(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
それでですね。
今後のために少し書きためというかストックを作りたいので、申し訳ないですが、次の更新は週末ぐらいになります…… <(_ _)>
お待ちいただけると、幸いです。
ミディアはシーツにくるんで、シーダとミネルバが運ぶことになった。
シーダたちの後について廊下を歩きながら、俺はニーナに話した。アカネイア騎士が敵として襲いかかってきたことと、それによってヴィクターたちが壊滅的な打撃を受けたことを。
「だから、あなたはその怒りをミディアにぶつけたということですか……?」
ニーナの顔は紅潮している。その目には変わらず怒りが浮かんでいた。
「言っただろう。俺はあいつを戦利品として手に入れた。だから、やりたいようにやった」
「そうですか」
ニーナの声は氷のように冷たかった。ニーナは足を止める。俺も釣られて足を止めた。
「あなたを解任します」
さきほどまでの怒りを両目にだけ残して、感情をまったくうかがわせない無表情で、ニーナは言った。シーダやミネルバがおもわずこちらを見るほど事務的な口調だった。
「これ以上、あなたに同盟軍の指揮を執ってほしいとは思いません」
これほど意味のない言葉もない。だが、これほどニーナの決意を示す言葉もないだろう。
「待ってください」
シーダが声を上げた。ミディアを運んでいなかったら、ここまで駆け寄ってきたに違いない必死さだった。
「ニーナ様、せめて……せめて、この戦いが終わるまで、待っていただけませんか」
「あなたは、この男の肩を持つのですか」
ニーナが語気も荒くシーダを睨みつける。はじめて見る光景だった。シーダは臆さない。ミネルバにミディアを任せて、こちらまで歩いてきた。ニーナをまっすぐ見つめる。
「兵たちの気持ちを、お考えになってください。ここで総指揮官がいなくなったら、彼らは動揺します。ここまで来ておきながら、敵に押し返されるかもしれません。このパレスを奪還することは、いまや私たち、そして兵たちの悲願でもあるのです。どうか、お願いします……!」
シーダの表情も、口調も、必死だった。シーダらしからぬやり口だというのに、ありったけの思いが込められているのが俺にもわかった。
ニーナは苦い顔をしていた。シーダが兵をダシに使ってまで説得してきたことに驚き、腹を立てているのがわかる。
だが、こいつが何より腹立たしく思ってるのは、総大将として、シーダの言葉を認めざるを得ないことだろう。こいつは、それがわかるようになっちまった。
戦は、佳境だ。
ニーナはミネルバを見た。ミネルバは淡々と答えた。
「一人の戦士として、私はシーダ王女の言葉を支持します」
ニーナは肩を落とした。辛そうな顔で俺を見る。ニーナが何かを言う前に、俺は言った。
「このパレスを奪還するまでは、俺にやらせてくれ」
「それは、総指揮官としての矜恃ですか……?」
ニーナの声は、おさえきれない感情に震えている。
そんなもん、はじめっからねえよ。
「パレスは取り戻したと言ってやりたいだろ。相手が墓であっても」
俺の考えが足りなかったばかりに死なせちまった。
挙げ句、王宮も奪れなかったとなれば、合わせる顔がねえにもほどがある。
ニーナの顔から、一瞬怒りが消え去ったように見えた。
目を見開いて、ニーナは呆然と俺を見ている。やがて我に返ると、ニーナはうつむいた。
「そう、ですね……。ええ、墓であっても」
墓であっても。もう一度繰り返して、ニーナは呟く。
やがてニーナは顔を上げた。頬には涙の跡があり、目の奥には怒りがあったが、また違う決意がその表情からは感じられた。
「あなたの願いを、聞き入れます。パレスを奪還したら、あなたの処遇について、あらためて話しましょう」
「おう」
答えてから、俺は舌打ちした。
気分が、いくらか軽くなったことに気づいたからだった。
ミディアとボアが閉じこめられていた客室の前につくと、そこには全軍がそろっていた。
俺はマチスから状況を聞く。宝物庫にいたジェネラルは、こいつとエステベスが倒したということだ。アーマーキラーの扱いにすっかり慣れたようだ。
「奥にいる火竜はどうしやすか?」
アイルトンに聞かれて、俺は奥にたたずんでいるバヌトゥを見た。
「悪いな、また頼む」
「悪い、と言う時ぐらい、申し訳なさそうな顔をしてほしいものだな」
バヌトゥはそう言ったが、本気ではなく皮肉交じりの冗談のようだった。手下たちが「違えねえ」と笑った。
ミディアたちの件が片付いた以上、あとは掃討戦でしかねえ。とはいえ、何が起こるか分からねえからな。これ以上、油断はできねえ。
敵の火竜は、こちらも火竜と化したバヌトゥで注意を引き、ミネルバとリンダで葬った。
聖水を使うよう全員に指示を出して、玉座の前の広間にミネルバとマチスを突入させる。
アイルトンとカシムが続き、さらに火竜状態のバヌトゥが広間へ歩いていく。最後に、カーツ率いる義勇兵たちが入っていった。
魔道士たちはたちまち一掃された。
玉座に居座るボーゼンの面倒くささは、ボルガノンを使うことだけじゃない。回復の杖を持った司祭に左右を固めさせていることだ。しかも、この司祭を倒せば、控えているスナイパーが穴埋めとばかりに出てくるというおまけつきである。
問題はスナイパーだ。
俺はバヌトゥとカシムに指示を出して、ボーゼンの左(画面的には右)にいる司祭をまず焼いた。そして、キルソードを持ち、聖水をふりかけたミネルバが間髪入れずボーゼンに斬りかかる。
「ドルーアにたてつく反乱軍の兵士ども……うぬっ、貴様、ミネルバ王女か!」
「そういえば、見覚えのある顔だな」
驚愕するボーゼンに、ミネルバは涼しげに応じる。
「裏切ったとは聞いていたが、まさかこのようなところで会うとはな……。わしのボルガノンで骨まで焼き尽くしてくれるわ!」
炎の魔法が大地を走り、火柱を噴きあげる。だが、それに耐えて、ミネルバはボーゼンを斬り伏せた。
「この程度で勝ったと思うな。ドルーアは不滅なのだ……ぐふっ」
そうして空になった玉座へ、俺が足を進めた。司祭を鉄の斧で脅しつつ、その奥の回廊を睨みつける。
案の定、スナイパーが飛びだしてきた。放たれた矢を、俺は斧で弾き返す。この玉座に俺が立ちふさがらなかったら、こいつに行動の自由を許しちまうからな。しかし、人手不足をさっそく実感してるぜ。
司祭とスナイパーは、杖と武器をそれぞれ捨てて降伏した。また、奥の部屋にいたソルジャーたちも同じく降伏する。
そいつらが拘束されるのを確認すると、俺はニーナのところへ歩いていった。
「出番だ、総大将」
ニーナは頷いた。玉座の前まで歩いていくと、ニーナはこちらを振り返って兵たちを見回す。
「みなさん……」
そう言って、ニーナは両手を胸の前に持っていき、目を閉じた。
「みなさん、本当にありがとうございます。あなたがたの助けがなければ、今日、私がここにいることはなかったでしょう。どれほど感謝の言葉を並べても、まるで足りない思いです。アカネイアの王家に生まれた者として、みなさんの勇気と奮戦には必ず報いることを、ここに約束させていただきます」
誰もが黙って耳を傾けている。ニーナは凛とした顔で続けた。
「まだ、戦いは終わっていません。ドルーア、グルニア、マケドニア、そしてグラの四王国は健在であり、遠くアリティアは圧政に苦しみ、カダインも悪の司祭ガーネフの支配下にあります。諸国を解放し、過ちを正す。そのための戦いは、今までよりもさらに苛烈で、厳しいものとなるでしょう。ですが、私たちは大陸全土に平和を取り戻さなければなりません。私たちのためだけではなく……」
この時、ニーナは一旦言葉を切った。俺の方を見たように思えた。だが、それは一瞬のことだったから、はっきりとは分からなかった。
「家族のために、友人のために、愛する人々のために、失われてしまった大切な人たちのために。神々に彼らの魂の安らぎを祈る時、彼らに笑顔で語りかけられるように!」
誰もが、自然と目を閉じた。
あるいは胸に手を当てた。
拳を握りしめた。
この世にいない者たちへ呼びかけるかのように。
俺も、無意識の内にそうしていた。
「私には、ちからがありません。あなたがたに支えられて、ここまでたどりつけたように。私が示すことができるのは、ドルーアと戦うという意志だけです。だから、お願いします。あなたがたのちからを、いまいちど貸してください。ドルーアと戦うために」
誰かが声をあげた。
誰かが拳を突きあげた。
声は次第に増えて大きくなり、突きあげられる拳の数もまた、増えていった。
俺も拳を突きあげた。
歓声が、玉座のあるこの空間を包み込んだ。
ニーナを称える歓声は、いつまでも続いた。
アカネイア・パレスは、同盟軍の手に取り戻された。
ガザック軍編成
ガザック シーダ アイルトン
海賊 カシム レナ
マチス ニーナ リカード
ウェンデル バヌトゥ エステベス
カーツ マリア ミネルバ
リンダ