ふああああああああああ!!(´・ω・`)
らんらんがオネェだって?とんでもねぇわたしゃらんらんだよ(´・ω・`)
「全く、島田流家元にも困ったものだな…」
「筋金入りの長野くんファンですからね…仕方がないかと」
戦車道連盟本部の理事長室で、扇子を仰ぎながらため息をつくのは、戦車道連盟本部の理事長。
恰幅のいい中年男性である。
そんな理事長の言葉に苦笑するのは、連盟役員である蝶野教官。
2人が話題に出しているのは、昨日の会合での島田流家元の暴走。
ぽんこつちよきち大妄想の事である。
「そもそも、彼女は会合に呼んでないんだけどなぁ…」
「流石島田流ですね、耳が早い」
そう、昨日の会合、仮面ライダーパンツァー人気の結果、スピンオフ作品制作が決定し、その相談と予算案の為に開かれた。
通常は制作側が主導で進めるのだが、仮面ライダーパンツァーは戦車道連盟がスポンサーになって誕生した戦車道のキャンペーンキャラクターでもある。
利権も戦車道連盟が持っている珍しい仮面ライダーなのだ。
そのスピンオフ作品という事で、当然話は連盟に。
連盟側も戦車道の話題作りになるし、演者である長野叢真のアイドル活動の一環にもなる。
その代りまたお金を出す事になるが、作品の売上やグッズの売上が入ってくるので問題にならない。
因みに完全限定生産であるパンツァーの変身ベルトは予定数の予約が埋まった状態である。
桂利奈ちゃんは予約出来なくて泣いてイジケてふて寝した。
まぁそんなパンツァーのスピンオフ作品制作会合に、何故か呼んでない島田流家元ことちよきちが参加表明。
彼女の参加に嫌な予感を覚えた理事長は、蝶野教官に命じて島田流家元に対抗できる存在…西住しほを参加させた。
芸能関係に疎く、キャンペーンとかも全然興味がない無骨なしほは最初参加を断ったのだが、蝶野教官に長野叢真の主演作品である事、島田流家元が強引に参加してきた事を聞いたら即断で受けてくれた上にヘリで駆け付けてくれた。
結果は理事長の判断GJであり、ちよきちの欲望全開の提案を正論で却下してくれた。
連盟本部理事長とはいえ、彼の立場は地味に弱い。
家元という立場であるちよきちに押されたら断るのが難しいのだ。
「まぁこれで無事に制作が決定したし、後は長野君の出演交渉だけかな」
「受けてくれますかね、まだ彼には月刊戦車道の特集すら承諾して貰ってないのですが…」
「大丈夫だろう、撮影してた時は結構楽しそうだと報告を受けているし。今度はちゃんと出演料も払うから」
前回の時は叢真の希望もあって現物支給だった。
今回は主演という事もあり、ちゃんと出演料を支払うと意気込む理事長。
それなりに叢真と親しい蝶野教官は、あの異様に恥ずかしがり屋になってしまった叢真がまた受けてくれるかしら…と危惧しているが。
「しかし、本人の承諾無しにアイドル活動復活に向かわせるのは…」
「それは勿論考慮しているよ、無理強いをするつもりはない。見返りはちゃんと用意するし、バックアップも万全にする」
「………あの事件があったからですか?」
蝶野教官の言葉に、視線を伏せて、扇子を閉じる理事長。
手にしていたカンカン帽を被ると、深くため息をついて窓の外を見る。
「連盟としても1人の大人としても申し訳がたたない事件だったよ…まさか彼を追い詰めていた犯人が、身内に居たなんてね…」
「単独犯ではなく複数犯…しかも理由が逆恨みによる怨恨…長野くんが戦車道から完全に離れなかったのが奇跡ですね」
「彼を引き止めてくれた学校の生徒には感謝するしかないよ、彼が受けた傷は肉体的にも精神的に酷いものだ」
空を見上げながら思い出す、現場に駆けつけた時の、叢真の姿を。
刃物で切り裂かれ、血を流しながら絶望に沈み、壊れた人形のようになって……犯人を半殺しにしていた姿を。
幸い傷は痕が残らなかったが、犯人につけられた心の傷はそうはいかなかった。
軽度とはいえ対人恐怖症を発症し、戦車道から逃げた叢真。
そんな彼を守ってくれた学校、特にサンダースとアンツィオの隊長には感謝してもしきれない。
叢真を守る為に情報規制したり彼の意思を尊重して、彼の所在を探ろうとする勢力を抑え込んだり…島田流とか。
1番大変だったのが、殺されそうだった叢真が反撃したのを、過剰防衛だとして訴えようとした女性利権団体だが。
そこは各流派、特に西住流と島田流が珍しく手を組んで撃退してくれた。
まぁ島田流は見返りに叢真の所在を聞いてきたが。安定の島田流である。
「そんな長野君が戦車道に復帰して、連盟からのお願いも聞いてくれる……これはもう一度アイドルとして活躍して貰わないと!勿論安全には最大限に考慮して!」
ザッバーンと波を背負って気合を入れる理事長。
なんでそうなる、という言葉を飲み込む蝶野教官。
理事長の考えも分かるからだ、日本での戦車道は低迷中、2年後の世界大会誘致やプロリーグ発足、そして深刻な戦車道関係者の喪女化。
もう一度叢真にアイドルとして活動して貰って戦車道を盛り上げて、戦車道に興味を持つ男子を増やし、喪女化を解消する計画。
先ず西住流による女子力低下をどうにかする方が先だと思われるが。
流石の理事長も、戦車道筆頭流派である西住流がそんな事になっているとは知らないから仕方ないか。
そう上手く行くかしら…長野くんも大変ね…と苦笑して、肩を竦める蝶野教官。
叢真が知らない所で、色々と大変な計画が進行しているのだった。
ショートコーナー、今日の大洗~大洗男子高校生の日常~
「よっしゃぁぁぁ!気合入れていくぞお前ら!」
暑苦しい声が響く、大洗学園の運動場。
ここは戦車倉庫前の運動場ではなく、体育の授業とソフトボール部が使う野球のコートがある方の運動場である。
近くには体育館もある。
その運動場で、1人気合の声をあげる男子。
周りの男子はまた始まった…と言いたげな雰囲気である。
「気合入ってるね~原田くん」
「当たり前だろ斎藤、お前今がどんな時間か分かってるのか!?」
大洗の最恐生物、歩く性欲、ドスケベショタ、微笑みのエロリスト、斎藤くんの言葉にくわっと目を見開いて叫ぶ、原田と呼ばれた男子。
見た目通りの熱血高校生である。
別名暑苦しい勘違い野郎。
自分をイケメンだと信じている思春期真っ盛りの2年生である。
「どんなって、全学年合同体育の時間だよ?」
「そう!3年生から1年生までの生徒が集まっての合同体育!2時間も続く体育の時間!男子は2年と1年しか男子いないけど!その時間、男子は集まって野球、女子は体育館で卓球とかバスケとかバレーとか!」
ズビシと体育館の方を指差す原田、その先には体育館の中で楽しそうに卓球とバスケに興じる女子高生の瑞々しい姿。
なおバレーはバレー部が大興奮で大暴れするので、ドン引きして参加者が居なくて今もバレー部が泣きながら参加者を集めている。
そして競技の面積が限られるので、体育館から出てきて運動場を囲むように出来ている小さな傾斜に、座って男子の野球を眺める女子も多い。
「今こそ!長野が居ない今こそ!俺がスポーツ万能のイケメンであると証明するチャンス!」
「長野くん居ないのにどうして証明できるの」
斎藤の正論、だが原田は聞かない、都合の悪いことはシャットアウトする。
「見ろ!あの五十鈴さんが!俺の五十鈴さんが俺の事を見ている!今がチャンスなのだ!!」
「たぶん見てないし、五十鈴さん原田くんのじゃないから言わない方がいいよ、痛いから」
変態性欲テロリストに正論を言われる原田、別名熱血バカ。
原田が指さした先には、斜面に座っている華の姿が。
その膝の上には麻子が寝ている。
大洗学園はそこそこ規模が大きいので、生徒数が多く、こうして合同授業をしないと中々カリキュラムを消化出来ないのだ。
特に体育、校庭と体育館を使う都合上、合同授業にしないと場所の取り合いになる。
「華さん、何見てるの?」
「みほさん、ほらあそこ、あの雲。なんだかアイスみたいじゃありません?」
麻子を撫でながらどこかを見つめていた華に、みほが近づいてきて声をかける。
すると五十鈴は視線の先の原田…ではなく、その遥か向こう、青空に浮かぶ雲を指差す。
「あ~、確かに、3段重ねのアイスみたい~」
「美味しそうですよねぇ、今日の帰りはアイスにしましょうか」
「むにゃ…アイス……たべる…」
みほの感想、雲の中に、3段重ねになったアイスのような雲が浮かんでいた。
練習終わりのオヤツを決める華と、夢の中でもアイスを食べたがる麻子。
苦笑してみほも隣に座り、一緒に空を眺める。
悲しいことに、誰も原田を見ていない。
男子を応援している女子も居るが、誰1人原田の名前を呼ばない。
つまりそういう事である。
「よっしゃぁぁぁ!五十鈴さんに良いところ見せるぞコラァ!」
「無駄だと思うけど頑張って」
斎藤の辛辣な応援を受けてバッターボックスに進む原田。
相手チームは1年生である。
右で打とうとする原田、するとピッチャーの1年生が口を開いた。
「原田、左で打てや」
「なんだよなんだよ、1年生がお前」
1年生の名前は松原、運動部に所属していて原田とも知り合いである。
特徴は小憎たらしい笑みと舐めた態度。
「左で打てや」
「やってやろうじゃねえかよ!この野郎!」
後輩の挑発に見事に乗る原田に、2年生チームからブーイングが飛ぶ。
「ちょっと原田くん、ちゃんと右で打ってよ。真面目にやらないと五十鈴さんに見てもらえないよ?見てないだろうけど」
「そ、そうだな…残念だったな1年生、熱くなってるのは身体だけなんでな!俺の頭は冷静なんだよ、右で打つぞお前、さぁこいや!」
「左で打てや」
だが尚も挑発する松原、相変わらずの皮肉げな笑みである。
「長野先輩は左でも打ったで、左で打てや」
「なんだよ2回目の挑発かお前!そんな2回目の挑発なんて乗らないからな!五十鈴さんに良いところ見せないとなんだから!」
「…………ぷっ」
「やってやろうじゃねえかよォォォォォ!!」
松原の失笑に、ガチギレする熱血バカ原田。
結果?プロ野球選手じゃないんだから当然スリーアウトである。
「俺のバカぁぁぁぁぁん!!」
「原田くん、おしおきが必要だね」
「いやああああああ許してええええええん!!」
叢真が居ても居なくても、男子はだいたいこんな感じである。
…ッ……っ……ッ!(言えよ
「はぁ……まさかこんな事になるなんて…」
着替えの入ったリュックを地面に降ろし、ベンチに座る。
連絡船乗り場の休憩所に腰を降ろして、ここに至るまでの経緯を思い出す。
黒森峰で、まさかのまほさんの部屋が宿泊場所と聞いて、当然拒否した俺。
だがまほさんに、他に部屋は用意してないし今からではホテルも無理だぞと言われ、悩む俺。
サバイバル慣れしているので、最悪どこか屋根がある場所で…と思っていたらまほさんに腕を捕まれ。
『……そんなに私と一緒は嫌か?』
と上目使いで聞かれた。
これで拒否ったら俺が完全に悪者である。
仕方ないのでローテーブルを片付けて床に布団を用意してもらい、就寝する事に。
秋山さんと野営した時よりはマシだと自分に言い聞かせてなんとか寝たのだが、朝起きたらまほさんが隣で寝ていた。
口から心臓が飛び出すかと思った。
硬直する俺を他所に、目覚めたまほさんは一言『気持ちよかったぞ…』と囁いた。
全身を確認したのは言うまでもない。
勿論そんな痕跡も着衣の乱れもなかった。
結婚するまでキスはしないとか宣言した癖に、同衾は良いとかガバガバ過ぎるまほさん。
この日の午前中は、昨日使った車両のオーバーホールが終わらないという事で休みに。
やっぱり自動車部がおかしいんだなと改めて理解した。
予定が空いたので、約束していたデートをした。
黒森峰の学園艦の中でだが、まほさんが喜んでくれたので良しとしよう。
ただ、デート中ずっと背後で逸見さんと赤星さんが見張っていた。
心配しなくても何もしません、腕だってまほさんが勝手に組んでくるだけで俺は何もしてません。
だからやめて赤星さん、笑顔でハイライト消さないで。
どこからそのバナナ出したの、バナナを掴んで…グシャって潰し、潰し……(ヒュン
握り潰したバナナをペロペロと舐める赤星さんと、友人の奇行にドン引きする逸見さん。
そんな2人に見張られながらのデート。
生きた心地がしなかった。
そしてお昼時にお洒落なお店でランチ。
こういうお店は自分では入ったことがないというまほさん、普段どんなお店入っているんですか貴女…。
普段は逸見さんが選んで連れて行ってくれるとの事、逸見さんがやる前はみほちゃんがこれをやっていたらしい。
日常生活ポンコツ過ぎませんかまほさんや…。
因みにこの時も俺の背後の席に逸見さんと赤星さんが居た。
全く気付かないまほさん、やっぱり西住家は戦車から降りるとぽんこつ化するのか…。
みほちゃんも戦車から降りるとボケボケだし、そこが可愛いんだが。
なお軍神モードの時は除く、ごめんなさいもうお猫先輩使わないから許して下さい(トラウマ
本場仕込みだというドイツ料理を食べて、学校へ戻る俺達。
と言うか逸見さんや、君副隊長だから学校に居なくて良いの?
戦車道選手は全員午前中は自由時間?結構その辺おおらかなんだね黒森峰。
プラウダもカチューシャのお昼寝が終わるまで休憩してるし、アンツィオはお昼とオヤツ優先だから似たような物か…。
その辺り考えると、結構大洗って厳しいよな。
主な理由が全体の予定を統括してる河嶋先輩だけど。
学校に戻って、集合した各車長と共に改革の為の会議。
みんな積極的に意見を出して考えている、いい傾向だ。
ただ1年生組?履帯を狙って履帯修理責めにして泣かせようって案は自重しような?
レギュラーの車長の1人が怯えてるから。
なお俺はやる。
履帯を壊す→わざと放置して修理させる→また壊す→また放置して修理→また壊すを繰り返して相手をギブアップさせたのは俺である。
サンダース相手でのやり過ぎた思い出である、この行為で鬼畜眼鏡とか言われた、俺その時眼鏡じゃなかったのに。
その後も新しい陣形案や戦車運用案を会議し、3時間程で終了。
今日の案を精査討論して実際に運用してみて、訓練していくと言う。
形になったら見に来てくれと言われた、俺が口出しした事だしちゃんと責任は持とう。
しかし黒森峰が1番仕事したなと感じる。
1番仕事しなかったのがサンダース、ケイさんのホームパーティーで肉喰って言い寄られて玩具にされただけだし。
また後で行かないとな…。
その後、選手たちに敬礼で見送られて車で黒森峰の校舎を後にする。
今回は戦車の隊列は勘弁してもらった、流石に恥ずかしすぎる。
そして行きの時も利用した接舷部分への出入り口へと来たら、ゲート前に大量の生徒。
運転手の逸見さんが言うには、中等部の子らしい。
まほさんの出待ちかな?と思ったら、俺へサインや握手を強請る生徒達だった。
見事な指揮でしたとか、素敵な演説でしたとか言われた。
ハッハ、思い出死しそう。
まほさんもサインや写真をお願いされ、逸見さんが頑張って列整理して何とか捌いた。
なおそんな逸見さんもサインをお願いされ、四苦八苦しながらサインを書いていた姿が可愛かった。
みほちゃんもサイン頼まれると凄くあわあわするからな…まほさんは幼い頃から何かと有名で慣れてるけど。
中等部の生徒とまほさん逸見さんに見送られて連絡船へ。
今夜は船で一泊して明日陸地に、その足で飛行機を使って茨城県へ。
そんな計画を立てていたら、連盟から電話が。
何かなと思いながら電話に出たら、連盟の担当者が、ある学園から何時頃来艦予定なのか教えて欲しいざますと言われたとの事。
これには俺も素で「え?」である。
当然担当も「え?」である。
と言うかざますってなんだ。
調べてみたら、俺が大洗を飛び出す時に連盟に送った書類、その中に今回行った学校に混ざって行くと返信してしまった学校があったとの事。
既に案内状は相手の学校に届いている。
担当から申し訳ないが行って欲しいと言われて、急遽行き先を変更。
問題の学園艦へ連絡船が出る港へと、今辿り着いた。
まぁ、よく確認しなかった俺が悪い訳だし…。
予定が伸びた事を小山先輩に連絡したら、呆れながら笑われた。
そして『身体に気を付けて早く帰ってきてね、お姉ちゃん待ってるから』と言われた。
何故お姉ちゃん。
流行ってるのか、俺の姉になるの。
小山先輩が姉とかなにそれご褒美?
先程入港した連絡船への乗船時間を待ちながらそんな事を考えていたら、隣に女性が座った。
見た感じ、お洒落な女子大生って印象だ。
俺の周りには居ないタイプだ、ブーツにタイトなスカート、胸元が大胆に開いた服に格好いいジャケット。
アクセサリーも大人っぽい。
あまりジロジロ見るのも失礼なのでベンチに背中を預けて、接岸して荷物や車両を降ろしている連絡船を見る。
車に混ざって戦車が出てくるとか、この世界ならではだよな…。
軽戦車か…壊れてるようには見えないし下取りにでも出すのだろうか。
この後物資の積み込みなどが終われば乗客の乗船になる。
「観光かしら?」
「え……あ、はい、そんな感じです」
突然話しかけられた、顔を向ければ隣に座った女性が微笑みながらこちらを見ている。
「いけない子ね、学生服で観光だなんて。補導されちゃうわよ?」
そう言ってクスクス笑う女性、ご尤もな指摘である。
何せ大洗を出てから3回も補導されかけてるからな、俺。
大きな駅やお土産を買いに立ち寄った場所でな…多くの土地では中高生は皆学園艦で生活している。
陸地に居る学生は小学生と大学生、そして私立の中高か学園艦を持たない学校の生徒だけ。
そのため、制服で彷徨く生徒はかなり目立つ。
連盟からの書類が無ければ危なかったぜ…。
いや私服で行動すれば良かったんだけどね。
「あの船に乗るの?あれは学園艦行きよ?」
「えぇ、ちょっと学園艦に用があって」
本当は無いんだけど。
返事を出したからには一応尋ねないと相手にも連盟にも失礼になるし。
「私の母校だけど、あそこ女子校よ?誰か知り合いでも居るの?」
「居る…らしいんですけど…」
連盟からは、俺の関係者が居るから案内状を送付したと言われた。
と言われても、心当たりがないんだよな…。
「なんだか複雑な事情がありそうね…でも気を付けてね?今あの学校、凄く荒れてるから」
「荒れてるんですか…」
荒れてると言われて、ヤンキーが闊歩する学校を連想する。
大洗でも、学園艦最下層を素行が良くない生徒が根城にしてると園さんが言ってたしな…。
今まで行ったことがある学園艦は、どこも名門の女子校だったり規律に厳しい学校だったり。
アンツィオはちょっとアレだが、観光客を受け入れているだけあって治安は良い。
可愛い女の子へのナンパ被害が多発してるが。アンツィオ生徒による女性観光客への。
荒れてる学校か…行く気が失せるなぁ…。
「あぁ、ヤンキーがとかそういう荒れ方じゃないわよ?ウチの学園、元々はある学園の分校だった学校2つが、学園艦の老朽化で統廃合されてね?その結果生まれた学園なんだけど、2つの学校が統合されたから学校同士での対立が酷かったのよ」
「なるほど…」
統廃合された学校だったのか…マジノ女学院の分校って事しか知らなかったな。
「私が卒業した時も対立してたんだけど、今は学校同士の対立から変化して、高校からの受験組と中等部から上がってきたエスカレーター組で争っててねぇ…困ったものだわ」
頬に手を当ててため息をつく女性。
母校に愛着があるのか、かなり悩んでいる様子だった。
学校同士の対立は、元の学校を知る生徒が居なくなれば自然と消える。
だが何かしらの火種が残ったままだったので、別の対立に発展したって事か。
その辺りは珍しい話ではない、大洗ですら学科間で対立がある。
大きいのだと水産科と船舶科の対立か。
学園艦内での養殖や漁をする水産科と、学園艦を運営する船舶科、どちらも学園艦深部で作業をするので、色々と騒動が絶えないらしい。
最近あった事件だと、輸送用エレベーターをどちらが専有するかで争ったとか。
最下層ではそんな争いがしょっちゅうらしく、普通科の、特に男子には注意が風紀委員から出ている。
そんな争い、俺の魅力で止めてやるぜ!と突撃した男子の1人が、パンツ1丁で簀巻きにされて送り返されてきたとか。
バカな男子が居たものである。
園さんから、長野くんが立ち入ったら一瞬で身包み剥がれて性的に襲われるから1人で入らないようにと言われた。
どこの後進国なのか。
しかし受験組とエスカレーター組ねぇ…そういうので争ってる学校は行ったことがないな。
縁がある学校はどこも受験・エスカレーター関係なく仲が良いし。
黒森峰は、高校からの入学者って外からスカウトされた実力者とか、中等部から上がるより難しい試験を突破した人間だから逆に尊敬されるとか聞いたな、逸見さんに。
「温室育ちと言われるくらい世間を知らないエスカレーター組と、逆に外で受験戦争を勝ち抜いてきた闘争本能丸出しの受験組…水と油状態で学校全体で争ってるのよ」
「それはそれは…」
分からなくもない話だ、とは言え学校全体でとは穏やかじゃないな。
「私、戦車道やってるんだけどね?戦車道でもその争いが分校対立時代から続いてて、かつては全国大会ベスト4常連だったのに、ここ何年も1回戦敗退が続いてるの…」
おかげで大学のスポーツ特待を取るの大変だったわと苦笑する女性。
なるほど、戦車道の選手なのか。
道理でスタイルが良いと思った、戦車道やってると自然とスタイルが良くなるらしいからな。
今カチューシャとかを連想した人、悪いことは言わないから忘れるんだ、ノンナさんに粛清されるゾ。
「今回も大学で休みが出来たから顔を見せに行ったんだけど、相変わらず部隊内で争ってたわ」
「隊長は止めないんですか?そういうのを止めるのが役目だと思うんですが」
「止めれる…とは思うんだけどね…止める気がないのよ」
「あれま」
女性の言葉に思わず額を押さえる。
そんな状態で全国大会とか、無理に決まってるだろうに。
「前の隊長は改革に尽力して何とか分校時代の対立は解消したんだけど…今の隊長になったら今度は受験組とエスカレーター組の争いが広がって、頼りの隊長は止める気がなし。折角お揃いのパンツァージャケットになったのに残念な話だわ」
昔はジャケットすら元の学校で違ったのよと笑う女性に、思わず頬が引きつる。
そんな状態で良くまぁ戦車道続けられたな…。
その手の対立があると、大抵は主導権を握った側が無茶振りして、片方を捨て石にしたり責任を押し付けたりして余計に対立が酷くなるんだよな…歴史が証明してる。
「だから気を付けてね?貴方素敵だから奪い合いとか起きちゃうかもしれないわよ?」
そう言って俺の頬を指先で突く女性、なにそれこわい。
「そうならない様に気をつけます…」
いざとなったら全力で逃げよう、顔さえ出せば義理は果たせるし。
「そろそろ乗船時間ね、私も合宿場に戻らないと…。あ、そうだわ、折角出会ったんだし、写真良いかしら?」
「え…はぁ…別に構いませんが…」
急に話しかけてきたり、色々教えてくれたり、気さくな女性だとは思ったが急にグイグイ来たな。
まぁ写真位なら良いけど。
「はい、チーズ」
「写真ってツーショットですか…チーズ」
俺の隣まで移動して寄り添うと、携帯のカメラを起動して自撮りモードで写真を撮る女性。
一応笑顔を浮かべておく、アイドル時代の癖と言うか、写真は笑顔でと言われた名残だ。
「うん、いい写真が撮れたわ。ありがとうね、お姉さんの無駄話に付き合ってもらって」
「いえ、色々聞けて良かったですよ」
「そう言って貰えると嬉しいわ。それじゃ私はこれで。また何処かで会いましょう、長野くん」
「えぇ……あれ?」
荷物を持ってウィンクを残して去って行く女性。
あの人俺の名前知ってたな…戦車道の選手だからか。
なんだ、だから話しかけてきたのか、逆ナンパの人かと思って警戒して損したな。
乗船アナウンスが流れたので、リュックを背負って連絡船へ足を向ける。
因みにこのリュック、逸見さんがプレゼントしてくれた物だ。
俺が着替えとかを洋服の量販店の袋に入れているのに気付いて用意してくれた。
黒森峰のロゴが入った丈夫な奴だ、かなり格好いい。
お礼に今度何か送らないと…。
ボコのぬいぐるみ…じゃ駄目だよな、みほちゃんやあの子じゃないんだし。
連絡船に乗り込み、借りた部屋へ入る。
ベッドに横になって天井を見上げながら、大きく息を吐く。
「ふぅ……しかしBC自由学園か…誰が俺の関係者を名乗ったんだ…?」
「頻繁に顔を出すものねぇ、まさか長野くんと出会えるなんて。でもメグミが言うような外道でもないし、ルミが言うみたいに怖くもない、普通のイケメン高校生じゃない。全く、何が魔王長野よ、可愛い男の子じゃないの」
ガラガラとキャスターが音を立てるバックを引きながら、携帯を見る女性。
「写真でもこんなに綺麗に笑ってるし。何処が非道の魔王なんだか、噂なんて当てにならないわね、うふふ、待ち受けにして2人に自慢しちゃおう」
楽しそうに笑いながら駅までの道を歩く女性。
なお見せられた片方は羨ましがり、もう片方は怯えたらしい。
「それにしても、戦車道での訪問だと思うけど…誰がやったのかしら。そんなコネがある子居たかしら…?」
叢真の訪問理由は察しているが、誰がそれを可能にさせたのかが分からない女性。
そんな呟きを残しながら、彼女は宿舎がある大学選抜チームの本拠地に帰るのだった。
斎藤の封印が…解かれた…!?(´・ω・`)
なお基本的に斎藤くんは常識人です、ただエロ方面に無節操なだけで(´・ω・`)
ヒダリデウテヤ(´・ω・`)
リクエストあったのでBC自由学園編に突入(´・ω・`)
でも情報が少ないから書くの大変(´・ω・`)
最終章第二話まーだー?(´・ω・`)