(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
ディールを発って行軍すること数日……。ようやくパレスの王宮が見えてきた。
さすがにニーナは辛そうな顔をしている。三年前だったな、パレスが落ちたのは。それからろくな思い出がねえからな。
「いろいろと思うことはあるだろうが、それは溜めておけ」
俺はニーナに声をかける。
「パレスの民衆には、泣き顔じゃなくて笑顔か、勇敢な顔を見せろ」
「泣きはしません」
俺を驚いた顔で見た後、ニーナはそう言って笑った。力強い笑みだ。
「昔を振り返っている場合ではありませんから。行きましょう、私の生まれた王都へ」
「おう。まあ、お前はひとまずここで待機だ」
俺は行軍を止めて地図を広げる。ゲームでやったときは山に囲まれたこんなのが王都って発展性のかけらもねえなと思ったんだが、こうして見ると自然を上手く取り入れたって感じだ。
王宮の周りを砦が囲み、さらに北から北東にかけては城壁まである。その上で、山の連なりという天然の防壁が巡らされている。これ攻略したのカミュだっけ? よくできたな、あいつ。
で、マップの右下にあるのが城下町。
偵察に出ていたシーダとミネルバが帰ってきた。二人には、北に連なる山に沿ってパレス周辺の様子を見てきてもらったんだ。
二人一組にした理由は、あえてシーダの速さに合わせることで、ミネルバが突出しないようにするためだ。
何せ相手にはシューターがいるし、スナイパーも待ちかまえている。うちのやり方に慣れてもらう必要もあったし、シーダをメインにすることで、古株に従っている新人という構図もつくりたかった。
二人の報告を聞きながら、俺は地図に敵の配置を追加していく。俺は首を傾げた。
「アーマーナイト? アーチャー?」
「はい。私もミネルバ様もたしかに確認しました」
シーダが答え、ミネルバも頷く。
俺は唸った。この章でそんな連中が出てきた覚えはねえぞ。
それに、ソシアルナイトとホースメンも俺の記憶より2ユニットばかり多い。何だ、これ。
しばらく考えこんだあと、俺は「あっ!」と叫んで手を打った。
わかった。ワーレンを攻めた連中だ。
港町ワーレンを攻めたグルニアの大軍を、俺はエイブラハムたちを使って足止めし、その間に海をわたって敵将カナリスを討ちとることで撃退した。
で、潰走したグルニア軍に追撃をかけて、俺たちはさんざん蹴散らしたわけだが、もちろん一人残らず叩き斬ったわけじゃない。多めに見積もっても三割ってとこだろう。
残った七割の内、さらに三割が味方に踏みつぶされたり、迷って遭難したり、途中で力尽きたとしても、四割はパレスに帰り着いたと思っていい。俺たちがディールに寄ったことで、やつらに帰還の時間を与えちまったわけだ。
そうだよなあ。ゲームじゃ、七章をクリアしちまえば、ワーレン攻めの軍なんてそれ以降出てきやしねえが、そいつらが消え去るわけはねえもんなあ……。ぬかった。
とはいえ、兵種と数さえ分かれば対策のたてようはある。偵察に出して正解だった。
「よくやった。二人とも、近いうちにたっぷり可愛がってやるからな」
俺がそう言うと、二人は顔を赤くして目をそらした。うわははは。
ちなみに、ミネルバはもうおいしくいただきました。
ベッドの上のミネルバはあきらかに男慣れしていなくて初心でねえ、可愛かったねえ。俺のいきりたった一物を言葉もなく凝視してねえ。だってのに、ちゃんと覚悟を決めててそれなりに積極的でねえ。ああ、もちろん処女でねえ。おっと、きりがないからこのへんにしておくか。げはははは。
俺は主だった連中を集めて、恒例の軍議を開いた。ミネルバとマリアは初参加か。
「まずは南東にある城下町を解放する。でもって、ここを足がかりにパレスへ向かう。ミネルバ、さっそくお前の出番だ。西側から城下町を攻めろ」
「承知した」
ミネルバは勇ましく答える。見せてもらおうか、戦場におけるドラゴンナイトの性能とやらを。
「他はいつも通りの速さで進軍。マチスは先頭を進んで、俺たちが側面を突かれそうになったら援護に入れ。エイブラハムとエステベスは殿だ」
こういうほとんど一本道のマップは、あまり考えようがない。リンダとジョルジュを仲間にするために城下町に行く必要があるから、ワープも使えないしな。
俺は解散を命じたが、ヴィクターだけはすぐには立ち去らず、地図を見つめていた。
「どうした?」
「いや」と、ヴィクターは笑って言った。再び地図を見る。
「親分に従って、ずいぶん遠くに来たもんだなあって思ってよ。サムスーフ山で生まれ育ったこの俺が、だぜ。あのころは、あの山から離れることはねえ、って思ってたんだが」
ヴィクターは感慨深げに言った。
「ホームシックか? パレスを取り戻したら休暇をやってもいいぜ」
俺がからかって言うと、ヴィクターは首を横に振った。
「冗談言うなよ、親分。あの綺麗なお城を手に入れて終わり、ってわけじゃねえんだろう。それに、今の俺が帰るところはここさ」
そう言って、ヴィクターはオレルアンを指さした。
「すぐにオレルアンを発ったんで実感はねえんだけど。貴族の生活ってやつがさ、どんなもんなのか楽しみなんだ。親分はどうだ? 王様だろ」
「おう、そうだな。楽しみだな」
俺は笑って答えた。
「そういや、ちょっと聞きたかったんだが」
ふと思いついて、俺はヴィクターに聞いた。
「お前はなんで俺についてくる?」
思えば、こいつも不思議なやつだ。ゲームでは名無しのモブ敵だったのが、今や同盟軍の立派な主力である。それを言ったら俺だって、ゲームではチュートリアルボスだったんだが。
「そりゃあ親分が勝ってるからさ」
当然だろうと言わんばかりの明るい笑顔で、ヴィクターは答えた。
「今だから言えるけどよ、あんたに従えって言われた時は仕方ねえか、って気分だった。ハイマンのクソ野郎も死んじまったし、サムシアンは壊滅したようなもんだったからな。だが、オレルアンに行ってマケドニア軍と戦うなんて言われて、こいつはいかれてると思ったね」
ヴィクターは皮肉っぽく続けた。
「所詮、山賊は山賊だからな。地形を知り尽くしたサムスーフの山に籠もっているから戦えるんであって、地上で正規軍とやりあえるわけがねえ。討伐されておしまいだ。だから、とりあえずは従っても、適当に略奪で稼いだらとんずらしようと思ってたよ。ところがだ」
ヴィクターは肩をすくめた。
「あんたは本当に正規軍を叩き潰した。マケドニア軍も。オレルアン軍も。あんたの指示を受けて戦うのが、俺は楽しくなっていた。それに、あんたはハイマンほど威張らねえし、欲深くもねえ。体も張ってる」
「ハイマンってそんなやつだったのか?」
「ああ。とにかく俺たちに分け前をほとんどよこさなかったからな。ただ、あの中じゃ誰よりも強かったのも確かでな。それで、みんな従ってた」
うーん、気前のよさって大事だ。俺も気をつけよう。女以外は。
「やっぱりなあ、勝たせてくれるってのはでけえよ」
しみじみと、ヴィクターは言った。
「とくに戦じゃな。どんなに優しかろうが、頭がよかろうが、勝てなきゃ説得力がねえ。その点、親分は特大の合格点だ。親分に従ってから、俺は負けたって気分を味わったことがねえ」
ふむ。なるほど。俺は少し納得できることがあった。
俺を信頼している、っていうシーダとレナの台詞。俺は、相変わらずそれが引っかかっていた。
だが、俺が勝っているから従っていると考えれば、すっきりする。
俺が勝っているから、シーダの大切なタリスは守られている。レナの理想とする平和にも近づいている。勝利が、あいつらの俺に対する信頼を生んでいるわけだ。
「だが、いつかは負けるときもくる。そうしたら、お前らはとんずらするのか? そいつはちと困るんだが」
笑いながらだったが、半ば本気で俺は言った。今ここでヴィクターたちがいなくなったら同盟軍はぼろぼろだ。
ヴィクターは笑って答えた。
「俺たちだって、失敗は何度も味わってるさ。そうだな、二敗や三敗ぐらいなら仕方ねえと思ってついていくからよ。今後も頼むぜ、親分」
その日の夜、俺は前祝いと称して派手にみんなと酒盛りをした。