(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「アカネイア・パレス」1

 竜族のショーゼンを倒した日の夜、俺はニーナを自分のテントに呼んだ。今回はリンダの分もってことにして、三戦ほどした。

 リンダは初陣の疲れでぐっすり眠っているらしい。オーラを実戦で使ったのもはじめてだったそうだ。

 とりあえず満足した後、俺はぐったりしているニーナを起こした。

 

「パレスをどうやって取り返すか、だがな」

 

 一糸まとわぬ体を手で隠そうともしないほどニーナは疲れているみたいだったが、俺の言葉に反応して顔をあげた。俺は話を続ける。

 

「部隊を三つに分ける。お前は正面から堂々と入って、囚われている騎士たちを助けに行け」

 

 パレスの構造はニーナからだいたい聞いた。何人かの騎士が捕まっているという話も。俺の知識とも一致する。

 

「分かりました」

 

 ニーナは力強く頷いた。

 

「残り二つの部隊は、俺とヴィクターがそれぞれ率いる。隠し通路から入って敵を攪乱する。お前が入るのはそれからだ」

 

 さすが歴史あるパレスだけあって、隠し通路はいくつかある。ブーツが手に入る玉座近くの部屋だけじゃない、竜族がいる広間の手前の廊下なんかにもあった。

 

「戦闘はミネルバたちに任せて、お前は後ろにいろ。心の中じゃどれだけびびっていてもいいが、顔には出すな」

 

「はい。決して逃げたりはしません」

 

「いや、あのな、そこんとこの判断はミネルバに任せろ。どうなるかわからねえからな。お前の役目は、お前が帰ってきたことを敵と味方に教えることだ」

 

 俺の言葉にニーナはうつむいた。

 

「私が戦えたら……」

 

「バーカ」

 

 俺はニーナの巨乳をむんずとつかんだ。身をよじるニーナにかまわず揉みしだいてやる。

 

「戦えない方がいいに決まってるだろうが。なまじ戦えると、兵たちから変に期待されちまうからな。先頭に立って剣を振るえとまでは言われなくても、せめて戦場に出て自分たちを見守ってくれって要求されちまう」

 

「ですが、それは指揮官の義務ではないでしょうか?」

 

「義務なわけねえだろ。安全な場所にいるつもりで、流れ矢一発でくたばるのなんざ珍しくねえんだからな。よっぽどでなけりゃ、今回みたいなことはさせねえよ」

 

 そう、今回はよっぽどのことだ。

 パレス攻めにあたって、俺が最初に考えたのはワープを使う手だ。

 剣やら槍やら扉の鍵やらを抱えて、牢屋に放りこまれているミディアたちのところへ行く。で、アーマーナイトのトムスとミシェランを前に立たせながら牢屋を突破し、本隊と合流するというやつである。

 

 この世界では、俺がミディアたちを操作することはできない。つまり、あいつらは敵のアーチャーと魔道士にボコボコにされるということだ。あるいは人質として脅しの材料に使われるかもしれない。

 その点を考えるとワープが一番安全だと思ったんだが、そこで俺は気づいた。

 この軍の中に、ミディアたちに信頼されそうな奴がいるだろうか。

 たとえば俺がミディアたちの前に現れたとする。事情を話したとして、奴らは従うか?

 無理だと思う。武器を渡して扉を開けてやっても、俺の指示を無視して勝手に行動して死にそう。

 ニーナの直筆の手紙か、髪留めなんかを証拠として用意することも考えたが、相手はずうっと牢に閉じこめられていた連中だ。簡単に信じるわけがねえ。

 ディールの要塞では、マリアと話しあう時間があった。マリアも俺にびびりつつ、話をちゃんと聞こうとした。敵も離れていた。

 だが、ここではおそらく同じ手が取れない。牢屋のそばに敵が4ユニットもいるので、悠長に話してる時間はねえからだ。

 

 じゃあ、誰だったら奴らを従えることができるか。

 シーダやレナは面識がない。ミネルバやマリアはマケドニア軍=敵って思われそうだ。

 リンダに聞いてみたら、ミディアとボアなら会ったことはあるが、三年前のことだと言われた。微妙だ。パレス陥落後は流浪人やってたから仕方ねえんだが。

 確実なのはニーナ、次点がリンダって結論が出たんだが、この二人にそうした行動をさせるのは危険すぎる。牢屋の近くにいるのはアーチャーに魔道士、アーマーナイトだからな。

 何かの弾みで死なれたら、すべてがおじゃんだ。

 

 なので、ワープは諦めるしかなかった。

 となれば、ニーナを正面から進ませるしかねえ。ワーレンでの予行演習のおかげか、びくついていないのはいい。だが、不安は消えない。

 ああ、くそ、ジョルジュがおとなしく仲間になっていれば楽だったんだがな。

 

 

 翌日は掃討戦だった。ミネルバたちがスナイパーやシューター、アーマーナイトらをかたづけ、俺たちは城門を突破する。

 この日、俺たちは慎重に動いているふうを装って、兵たちを休ませた。

 

 夜を待って一気にパレスに接近し、夜明けを待って俺とヴィクターの部隊がそれぞれパレスに入りこんだ。もちろん傷薬も聖水も忘れちゃいない。特に傷薬は多めに持った。連絡を取るのはほぼ不可能だからな。

 俺が入ったのは、マップでいうと北東。盗賊たちがいるあたりだ。俺が従えているのはアイルトンと海賊が2ユニット。すぐに盗賊たちを一掃した。

 そこへ、アーマーナイトとアーチャーの部隊が現れる。パレスの外にいた連中と同じ、ワーレン攻めの部隊だろう。やつらは「侵入者だ!」と悲鳴じみた叫びをあげた。

 アイルトンの部隊が矢の雨を降らせ、敵をひるませる。そこへ俺たちは猛然と斬りこんだ。壁が血で染まり、床に血だまりができる。

 

「汚物は消毒だー!!」

 

「やろう、ぶっころしてやる!」

 

「エンジョイ&エキサイティング!」

 

 死体を踏み越えて、俺たちは大声をあげながら進む。俺たちの役目は撹乱だ。せいぜい敵の注意を引きつけねえとな。

 なお、上の叫び声に特に意味はない。とにかく威勢のいい言葉を、と手下どもから言われたので、北○の拳とド○えもんとベ○セルクから拝借した。

 廊下の向こうから、敵の新手が現れる。アーマーナイトが二人、アーチャーが一人、その後ろにソルジャーの部隊。よしよし、どんどん来い。

 アーマーナイトは二人とも大柄で、通路を塞ぐようにこちらへ向かってくる。アーチャーはその後ろから矢を射かけてくる気配だ。さすがパレスの守備兵、いい動きをするじゃねえか。

 部下たちに一人を迎え撃たせ、俺はもう一人に斬りつけた。アーマーナイトは鋼の斧を盾で受け止めつつ、槍を繰りだしてくる。俺の肩を槍の穂先がかすめた。

 

「しゃらくせえ!」

 

 俺は鋼の斧を振りあげて、容赦なく何度も叩きつける。伊達にここまで生き抜いちゃいねえんだ。アーマーナイトはひるみ、後退し、ついにバランスを崩した。俺の鋼の斧が、やつの胸当てを叩き割る。脇腹が露出した。すかさず、俺はその部分を斧で切り裂いた。

 アーマーナイトが悲鳴をあげて崩れ落ちる。もう一人のアーマーナイトが叫んだ。

 

「トムス!」

 

 えっ? トムス?

 

「ミシェラン、よそ見をするな!」

 

 後ろにいるアーチャーが叫びながら、矢を射放つ。俺の部下の一人が矢を受けて倒れた。

 ミシェランだと?

 じゃあ、このアーチャーは、もしかしてトーマスか? なんでこんなところにいる!?

 

「お前ら、アカネイアの騎士なのか?」

 

 疑問をぶつけながら、俺は答えも聞かずに続けて叫んでいた。

 

「俺は味方だ! お前らを助けに来たんだ!」

 

「ふざけるな!」

 

 そう叫び返してきたのはミシェランだった。

 

「味方だと!? 貴様ら、どこからどう見ても賊だろうが! おおかた戦の混乱に乗じて財宝を盗みにきたのだろう! 貴様らのような薄汚い連中に、これ以上パレスの床を踏ませてなるものか!」

 

「その通りだ、ミシェラン……」

 

 トムスが腰から下を血に染めながら、槍を支えに立ちあがる。兜の奥の鬼気迫る目が、俺を睨みつけた。

 

「ミディアとボア様のためにも、俺たちは戦い抜く!」

 

「まあ、こいつらもいるしな」

 

 ミシェランの後ろにいるトーマスが、皮肉な調子で言ってソルジャーたちを見た。

 そういうことか。

 俺はようやくすべてを理解した。

 そりゃそうだ。五人全員を牢屋にぶちこんでおく必要はねえ。わざわざ手間をかけて殺すこともねえ。二人ばかり人質にして、残りを手駒として使えばいいんだ。

 ゲーム内にもそういう展開はあった。

 次の章で出てくるアストリアは、ミディアを人質に取られたままだと思いこんで、マルスたちに襲いかかってくる。第二部の十五章では、エストを人質に取られたアベルが、やはりマルスに攻撃を仕掛けてくる。

 今回の場合、監視役までついていやがる。

 もしもトムスたちが俺たちの話に耳を傾ける姿勢を見せただけでも、このソルジャーどもはトムスたちに襲いかかるか、牢屋の近くにいる仲間に連絡して、人質になっているらしいミディアとボアを殺すんだろう。

 トーマスは二人のアーマーナイトより多少冷静みたいだが、話が通じねえのなら変わらねえ。

 どうする。逃げるか。

 そう思ったとき、俺たちの後ろに延びている通路にも敵の新手が現れた。前後から挟み撃ちにされた格好だ。トムスとミシェランは勇んで槍を振りあげる。

 俺は深いため息をつくと、鋼の斧を握り直した。

 アーマーナイト。アーチャー。ほしかった。必要だった。アカネイア騎士としてのこいつらも。

 だが、こいつらのために、俺の手下たちがやられていい道理はねえ。

 

「叩き潰すぞ」


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