(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「港町ワーレン」2

 宿舎に戻ると、ニーナも帰ってきていた。シーダとレナと何やら話していたが、俺の顔を見ると笑顔でまくしたてた。

 

「私、今日ほど感動した日はないかもしれません。はじめるまでは正直不安でしたが、私の演説をあれだけ多くの人に聞いてもらえて……。最後はわあっと歓声まであがって」

 

 ニーナは目を潤ませて喜んでいる。俺はにやりと笑った。

 

「言っておくが、サクラを混ぜてたからな」

 

「サクラ?」

 

「民衆のふりをした盛りあげ役だ」

 

 俺の言葉に、さきほどまでの笑顔はなくなり、ニーナは見る見る落胆した顔になる。レナとシーダが非難がましい目で俺を見た。

 

「もう少し言い方があると思いますが……」

 

「そんな手を使わずとも、ニーナ様なら多くの人を感動させることができたと思います」

 

「確実に勝つために手段を選んでられねえんだよ、こっちは」

 

 それに、どう言い繕おうがサクラはサクラだろうが。

 俺はそう言おうとしたが、打ちひしがれているニーナを見て、さすがに気の毒になったのでやめた。

 

「ええ、そうですね……。所詮私は神輿。実績など何もない、ただ逃げまわっていただけの小娘……。そんな人間の言葉に耳を貸す者なんて……」

 

 俺はレナに視線を向けた。こういう時こそシスターの出番だろう。だが、レナは俺の視線に気づくと顔を背けた。くそっ、今夜を楽しみにしてろよ。

 俺はため息をついて「おい」とニーナに言った。

 

「言い方が悪かった。サクラってのは成功する可能性を高めるものでしかねえ。失敗するときはするんだ。歓声まで上がったっていうなら、お前の訴えはそれなりに届いたんだろうよ。悲観することはねえ」

 

「……あなたに慰められる日が来るとは思いませんでした」

 

 ニーナは苦笑した。立ち直りが早くなったな。けっこうなことだ。

 

「それで、演説でちゃんと言ったろうな。タリス、オレルアン、それからマケドニアにカダイン」

 

 俺が確認すると、ニーナはうなずいた。

 

「はい。我々にはタリスとオレルアンがついている。マケドニアやカダインの民で正しい志を持っている者も我が旗に集っていると……。でも、いいのでしょうか」

 

 俺はレナに歩み寄り、その腰をつかんで引き寄せた。

 

「こうしてちゃんといるんだから何も問題ねえさ。次はシーダとレナにそれぞれ演説をやってもらいたいところだが……」

 

 ただ、そろそろ時間切れだろうな。

 そう思ったとき、兵士が報告に来た。

 

「西の砦にグルニアの大軍が集結しているとの知らせです! この町は包囲されています!」

 

 

 兵士の報告から少し遅れて、ワーレンの町から通告が来た。要約すると「お前ら、とりあえず出てって」というものだ。

 俺たちを追いだすことでグルニアの機嫌を取り、かつ俺たちとグルニア軍をぶつけ合わせて自分たちの安全を確保しようってか。

 

 俺は「俺たちが追い払ってやる」という返書を持たせて兵士を走らせる。それから主だった連中を部屋に集めた。今回はリカードやウェンデルも呼んだので、かなりの大所帯だ。

 机の上に地図を広げた。もうおなじみの光景だ。

 

「この町の西側の入り口。この門で敵を食い止める」

 

 兵がある程度育っていれば、マップ中央の山あいで食い止めるんだがな。とりあえずアーマーナイトのエイブラハムの能力を見るとしよう。

 

「その間に、俺と手下たちで海をわたって、北東の城を襲う。シーダは俺についてこい。方角確認と周囲の警戒だ」

 

 海には海賊しかいないはずだし、近づけさせなけりゃ問題ねえだろ。

 

「門を守るのはエイブラハムにやらせる。ヴィクターたちは門の近くで待機。エイブラハムの援護だ。敵が撤退したら追撃しろ。アイルトン、カシム、マチスもだ。エイブラハムを支えるのはウェンデルに任せる。いいか、こいつは籠城戦だ。耐えろ。飛びだすな」

 

 厳命する。下手に動けば囲まれて死ぬ。それだけの大軍だ。魔道士のエステベスと、念のためにバヌトゥも待機させるか。後でバヌトゥだけ呼んで、いざとなったら火竜になってもらうよう言っておこう。

 

「ニーナは安全なところから戦場を見ていろ。入り口そばの城壁の上あたりがいいな。矢が近くに飛んできたら下がれ。レナはニーナのそばにいろ」

 

「私が戦場に立っているところをワーレンの人々に見せようということですか?」

 

 へえ、少しは察しがよくなったじゃねえか。まだ甘いが。

 

「それと、予行演習だ。パレス奪還戦に向けてのな」

 

 パレス奪還という言葉に、部屋の中の空気が変わった。ニーナが緊張した顔で俺を見る。

 

「分かりました。頑張ります」

 

 あ、分かってねえ。俺はレナに言った。

 

「少しでも危ないと思ったら、このポンコツを殴ってでも下がらせろ。予行演習で怪我とか御免だからな」

 

「おいらは?」

 

 リカードが聞いてきた。

 

「お前は町の中で噂を流せ。同盟軍がグルニアの大軍を撃退するってな。敵の数を五倍から十倍ぐらいにふくらませろ。あと、暇そうな吟遊詩人を見つけてこい。有名なのは金にうるさそうだからパス。無名で上手い奴を見つけてきたら小遣いを弾んでやる」

 

 リカードは目を輝かせてうんうんと頷いた。オレルアンでもそうだったが、こいつは戦闘以外のこうしたことを割と器用にこなす。拾いものだ。

 ニーナが不安そうな顔で聞いてきた。

 

「吟遊詩人を集めて何をするつもりですか?」

 

「決まってるだろ。健気で勇敢なニーナ姫がグルニアに立ち向かうってのを歌にして流行らせるんだよ」

 

 民間レベルで味方を作ってやる。

 

「そんなニーナ姫を支えるのは、ペガサスを駆る可憐なタリスの王女と思慮深いマケドニアのシスター。これで行け。男は綺麗な女に弱いからな」

 

 ニーナとシーダとレナは唖然とした顔で俺を見た。

 ヴィクターとアイルトンとリカードが腹を抱えて笑い、カシムはシーダに遠慮してか、笑いを必死にこらえている。ウェンデルのジジイでさえ苦笑していた。マチスだけは「思慮深いかねえ。強情なだけじゃないか」とか言ってレナに睨まれていた。

 

 軍議を終えて解散したあと、俺はニーナを呼びとめた。

 

「俺がいない間に、お前にやっておいてほしいことがある。このワーレンのまとめ役は知ってるな?」

 

「評議会のことですか?」

 

 ワーレンを運営しているのは、数十人の裕福な商人たちで構成された評議会だ。

 

「やつらに資金を出させろ。グルニア軍と戦う前に会う約束を取りつけて、勝った後に会うんだ。下手に出る必要はねえ。飯でも奢らせて、いま俺たちに協力すれば見返りはでかいと言ってやれ」

 

 ニーナは不思議そうな顔で俺を見た。

 

「いつも、勝つことが前提になっているのですね、あなたは」

 

「負けた後のことは考える必要がねえからな。やり方は任せる。頼んだぞ」

 

「努力してみます」

 

 さっきの言い回しを反省したのか、ニーナは笑って頷いた。

 

 

「紋章の謎」では、味方ユニットに海賊がいない。そのため、この章をクリアする手は二つ。

 マルスをワープで敵将カナリスのそばに送り、ぶちのめして攻略。

 グルニアの大軍を蹴散らして陸地を前進して攻略。

 だが、俺たちは海賊だ。第三の手がある。

 

 というわけで、海に出た。

 シーダを偵察に使って、まず沿岸にいる海賊を襲う。手斧を投げまくって掃討し、銀の斧を手に入れた。

 おお、銀の斧! デビルアクスに次ぐ海賊必携の武器! だけど第一部じゃここでしか手に入らないオンリーワンの武器よ! そりゃ斧がこんな扱いじゃバーツだってぐれるわ!

 感激して銀の斧を撫でまわしている俺を、シーダが不気味なものを見る目で見ていた。銀の槍を使えるお前には分かんねえよ。

 そして、俺たちは再び海を突き進んで、北東の城に着いた。これにはカナリスもびっくり。

 

「お、お前達、どうしてここまで……」

 

「海を渡ってきたに決まってんだるぉぉぁぁ!」

 

 これだよ、これ! 俺が望んでいたのは! レフカンディでは死にそうな目にあったけど、オリ主が転生したんだからこうして原作知識を活かして圧倒するべきなんだよ! ガハハハハ!

 

「くそ……もはやこれまでか!」

 

 カナリスは銀の槍を持つアーマーナイトだが、一撃さえ耐えればあとはこっちのもんだ。ハイテンションな俺はさっそく銀の斧の試し切りをすることにした。

 いやー、銀の斧すごいわ。アーマーナイトが紙のようだった。

 

「グルニアばんざーい……ぐふっ」

 

 俺はカナリスを討ちとり、シーダを町へ戻してそのことを伝えさせた。

 でもって、カナリスから手に入れた女神像をさっそく自分に使ったが、確認する勇気はない。

 

 

 三日後、シーダが海を渡って戻ってきた。

 カナリスの死を知ったグルニア軍は驚き、怯えて潰走し、アイルトンたちは追撃をかけて散々蹴散らしたらしい。エイブラハムとエステベスも奮闘したそうで、まずまずの結果だ。

 ニーナは(安全なところとはいえ)戦場に立って兵たちを見守っていたことで、兵からもワーレンの住民からも高い評価を得た。

 

 さらに二日が過ぎたころ。陸地を進んできたニーナたちがここに到着した。ニーナは二つのことを俺に報告した。

 一つは、評議会との交渉のこと。どうも舐められまくったらしい。

 

「協力の代価として、オレルアンとタリスの諸権利を渡せと言われました。さらにパレスを取り戻した後の交易の優先権まで……」

 

 よほど腹が立ったのか、ニーナは肩を震わせている。この交渉に同席していたレナも、ニーナをなだめようとしなかった。こいつも怒るようなことがあったのか?

 

「他に何を言われた?」

 

 俺が促すと、レナは憤然として、しかし言いにくそうに答えた。

 

「私たちに、夕食をともにし、屋敷に泊まっていくようにと……。もちろん断りましたが。それに、ことあるごとに私たちの手を握ってこようと」

 

 ははーん。

 

「焼くか、そいつらの屋敷」

 

 俺ならやると思ったのだろう、ニーナたちは慌てて止めに入った。町を焼かねえだけ優しいだろう。

 

「わかった、わかった。じゃあ、やつらに手紙を出せ。パレス奪還後にまた会おう、それと、俺たちがパレスを取り戻す頃に、庶民の日常生活に必要なものを大量に用意してパレスに持ってこいとな」

 

「たしかにそれは必要ですね。分かりました」

 

「いいか。この手紙は、評議会の商人一人一人に出せ。そうすりゃ、悪くても何人かは乗ってくるだろう」

 

 やつらに競争させつつ、ふるいにかけてやる。

 今はこれで済ませてやるが、商業国家ってのは帝国に呑みこまれるもんだと、いずれ教えてやるからな。

 

 もう一つの報告は、朗報と言っていいかどうか微妙なところだった。

 ニーナに紹介されて、真新しい鎧を身につけた若い男が俺の前に出る。

 

「カーツといいます。よろしくお願いしますっ!」

 

 俺の募兵やニーナの演説を見て集まった義勇兵の代表がこいつ、ということらしい。じーっと目を凝らして見てみると、クラスはソルジャーでレベルは1だとぼんやり分かった。

 ソルジャーか……。海賊が味方にいるんだからいてもおかしくはねえけど。新兵なら「聖魔の光石」のアメリアみたいなのが欲しかったなあ……。

 まあ人手不足だし、鍛えればものになるかもしれない。ヴィクターにサポートさせて、やらせてみるか。

 

 あと、沿岸にいた海賊の残党が俺たちに従うと言ってきた。行き場をなくしてとりあえず食うために潜りこもうってとこらしい。こっちはアイルトンに任せるか。

 

 さて、俺がこの城を奪ってから五日が過ぎているわけだが。

 

 カチュアが来ない。

 

 毎日毎日城のバルコニーで待ってたのに。

 なんで? またアレ? 僕ちゃんが海賊だから? シーザたちと同じ流れ?

 もしかしてひそかにカオスフレームが設定されてるんじゃねえだろうな、この世界。一章でマルスたちを殺したことで最低値になってるとか(ゲームが違います)。

 とにかくカチュアが来ない。その気配すらない。

 こうなったら、こちらから出向いてやる。

 俺はバルコニーにニーナたちを呼んで、明日出発することを告げた。もう準備はできていたから問題ない。

 

「ディールへ向かう」

 

「あの地はいまグルニア軍の占領下にありますが……。何か考えがあるのですか?」

 

 潮風にマントをなびかせながら、俺は答えた。

 

「ちょっと姉妹丼をいただきにな」




ガザック軍編成
ガザック    シーダ    アイルトン
海賊      海賊     カシム
レナ      ヴィクター  戦士
戦士      マチス    ニーナ
リカード    ウェンデル  バヌトゥ
エイブラハム  エステベス  カーツ

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