(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
オレルアンを手中におさめてから、俺は多忙だった。
シーダとレナとニーナを夜ごとに可愛がり、その一方で軍備を整え、ニーナの書いた手紙を添削したり、ウェンデルとレナの読み書き講座を開いて、手下の中から有望なやつを二十人ほど選んで勉強させたりした。
現金なもので、俺から見ても教え方が上手いのはジジイの方なのに、レナの方が教師としての人気は高かった。でもベッドの中でいけない!レナ先生ごっこをやれるのは俺だけだがな! 手下たちにはオレルアンの娼館を利用させている。
そうそう、娼館といえば、悲劇が一つ起こった。
戦士部隊の1割強が使いものにならなくなりやがったのだ。ユニットがなくなるほどのダメージではないが、弱体化はした。レベルが下がったって感じか。その報告を受けたとき、俺はおもわず「うえっ!?」って大声を出しちまった。
梅毒なんてバッドステータス、このゲームで聞いたことねえぞおい。リアルなの? リアルなのか?
仕方なく俺はウェンデルに相談して、オレルアン中のすべての娼館に衛生環境をよくするよう命じた。とはいえ、コンドームもないし、たかがしれている。せいぜい怪我をしているやつはよく洗ってからことをすませろと言うぐらいだ。俺も気をつけよう。ウェンデルもよく相談に乗ってくれたよ。
その他に、俺はリカードにあることを命じておいた。気になることがあったのだ。
そうして二週間近くが過ぎたころ、俺はリカードから一つの報告を受けとった。
「やっぱりか……」
俺はため息をついた。仕方ねえ。こうなったら、また海賊のバイブル「ヴィ○ラン○サガ」からネタをいただくとするか。
それから数日後の昼、俺はオレルアン城にオレルアン王を呼びつけた。正確にはもうオレルアン先王なんだが、名前を知らないんでな。
俺はニーナとシーダを連れて、バルコニーでオレルアン王を迎えた。このバルコニーからはオレルアンの広大な平原が遠くまで見渡せる。
「よく来たな。さっそくだが、まずはこの話だ」
俺がオレルアン王に見せたのは、昨日オレルアンの官僚が持ってきた今後の予定表だった。王の退位式や何やかんやの式典で、俺の戴冠式は一ヵ月以上先になるという。
「こんなものはいらねえ」
俺は笑顔で予定表をビリビリと破り捨てた。もう二週間もここにいるのに、さらに一ヵ月もいられるわけねえだろ。何考えてんだ。
「退位式と戴冠式は書類上の手続きだけですませろ。あと、この後の統治はお前に任せる」
オレルアン王は驚いた顔で俺を見た。ああ、こいつも分かってなかったか。
「どういう意味だ?」
「俺たちはドルーアを攻めに行く。だからここをお前に任せると言ってるんだ」
「……よいのか?」
「おう。人事も任せる。ただし、同盟軍への支援を欠かすな。こちらの要求には可能なかぎり答えろ。それが条件だ。あと、アイルトンとヴィクターのことだが」
俺の言葉に、オレルアン王は苦しげな顔になる。
「申し訳ない。私も説得したのだが……」
俺は最初、二人をオレルアンの名門貴族の養子にするようにと言ったのだが、貴族たちから猛反対されたらしい。薄汚い血を入れるようなことがあっては先祖に申し訳が立たぬとまで言われたそうだ。お前らだって先祖までたどれば騎馬民族だろ。くそが。
「わかった。じゃあこうしよう。とっくに断絶して親戚も残ってない家があるだろ。それを二つ選んで復活させろ。新たに土地を与えてな。これなら文句はねえだろ」
実のところ、名門貴族の養子案は無理があると思ってた。それでもその案を投げたのは、譲歩したように見えるこっちの案を飲ませやすくするためだ。
「わかった。その通りにしよう」
どこかほっとした顔で、オレルアン王は言った。これなら貴族たちの説得も難しくないと踏んだのだろう。
さて、甘い顔を見せてやるのはここまでだ。
「ところでな、お前に見てほしいものがある」
俺はそう言ってオレルアン王の肩を抱き、広大な平原に顔を向けさせた。
それから十秒とたたないうちに、平原の二箇所から黒煙が立ちのぼった。タイミングばっちり。オレルアン王だけでなく、シーダとニーナも目を丸くする。
「な、何事だ……!?」
この距離から見えるんだ。ちょっとした火事なんてものじゃねえ。
慌てふためくオレルアン王に、俺は笑顔全開で説明した。
「落ち着け。あれはな、俺の手下たちが反乱軍を壊滅させたことを、煙で知らせているんだ」
俺の台詞に対する反応は、二つに分かれた。
「反乱軍!?」
驚愕するシーダとニーナ。
そして、隠していたことが見つかってしまったというふうに愕然とするオレルアン王。
以前、この城の広間から出ていくオレルアン王から、俺は目を離せなかったことがある。あれは、こいつの怒りを、俺への敵意を何となく感じとっていたんだろう。それほど強い怒りだったわけだ。
リカードに調べさせてみたところ、オレルアン王は俺たちに敵意を持つ者を集めて、反乱軍を結成し、俺たちを打倒しようとしていることがわかった。
オレルアンにとって英雄であるハーディンを殺した俺はそうとう恨まれているらしく、すぐにそれなりの人数が集まったそうだ。
俺は、煙が立ちのぼっている二つの町の名前をオレルアン王に教えてやる。ショックのあまり体に力が入らないらしく、オレルアン王はへなへなと崩れ落ちた。
「いやーマケドニア軍が去って、ようやく平和になったのになー。その平和を乱そうとするやつらは許せねーよなー。とはいえ、俺たちも先を急ぐ身だからなー。町ごと焼き払うことにした」
オレルアン王に聞かせるためにわざとらしく言ったのだが、どこまでこいつは聞いているだろうか。俺は召使いを呼んで、オレルアン王を部屋に運ばせた。「同盟軍への協力、忘れるなよー」と声をかけて。
ここには俺とシーダ、ニーナだけが残る。
「ガザック様……」
やがて、おもいきったようにシーダが言った。
「このようなことを、本当にしなければならなかったのですか。もっと他に手が……」
「ねえ」
俺は二人を振り返る。ニーナに言った。
「ニーナ、これからレフカンディに向かうにあたって一番おっかねえこと、気をつけるべきことは何か、言ってみろ」
ニーナは必死に考えたあと、慎重に答えた。
「やはり、ドラゴンナイトとペガサスナイトの急襲ではないでしょうか」
「違う」
この段階でマケドニア軍が全力で来たら、確かにおっかねえがな。
「俺たちがレフカンディに着いたところで、オレルアンとグルニア、マケドニアから挟み撃ちにされることだ」
タリスに対してはシーダを人質にとったが、オレルアンに対してそういうことはしてねえ。なんでかって、人質にできそうなやつがいなかったからだ。「奸臣の手からニーナ姫を取り戻す」みたいな名目でオレルアンが俺たちを攻撃してくる可能性はある。
ここでオレルアン王の心をへし折っておく必要があった。
「時間をかけて、オレルアン王を説得することはできなかったのですか?」
ニーナが言った。シーダも同感らしい。俺は鼻で笑った。
「時間をかければ、俺たちへの敵意はたまる一方だぞ。戦いのない時の兵士なんざごろつきと変わらねえからな」
すでに俺は、アイルトンやヴィクターから報告を受けている。日々の生活があるわけじゃないので、暇を持て余したやつが乱闘騒ぎを起こしたり、店を荒らしたりと、ろくでもねえことをするのだ。訓練だって四六時中やってるわけじゃねえし。
「それに、軍隊ってのは無駄飯ぐらいなんだ。オレルアンだって食いものが余ってるわけじゃねえ」
兵士たちの食う飯は誰が用意するのか。オレルアン民だ。ごろつきを食わせないといけないとなれば、そりゃあ鬱憤も溜まるだろう。いい加減出ていかないとやべえ。呑気にオレルアン王と仲良くなんてしてられねえんだ。
「オレルアン王を説得したいなら、お前がやっておけ。それも総大将の仕事だ」
「説得といっても……」
困り果てるニーナに、俺はため息をつきながら一つだけ教えてやる。
「俺がオレルアン王に、アイルトンとヴィクターがオレルアン貴族になっただろう? これで、形の上ではオレルアンも同盟軍に兵士を出していることになるわけだ。俺たちが手柄をたてれば、それはオレルアンの手柄になる」
これ、けっこう大事なんだがな。
ドルーアを潰した後で、オレルアンは軍資金の提供しかしませんでした、兵を出してないので手柄は立てられませんでした、ってならずにすむんだぜ。
「こうまでして同盟軍に協力しているオレルアンは、やはりアカネイアと結びつきが強いんだ、それにオレルアンは出自にこだわらないんだってアピールにもなる。そういう見方があるってことを教えて、あとは適当になだめすかせ。あいつだって王様なんだし、冷静になればわかるだろ。お前の立場の弱さも分かってるしな」
ニーナと、それからシーダもどこか呆れた顔で俺を見た。
「それだけ聞くと、オレルアンのことをずいぶんと考えているように聞こえますね……」
「何も考えずに行動するとしたらどうするか、教えてやろうか」
ちょっとイラッときたので、俺は冷たい笑みを浮かべて言った。
「お前をドルーアに送りつけてタリスからオレルアン一帯を褒美にもらう。俺が考える人間で命拾いしたなあ、おい」
ニーナは顔を青くして口をつぐんだ。俺は鼻で笑って続ける。
「安心しろ。お前の体はエロい。それに役に立つ。あと、俺はガーネフの野郎が気にくわねえ。ドルーアのことも信用してねえ。よっぽどのことがない限りやらねえよ」
そうして二日後、俺たちはレフカンディへ向かった。
ちなみにファイアーエムブレムはニーナに持たせたままだ。俺が持ってても権威づけにすらならねえからな。宝箱はリカードに任せときゃいい。
ガザック軍編成
ガザック シーダ アイルトン
海賊 海賊 カシム
レナ ヴィクター 戦士
戦士 マチス ニーナ
リカード ウェンデル