(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「レフカンディの罠」1

 明日にはレフカンディに着くという日の夜、俺はテントの中でレナを抱いていた。

 数を重ねていることもあって、最近はシーダもレナもなかなかいい反応を見せるようになっている。こっちも余裕があるから、どのへんが弱いかいろいろ試してるしな。性生活は順調である。羨ましいだろう。

 そうして何戦かすませて休憩に入ったとき、レナがむくりと起きあがった。テントの中にはランプの小さな明かりだけがある。

 

「あの、少しお話ししたいことがあるのですが……」

 

「いつもの説教か」

 

 俺はそう言って先を促した。脅して股を開かせている関係なんだから当然なんだが、体の相性がよくなっても、レナの俺に対する態度は変わりゃしない。それはシーダもニーナも同じだ。

 レナは抗議するような目で俺を軽く睨むと「違います」と怒ったふうに言った。

 

「私に懺悔をした人たちの何人かが言っていたのです」

 

「懺悔?」

 

 初耳だった。先にそのことについて問いただす。

 マチスと再会したころから、レナは兵士たちの懺悔を聞くことにしたらしい。兄貴に「自分の信じる道を」と言ったことを振り返り、自分が何をすべきかをあらためて考えたそうだ。

 で、これがけっこう人が集まった。

 

 俺も手下どもに対して薄々思っていたことだが、海賊って割と迷信深いというか、信心深いやつが多い。この世界の航海技術って、頑張ってはいるんだが運任せなところがでかいからな。神頼みだってしたくなるだろう。

 

 しかし、海賊ってのは馬鹿だから懺悔というものをわかってないやつが多い。真面目な懺悔もあるにはあったが、愚痴をこぼしにくるやつも出た。ただレナと話したいから、ってだけで懺悔の名目で来るやつまで出てきた。レナは美人だからな。分からんでもない。

 

「海賊をやっている人たちの多くが、最近のあなたが自分たちと全然酒を飲んでくれなくなった、とこぼしています」

 

 俺は目を丸くした。言われてみると、俺の魂が覚醒する前のガザックは、よく部下たちと酒盛りをしていた。最近、徐々に薄れていっているガザックの記憶には、そういう光景がたくさんある。

 

 たしかにその通りだ。日々の忙しさにかまけて、といったら言い訳になるが、俺は他のことにばかり集中していた。やらなきゃならねえことが山積みだからだ。

 

 ひやりとした。

 働きに応じた金や褒美はやっている。飯も食わせている。女だって、娼婦たちをちゃんとあてがっている。だから、やつらは黙って俺に従うと思っていた。ドルーアとの戦いまでついてくるものだと思いこんでいた。

 

「お前には感謝しなけりゃならねえな」

 

 今回ばかりはさすがに俺も頭を下げた。しかし、同時に疑問が湧く。

 顔をあげて、俺はレナに聞いた。

 

「だが、どうして俺に教えた? お前は俺が嫌いだろう? いや、嫌いなんてもんじゃねえはずだ」

 

 オレルアンの町を二つ焼き払った件で、レナは激怒した。しばらくの間、俺と口をきこうとしなかった。正直、軍を抜けるんじゃねえかと思ったほどだ。オレルアンでの戦いで、こいつにもマチスにも褒美はくれてやったしな。マケドニアまでの旅費は充分だ。

 

 だが、こいつは軍に留まった。一昨日には、いつも通りに戻った。それが不思議でならねえ。

 

「言うべきだと思ったから、私は申しあげました。それだけです」

 

 レナの声は、その意志の強さを示すように、気持ちいいほどはっきりとしている。

 たとえ悪人でも、見過ごせなければ手を差しのべる。その信念に基づいたってわけか。

 

「たしかに、あなたへの不満も、怒りも、たくさんあります」

 

 胸の前で、レナは両手を組む。無意識の動作なのか、それとも、祈ることで感情をおさえようとしているのか。俺にはわからない。レナは言葉を続けた。

 

「ですが、あなたとはじめて会ったときに言われたことを、まだ私は覚えています。アカネイアの名のもとに平和を取り戻す。あなたに協力することが、私の理想への最短距離だと」

 

「ドルーアの方がましだった、なんてことになるかもしれねえぞ」

 

「私は、あなたを信じます」

 

 凄んでみても、レナは俺から視線をそらさずにはっきりと言った。俺はため息をついた。

 

「わかった、わかった。平和にする気はあるから、そこだけは安心しろ。それと、さっき言ってた懺悔な、一日あたり多くても三人までにしろ。忙しいときは減らせ」

 

「なぜですか?」

 

「深刻なお悩み相談ばかりきてお前がまいったら、こっちが困るんだよ」

 

 回復役がウェンデルのジジイだけになったら、総崩れが冗談じゃなくなる。

 

「あと、お前自身が愚痴を言える相手はいるのか。いなけりゃ俺が聞いてやる」

 

 懺悔を聞くなって言っても、こいつ絶対に止めないだろうしな……。こっちがいくらか譲って何とか妥協させるしかねえ。手のかかる女だ。

 

 レナは不思議そうな顔で俺を見たが、かすかに表情をやわらかいものにして言った。

 

「時々、シーダ様やニーナ様に聞いていただいてはいますが……。わかりました。では、愚痴を言いたくなったらその時はお願いします」

 

 

 翌日、レフカンディに着いた俺はテントの設置を終えると、前祝いと称してアイルトンたちと酒盛りをした。そこにヴィクターたちも混ざって、さらににぎやかになった。まあ、こういうのは大人数の方がいい。

 こんな遠くにまで来るとは思ってなかった、って声が多かった。

 

「ガルダに帰りてえのか?」

 

 俺が聞くと、親分が行くところならどこまでだってついていきやす、って答えてくれたが、本音はたぶん違うんだろう。そのへんは元サムシアンも変わらなかった。

 

 シーダとレナはやっぱりこいつらの中で人気がある。だが、俺が「やらねえぞ?」と念を押すように言ったところ、蔑むような目でアイルトンから見られた。

 

「わかってねえすよ、親分」

 

 こいつの言い分を聞いてみたところ、性欲を娼婦で発散できてるってのもあるみたいだが、相手が高嶺の花の美人で、絶対に手出しできないってことが、逆に信仰みたいな、変にプラトニックな方へ行っちまったらしい。えー。お前、そんなキャラだったの。

 

 もっとも、こういうのはアイルトンだけでもないらしく、レナの読み書き講座で、そっとレナの尻に手を伸ばしたやつがいたが、袋だたきに遭って失敗したという話も聞いた。レナからは聞いてねえ。手下のために黙っておくことにしたのか、あいつ。

 

 カシムやリカードが海賊たちに混じって博打をしたり、マチスが山賊と飲み比べをしたり、俺たちは騒いで馬鹿話をして、夜は更けていった。


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