(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
ミネルバとマリアがあらためて再会を喜んでいると、シーダが飛んできた。
「向かってきた敵はすべて撃退しました。私たちの部隊のほとんどは要塞に入っています」
「やられたやつはいるか?」
「負傷者は出ましたが、レナとウェンデル様の魔法で手当てはすませてあります」
「あの新兵どもは?」
「ヴィクターと協力して、敵の騎兵部隊を打ち破りました」
ほほう。まあ、これはヴィクターの手柄だろうな。
残るはジューコフとその周りに居る連中。そして援軍か。
俺はミネルバとマリアをシーダに紹介した。三人ともさすがに王女らしく、礼儀正しく挨拶を交わす。俺はシーダに言った。
「姉妹とも俺の女になった。そのことをニーナには伝えておけ」
ミネルバは割り切ったのか平然としているが、マリアはものすごく嫌そうな顔をした。
シーダは少し首をかしげて俺に聞いた。
「アイルトンとヴィクターにも言っておきますか?」
手下どもがミネルバたちにいらんちょっかいを出さないように、釘を刺しておこうってことだ。
ありがたい申し出のはずなんだが、なんでだか俺はイラッときて、余計な気を回すなという気分になった。
「いや、俺から後で言っておく」
「こういうことは早い方がいいと思います。私はこれからニーナ様のところへ行きますし、その途中で二人にも会いますから」
俺はちょっと驚いた。戦や行軍に関わる重要な問題で、シーダがこんなふうに言ってきたことは今までにも何度かあった。だが、これはそんな話じゃねえだろう。
「俺が言う、と言ったぞ」
軽く睨みつけてやったが、シーダは怯むことなく俺を見つめてくる。腹が立ったので、俺はシーダを抱き寄せると強引に唇をふさいでやった。舌を絡めて唾液を交換する濃厚なやつだ。
俺たちの横でミネルバは目を丸くし、マリアは口を手でおさえて顔を赤らめている。
それを確認して、俺はシーダを離した。さすがにシーダは顔を赤くしてうつむいたが、せいぜい恥ずかしがっているぐらいにしか見えない。何か効果薄いな? もっとこう、目を合わせられないぐらい萎縮するかと思ったんだが。
「ガザック殿」
ミネルバが俺に聞いてきた。
「まさか、シーダ王女も……?」
「おう、俺の女だ。ニーナもそうだし、レナっていうシスターもな」
マリアがますますげんなりした顔で俺を見ている。妥当な反応だな。ミネルバは手で頭をおさえつつ、何ごとかを自分に言い聞かせていた。
俺はシーダのペガサスに乗り、マリアはミネルバのドラゴンに乗る。一気に地上へ降りた。
「シーダ、この二人をニーナのところへ案内してやれ。ミネルバ、今回は控えてろ。お前がこっち側についたことを、まだ敵には知られたくねえ。マリアはレナやウェンデルの手伝いで負傷者の治療だ」
要塞の裏口にいる勇者部隊には、こちらから急襲をかけた。ハンターたちと魔道士のエステベスとで痛めつけたあと、マチスとヴィクターで倒した。
その後は、ついにお出ましになったグルニア騎兵の援軍の撃退だ。幸い、俺の知っている数より多いってことはなかった。
要塞内に突入しようとしてきた敵の騎兵を、アーマーナイトのエイブラハムが足止めする。そして、裏口から引き返してきたハンターたちが壁越しに矢の雨を浴びせた。要塞内を行ったり来たり大忙しだ。
援軍を一掃すると、俺たちは要塞を出た。北西の城へ向かってジューコフを囲む。降伏勧告をしてやったのだが、返事は「死ね、反乱兵ども」だった。
エステベスの魔法とマチスのアーマーキラーで攻めたてて、俺たちはジューコフを討ちとった。たとえサンダーでも魔法は強えな、やっぱ。
ミネルバとマリアはニーナに膝をつき、マケドニアの王女として、ニーナに臣従すると誓った。
その日の夜、ニーナのテントに俺とシーダ、レナ、ニーナ、それからミネルバとマリアが集まった。少しでも親睦を深めようってことらしい。昨日まで敵同士だったんだから、こういうのも必要なんだろう。
「はじめまして。わたし、マリアといいます。皆様、姉ともども、よろしくお願いします」
マリアは礼儀正しさよりも人懐っこさで、シーダたちと交流を深めようという感じだ。ちょっとあざといというか、場慣れした子役みたいな雰囲気を感じる。
とはいえ、人質生活が長かったのと、アレな兄貴やこんな姉貴を持ったのだから仕方がないのかもしれない。シーダやレナは笑顔で応対していた。
ミネルバとレナは面識があった。以前、マケドニアの宮廷で一度か二度、顔を合わせたことがあったのだそうだ。俺が「レナはお前らの兄貴をフったんだぜ」と言ってやると、レナはさすがに恐縮し、ミネルバは楽しそうに笑った。
「思いだした。たしかにそんなことがあったな。私はひさしく宮廷に戻ってはいないが、あなたは今でも女傑として有名だそうだ。あの兄の誘いを断った女性など、後にも先にもあなたしかいないからな」
「女傑ですか……」
レナは笑顔をつくってはいるが、俺から見ても嬉しくなさそうだった。そんなレナを、マリアが尊敬の眼差しで見ている。
ニーナはカミュのことをミネルバに聞いたが、期待した答えは得られなかった。カミュは今でもグルニア本国から動けずにいるそうだ。
「やはり、私を逃がしたせいで……?」
「それだけではないでしょう。カミュ殿の功績が大きすぎて、動かしづらくなったということもあります。他の将軍達も手柄を欲していますから」
ニーナを慰めるためにミネルバはそう言ったようだが、でたらめってわけでもなさそうだった。
他にカミュを動かさない理由として考えられるのは、カミュがニーナに寝返るのを警戒して、ってとこだろうな。これ言ったらニーナが変な期待持ちそうだから絶対に言えねえが。
とにかく俺にとっては朗報だ。俺たちがグルニアを攻めるまで、ぜひそのままでいてくれ。
「ところで、ガザック殿に聞きたいのだが」
ミネルバがそう言ったのは、世間話にひと区切りついたころだった。
いったい何を言いだすのかと、皆の視線がミネルバと、シチューを食っている俺に集まる。
「我々は……そう、我々はこれからアカネイアのパレスへ向かうそうだな。パレスを奪還したとして、その後の戦略について教えてもらってもいいだろうか」
こいつ、俺を試そうとしてんのか?
いや、そうだとしても、いい機会だ。俺はシチューを頬張りながらニーナを見た。
パレスを取り返すために、こいつは自分を奮いたたせてきた。それはいいんだが、パレスを取り返して満足し、その後の行動が鈍くなったら困る。ここで確認させておくべきだ。
「ニーナ、説明しろ。この前、ざっと話しただろう」
「え? ええ、はい……」
いきなり話を振られてニーナは驚き、困ったようだが、一つ咳払いをして言った。
「グラを降伏させ、次いでカダイン、アリティアを解放し……それからグルニア、マケドニアの順に攻めて、最後にドルーアへ向かう。その予定です」
「そのように動くのは、なぜでしょうか? パレスを奪還したら、マケドニアやドルーアに向かってもいいのではないかと思います。ドルーアさえ討てば、他の国はこぞってアカネイアに降伏するでしょう」
反論を予想していなかったのか、ニーナはおろおろとして俺に視線で助けを求める。うーん、俺に頼るのはいいんだが、そこは堂々とした態度を崩すな。
「そんな博打を打てるほど、俺たちに余裕はねえんだ」
俺はシチューをたいらげてミネルバに言った。
「少し待て。全員食い終わったら軍議も兼ねて話してやる」