(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「プリンセス・ミネルバ」3

「どうしてお前は戦場からいなくなったのか」

 

 もう大丈夫だろうと判断して、俺は斧を床に置く。指を三つたてた。

 

「一、オレルアン以外にお前を必要とする戦場が出てきた。お前が平和なレフカンディにいたことで、これはなし。二、戦うのが面倒になって部下に任せた。マリオネスから聞いたお前の性格的に、これもなし。三、お前が大将首をとると、手柄がでかすぎて面倒になると思った連中が、お前を無理矢理後方に下げさせた。どうだ?」

 

 それだと、こいつがレフカンディでさっさといなくなったのも分かる。

 

 難癖つけられて後方勤務命じられた上に、派遣されてきたばっかの他国の将軍に、お前の兵はオレルアンで大勢死んだだの、たてつくなら妹の命は保証できないだのと言われたら、俺だって理由でっちあげて去るわ。部下ともども使い捨てにされそうだし。

 

 だいたいミネルバとハーマインて(あとジューコフもだが)立場でいったらミネルバの方が上だろ。悪くても同格。それであの態度って、第二部でラングがマルスにあれこれ命令してたのと同じだぜ。

 ハーマインの作戦に対する反発も、兵種の違いで戦い方が合わないって方が強いと思うし。

 

 そういった諸々を我慢しつつ、さらりとかわせるかどうかが政治家と武人の差なのかもしれねえが。

 

 まあ、こいつってシリーズが進むごとにキャラもステータスも毎度補正がかかってるし(オートクレールは「紋章の謎」にはねえ)、バックグラウンドもふくらんでるっぽいんで(ムラクの台詞はSFC版から追加されたもので、FC版にはそもそも章ごとのボスの台詞なんてねえ)どうなのかは分からねえけどな。

 

「お前さ、オレルアン攻めの前に、ニーナを捕らえたらマリアを返してやってもいい、とかグルニアに言われたんじゃねえか? で、グルニアとしては適度に善戦してくれたらよかったんだが、本当にやりそうだったから慌ててお前をレフカンディに異動させた」

 

 俺の言葉に、ミネルバはふっと笑った。

 

「まるで見てきたかのようにものを言うな。貴様は」

 

 やりこんだんでな。

 

「さきほどの下種極まる言動とは大違いだ」

 

 ほっとけ。

 

「それで、どうする? 俺の女になって、かつ同盟軍の将としてドルーアと戦うか?」

 

「同盟軍の将だけ、というのは無理なのか?」

 

「ニーナはそれでいいって言うだろうが、俺が嫌だ」

 

 妹を人質にとられているのに条件を出してくるとは、やるじゃねえか。今までと違ってなかなか楽しいぞ。考えてみりゃ、シーダもレナもニーナも力ずくで無理矢理抱いてきたからな。

 

「正直だな」

 

 ミネルバは呆れたように言った。

 

「分かった。私はかまわない。だが、マリアには何もしないでほしい。お願いできないか」

 

「お前がマリアの分も頑張って奉仕するなら、認めてもいい」

 

「姉様!?」

 

 マリアが悲鳴をあげる。俺が何か言う前に、ミネルバが諭すように、優しく微笑んだ。

 

「マリア、心配しなくていい。私に任せてくれ」

 

「そういうことだ。もうちょっとおとなしくしてろ」

 

「でも……! だって……!」

 

 マリアは必死に反論しようとする。俺はため息をついた。

 

「なあ、マリア。こうなっちまった以上はな、ミネルバが俺の女になるのが一番ましなんだ」

 

「どういう意味よ!」

 

 マリアはキッと俺を睨みつけてくる。おお、こういうところは姉妹で似てやがる。こっちは全然迫力ねえが。

 

「そうだな、たとえばミネルバが隙を突いて俺を殺し、俺の手からお前を助けだしたとする。そうなったら、どうなる?」

 

「それは……」

 

 マリアは少し考えたあと、黙りこんだ。その顔は青ざめている。年の割に頭はよさそうだ。

 

「お前はグルニア軍に引き渡されて、別の要塞に幽閉される。ここよりもっと厳重な警備体制のところにな。この要塞の管理者のジューコフは、ミネルバに責任を押しつけるだろう。お前がミネルバを弁護しても、誰も聞いちゃくれねえ。ミネルバも左遷だな。もう一度オレルアン攻めか、もっと東のタリス攻めか」

 

 少し同情した。どう動いても詰んでる状況って地獄だよな。

 

「マケドニアに戻らず、この戦争が終わるまで二人だけで大陸を放浪するって手もあるだろう。もしくはマケドニアに潜入して、せめて兄貴に一騎打ちを挑むか。だが、そんな行動のどこに未来がある」

 

「貴様に従えば、未来があると?」

 

 ミネルバが俺に問いかける。俺はうなずいた。

 

「ああ。俺に従えば、マケドニアまで……お前らの兄貴の前まで連れていってやる。同盟軍の将としての立場も用意してやるから、マケドニアは敗戦国にならずにすむぞ。ドルーアも何とかしてやる」

 

 戦国時代なんかでも、お家の存続を図るために親子や兄弟で別れて、敵対している軍の双方につくって話がある。こんな世界じゃ珍しいことでもねえだろう。

 

「ずいぶん自信ありげに言い切るものだな」

 

 ミネルバは感心し、呆れたようだった。

 

「まだパレスはグルニアが占領している。グラはドルーアの味方だ。カダインも。アリティアはメディウスの配下が支配していると聞いている。グルニアにはあの黒騎士カミュがいる。それに、ミシェイルは強い。それなのに、お前はドルーアを何とかできると?」

 

「ついてくりゃわかるぜ」

 

 ゲーム知識だけはあるからな。それだけで勝ってきたようなもんだ。

 俺が余裕たっぷりに言うと、ミネルバは笑い、そしてすぐに真剣な顔つきになった。

 

「三つ、頼みたいことがある」

 

「言ってみろ」

 

「一つ。私の信頼する部下たちは助けてほしい。特に白騎士団のパオラ、カチュア、エストの三姉妹は」

 

「その三姉妹が俺の女になるか、お前がそいつらの分まで俺に奉仕するなら」

 

「……いいだろう」

 

「いいのか? 実に五人分の奉仕だぞ?」

 

 五人分の奉仕! 何て心ときめくワードだ!

 

「かまわない。貴様こそ、私の奉仕に耐えられるか?」

 

 えっ?

 俺は驚いて、小声でマリアに聞いてみた。

 

「なあ、お前の姉貴ってそんなに経験豊富なの? 超絶テクニシャンなの?」

 

「超絶、って言葉は分からないけど、ミネルバ姉様に恋人がいたなんて話は聞いたことが……」

 

「そうか」

 

「竜が恋人とか、戦が恋人とか……」

 

「そうか……」

 

 俺はマリアの頭を撫でてやった。面倒な姉貴を持って大変だな。

 いかんいかん、俺としたことがハッタリに騙されるところだった。でも奉仕は受けたいです。というか受けます。もしも途中で力尽きたら、それを理由に……ぐへへへ。早くグラに行ってパオラとカチュアを味方に引き入れないとな。

 

 俺は顔を上げると「おう、それでいいぞ」と笑顔で言ってやった。ミネルバは釈然としないふうだったが、話を続ける。

 

「二つ。私が貴様に身を任せるからといって、マケドニアにおける何らかの地位などは要求しないでほしい」

 

「ああ、そういうのはいらねえよ。三つめは何だ?」

 

 俺があっさりと言ったからか、ミネルバは不思議そうな顔で俺を見た。

 

「ただの色好みということか……? まあいい。三つめだが、ミシェイルは私に討たせてほしい」

 

 ミネルバの声が低くなり、眼光が鋭くなる。マリアが体を硬くしたのが分かった。

 

「そいつは保留だ。指揮官相手の一騎打ちなんて、そうそう実現するもんじゃねえだろ。ミシェイルに手を出さないよう部下たちに命令しておくぐらいだな」

 

「そうだな。それでかまわない」

 

「よし。決まりだ」

 

 俺はマリアを離して、その背中を軽く押してやる。

 マリアはまっすぐ駆けていって、ミネルバの胸に飛びこんだ。ミネルバは笑顔で妹を抱きしめる。

 やれやれ。カチュアがワーレンに来なかった時はどうなるかと思ったが、何とかまとまったぜ。


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