー」

 

「肉球でぷにぷにしてぇ~」

 

練習で負けたのか、あやとあゆみ、優季がやってきてお猫先輩を抱き上げる。

 

背中やお腹に顔を埋めてすりすりするあやとあゆみ、優季は前足を持ってほっぺに当ててぷにぷにしている。

 

されるがままのお猫先輩、どっしりとした態度で貫禄がある。

 

「ちょっと、お猫先輩に甘えてないで整備と使った砲弾の計算!掃除もあるんだからね!」

 

キューポラから顔を出して怒る梓に、はーいと返事して戻っていく3人。

 

「いやー、ごめんねお猫先輩。今長野ちゃんが居ないから甘える相手に飢えてるみたいでさー」

 

そこへ干し芋を食べながらやってくる会長、お猫先輩はかまわんよと短く鳴く。

 

「お猫先輩も長野ちゃんが居なくて寂しいでしょ、はい干し芋」

 

差し出される干し芋を咥えて、かみかみするお猫先輩。

 

戦車道履修生で1番お猫先輩が懐いているのは叢真である。

 

練習中一緒に待っていたり、ご飯を用意して貰ったり、お猫先輩用トイレの掃除も叢真が普段やっている。

 

それ故か、お猫先輩は叢真の言うことはよく聞く。

 

「でも、流石にお猫先輩を攻撃に使うのは反則だよねー」

 

お猫先輩の隣に座って苦笑する会長。

 

叢真とお猫先輩の合体攻撃、必殺おねこ爆弾の事である。

 

接近した相手車両に叢真がお猫先輩を抱えて飛び乗り、キューポラからお猫先輩を投入。

 

ぽよぽよ猫とは思えない機敏で獰猛な動きで戦車の中を暴れまわるお猫先輩に、搭乗者は大パニック。

 

戦車が自滅するまでお猫先輩は暴れ続け、操縦者が操縦不能になると自分でハッチから出てくる。

 

ひと仕事終えて満足そうなお猫先輩を叢真が回収し、次の獲物に狙いを定める。

 

これには歴女チームも「この外道があああああ!」と叫ぶが、叢真とお猫先輩は「勝てばよかろうなのだァァァァッ!!」「ぶなーッ!!」と笑うだけ。

 

勿論試合が終わったら軍神モードのみほちゃんに怒られて正座させられた、お猫先輩もごめん寝スタイルで謝罪するが許して貰えず。

 

大会規定に、相手戦車に猫を入れてはいけないって無いからつい…と供述する容疑者に、みほちゃんは笑顔で被害者チームにおやつをご馳走する事、お猫先輩に3日間おやつ禁止を言い渡した。

 

この事件により、ペット兼マスコットだったお猫先輩に最終兵器という立場が追加された。

 

なお、合体攻撃のお礼は叢真が買ってきた高級猫缶とチャオチュール3日分である。

 

味を占めたお猫先輩が、自分から戦車に乗り込んで暴れる事もあって、叢真は余計に怒られた。

 

勿論、必殺技時にはお猫先輩の安全は最大限に保たれ、危険はない。たぶん。

 

「長野ちゃんって時々凄くおバカというか、子供だよねぇ、まぁそこが可愛いんだけど」

 

「んなー」

 

会長の言葉にそれなと同意するかのように鳴くお猫先輩。

 

「まぁ近い内帰ってくるから。そしたらたくさん甘えないとねー」

 

ぽふぽふとお猫先輩の頭を優しく叩いて、その場を後にする会長。

 

入れ替わりに、ブラシを持った梓がやってきて、お猫先輩を抱き上げるとブラッシングを始める。

 

休憩になり、何人かがやってきてはブラッシングされるお猫先輩を撫でたりして梓と雑談する。

 

「全く、良い身分だなお猫」

 

そこへやってきたのは桃、饗されるお猫先輩に呆れ顔である。

 

「お前また太ったんじゃないか?今は戦車道で飼われているとは言え、少しは猫としての体面を保ったらどうだ」

 

そう言ってお猫先輩の脇に手を入れて持ち上げる桃、その瞬間お猫先輩の目が光り、勢いの乗ったチョッピングライトな猫パンチが炸裂。

 

「おぶっ!?」

 

「おっとっとぜよ」

 

突然の攻撃に頬を打ち抜かれた桃ちゃんが崩れ落ち、慌てておりょうがお猫先輩をキャッチする。

 

「な、なにをする貴様ぁ!?」

 

叩かれた頬を押さえて叫ぶ桃ちゃん、それに対してお猫先輩はおりょうの胸の中に埋まりながらふ…と鼻で笑った。気がする。

 

「なんで私にはいつも反抗的なんだ!?猫のくせに生意気だぞ!!」

 

「ま、まぁまぁ河嶋先輩…!」

 

「完璧に舐められてるね…」

 

「……河嶋先輩の立場が良く分かる…」

 

「ペットより下とは悲しいぜよ…」

 

喚く桃ちゃんを梓が宥める、そんな様子を見て苦笑するホシノと、呟くパゾ美。

 

お猫先輩を胸に抱きながら、哀れむおりょう。

 

お猫先輩の中でのヒエラルキーが良く分かる瞬間だった。

 

「本日の練習は終了!解散!」

 

『お疲れ様でしたー!』

 

ほっぺたに肉球マークの赤い跡を付けた桃ちゃんの号令で、本日の練習は終了。

 

戦車や備品を片付けたり、整備の為に移動させたりしてから、解散する履修生達。

 

居残り練習をする生徒や、整備の為に残る自動車部、これから練習に入るバレー部を除いて帰り支度をする面々。

 

倉庫の扉前で座るお猫先輩に声をかけてから帰っていくのを、尻尾を揺らして見送るお猫先輩。

 

「ほーれほれほれ~」

 

「ツチヤ、あんまり遊ぶのに夢中にならないでね」

 

整備の途中で手が空いたツチヤがお猫先輩用の玩具で遊び、それに付き合うお猫先輩。

 

なお桃ちゃんだと鼻で笑って無視する。

 

スズキの言葉にもうちょっとだけーと答えるツチヤに付き合って遊ぶお猫先輩。

 

やがていつも最後まで残る自動車部が片付けと戸締まりを行い、帰宅の準備に入る。

 

なお整備に夢中になって泊まり込む事もあり、2階の休憩室が仮眠室になる。

 

その時はお猫先輩も一緒に寝る。

 

だが今日は全員帰宅するので、夜はお猫先輩だけになる。

 

「また明日ねお猫先輩」

 

手を振って帰っていくナカジマ達を見送ると、お猫先輩は専用扉を通って倉庫の中へ。

 

非常灯だけが点いた倉庫内をするすると歩いて階段を登り、寝床にしている休憩室へ。

 

休憩室の隅にはお猫先輩用トイレ、机の上にはお猫先輩用の寝床と水、今晩のご飯が入ったお皿。

 

みほが帰り際に用意していったご飯である。

 

それを食べると、寝床に入って布団代わりのタオルをぐにぐにして寝心地を調整。

 

タオルは叢真が持ってきた物で、彼が使っていたバスタオルだ。

 

お中元に貰ったそこそこいい値段の物らしく、お猫先輩お気に入りの品である。

 

その上に丸まると、静かに目を閉じるお猫先輩。

 

鼻をぴすぴすさせながら、眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰幻人め、氏ねぇ!の場合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰女学園の、機甲科の校舎にある講堂。

 

戦車道履修生が集会や全体会議をする時に使われる広い場所である。

 

その場所で俺は、ノンアルコールビール片手に頬を引き攣らせていた。

 

「長野隊長ーー!飲んでますかーーー!?」

 

「の、飲んでる、飲んでるよ、うん…」

 

「ぐいっとイッちゃって下さいよぉ、長野隊長のいいところみてみたーい!」

 

ビールジョッキ片手にハイテンションな生徒達に囲まれている俺。

 

やだ、テンションがおっさん。

 

黒森峰女学院の学園艦では、自前の工場を持っており、そこで生産科という大洗で言う栄養科の生徒がノンアルコールビールを作っている。

 

黒森峰の黄金という名前で売られており、ノンアルコールビールながらかなりの売上らしい。

 

生徒達も愛飲しているらしく、校舎の自販機には必ずノンアルコールビールが売られているとか。

 

流石ドイツ風、徹底している。

 

用意された料理もソーセージなどを代表にドイツ料理が多い。

 

そのためか、花の女子高生の宴会が、おっさんの懇親会のような姿になっている。

 

ノンアルコールビールをがぶ飲みする女子高生…何故だろう、涙が出そうになる。

 

「長野隊長ぉ~、私のソーセージ食べて下さいよぉ~、あちゅあちゅでとろとろですよぉー」

 

「あーん、私のも、私のカッチカチでギンギンなソーセージ食べて下さいぃー」

 

「ワザとか!?ワザとなのかその台詞!?熱いっ、頬に押し付けるな熱い!?」

 

意味深な台詞と共に左右から巨大なソーセージを差し出してくる生徒達、熱い熱い、だちょうクラブのネタじゃないんだからやめい!

 

ハイテンションな生徒達…俺が指揮した紅組の生徒が去ると、今度は白組の生徒がやってくる。

 

「長野さん、奇策を行う上で大事な事はなんでしょうか」

 

「奇策や搦め手が大事なことは理解したんですが、それに集中しないといけないのでしょうか…」

 

「いやいや、奇策や搦め手だけで勝負しろって事じゃないんだ。奇策や搦め手を知り、自分で使える様になれば、いざ相手に使われた時に対処がしやすい、対応が思い付きやすい。そういう意味で、黒森峰でも奇策や搦め手を学んで、柔軟性を高め、同時にネックである機動性も確保していこうっていうのがまほさんの考えなんだよ」

 

今度は真面目な質問をしてくる白組の生徒、負けた事で学ぶべき事があると感じてくれたのだろう。

 

まほさんの描いている計画は、今の黒森峰の強みを保持したまま、各車長の柔軟性と全体の機動力の向上を目指していると俺は理解している。

 

黒森峰が得意とする整然と隊列を組んでの電撃戦、それを主軸にしつつ、機動力を高める事も考えている。

 

これまでの黒森峰の主力はティーガーやパンター、そしてヤークト系やエレファントなどの重戦車。

 

強力な火力と装甲で真正面から相手を迎撃して火力で制圧するスタイルだ。

 

これにまともにやり合える相手なんて、同じく重戦車を多数保有するプラウダくらい、サンダースも正面からの撃ち合いは避ける。

 

その為これまでは正面から叩き潰せたのだが、搦め手に弱い事が発覚。

 

プラウダが勝った大会も、カチューシャの作戦によりみほちゃん達フラッグ車が本隊から分断されて山岳地帯に追い込まれた事が敗因の1つだ。

 

まほさんは、その窮地でもみほちゃんなら切り抜けられると判断してフラッグ車を任せたのだが、あの事故で対応が出来ずに撃破された。

 

この事からも、黒森峰全体での柔軟性の無さ、生徒1人1人の指示待ち人間化が深刻であると分かる。

 

おまけに機動力がない事も弱点となってきた、相手に全力で逃げられるとなかなか追撃が出来ないのだ。

 

全国大会が良い例だろう、何度も追い詰めているのにその都度逃げられている。

 

速度に難がある重戦車や、足回りが弱いドイツ戦車が主体なのが仇になった形だ。

 

そのため、逃げ回って罠に嵌めてくる相手に弱い、それが黒森峰の弱点。

 

そういう戦いが得意な大洗や継続に負けたり追い詰められたりしているのがその証拠である。

 

そのために、機動力の高いⅢ号戦車や軽戦車の使用も選択に上がっており、低下する火力を奇策と搦め手で補う。

 

紅組が行った、Ⅲ号戦車での奇襲・撹乱・偵察・罠の準備など、全て火力を補って相手を倒す為の方法である。

 

この辺りを実例を出しながら説明すると、なるほどと頷く生徒達。

 

「つまり我々に、臨機応変な判断力をつける為の、奇策や搦め手の勉強が必要という事ですね…」

 

「今まで、隊長に指示に従う事が大前提で練習してきたものね…」

 

「それが悪いとは言わない、命令に忠実である事は全体指揮の立場から言えばこの上なくやりやすい。だが、車長までその状態だと隊長にかかる負担まで増えてしまう。突発的な事態に対応出来る人間が少なければ、それだけ相手につけ入る隙を与える事になる」

 

その辺りを考えての、みほちゃんの副隊長抜擢だったのだろう。

 

西住流を知りながら、西住流とは違う才覚を持つみほちゃん。

 

彼女なら、黒森峰の足りない部分を補ってくれると思っていたからまほさんは副隊長に抜擢した。

 

だがみほちゃんは黒森峰を去った。

 

ではどうするか。

 

逸見さんを鍛えて彼女に託す。

 

全国大会や今回の紅白戦でもそうだが、彼女だけは他の車長達と違って独自の対応や判断を下せている。

 

副隊長という立場もあるが、咄嗟の判断力や対応力は申し分ない。

 

彼女のティーガーⅡが怖いので山岳地帯に誘い込んで、弱点である足回りを刺激する方法で逃げたのだが、彼女はそれを看破してその場に留まってこちらの戦力を削る事を選択した。

 

赤星さんの機転と1年生達の必死の行動で撃破されたが、それが無ければこちらは2両失っていただろう。

 

みほちゃんが逸見さんは凄いと褒めていたが、確かにみほちゃんが認めるだけの実力がある。

 

後は自信と自分のやり方を確立させたら…化けるだろうなぁ…おぉ怖い怖い。

 

彼女が隊長になって、赤星さん辺りが副隊長に……うわぁ、来年が大変だぞこれ。

 

「なるほど、そこまで考えての改革なのですね…勉強になります」

 

「来年で卒業なのが惜しいです、もっとこの改革に携わりたかった…」

 

俺の説明で納得してくれたのか、深く頷いたり自分の立場を嘆いたり…あぁ、3年生か…。

 

しかし俺の周りにビールジョッキ片手に集まって正座して説明聞いてと…これじゃ懇親会とか会社の飲み会の上司が部下にやる説教みたいじゃないか…。

 

いや、俺経験ないけど。何度か黒歴史時代に連盟とかスポンサーの懇談会に呼ばれた経験ならあるけど。

 

勿論お酒は飲んでないけど、お酒に酔ったおっさんおばさんに囲まれて大変だった。

 

そんな感じだぞ今…皆さん女子高生ですよね?花の乙女ですよね?

 

もっとこう、アンツィオみたい…なのは無理だとして、大洗とかサンダースみたいな女子高生らしい打ち上げしないの?

 

ほら、趣味とか食べ物の事とか、アイドルとかドラマとか歌とかのエンタメ、写真撮ったりパーティーゲームしたりさ。

 

どこの席も今日の紅白戦の感想とか、改革の事とか、まほさんの事とか、戦車道の事しか話してないよ?

 

話しかしてないよ?パーティーゲームとかイベントとかやってないよ?

 

本当に女子高生のパーティーなのこれ?

 

大洗なら隠し芸大会とかカラオケ大会とか始まるんだよ?

 

聖グロだとダージリンの格言披露とかアッサムさんのブラックジョークとかルクリリ3分クッキングとか始まるんだよ?

 

サンダースならダンスとかゲーム大会が行われるし、アンツィオだともう大騒ぎだよ?

 

プラウダは…あそこも真面目だからなぁ…でも結構女子高生らしい姿で遊んだりしてるし…。

 

継続?あそこは…何故かサウナ我慢大会とか雪中我慢大会とか始めるんだよな、なんだろうあのノリ…。

 

でも、今の黒森峰の、年寄りの懇親会みたいな空気よりは遥かにマシな女子高生のイベントだ。

 

「皆さんは、もっとこう、パーティーゲームしたり、カラオケとか特技を披露したりとかしないんですか?」

 

「パーティー…ゲーム…?」

 

「カラオケ…やったことがないです…」

 

「特技……砲弾の装填とかですか?」

 

マジか。

 

マジなのか黒森峰。

 

駄目だろ…これはちょっと駄目だろう…花の女子高生だぞ。

 

青春真っ盛りの乙女だぞ。

 

どこの軍隊だよ、自衛隊だってもっと青春してるぞ。

 

いや自衛隊は比べちゃ駄目か、あそこ下手な場所だとオタクの巣窟らしいから…(母談

 

「そもそもこういった打ち上げパーティーとかも、つい最近から始めたんですよ」

 

「それまでは反省会をやって終了って感じで…」

 

「西住隊長が、大洗を参考にって言って、ノンアルコールビール祭りとか始めたんですけどね…」

 

oh…。

 

軍隊っぽいとは思っていたけど、ここまでとは…。

 

確か黒森峰は中等部からの進学が大半。

 

きっと中等部からこういった生活してるんだろうな…みほちゃんがよく「普通の女子高生みたい!」って武部さん達と遊んだりイベントやったりする度に喜ぶから気になっていたけど…。

 

闇が深すぎるだろう黒森峰…。

 

『盛り上がっている所悪いが、これよりカラオケ大会を行う。探してみたらカラオケセットがあったので皆で順番に歌おう』

 

マイク片手に宣言するまほさん。

 

逸見さんがカラオケの機械を押してきて、赤星さんが配線を繋いだりしている。

 

よく有ったなカラオケセット…黒森峰でカラオケセットとか凄い違和感を覚える…。

 

そしてカラオケ大会が始まるのに、生徒達の反応は「オー」とか「カラオケかぁ…」という控えめな物。

 

おかしい、カラオケ大会だぞ、普通はアンツィオみたいに「わああああ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!」と大騒ぎしてアンチョビが1番に歌わされたり、サンダースみたいに「ヒャッハー!」と叫んでマイクの取り合いになったり。

 

大洗でもリモコンの取り合いになって、ジャンケンに勝ったチームから順番に曲を入れたりするんだぞ。

 

プラウダ?先ずカチューシャの曲を全員で歌います。当然マイクはノンナさんが持ちます。

 

継続?継続にカラオケセットがあるとでも…?

 

『ではここは私から行こう。だが私も最近の曲は知らないので…』

 

そう言って選曲するまほさん。

 

画面に表示されたのは『黒森峰女学園校歌』

 

それで良いのかまほさん!?

 

『皆も好きに入れてくれ』

 

リモコンを手渡すまほさん、受け取った逸見さんは悲痛な表情で画面を操作し…『黒森峰女学園校歌』

 

君もか、君もなのか逸見さん!

 

続く人もネタなのか本気なのか、入力されるのは『黒森峰女学園校歌』

 

プラウダより酷い。

 

流石にこの事態にハイライトがオフになるまほさんと、沈む入力者達。

 

赤星さんがオロオロしている。

 

俺?見てられなくて顔を覆ってしまったよハハハ…笑えないよノッブ…。

 

順番に歌い、最後の人が歌い切ると、拍手こそされるが講堂内の空気は非常に暗い。

 

助けてみほちゃん、空気が重くて死にそうなの…。

 

流行りの歌を歌える生徒が1人も居ないとかありえないだろ、1人くらい居るだろ、あぁでもこの空気じゃ歌えないよねうん分かる。

 

その辺まだ黒森峰カラーが薄そうな1年生を見てみる。

 

折り重なって寝ているかビールジョッキ片手にケラケラ笑っている。

 

駄目だあの1年生達役に立たない、と言うか本当にあれノンアルコールビールか?本物混ざってるんじゃないのか!?顔真っ赤だぞオイ!

 

『そうだ、実は叢真は歌手活動もしていた事もあるプロだ、是非歌声を皆で聞こう』

 

唐突にそんな事を言い出すまほさん、やだここに来て俺へのキラーパス!?

 

「どうそ長野さん……貴方だけが頼りです」

 

マイクを持ってきた逸見さん、この空気を打破できるのは俺だけだと涙目で頼まれてしまった。

 

やだ、あの逸見さんが心折れかかってる…。

 

「順番に入れておきますね」

 

笑顔で俺の曲をリモコンで次々に入れる赤星さん、なんで俺の歌を全部知ってるの…。

 

と言うかよく入ってたな俺の曲…ジャンル的には戦車道応援歌だから入ってないカラオケも多いのに。

 

アップテンポのデビュー曲、バラードのセカンド、アニソン感丸出しのサード。

 

この地獄のような重い雰囲気の中で歌うとか拷問なんですけど…。

 

「すまない叢真、お前だけが頼りなんだ…」

 

やめてそんな捨てられた子犬みたいな目で見ないでまほさん。

 

わかったよ、歌えば良いんでしょ歌えば!

 

「えー、では、聞いて下さい、『パンツァーダイブ』」

 

ギターの主旋律が激しいアップテンポのバンド系サウンド、歌詞は戦車をモチーフにした物。

 

よくこの歌でオリコンチャート3位に入ったよな、戦車道応援歌なのに。

 

物珍しさからか、それとも作詞作曲した人の効果か。

 

最初は面食らっている様子だったが、1年生を筆頭に声を出して腕を振り始め、やがて2年生3年生と広がっていく。

 

ギターソロに入る頃には大多数が手を振り上げていた。

 

良かった、誰でもノリやすいアップテンポな曲で。

 

1曲目が終わると拍手が来る、良かったウケたようだ。

 

そのまま2曲目のバラードへ。

 

こちらはしっとりとした戦車道への愛を歌った曲、俺自身愛なんて全く分からないが、兎に角誰かへの気持ちを込めて歌う。

 

静かな曲だが、やはり1年生達が手拍子を入れてくれる、君達実は歌えたよね?流行りの曲とか知ってるよね?

 

あれか?まほさんとかレギュラー陣に恥かかせないように名乗り出なかったのかな?

 

そして3曲目、こちらは激しいギターにバイオリンや管楽器などが入ったアニソン感がとても強い曲。

 

当たり前である、作詞作曲がかの有名なアニソン界のスーパーユニットが担当しているのだから。

 

ユニットの1人が戦車道のファンで、コラボとして楽曲提供された歌だ。

 

なんでアイドルモドキの俺にそんな話が回ってきたのか、今でも不思議である。

 

ただあのユニットの歌だけあって、キーは高いわシャウトは激しいわ歌詞は熱いわで大変である。

 

なお阪口が大興奮する曲でもある。

 

「「「「「砲身を燃やせ!フー!」」」」」

 

コーラスの歌詞を叫ぶ生徒が多数、知ってる人が多いのかノッてくれて助かる。

 

大多数の生徒は1曲目2曲目と印象がガラリと代わって面食らっている人が多いが。

 

歌い切ると最初より大きな拍手、頭に血が上りやすい選手が多いだけに、こういう熱血ソングが地味にウケる。

 

大洗でも宴会の時にウケた。

 

「良い歌声だったぞ叢真…この調子で頼む」

 

「え”」

 

「はいどうそ、長野さん」

 

まほさんに肩を叩かれ、赤星さんにリモコンを渡される。

 

あの、俺の持ち歌もう無いんですけど…まだ歌えと?

 

「……………」

 

救いを求めて視線を逸見さんに向けるが、冷や汗流しながら逸らされる。

 

生徒達に視線を向けると、大多数がワクワクドキドキ、少数がねっとりとした視線を向けてくる。

 

後者の視線は、あれだ、アマレットとかサンダースの子が向けてくる視線だ、これの上位がカルパッチョの視線になる。

 

逃げられませんねぇこれは…。

 

俺は無言でリモコンを受け取り、覚えている限りの歌を入力していく。

 

舐めるなよ、こちとら伊達に阪口とアニソンメドレー勝負や宇津木と恋愛ソング勝負、エルヴィンやカエサルと洋楽勝負してないんだからな!

 

俺の好きな曲、Take My Handや~Outgrow~、IMAGINARY LIKE THE JUSTICEやニブンノイチにwimp ft. Lil' Fangなどを入力。

 

更に阪口厳選のアニソンと宇津木が骨抜きになった恋愛ソング、そしてエルヴィン達が鼻血を噴いた洋楽を入力。

 

HAHAHA、もう小っ恥ずかしい演説かました後だからな、失う物など何も無いさ!

 

半ば自棄になって曲を入れていたら、横から手が伸びてきてリモコンを操作された。

 

「是非歌って下さい♪」

 

笑顔の赤星さんが入力したのはJINGO JUNGLEという曲…。

 

阪口が歌ってた曲だけど、これ女性曲…。

 

「歌えますよね?お願いします♪」

 

ア、ハイ。

 

一通り入力が終わったので1曲目スタート。

 

喉が枯れるまで歌ってやろうじゃねぇか野郎オブクラッシャー!!(精神崩壊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歌い過ぎたし飲み過ぎた…」

 

何曲歌ったんだ俺は…喉が乾く度にジュースやノンアルコールビールを口にしたから催してしまった。

 

あの後赤星さんや1年生から次々リクエストが入って延々歌わされたし…。

 

しかも女性曲が多かった、キー高くて辛いねん…。

 

逸見さんもこっそり入力してたし…大洗でカラオケ行って無ければ危なかったな…。

 

歌は嫌いじゃない、前世の入院生活で病室で出来る事は卓上競技と歌位だったから。

 

ギターの上手なお兄さんが同室になった時に、その人が退院するまでギターや歌を教えてもらった。

 

それが楽しくて、個室に移ってからは暇さえあれば歌うかギターを奏でるか、歌の勉強をするか。

 

だから連盟から歌の仕事を依頼された時は、結構乗り気だった。

 

試合を見に来た人達の前で前座として歌った時は、恥ずかしくて死にそうだったけどな!

 

カラオケとかで歌うのは良いんだよ、良いストレス発散になるし。

 

でもライブとかで歌う時は踊りとか振り付けとかしないとだし、衣装が恥ずかしいし…。

 

レコーディングとかは楽しかったんだけどね。

 

「絶対自分達で歌えただろ赤星さんとか…」

 

流行り曲とか普通に入力してたし。

 

と言うか入力が手慣れてたし。

 

まぁ最後はテンション上がって踊ったりしちゃったけど…。

 

俺も酔ってたのかな…ノンアルコールの筈なんだけどなぁ。

 

雰囲気酔いって奴だろうか。

 

まほさんのリクエストで歌った、お見合いの時に遊んだ公園で口ずさんだ歌、あの日のタイムマシンを口遊みながらトイレへ向かう。

 

何処もそうだけど女子校だから男子用トイレが遠いし少ない。

 

大洗は一応増やしたけど、男子が在籍してる普通科だけだ。

 

他の学科はトイレが職員用の場所しかない。

 

大洗の戦車倉庫脇のトイレは男女あって助かっている。

 

困るのが聖グロだ、校舎の外観と内装の関係か男子用トイレが職員室の側にしか無い。

 

なのに紅茶をガンガン飲ませる。トイレから離れた紅茶の園で。

 

何度トイレダッシュをした事か…。

 

他の学校は、ペパロニとかケイさんは気にせず女子トイレを使えと言うが、そんな事は出来ない。

 

誰かに鉢合わせしたら俺は舌を噛み切って死ぬ。

 

まぁアンツィオは観光客対策で男女別トイレが多いから良いんだけどね。

 

プラウダではカチューシャが隊長専用トイレがあるから使えと言うが、ノンナさんの視線が怖かったので遠慮した。

 

舌打ちされたのはどっちの理由でなのだろう、思い出すだけで背筋が怖い。

 

継続?男女共用トイレが多いんだよね、経費削減なのか謎だが。

 

まぁ女子しか居ないから別に良いんだろうけど。

 

「お、あったあった」

 

辿り着いた男子用トイレ。

 

1階の下駄箱近くにある男子トイレに入る。

 

この先に機甲科の職員室があるらしく、教師用なのだろう。

 

しかし生徒が居ないから暗い、節電なのだろうけど廊下も非常灯しか点いてない。

 

まぁ選手は殆ど講堂だし、もう遅い時間だから帰宅してる生徒が殆どだろう。

 

明かりを付けてトイレを使わせてもらう、流石名門校、トイレも綺麗と言うか自動の奴だ。

 

大洗は押して流すタイプである、サンダースは自動、この辺りに学園艦の貧富の差が出る。

 

「個室は全部洋式温水便座か…羨ましい」

 

大洗の戦車倉庫横は和式なんだよなぁ…。

 

祖父は男なら和式だとか言うけど、温水便座に慣れたらそんな事言えなくなる。

 

用を足して水道で手を念入りに洗う、異性と触れ合う立場なので身嗜みやエチケットには気を使っている。

 

汗臭いとか言われない様に制汗スプレーとか纏め買いしたよ。

 

洗濯も毎日するし、身体も念入りに洗う。

 

コロンとか香水とかその辺は分からないので手を出してないが。

 

そう言えばダージリンに香水、ケイさんにコロン貰ったっけ…勿体なくて使ってないけど。

 

「ん……?停電か?」

 

突然明かりが消えたので天井を見上げる、天井のダウンライトが完全に消えていた。

 

トイレにダウンライトとかお洒落だなと思いながら視線を前に戻したら、鏡には薄暗い中に映る俺。

 

そして、その背後で笑う赤星さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………赤星さん!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動かないで下さい」

 

俺が行動するよりも早く彼女は俺に近づいて、背中に何か…ゴリっと、硬いものを押し当ててきた。

 

え…なにこの冷たくて硬い感触。

 

「手を上げて…これからする質問に正直に答えてください。さもないと…」

 

背中に突きつけた何かをグリグリと押し付けてくる。

 

え……そんな、軍隊っぽいと思ってたけど、黒森峰って、そんな物も手に入るの?

 

俺の背中に突き刺さってるのって、銃口ぅ…ですかねぇ…。

 

とりあえず大人しく両手を上げる。

 

「あ、赤星さん、なんで…」

 

「質問するのは私ですよ?長野さん」

 

そう言って俺の肩に頬を寄せる赤星さん、鏡に映る表情は笑顔なのだが、うっすら開いた眼光はハイライトさんがお留守。

 

やべぇよ…やべぇよ…。

 

「長野さん、みほさんとは大洗で大変仲良くしているそうですね?」

 

「は、はい…仲良くさせて頂いております…」

 

「ありがとうございます、私…ずっと心配だったんです、みほさんが見知らぬ土地で一人ぼっちで苦労しているんじゃないか、寂しい思いをしているんじゃないかって…ずっとずっと」

 

そう言って視線を伏せる赤星さん。

 

みほちゃんが黒森峰を去る原因になってしまったからか、ずっと気に病んでいたのだろうな。

 

仲が良い友人だっただけに、余計にだろう。

 

でもなんで、それで俺が銃口突き付けられる事になるのか、コレガワカラナイ。

 

「でもみほさんは戦車道に復帰してくれて、大洗でたくさんの人に囲まれて凄く幸せそうで…悔しいけど、安心したんです」

 

彼女が言う通り、みほちゃんは戦車道の仲間や、武部さん達親友に囲まれて幸せに暮らしている。

 

自分の戦車道を見つけ、自分の足で歩き出している。

 

その姿に、赤星さんは感じるものがあったのだろう。

 

「でも1つ、どうしても気になる事があるんです……長野さん?みほさんと…大変仲がよろしいんですね?」

 

「ふ、普通じゃないかな、と思うんだけど…」

 

そんな念押しされる程じゃないと思います、はい。

 

「帰り道で手を繋いだり、夕飯を一緒したり、休日に一緒に出掛けたりしているのに…普通ですか?」

 

「そ、それは、その…!」

 

ゴリゴリと銃口を押し付けられた、痛い痛い。

 

と言うかなんで知ってるんですかね赤星=サン…。

 

「私、大会後からみほさんとよく連絡を取り合ってるんですよ。その中で、高頻度で長野さんの事が出てくるんです…今日は長野さんと2人で帰って、手を繋いじゃったとか、長野さんと食べた夕食が美味しかったとか、一緒にお出かけしてボコのぬいぐるみを買って貰って、これデートかなと聞かれたり……仲がよろしいんですねぇ…」

 

「いだだだだだ!」

 

ゴリゴリはやめてそこ内蔵だから痛い痛い痛い!

 

「でもそれは良いんです、みほさんが幸せそうなんですから、むしろ喜ばしい事です…」

 

あ、そうなの?それじゃ何が理由でこんな事を…?

 

「ですが。長野さん……隊長の婚約者ってどういう事ですか?」

 

そっちかー、そっちの方かー!

 

「そ、それはですね…」

 

「みほさんと良い仲なのに、隊長とは婚約者……二股ですか?」

 

「違います違います!」

 

決してそんなのじゃありません!

 

と言うかそもそも付き合ってません!

 

「婚約者が居るのにみほさんに手を出したんですか…?」

 

「出してません!?そもそもまほさんとの婚約云々も、まほさんのお母さんが勝手に決めた事なんです!」

 

誤解を解くには正直に話すのが1番、別に隠す事でもないし、黒森峰に来たのもまほさんとの話し合いが理由だし。

 

「つまり、隊長の意思ではないと?隊長は凄く嬉しそうでしたけど…」

 

「こ、好意を持たれてるのは理解してます、けど俺の方はそれに応えられる状態じゃないし、やっぱり婚約者とか双方の理解と了解があって成立するものだと思うんですよね!俺もつい最近聞いて驚いた所なんですよ、いや本当に!」

 

「………怪しいですね、特に早口になる所が」

 

正直に話したら逆に疑われたでござる。

 

早口になるのは俺の焦った時の癖なんです、違うんです誤解なんです。

 

「神に誓って、俺からまほさんに手を出したとか婚約を申し込んだとかじゃないです!勿論みほちゃんにも手を出したりはしてません!」

 

「は?みほさんに手を出さないとか何考えてるんですか?」

 

「えぇ…」

 

潔白を証明しようとしたら逆に怒られたでござる。

 

普通みほちゃんに悪い虫が付こうとしてるから怒る所じゃないの!?

 

「では、本当に隊長とは深い関係ではないと…?」

 

「こ、今回の訪問で時間を作って、婚約者云々の話を解決しようと思ってました」

 

既に母親であるしほさんには了解をとって、まほさんが少しでも嫌だと思っているなら婚約者云々は無かった事にすると言質は取ってある。

 

その事を説明したら、赤星さんのハイライトが戻ってくれた。

 

「分かりました、信じましょう…ですが」

 

「な、なんでしょう…?」

 

グイッと背中に張り付かれ、銃口の感触の上に柔らかい感触が。

 

そして首筋には赤星さんの顔が。髪の毛がこそばゆい。

 

「もし……みほさんを不幸にしたら……」

 

「はうっ!?」

 

赤星さんの手が、手が、俺の…俺の股の間に…!?

 

ガッチリ掴まれた。

 

「長野さんの長砲身……とっちゃいますからね♪」

 

「ヒギィッ!?」

 

甘い声で囁かれた物騒な言葉に、背筋が凍る。

 

それと同時に、ぐにゅっと鷲掴みにされて色々と竦む。

 

「それでは失礼しました…先に講堂に戻ってますね」

 

笑顔を浮かべてその場を後にする赤星さん、手には黒光りするルガーみたいなの。

 

彼女がトイレから出ていくと明かりが点いた。

 

「…………トイレ行った後で良かった……」

 

漏らすかと思った。

 

まほさんと真摯に話し合おう…うん、絶対に話し合おう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとはしたなかったかな…でも、みほさんの為だし」

 

月明かりが照らす廊下で、赤くなった頬を押さえながら呟く赤星。

 

その手にあるのはルガーP08。

 

「でも意外とバレないものなんですね…」

 

そう言って引き金を引くと、カチャンという音と共に銃口から黒い物体が彼女の左手にコロリと出てくる。

 

「ん、美味しい♪」

 

それを口に入れると、もぐもぐと咀嚼する赤星。

 

なんとこれ、拳銃型のチョコボールケースである。

 

時々売られている玩具で、拳銃型のタイプ。

 

しかも無駄に作りが良い奴で、引き金を引くと銃口からチョコボールが出てくる。

 

黒森峰の雑貨店で売られているなんちゃってグッズである。

 

「みほさん、喜んでくれるかしら…ふふ♪」

 

遠い場所に居る友人にして恩人の姿を月に重ねながら微笑む赤星。

 

彼女の表情には、一切の後悔はない。

 

みほの為、その言葉の前には倫理や常識なんて塵に消えるのだ。

 

「みほさんと長野さんの結婚式の時に、友人代表でスピーチしたいなぁ…」

 

そう言って微笑む彼女を、月だけが静かに見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めて触ったけど……大きかった…長野さんの長砲身……(///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




OPの謎猫登場と生活、主人公の羞恥絶唱シンフォギアーッ!、小梅ちゃんの本気(ガチ)の3本をお送りしました(´・ω・`)





え、用意したティッシュの使い道?(´・ω・`)



鼻をかむのよ、らんらんは賢いから知ってるわ(´・ω・`)







歌詞は駄目だけど曲名ならセーフなのよね?らんらんちょっと心配(´・ω・`)

出てきた歌はらんらんが執筆中に聞いてる好きな歌の中の一部なの、オススメ(´・ω・`)


書かれた歌で知ってる、同じくちゅきって人にはらんらんの愛をあげるわうっふん(´・ω・`)



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。