(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「ガザックの旗揚げ」2

 白馬に乗ったジジイ。

 間違いなくジェイガンだ。他に該当する敵がいない。

 俺には理解できなかった。なんでジェイガン? ナンデ?

 慣れたプレイヤーなら、ジェイガンにたとえ1でも経験値を渡すなんてもったいないことはしない。レベルが上がってもステータス上昇が望めないジェイガンだぜ。

 

「そのジジイは何か武器を持っていたか?」

 

 俺は聞いた。ジェイガンを使って、こちらをおびきよせようとしているのではと思ったのだ。

 FEシリーズでは基本的な手だ。守備力の高いユニットを前進させて敵を釣り、控えている他ユニットで囲んで倒す方法である。パラディンなだけあってジェイガンの守備力はドーガに次いで高い。これもいい手だ。

 

「へい、銀の槍を持っているようで」

 

 俺は大声で嘘だろ、と叫びかけた。何だ、それ。あれか、二軍落ちユニット限定縛りプレイか。あるいはよくわかってない新規プレイヤーか。

 それとも、俺がゲーム脳すぎたのか。

 いや、リアル寄りで考えたら、ジェイガンみたいなポジはマルスのそばにくっついて離れないもんだし、マルスは総指揮官として後ろでかまえているもんだろう。

 一騎駆けなんてやるはずがねえ。

 手下がやられたと報告が続けて入る。早い。ただし手傷は負わせたらしい。

 

「予定変更だ。ジェイガ……そのジジイを囲んで殺せ!」

 

 ジェイガンも倒すべき敵には違いない。ゲームの話でいえば、必殺が出ないかぎり、手下たちが一撃でやられることはない。

 砦で回復しながらローテーションを組んで攻撃すれば、いずれは殺せるはずだ。俺とアイアンサイド(レベル三相当の海賊)も加われば、もう少し楽にいける。

 草原を走る。すぐに砦が見えてきた。

 砦の前で、ジェイガンは俺の手下たちに囲まれながらも、銀の槍を振りまわして次から次へと薙ぎ倒している。ジジイだってのに、荒くれ者の集まりである海賊たちが怖じ気づくほど強い。

 アイアンサイドがジェイガンに襲いかかった。ジェイガンの銀の槍をかわして(砦の効果か?)反撃を叩きこむ。血飛沫が飛んだが、ジェイガンはまだまだ元気そうだ。

 

「ハンターたち、矢を射かけろ!」

 

 砦の後ろにいるハンター部隊が、俺の命令に答えて矢を射放つ。

 矢の雨が降って、何本かがジェイガンに命中した。

 馬上で、ジジイの体がぐらりと傾く。見た感じ、もう少しでやれる!

 

「うりゃあぁぁあ!」

 

 俺は鉄の斧を振りあげて突進した。ジェイガンがこちらに気づいて迎え撃つ。俺の繰りだした斧はジェイガンの乗っている馬の前脚に食いこんだ。鮮血が散った。

 ジェイガンは左手で手綱を操ってバランスをとりながら、俺の胸を銀の槍で突く。

 体がかっと熱くなり、頭の中が真っ白になった。これが焼けるような痛みってやつか。

 体中の血液がどくどくと激しく流れているのがわかる。胸から流れた血が服を赤く染める。血も汗も止まらない。

 ようやく痛みが伝わってきて、口から何か変な声が漏れる。俺の声じゃないみたいだ。

 痛みやら何やらでテンションが高くなりすぎたのか、ガハハハって笑ってしまった。ヴ○ンランド○ガに出てくる海賊みたいに。痛い痛い。

 海賊の一人がジェイガンに襲いかかる。ジェイガンはその海賊の攻撃を避けると、くるりと銀の槍を回転させて一撃でその海賊を突き倒した。

 ハンター部隊がもう一度、矢を射放つ。当たった。

 アイアンサイドが襲いかかる。だが、その一撃はかわされる。しかし、アイアンサイドもジェイガンの槍をかろうじてかわした。偉い。

 

 ジジイ一人相手に、総力戦だった。さらに二人の海賊がジェイガンに襲いかかり、返り討ちにされた。だが、ユニットとしてはまだ残っている。よし。

 俺は斧。やつは槍。三すくみ的には俺が有利。いける、いける。当てれば勝ちだ。もしもかわされたら、おそらく反撃で確実に殺されるけど。ここで傷薬を使えば、もう一撃はしのげるだろう。だが、俺がジェイガンなら逃げる。パラディンの移動力は10で、海賊の二倍。絶対に追いつけない。そもそも歩兵が騎兵に追いつける道理はない。

 

「うがぉあぁぁぁ!」

 

 やっぱり俺は胸の傷のせいでハイになっていたんだろう。猛然とジェイガンに襲いかかる。跳躍して、斧を振りあげ、驚くジェイガンに叩きつけた。

 肉厚の刃がジェイガンの鎧を叩き割り、腹部を深く切り裂いて血を噴きださせる。俺はバランスを崩して地面に落ちた。

 血まみれの斧を握りしめ、呼吸を荒らげながら、俺はジェイガンを見上げる。

 ジェイガンは俺を見ておらず、血がとめどなく流れる腹の傷に手をやったあと、ぼんやりと空を見上げた。

 

「マルス王子、強くなられよ!! 負けてはなりませぬぞ……」

 

 ここにはいない王子に呼びかけ、そのままぐらりと馬から落ちた。

 俺は立ちあがると、白馬を回りこんでジェイガンのそばに立つ。その手から銀の槍は離れて転がっており、ジェイガンはもう動かなかった。

 何となく白馬を見ると、こいつも震えていた。傷だらけだった。俺も切ったしな、なんて他人事のように思った。ジェイガンが死んだ以上、こいつもすぐに後を追うんだろう。

「紋章の謎」に三すくみがないことを俺がぼんやりと思いだしたのはこのときだった。あれは「聖戦の系譜」からだ。

 

「親分、手当てをしないと……」

 

 自分も血まみれのアイアンサイドが言った。俺はやつをじろりと睨みつけたあと、ジェイガンを見下ろす。口元を歪めた。まだ終わってねえ。まだ戦いは終わってねえんだ。胸の痛みが俺に笑みを浮かべさせた。

 

 俺は鉄の斧でジェイガンの首を切り落とすと、それを銀の槍に突き刺して砦の門の前に掲げた。首のない死体は、やっぱり死んだ白馬といっしょに埋葬させた。

 

 

 ジェイガンの死が伝わったせいかどうかはわからないが、アリティア軍の動きは鈍かった。

 ドーガが先頭に立ち、その後ろにゴードンがつき、左右をカインとアベルが固めるという、俺の想定した陣形で前進してきたのだ。

 ちなみに、四人ともそれぞれ兵士を率いている。どうもタリス兵と義勇兵の寄せ集めってとこのようだ。

 

「素人が」

 

 砦でその報告を受けとった俺は嘲笑した。

 たしかにそれは手堅い手だ。ただし、これはドーガに移動力を合わせることになるので、カインとアベルのソシアルナイトとしての特性を殺すことになる。この状況でそれは悪手だ。

 そうやってちんたらしている間に、俺やアイアンサイドは砦で傷の手当てをできる。このタイミングで傷薬を使わずにすんだ。重傷を負ったやつは後方の城へ向かわせる。

 そうして、やつらが砦に近づいてきたときには、俺たちは完全に回復していた。

 ドーガとゴードンの攻撃を、俺が受けとめる。カインとアベルの攻撃はアイアンサイドが。

 そして、手下たちに指示を出してまずカインを仕留める。カインが率いていた兵たちは、カインの死を知ってパニックに陥り、逃げ散っていった。

 傷薬を使ってもう一回、俺とアイアンサイドは耐えしのぐ。ゴードンを仕留める。相手はドーガとアベルの連携でこちらの手下を1ユニット分潰してくれたが、それが限界だったようだ。アベルを仕留める。

 

 ドーガを囲んだ。こちらはドーガにたいしたダメージを与えられない。それでも囲んで動きを封じ、深傷を負わされたやつは別のやつと交代して動きを封じ続けた。

 その間、マルスは島の中央にある砦で待機して、近づいてこなかった。

 まあ無理もない。もしもマルスが近づいてきたら、俺はドーガの包囲を解かせてマルスを仕留めるつもりだった。

 マルスもそれがわかっていたんだろう。島の中央にある砦から動かなかった。マルスが率いている兵はごくわずかだった。十人いるかどうか? 部下たちに一人でも多く与えたんだろう。

 

 ドーガが倒れた。あとはマルスだけだ。シーダの姿はない。

 もっとも、俺たちの数も半分以下に減っていた。

 戦闘開始時は13いたユニットが、いまでは俺を含めてたった6。俺、アイアンサイド、ハンターのアイルトン、それから手下が3。よく生き残ったもんだ。

 砦でしっかり回復してから、マルスを追う。

 マルスは東へと逃げたが、この島に逃げ場はない。こちらは急がずに追い、マルス配下の兵を蹴散らして、ついにマルスそのひとを取り囲んだ。

 アイアンサイドと手下たちで包囲し、ハンターがアイアンサイドの後ろに立つ。俺はすぐそばで見守った。

 マルスは鉄の剣じゃなくレイピアで応戦し、海賊を一人殺したが、そこまでだった。ハンターの矢に射られ、手下の斧に斬りつけられ、アイアンサイドに肩口を割られる。血まみれになって倒れた。

 

 

 俺は哀れみをこめてマルスの亡骸を見下ろしていた。

 こいつは本来なら、こんなところで死ぬはずじゃなかった。

 タリスを解放し、ニーナに会ってファイアーエムブレムを受けとり、アリティアを奪還し、最終的には暗黒竜になったメディウスを倒し、アカネイア王家に代わって大陸全土を統べるはずだった。

 王の中の王と呼ばれるはずだった。

 この俺ガザックこそ、ここで死ぬはずだった。ガルダの海賊のトップは二章ボスのゴメスであり、ガザックの名はどこにも残らないはずだった。

 そこで俺は、首をかしげた。

 

「どうなるんだ、これ……?」

 

「紋章の謎」では、マルスが死ねばゲームオーバーでスタート画面に戻る。

 しかし、いつまでたってもその気配がない。俺がガザックをやめて昇天する感じもない。

 

「親分、勝ち名乗りをあげましょうや」

 

 アイアンサイドが笑顔で言ってきた。俺は呆けた顔でやつを見たあと、のろのろと斧を振りあげる。

 

「こざかしいアリティアの残党は叩き潰してやったぞ!」

 

 歓声があがった。

 

 

 マルスの死を知って、ようやくシーダが降伏した。島の北東にある村に隠れていたらしい。シーダはやはり国民にずいぶん慕われているようだ。

 俺はタリス王モスティンといくつかの契約を結んだ。城下の盟というやつだ。

 タリスはガザックに従属する。ガルダの海賊にじゃない、俺にだ。

 タリスは富も、食糧も、そして人間も、俺が望むように差しだす。

 シーダは俺の妾妃となる。

 傭兵隊長のオグマ、その部下のサジ、マジ、バーツの処刑に同意する。

 モスティン王は泣きながら署名した。民に非道なことはしないでくれと懇願しながら。

 俺は笑顔でうなずいてやった。

 大事な拠点だ。今はまだ大切に扱ってやる。

 

 暗い欲望が、俺の胸を焦がしている。

 この一章、俺がチュートリアルと呼ぶこの戦いでわかったのは「紋章の謎」の知識を活かせるということだ。

 それなら、その知識を使って行けるところまで行くしかねえ。このゲームを終わらせることができるはずのマルスを、俺が殺しちまったんだから。

 このタリスで好き放題に生きていても、いずれは恐ろしいことになるのがわかっている。

 行けるところまで行く。やりたいようにやらせてもらう。

 俺はマルスじゃねえ。村に行っても、素直にものをもらうことはできねえ。傷薬の件で証明ずみだ。海賊的には役得だったが。

 だから、力ずくで奪っていく。必要なものも、欲しいものも。

 とりあえず、今夜はシーダだ。

 思うがままに乱暴してやる。エロ同人みたいに!

 

 俺は下卑た笑みを浮かべて、寝室へと向かった。




ガザック軍編成
ガザック   アイアンサイド(海賊) アイルトン(ハンター)
海賊     海賊          海賊

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