バーチャルYouTube、電脳少女シロと、ばあちゃるのお話
いわゆる白馬組によるお話です

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フリージアの花束

静まり返った夜の海。

深く染み込む波の音。

月の光に輝く砂地のキャンパスに、打ち寄せる波が軌跡を残す。

そんな海を砂浜で座り込んで眺める二人の影。

小さな影は組んだ腕の上に顎を乗せて海の向こう側を眺め、大きな影は身体を左右に揺らしながら、楽しそうに波打ち際を眺めている。

二人の間には言葉は無く、静寂が二人を包み込む。

 

「小さな波は可哀そうですね、だって、大きな波が上から消してちゃうじゃないですか」

 

ふいに紡がれた彼らしくない詩的な台詞に、小柄な影は鼻を鳴らした。

潮の匂いを乗せた風に、大きく飛び出たアホ毛が揺れる。

 

「…何で馬がここに居るの」

 

小柄な少女、シロの突っぱねるような言葉に、ばあちゃるはピクリと耳を動かした。

 

「居る何もばあちゃる君はねぇ、ここに住んでいるんですから、居て当然なんですよはいはいはい」

 

まるで親に構って貰えた子供のように喋り出したばあちゃるを、シロはちらりと横目で見てサッと目を反らした。

見慣れた両手を振る仕草。

”いつも”の光景が、シロの落ち込んだ心をじんわりと暖める。

 

「まって?ホントにこんな所に住んでんの?」

 

呆れた口ぶりに、ばあちゃるはそりゃホントですよシロちゃん、と返す。

そして始まるいつものやり取り。

言葉のラリーが、静かだった浜辺を少し賑やかに彩る。

シロのいじわるをばあちゃるが拾い上げる。

そんなやり取りを何往復化し、ばあちゃるは何かを思い出したように懐をゴソゴソと探り出した。

 

「あ、それでね、ばあちゃる君ねプレゼント持ってきたんですよ、ほら」

 

ばぁ、という掛け声とともに差し出されたソレは、赤、紫、白、黄色に彩られた花束だった。

ゆらりと漂う花の香が、鼻孔の奥をふわりとくすぐる。

甘いようで、果物の様な…そんな不思議な香り。

 

「これはフリージアの花って言うんですけど…」

 

これまでの人生、シロは花を贈られた事が無かった。

もちろん、贈り物の一つとして存在は知っていたし、主に男性から女性への贈り物に使われることも知っていた。

だが、まさか自分に贈られる時が来るとは微塵も考えていなかった。

ポカンと口を開けて茫然とするシロに、ばあちゃるは困ったように頭をポリポリと掻きながら、こういうの慣れていないんですよ、とつぶやいた。

 

「でね、?…今日はお礼が言いたくて」

 

「お別れだから?」

 

「ウビ…えっ?……」

 

突然放たれた言葉に、ばあちゃるは思わず固まった。

予想外の問いかけに咄嗟に対応出来ず、思考が絡まってしまったのだ。

 ぶきっちょ…

シロは聞こえないようにポツリと呟くと、しょうがないなと両手を差し出す。

 

「いいよ、ただの冗談だから…お花ありがと…」

 

差し出した両手で、花束をしっかりと抱きとめる。

生まれて初めてもらった花の贈り物。

花を貰う事の喜びというものが今までわからなかったが、成る程、貰って嬉しいという感覚が何だか少しわかるような気がする。

 

「でね、シロちゃんも本当に毎日が大変だし疲れちゃう時もあると思うんですけど、そんな時はシロ組の皆とばあちゃる君を頼って下さいね」

 

「…っ…!」

 

「おら達、もしかしたら何にも出来ないかもしれないけど、それでも力になれるように頑張りますからね」

 

唐突に始まった励ましの言葉に、心の奥が熱くなるのを感じながらシロは顔を花束の後ろに隠した。

 ずるい…

 シロが落ち込んでいる時にそんな事言うなんて

 本当にズルい

 良かれと思って言っているとしたらとんだ間違い…

 

「皆いますからねシロちゃん、皆シロちゃんの事応援したくて…」

 

 うるさい…

 本当にうるさい…

 何でそうやって保護者面すんの…

 どうしてそうやって恥ずかしげもなく優しくすんの…

 そんなに優しくされたら……す

 

「……っ!!」

 

思わず出掛かった思考に、シロは思わず我に返る。

 うっさい…本当に…っ!

食いしばった奥歯がギリッ…と音を立てる。

 

「うっさい…っ…!」

 

思考を上書きするように絞り出した声に、ばあちゃるはビクッと体を震わせる。

 

「うびっ!?」

 

シロは顔を見られないようそっぽを向くと、深く深く息を吸い込んだ。

そして、精一杯の怒りと共に、大きく大きくそれを吐き出す。

 

「うっさいうっさいうっさいっ!!!馬のバカヤローーー!!!!」

 

海の向こうまで届くように、本気の本気の大声で叫ぶ。

両腕で握りしめた花束を、精一杯抱きしめながら。

心を沈めていたわだかまりも一緒に吹き飛ばすように。

最後の一滴まで、擦れきるまで絞り出すように。

 

「あああああぁぁ!!………はぁ……はぁ…」

 

やがて最後の一滴まで声を絞り切ったシロは、ぜえぜえと荒い息をついた。

隣にちょこんと座ったばあちゃるは、そんなシロを不思議そうな目で見つめている。

もちろん声を掛けるといった無粋な事はせず、ただ見つめるだけ。

やがて、最後に大きな息をついたシロは、顔をゆっくりと上げた。

 

「……シロはもう…大丈夫…」

 

小さい声だが、迷いは無い。

そんなシロに、ばあちゃるは嬉しそうに頷きゆっくりと立ち上がった。

 

「じゃあ帰りましょうシロちゃん、後で暖かいホットミルク作ってあげますからね」

 

「うん…」

 

歩き出したばあちゃるの後を、両手で花束を抱えたシロが歩調を合わせてついていく。

ばあちゃるは少し歩幅を縮めて、シロは少し歩幅を広げて。

夜の浜辺を二人でゆっくりと歩いていった。

 

~~~

 

 

 フリージアの花言葉 親愛の情 友情

 白色のフリージアの花言葉 あどけなさ

 黄色のフリージアの花言葉 無邪気

 赤色のフリージアの花言葉 純潔

 紫色のフリージアの花言葉 あこがれ

 

 


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