(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
砦で待っていたシーダとニーナに伝令を送り、オレルアン城で俺は二人を出迎えた。ところが、ニーナにはおもわぬオマケがついてきた。
「貴様が! 貴様がハーディンを殺したのか!」
玉座のある広間に入ってくるなり俺にくってかかってきたのは、立派なローブを着た白髪と白髭のジジイだった。誰だこいつと思ったが、すぐに思いだした。オレルアン王だ。
「おう、そうだ。何か文句があるか」
俺はせせら笑ってオレルアン王に言ってやる。
「俺とハーディンは戦場で堂々と戦った。やつは俺を殺すつもりだった。俺もそうだ。なんでてめえに文句を言われなくちゃならねえ」
「ハーディンの背には斧でえぐられた惨たらしい傷があったと聞いておるぞ!」
「敵に背を向けて逃げりゃあそんな傷がついて当然だろうが」
たしか、ハーディンとは異母兄弟だったっけか。身内を殺されて怒り狂うのはわかる。だが、それどころじゃねえと思うんだがな。
「ちょうどいい。オレルアン王、あんたに言っておくことがあるんだよ」
俺は邪悪な笑みを浮かべて、打ちひしがれているオレルアン王に要求を伝えた。
俺は王の養子になる。
オレルアン王は退位する。そして、俺が次のオレルアン王になる。
オレルアン王国は、ニーナ姫の率いるアカネイア同盟軍をおおいに支援する。
アイルトンとヴィクターにオレルアン貴族の爵位を与える。
「き、貴様……」
オレルアン王は顔を真っ赤にして、怒りで拳をわなわなと震わせる。
「海賊の分際で、我が国を属国にでもしたつもりか!? そんな愚かしい、思いあがった要求のひとつでも受けいれると思うのか!? 私は最後の一人になってでも貴様と戦い、その薄汚い首を叩き落としてくれるぞ!」
おうおう、タリスのモスティン王とは大違いだな。俺は鼻で笑った。
「本当に属国になってみるか? 俺と手下たちを止められる兵が、いまのオレルアンにいるのかよ? いるわけねえよな。ハーディンがかき集めていたあいつらが、最後の戦力だろ」
図星なんだろう、オレルアン王は言葉に詰まった。しかし、ミネルバってオレルアンを徹底的に追い詰めてたんだな。実際の能力はあれだけど強いわ、あいつ。早くものにしてえなあ。
「協力しないなら、敵と思っていいのか? オレルアンのすべての町と村から奪うものを奪って、ことごとく焼くぞ。若いやつは奴隷商人に売り払う。軍隊ってのは維持するのに金がかかるからなあ」
具体的に言ってやると、さすがにオレルアン王の顔は青くなった。薄汚い海賊ならやりかねねえと思うだろう? 状況次第では本当にやるぞ。
オレルアン王は床を睨みつけて、沈黙する。
俺は待った。答えは分かってるんだ。迷っちまったら、もう王として答えはひとつしかねえ。
「わかった……。要求を呑もう」
オレルアン王は肩を落として悄然と歩き去っていく。
なぜか、俺はオレルアン王の背中から目が離せず、やつの姿が見えなくなるまでずうっと睨みつけていた。
「ガザック様……」
空気の重くなった広間で、シーダがおそるおそる聞いてきた。
「ガザック様は、オレルアンの王になられるのですか?」
「何か問題があるか?」
「いえ。その、オレルアンを拠点として、力を蓄えるということでしょうか」
「ふせいかーい」
俺は上機嫌に笑ってシーダに近づくと、スカートの上から尻を撫でまわした。おっぱいじゃなかったのはシーダが鉄の胸当てをつけていたからだ。こいつ尻もいいよなあ。
シーダは顔を赤く染めながら、黙って耐えている。そういう態度も実にそそる。
尻を揉みながら、俺はシーダの疑問に答えてやった。
「力を蓄えるなんて悠長なことはしねえ。準備が整い次第、さっさと南下してレフカンディへ行くぞ」
「では、オレルアンの統治はどうするのですか?」
そう聞いてきたのはニーナだ。俺は当たり前のように答えた。
「そんなのオレルアン王にやらせりゃいいだろ」
俺の言っていることが分からないという感じで、シーダもニーナも首をかしげている。ニーナはポンコツだからともかくとして、シーダもまだまだか。
「俺に必要なのは、オレルアン王って肩書きとオレルアン貴族の部下なんだ。これで俺の言いたいことがわかるか?」
「戦いの前に、兵士たちに言っていたことを守るということですか?」
偉いぞ、シーダ。よく覚えてたな。褒美として尻から股間へと指を伸ばしてやる。
「それもある。目に見えて分かる褒美をやらねえと、あいつらはすぐに不満を持つし、俺をたいしたことねえと思うようになるからな。だが、それだけじゃねえ。ニーナ、とくにお前はよく聞いておけ。目をそらすのはかまわねえが」
シーダの口から喘ぎ声が漏れてきたので解放してやった。この続きは今晩ゆっくりしてやろう。うはははは。
「これから俺たちはニーナを総大将としたアカネイア同盟軍として動くわけだ。シーダはタリス代表。ニーナはアカネイア代表。あと、ウェンデルのジジイをカダイン代表ってことにする。で、他には誰がいる?」
「……だから、オレルアンの王となったのですか?」
驚くニーナに、俺はうなずいた。
「これから俺たちが戦う敵はグラ、カダイン、マケドニア、グルニアってとこだ。ワーレンも敵対するかもしれねえ。で、やつらと交渉する時に、タリスとアカネイアとジジイの名前だけより、オレルアンもあった方がいいだろう」
「交渉……ですか?」
ニーナが首をかしげる。お前、交渉って選択肢がなかったのかよ。城奪われて家族親戚殺されてりゃ無理もねえか。
「グルニアとは交渉の余地がある。なあ、シーダ。たしかタリスはグルニアと親交があったはずだな?」
「はい。グルニアのロレンス将軍は、父のタリス統一の戦いに協力してくださいました。いまでは敵と味方にわかれていますが、それでも父と将軍の友情は続いています」
「ニーナ、お前もグルニアの捕虜となっていた時に面倒を見てくれた将軍がいたんだろう?」
俺はニーナの胸をつつきながらわざとらしく聞いた。ニーナはうつむきがちに答える。
「ええ。カミュは、私に何かとよくしてくれました」
「いいか。戦でも交渉でも必要なのはハッタリだ。国の名前をひとつ増やしておけば、それだけ相手をびびらせることができる。そうすりゃロレンスやカミュだって口添えしやすくなるってもんだ。これからはお前もこういうことを考えろ。本気でパレスを取り戻したけりゃな」
「わかりました……」
ドレスの裾を握りしめて、ニーナはうなずいた。不安だが、こいつ以外に総大将がいねえからなあ……。俺やシーダじゃ海賊イメージが消えねえし。
「わかったらさっそく働いてもらうぞ。お前の名で、手紙を書きまくれ。グラとマケドニアには降伏するように言って、グルニアにはこっちにつくように誘うんだ。ワーレンとカダインにも協力するように言え」
アリティアは……たしかあそこにいるの、メディウスの直属の部下のモーゼスだったよな。マムクート、いやこいつは蔑称か、竜族の。よし、放っておこう。
「効果があるのでしょうか。彼らが聞くとは思えませんが……」
ニーナは不安そうに首をかしげる。俺はこいつの胸をつついていた指で、今度はこいつの鼻をつついた。
「連中が聞くわけねえだろ、馬鹿かてめえは。常識で考えろ」
「なっ……!」
ニーナは怒りに燃えた目で俺をきっと睨みつけた。
「書けと言ったのはあなたではありませんか! それなのに効果があるわけないなんて……」
「おう、そのポンコツ頭で考えてみろや。お前に書かせる手紙にどんな意味があるか」
俺は指を離す。ニーナはしかめっ面になって考えてみたが、分からないらしい。俺はシーダに聞いた。
「はい、シーダ君。君はわかるかね」
「その……わかりません」
あっ、こいつ今ニーナを横目で見た。たぶん分かったのにニーナに遠慮しやがったな。今晩責めたててやるとして、今は乗ってやろう。俺はニーナに言った。
「いいか、この手紙はだ、お前が健在であること、お前にパレスを奪還する強い意志があることを大陸中に示すために書くんだよ。笑われることなんてはじめから分かってんだ。三年前にパレスが陥落してから、お前は追いこまれっぱなしだったわけだろ。ここで強気に出るんだ。オレルアンからマケドニア軍を追い払った、このタイミングでな」
ようやくニーナの顔に理解の色が広がった。
「そうすることで、アカネイアに忠誠を誓っている者や、ドルーアに反感を持っている者に希望を持たせようというわけですね」
「そういうことだ。後で俺が添削してやるから、とりあえず書け。シーダ、お前はこれからニーナを補佐しろ。レナとマチスも手が空いたら手伝わせる」
そういや、特に今まで触れてこなかったが、我が軍の識字率は滅茶苦茶低い。大半が海賊と山賊だから仕方ねえんだが、いずれは字を教えてやらにゃならんだろう。字の読み書きができるのって、シーダ、レナ、マチス、ニーナ、ウェンデルのジジイを除けば俺とヴィクターしかいねえからな。
カシム? あいつできなかった。所詮は村人だわ。リカードはカシムとどっこいどっこい。教育は大事だ。