(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「港町ワーレン」1

 ワーレンが見えてきた!

 港町ワーレン! おお、ワーレン!

 ついに来たぞ! この日をどんなに待ち望んだか!

 

「楽しそうですね」

 

 上機嫌に鼻歌を歌ってる俺を見て、ニーナが呆れたように言った。お前、この町がどれだけありがたいのか分かってねえな?

 

「そりゃあ楽しくもなるさ。ようやく悩みのいくつかから解放されるんだからな」

 

 俺を苦しめているものはたくさんあるが、その一つに傷薬&ライブ問題がある。

 同盟軍の主力は海賊と戦士(元山賊)だ。言ってることがおかしいというか悲しいが、事実だ。

 そしてこいつらは力こそ強いし守備力も案外あるが、技も速さも移動力もお粗末すぎる残念なユニットだ。しかも使える武器は斧だけときてる。

 

 こいつらで戦い抜くのに、傷薬とライブは欠かせない。が、傷薬はとっくに使いきり、ライブももう残りわずかでリブローを使い潰すつもりで戦うような状況だった。

 それが改善される!

 

 もう一つはユニットの問題だ。

 今言ったように偏りすぎなんだよ、うちは。なんで七章まで来てるのに主要メンバーが斧使いばっかで剣を使えるのがマチスとシーダしかいねえんだ。FEって剣があってなんぼでしょ!?

 でもってシーダは万が一の事態が怖くて前線に出せねえ。リカード? あいつも前線無理。弱くて。

 ようするに剣の使い手はマチスしかいなかったんだが、それも昨日までの話だ!

 さあシーザ君とラディ君おいでー!

 

 ワーレンに着いてもシーザとラディが姿を見せなかったのでこっちから呼びかけたら、次のような返事をいただいたでござる。

 

「俺たちは傭兵だ。雇い主を選ぶ自由がある」

 

 ふ、ふーん! ふーーーーん!

 いいもん! けっ! 別にお前らなんて全然ほしくなかったもん! (オグナバがいないから)傭兵枠にちょうど空きがあったのに残念だなー! とっても残念なことをしたなー!

 あとでやっぱ雇って、って言ってきても聞いてやらないもんねーーーー!

 

 くっそ泣きたい。最悪の予想が当たっちまった。ハーディンたちがあんなだったから、もしかしたら、って思ってたが、本当にそうなるとはな。

 傭兵っていやオグマは今頃どこでどうしてるんだろうか。ナバールは殺したからいいとして、オグマは絶対に俺の首を狙ってると思うんだよな……。タリスからは何の連絡もねえし。

 まあいい。考えるだけ無駄だ。

 幸い、グルニア軍はまだこっちに向かってきていないようだ。さっさと次の手を打とう。

 俺はシーダとレナを呼んで、あることを命じた。

 

 

 翌日、ワーレンの目抜き通りを、一台の馬車がどんがらどんがらドンツクドンツクいいながら通っていた。

 もちろん俺である。手下の中で楽器がいじれるやつにラッパや竪琴を使わせ、俺自身は幌を取っ払った馬車の上にでっかい椅子を置いて、そこに座っていた。シーダとレナをはべらせて。

 シーダとレナはそれぞれ胸元が大きく開いた安物のドレスを着て、かつらをかぶり、顔にはけっこう厚めの化粧をしている。ドレスには工夫をして、尻も強調できるようにしてあった。変装だ。この変装で魅力が3割ぐらい落ちているんだが、変装なんだからそれでいい。

 

 こんなふうにやかましくしながら練り歩いていると、ワーレンの住民がなんだなんだと集まってきた。そこで声のでかい手下がこう言った。

 

「我々はドルーアと戦っているアカネイア同盟軍であーる! 新たな兵を募ることにしたのでそれを知らせに来たのであーる!」

 

 俺はシーダとレナの腰を両手で抱えて立ち上がり、集まってきた連中を見回した。

 

「いいか! 戦場というグラウンドにはゼニが落ちている!」

 

 正義だの何だのなんてのは、ニーナに任せりゃいい。

 

「俺にも手柄をたてる機会があれば! 活躍できる場所さえあれば! いままで生きてきて、一度でもそう思ったことはないか!」

 

 ちょっと恥ずかしくなってきたので、いっそう声を張りあげる。

 

「機会をやる! 戦場だ! 場所をやる! 戦場だ! 武勲をたてればお前は多くのものを得られる! 仲間の賞賛! 金! 女!」

 

 ここで俺はシーダとレナを抱き寄せてささやいた。「愛想笑い、愛想笑い」。

 シーダとレナは作り笑顔で住民たちに小さく手を振った。上出来だ。媚びた笑顔とか投げキッスとか、まあこいつらには無理だしな。俺は声を張りあげた。

 

「だが、何よりも名誉が手に入る! 俺はこれだけのことを成し遂げた! そう誇ることができる! 親に、兄弟に、先祖に! もう一度言おう。グラウンドにはゼニが落ちている!」

 

 違った。戦場だ戦場。俺は間を空けると、静かに言った。

 

「正義を信じて戦う。それはけっこうだ。素晴らしいと思う。だが、それ以上に、自分の誇りのために戦う人間を俺は肯定する。――以上だ。俺たちは同盟軍の宿舎で待っている」

 

 椅子に座り直して御者に出発を命じる。

 つい調子に乗ってしまった。何だ、誇りって。いかにもエロそうな格好の女をはべらせておいて誇りもくそもあるか。

 もうちょっと欲望を煽る方向でいくつもりだったんだが……。ネタ元に引きずられすぎたか。傭兵のバイブル『ホー○ウッド』です。

 

 今頃、町の反対側ではニーナが演説をしているはずだ。

 こっちはアカネイア陥落時の悲惨な状況を切々と訴え、親を失ってつらい逃亡生活を続けていた可憐な王女という部分をとにかく強調し、正義と義憤で胸をいっぱいにしやすい人々へ呼びかけました。顔とスタイルはいいからな、ニーナは。ポンコツ具合も短い時間なら隠せるだろう。

 そうして人通りのないところに出ると、俺はシーダとレナを解放した。

 

「ご苦労さん。疲れただろうからお前らは宿舎に戻って休んでろ」

 

「疲れてはいませんが、化粧がべとべとするのが少し……」

 

 シーダが頬に手を当てる。レナも苦笑した。

 

「化粧をしたことはありますが、こんなに濃い化粧ははじめてです」

 

「水じゃなかなか落ちねえから、湯を沸かしてタオルを絞って拭け」

 

 俺は馬車から降りると、何人かを連れて闘技場へと向かった。

 

 

「ここは闘技場だ。かけ金は1120Gだがやってみるかい?」

 

 それ最高レベルの敵が出てくる数字ですよね?

 しかし海賊は戦士と同じ扱いなのか。まあいいや。

 

「そういう話をしにきたんじゃねえんだ。冷やかしでもねえぞ」

 

 俺は眼帯をしたおっさんに言った。

 

「ここの剣闘士で、使いにくい、使いものにならないやつがいるだろう? そいつらのリストがあったら見せてくれ」

 

 闘技場なら、そういうやつがいるはずだ。

 たとえば年をとりすぎて活躍できなくなったやつ、体に故障を抱えて全力を出せないやつ、特定の才能はすごいがそれ以外がてんでダメで、総合的に使えないと烙印を押されたやつ……。

 そう、マネーボールを俺は実践させてもらう!

 

「あんた、奴隷商人か?」

 

 眼帯の男はうさんくさそうな目で俺を見た。俺は笑って言った。

 

「海賊で軍の指揮官だ。まあ似たようなもんだな」

 

「へえ。よっぽど人がいねえんだな、あんたの軍は」

 

 ともかく、眼帯の男はリストを見せてくれた。

 すげえな。アーマーナイトにソシアルナイト、傭兵、魔道士、戦士に盗賊……。おおお、パラディンに司祭、ドラゴンナイトに蛮族までいやがる。

 とはいえ、俺たちもそんなに金はねえからなあ。あと性格も考慮したい。金のために割り切って戦ってくれるやつが一番望ましい。俺に逆らうやつは駄目。

 

「この氷竜はどうだ? 兵士五十人分は食うが、五十人分の働きをするぞ」

 

「性格はどうなんだ? 人間に懐くのか?」

 

 眼帯の男がさかんに勧めてくるので、俺は肝心な点を聞いた。気性が荒くて暴れるようなやつは置いておけねえ。

 

「人懐っこいぞ」

 

「どれぐらい?」

 

「すぐに飛びかかってくるぐらいだ。世話係が何人か死んでる」

 

「いらねえ」

 

 俺たちは値段も含めた交渉を重ねて、商談を成立させた。

 アーマーナイトのエイブラハム、魔道士のエステベスを俺は買いとった。エイブラハムは中年で、技と守備力はそこそこだが、力と速さが壊滅的というだめなやつだ。

 エステベスは力もHPも高いが、速さも技も絶望的で、何より物覚えが悪くてファイアーとサンダーしか使えない。しかも話を聞くかぎり、二人とも成長率はジェイガン級っぽい。だが、いないよりはいい。

 よし、これで戦力の増強ができたでえ!


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