(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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今回はここまでです。続きは次の更新で。


「アカネイア・パレス」2

 アイルトンに援護させて、深手を負っているトムスを真っ先に仕留めた。

 次いで、一気に踏みこんでトーマスを血だまりの中に沈める。それからソルジャーを牽制しつつ、ミシェランを葬った。

 

「ニーナ様……お許しください……」

 

 そういやそうだった。アカネイア勢って、最期の台詞が同じなんだよな。リンダとアストリア、ミディアを除いて。

 だが、感慨にふけっている暇はねえ。俺たちは二手に分かれて、正面にいるソルジャーと、後ろから向かってきた連中を一人また一人となぎ倒し、かたづける。

 そうして敵をことごとく倒したとき、廊下には吐きそうなほどに血の臭いが充満していた。床は死体で埋まっている。敵だけじゃなくて味方の死体も転がっていた。手下どももけっこうやられた。

 俺の鋼の斧は、刃に血がこびりつき、柄まで真っ赤に染まって役に立たなくなっていた。

 

「ヴィクターたちと合流するぞ」

 

 傷薬を自分に使いながら、俺は手下どもに告げる。手下たちも傷薬を使っていた。自分の血と返り血とで、こいつらも血まみれだ。

 ここまで状況が変わっちまうと、攪乱もクソもねえ。ニーナたちはまだ遠い。ヴィクターたちの方が近いはずだ。

 

 俺たちは体についた血を拭うこともなく、さっきまでとは打って変わって、静かに廊下を歩きだした。廊下を抜けて、小さな広間に出る。そのとき、悲鳴が聞こえた。男のものだ。

 俺たちは声のした方へ向かった。また廊下に入る。どのへんだ、ここ。

 廊下の奥から、一人の男がよろよろとこちらへ歩いてくる。何かから逃げるように。そいつは血まみれだった。頭と肩に傷を負っている。

 

「お、親分……」

 

 そいつは俺を見て、呻き声をあげた。よく見ると、ヴィクターの部下の戦士じゃねえか。俺は急いで駆け寄り、倒れそうになったそいつを抱き止めた。

 

「どうした。何があった。ヴィクターは?」

 

 嫌な予感がする。何か、とんでもないことが起こったという気が。

 

「ヴィクターの……兄貴は……」

 

 涙を流しながら、かすれた声でそいつは言った。

 

「兄貴は、やられちまった……」

 

 えっ。

 一瞬、俺は何を言われたのか、よく分からなかった。

 理解すると、ショックと同時に混乱がどっと押し寄せてきた。

 やられた? ヴィクターが?

 いやいや、何の冗談だよ。そんなわけがあるか。

 デビルマウンテンで俺に従って、そこからずうっと戦ってきたんだぞ、あいつは。同盟軍の主力なんだぞ。

 戦士とはいえ、レベルはそうとうなもんだ。傷薬も聖水も持たせてる。あいつには戦士部隊が2ユニットついてるんだし、簡単にやられるはずがねえ。

 

 その時、足音が近づいてくるのに俺は気づいた。

 廊下の奥から、誰かがこっちへ向かってくる。俺は顔を上げた。

 男だ。短い金髪。左手には盾。右手には血に濡れた銀の剣。黄土色の服も緑色の鎧も血に汚れている。傷も負っているみたいだったが、足取りはしっかりしていた。

 

「てめえか……」

 

 俺はおもわず声に出していた。そいつは迷う様子もなく、俺たちの前まで歩いてくる。

 

「まだ賊が残っていたか」

 

 口にするのも忌々しいというふうに、そいつは吐き捨てた。

 なんでてめえがここにいる。

 俺はそんな疑問を抱きながらも、こいつがここにいることに納得していた。グラに派遣されていたのが、大急ぎで呼び戻されたとしても、とくにおかしくはねえ。こいつにとって最も有効な人質は、このパレスにいるんだから。

 五人の中で、なぜミディア(とボア)が人質にされていたのか。

 そのことをもっと考えるべきだった。こいつを使うなら、俺だってミディアは牢から出さねえわ。

 

「お前らは下がってろ」

 

 俺は手下どもを後ろに下げると、銀の斧を握りしめる。そして、金髪の男を……アストリアという名前の勇者を、殺意を込めて睨みつけた。

 

「来いよ、二軍勇者」

 

 アストリアが床を蹴った。

 あっという間すらなく、俺と奴の距離が縮まる。俺はとっさの判断で後ろへ飛びながら、銀の斧を振るった。銀の斧から衝撃が伝わってきて、吹っ飛ばされる。床に転がった。

 速い! 今まで戦った誰よりも、こいつは速い。よろよろと体を起こしたところへ猛然と迫って、斬りかかってくる。俺が叩きつけた銀の斧は、盾で受けとめられた。

 

 血飛沫をまき散らしながら、再び俺は床に転がる。斬られた。二回。一回目はフェイントを織り交ぜて、二回目は死角から。バランスを崩してでも床に転がったから、浅傷ですんだ。

 アストリアがなおも襲いかかってくる。俺は銀の斧を盾代わりにして奴の斬撃を受けとめたり弾き返したりしながら、どうにか立ちあがった。

 

 銀の斧越しに火花が散る。金属音が絶え間なく響く。俺の体に痛みが走る。

 完全に防いでるわけじゃない。どうにかしのいでるってのが正直なところだ。服はもうズタズタで、ズボンは血まみれで、床は血の雫だらけだ。服とズボンはトムスたちとの戦いのせいもあるんだが。

 

「俺を二軍呼ばわりして、その程度か」

 

 プライドの高いこいつには、気に障ったらしい。いやまあ、冷静に見れば即戦力ではあるんだがな。十分な場数を踏めるオグナバと比べるのは酷だし、サムソンは加入が遅い。

 

「悪かった。訂正してやる」

 

 呼吸を整えながら、血だらけの顔で俺は笑った。

 

「三流勇者だ、てめえは」

 

 斬撃が勢いを増した。これ、銀の斧の耐久度削られたりしてねえだろうな? 奴の剣は速く、無駄もなく、隙もなく、全然反撃できねえ。やつの攻撃五、六回に対して、俺の反撃がやっと一回って感じだ。

 閃光が走った。三度、俺は床に転がる。まずい、意識がぼうっとする。目眩がして視界がはっきりしねえ。何度も転がされたせいだ。呼吸も苦しい。

 そのとき、後ろに下がっていた手下どもが動いた。

 

「親分に加勢しろ!」

 

 馬鹿野郎! 下がってろって言っただろうが!

 剣が、血風を巻き起こしたとしか見えなかった。四人がかりで挑みかかった手下たちが、一瞬で、まとめて、血を噴きあげながらぼろきれになって床に倒れ伏した。俺の口元に、無意識に笑みが浮かんだ。

 笑いという行為は、本来攻撃的なものであり……。

 シグ○イだったかな、これは。いや、俺の場合は違うな。ショックと戦慄とで脳が誤作動を起こしてやがる。

 

 銀の斧を握りしめて、俺は立ちあがった。

 このままじゃ駄目だ。二軍も三流も訂正するつもりはねえが、これじゃあ十回戦っても十回殺されちまう。何か考えねえと。だが、何がある?

 

「矢だ! 矢を射ろ!」

 

 アイルトンが叫び、ハンターたちが矢を射かけた。俺と奴の距離は空いてるし、手下たちもやられて勢いが止まった。その隙を突いた形だ。

 だが、アストリアは盾をかざして何本かの矢を受けとめ、残りの矢を剣で打ち払った。あなた、映画の登場人物か何か?

 

「しぶとい男だ」

 

 アストリアが俺に向かって剣をかまえる。

 その時、俺ははっとした。アストリアの盾には、何本かの矢が突き刺さったままだ。

 ああ、そうだ。

 こいつはヴィクターたちを斬り伏せた。

 ヴィクターたちと戦ったんだ。

 十一章で現れるアストリアが持っているのは、銀の剣だけだ。俺たちのように傷薬も聖水も持ち歩いちゃいない。疲労やダメージが蓄積されているはずだ。

 腰に下げている手斧の位置を、少し調整する。

 そして、俺はアストリアとの間合いを無造作に詰めた。やつの攻撃を誘うように。

 銀の剣についた血を払い落として、アストリアは床を蹴った。まっすぐ向かってくる。実にこいつらしく。

 俺は銀の斧を振りあげた。アストリアが盾をかまえる。

 俺は笑った。ありがとうよ。

 その盾に、俺は渾身の力を込めて銀の斧を叩きつける。盾が真っ二つに割れて、いくつもの破片が飛び散った。狙いは、はじめからこの盾だった。

 アストリアが足を止めて、短い呻き声を上げる。左手を痛めたんだろう。それだけの手応えはあった。

 だが、アストリアは逃れようとせずに踏みとどまった。俺の脇腹に銀の剣で斬りつける。まともに受けたら腹から臓物が飛びでて確実に死ぬだろう一撃。

 それを、俺は腰の手斧で受けた。

 手斧の刃が半分吹き飛び、銀の剣が俺の脇腹に食いこむ。焼けるような痛みが俺の体を襲った。しかし、手斧によって威力を殺されていた銀の剣は、そこで止まる。

 

「るぉぉぁぁぁぁ!」

 

 俺は再び斧を振りあげた。アストリアの右腕、肘と手首の間に振りおろす。

 流血の川が空中に生まれた。右手を失ったアストリアは、今度はさすがに叫び声を上げた。

 だが、アストリアの戦意はまだあった。十分以上に。奴は俺を睨みつけながら、おそらく痺れてろくに動かないだろう左手を振りあげて、俺の目を狙って突きこんできた。

 俺は精一杯のけぞるように胸を反らして、口を開ける。文字通り眼前に迫ったアストリアの指を、二本ばかり食いちぎった。再び、流血が空中に舞う。

 アストリアはよろめいて一、二歩後退した。

 俺が二本の指を床に吐きだして、顔を上げた時、アストリアはまっすぐ立って俺を見据えていた。右腕の肘から先と、左手の指を二本失いながら、苦痛の色を見せず、なお傲然と。

 

「やれ」

 

 その瞬間、俺はカッとなった。

 俺はアストリアに歩み寄ると、奴の股間をおもいきり蹴り上げた。アストリアは短い悲鳴を上げて崩れ落ち、うずくまる。俺はやつの後頭部を踏みつけた。

 むしょうに腹が立った。何だ、こいつ。

 いや、たしかに不器用でまっすぐで何かと偉そうなこいつらしい。

 だが。だがな。俺なんぞよりよっぽどこの地上に未練があるはずなのに「やれ」だと?

 

「望み通りにしてやるよ」

 

 怒りを帯びた声で、俺はアストリアにささやいた。

 

「てめえを殺した後、てめえの恋人のミディアをたっぷり犯してやる。地獄の底で、てめえはその光景を見るんだ。あの女が俺の下で喘ぐさまを、悔し涙を流しながらな」

 

 アストリアの顔が青ざめた。悔やむように歯を食いしばり、目を閉じる。

 

「ミディアよ……許せ……」

 

 俺は銀の斧を叩きつけた。


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