(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「ガザックの旗揚げ」1

 突然だが、俺は死んで転生したらしい。転生させられた、というのが正確か。

 俺を転生させたやつの話によると、真夜中に俺の家を隕石が直撃したそうだ。俺は眠ったままばらばらに吹き飛んだ。正直疑わしいが、嘘だという証拠もないし保留付きで信じることにした。

 ところで「ファイアーエムブレム紋章の謎」って知ってるか。

 初代はファミコンソフト「ファイアーエムブレム暗黒竜と光の剣」。

 それがスーファミでリメイクされたときのタイトルが「紋章の謎」だ。

 剣と魔法の世界の手強いシミュレーション。舞台はアカネイア大陸。アリティアの王子マルスが祖国を奪還し、ドルーア皇帝メディウスを倒して大陸に平和を取り戻す物語だ。当時ハマってかなりやりこんだ。

 俺はその世界に転生した。あれはゲームだったから、よく似た世界に転生した、あるいはゲームの世界に転生した、というべきなのかもしれないが、そういうことだ。スーファミ版の世界であって、DS版じゃない。

 俺の名はガザック。ガルダの海賊だ。

 ゲーム風に言うなら第一部一章のボスだ。

 

 

 そういうわけでガザックとして転生した俺だが、生まれたときから俺の意識があったわけじゃない。

 俺が、俺としての意識を取り戻したのはついさっきだ。

 それまでガザックの中に眠っていた俺の魂が目覚めて、こいつの意識を完全に乗っ取ったといえばわかってもらえるだろうか。

 ガザック当人の、生まれてからさっきまでの記憶は、昔見た映画について思いだすような感じでぼんやりと思いだせる。海賊の幹部になっただけあってグロとエロとバイオレンスだらけだった。

 そして、目覚めてみると俺はいきなり窮地に立たされていた。

 

「親分、アリティアの王子とやらが、俺たちと戦うとかぬかしたそうですぜ」

 

「何でも二年前にこのちっぽけな島国に逃げ込んできたやつらだとか」

 

「敗残兵の寄せ集めなんざ、軽くひねってやりましょうや」

 

 高笑いしている手下どもを、俺は絶望的な顔で眺めていた。

 こいつら、わかってねえ。

 ここはタリス。アカネイア大陸の東にある辺境の島国。第一部の一章。

 紋章の謎に限らず、ファイアーエムブレム(以下FE)において、第一部の一章というのはチュートリアルみたいなもんだ。

 ここでプレイヤーはゲームのやり方をつかむ。ユニットを動かして敵と戦わせ、城を奪うゲームだと。主人公が死んだらゲームオーバーになること、ペガサスナイトは弓矢に弱いこと、盗賊の経験値はおいしいこと、盗賊を放っておくと村を燃やされること、ジジイはだいたい弱いことなどを知る。

 チュートリアルなのだから、当然敵は倒しやすいように設定されている。数も配置も動きも。

 そう、俺たちは倒されるためにここにいる。

 そのことを自覚すると、俺の胸の内にふつふつと暗い怒りが湧いてきた。どす黒い欲望も。

 冗談じゃねえ。

 死んだばかりだってのに(実感はないが)、また死んでたまるか。

 こうなったら何としてでも生き延びてやる。

 ああ、そうだ。やりたいようにやってやるさ。

 

 

 俺は手下に地図を用意させた。自分の記憶にあるゲームのマップと照らし合わせる。地形から砦の位置まで見事に一致していた。

 俺はマルスたちと戦うつもりだった。いや、倒すつもりだった。あれほどやりこんだゲームなのに、愛着もあったはずなのに、とくに葛藤もなく、あっさりと決断できてしまった。俺がガザックに転生したのは、そんなにおかしなことじゃなかったんだろう。

 

「戦えるやつをここに集めろ。一人残らずだ」

 

 俺は地図の左下を指さした。タリス島の南西には砦がひとつある。ここを固めてしまえば、マルスたちはそれ以上前進ができない。高い山を越えられるのはシーダだけだ。

 ここでやつらを食い止めて消耗させ、マルスを倒す。

 

「ですが、アーノルドたちが東に行ったきりで……」

 

 誰だよ、アーノルド。

 ていうか、マルスが立ちあがったっていうこのタイミングで東にいる?

 あ、ゲーム開始時に村を焼いた盗賊か。

 敵の盗賊に村を潰す能力があると教える役目の。最初のターンにシーダとマルスあたりで倒して経験値を稼ぐのがセオリー。

 

「東じゃもう間に合わねえ」

 

 盗賊が単独で敵地のど真ん中にいるという時点で、どうにもならねえ。見捨てよう。

 

「島の中央にあるこの砦は放っておくんですかい? 海からも行けそうなのに」

 

 手下が地図の真ん中を指さす。そこにも砦はたしかにある。だが、俺たちが勝つ前提で考えるなら、そこは捨てるべきだ。

 

 敵はマルス、ジェイガン、シーダ、カイン、アベル、ドーガ、ゴードン。

 この面子での常道は、アーマーナイトのドーガが前衛、アーチャーのゴードンが後衛、ソシアルナイトのカインとアベルがゴードンの両脇を守る形だ。

 マルスとシーダはその後ろから並んで前進。なんで並ぶのかといえば支援効果があるから。ジェイガンはいざというときの盾として、マルスのそばにいる。こいつの銀の槍はマルスかシーダのどちらかに渡す。

 慣れてくると、カインとアベルを馬から下ろしたり、マルスやシーダも前線に出したりするが、だいたいこんなものだろう。

 この手を使われると、かなりしんどい。

 海賊たちではドーガにたいしたダメージを与えられない。しかも、ドーガとゴードンの攻撃を続けざまに受ければ、海賊は沈む。打ち漏らしがあってもカインかアベルがカバーに入れる。

 まず、各個撃破されるのを避けないといけない。

 こちらの利点は、俺を含めて数が13ユニットなこと。ほぼ二倍だ。全滅覚悟でやれば、勝てる……いや、さらに運がよければ、勝てるかもしれない。

 そこまで考えたとき、俺はあることを思いついた。シーダに対しては打つ手がある。

 手下どもに指示を出した俺は、城の南にある村へ向かった。

 

 

 ちょっと婦女暴行しちゃいましたぁー。

 殺してはいないぞ。ほしかったのは傷薬だったからな。

 さて、俺は予定通り、南西の砦の周辺を手下たちで固めた。砦の南に広がる海にも海賊を2ユニット配置した。ゲームだと海賊って海の上を歩いていたんだが、ここではそんなことはなく、持ち運んでいる小舟をさっと用意して乗りこみ、海に出ていた。

 ちなみにユニットという単位だが、1ユニット一部隊と思ってくれ。部隊長がユニット名になっている感じだ。

 とはいえ、けっこう適当で、十人ぐらいの部隊もいれば、三十人近い部隊もいる。数の多さや練度がHPやレベルにつながっているっぽい。名前ありキャラの中にはそいつ一人で1ユニットてのもいるようだ。

 数字でいえば、4ユニットがかりでやればカイン、アベル、ゴードンは仕留められる。この場合の4ユニットには間接攻撃のできるハンターも含めることができる。

 だから、ドーガは後回しにして、それ以外を倒して敵の数を減らす。

 ていうか、さっきも言ったが、鉄の槍を持ったドーガと鋼の弓を持ったゴードンの組みあわせと、鉄の槍を持ったカインと手槍を持ったアベルの組み合わせでこっちの海賊一人を倒せるわけよ。

 でも、こっちは四回殴らないと駄目なわけよ。ずるくねえ?

 そして、俺はゲームにはない手も打った。

 タリス王をさがしだして、シーダに降伏を呼びかけた。

 一章開始時のシーダの台詞と、マルスがこの一章をクリアしたときにタリス王が現れたことを思いだしたのだ。

 これでシーダが降伏するとは思えないが、とにかくアリティア軍と戦っている間、動かずにいてくれればいい。そうすれば、ハンターをシーダへの備えにせず、アリティア軍との戦いにまわすことができる。城の守りも最低限ですむ。なにせ、俺も戦わないと人手も攻撃力も足りないからな。

 そうして俺が南西の砦についたところで、手下が報告してきた。

 

「親分、白馬に乗ったジジイが突撃してきました!」

 

 ……えっ?


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