(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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ここまでで前半戦です。この先は次の更新で。
それでですね。
今後のために少し書きためというかストックを作りたいので、申し訳ないですが、次の更新は週末ぐらいになります…… <(_ _)>
お待ちいただけると、幸いです。


「アカネイア・パレス」4

 ミディアはシーツにくるんで、シーダとミネルバが運ぶことになった。

 シーダたちの後について廊下を歩きながら、俺はニーナに話した。アカネイア騎士が敵として襲いかかってきたことと、それによってヴィクターたちが壊滅的な打撃を受けたことを。

 

「だから、あなたはその怒りをミディアにぶつけたということですか……?」

 

 ニーナの顔は紅潮している。その目には変わらず怒りが浮かんでいた。

 

「言っただろう。俺はあいつを戦利品として手に入れた。だから、やりたいようにやった」

 

「そうですか」

 

 ニーナの声は氷のように冷たかった。ニーナは足を止める。俺も釣られて足を止めた。

 

「あなたを解任します」

 

 さきほどまでの怒りを両目にだけ残して、感情をまったくうかがわせない無表情で、ニーナは言った。シーダやミネルバがおもわずこちらを見るほど事務的な口調だった。

 

「これ以上、あなたに同盟軍の指揮を執ってほしいとは思いません」

 

 これほど意味のない言葉もない。だが、これほどニーナの決意を示す言葉もないだろう。

 

「待ってください」

 

 シーダが声を上げた。ミディアを運んでいなかったら、ここまで駆け寄ってきたに違いない必死さだった。

 

「ニーナ様、せめて……せめて、この戦いが終わるまで、待っていただけませんか」

 

「あなたは、この男の肩を持つのですか」

 

 ニーナが語気も荒くシーダを睨みつける。はじめて見る光景だった。シーダは臆さない。ミネルバにミディアを任せて、こちらまで歩いてきた。ニーナをまっすぐ見つめる。

 

「兵たちの気持ちを、お考えになってください。ここで総指揮官がいなくなったら、彼らは動揺します。ここまで来ておきながら、敵に押し返されるかもしれません。このパレスを奪還することは、いまや私たち、そして兵たちの悲願でもあるのです。どうか、お願いします……!」

 

 シーダの表情も、口調も、必死だった。シーダらしからぬやり口だというのに、ありったけの思いが込められているのが俺にもわかった。

 ニーナは苦い顔をしていた。シーダが兵をダシに使ってまで説得してきたことに驚き、腹を立てているのがわかる。

 だが、こいつが何より腹立たしく思ってるのは、総大将として、シーダの言葉を認めざるを得ないことだろう。こいつは、それがわかるようになっちまった。

 戦は、佳境だ。

 ニーナはミネルバを見た。ミネルバは淡々と答えた。

 

「一人の戦士として、私はシーダ王女の言葉を支持します」

 

 ニーナは肩を落とした。辛そうな顔で俺を見る。ニーナが何かを言う前に、俺は言った。

 

「このパレスを奪還するまでは、俺にやらせてくれ」

 

「それは、総指揮官としての矜恃ですか……?」

 

 ニーナの声は、おさえきれない感情に震えている。

 そんなもん、はじめっからねえよ。

 

「パレスは取り戻したと言ってやりたいだろ。相手が墓であっても」

 

 俺の考えが足りなかったばかりに死なせちまった。

 挙げ句、王宮も奪れなかったとなれば、合わせる顔がねえにもほどがある。

 ニーナの顔から、一瞬怒りが消え去ったように見えた。

 目を見開いて、ニーナは呆然と俺を見ている。やがて我に返ると、ニーナはうつむいた。

 

「そう、ですね……。ええ、墓であっても」

 

 墓であっても。もう一度繰り返して、ニーナは呟く。

 やがてニーナは顔を上げた。頬には涙の跡があり、目の奥には怒りがあったが、また違う決意がその表情からは感じられた。

 

「あなたの願いを、聞き入れます。パレスを奪還したら、あなたの処遇について、あらためて話しましょう」

 

「おう」

 

 答えてから、俺は舌打ちした。

 気分が、いくらか軽くなったことに気づいたからだった。

 

 

 ミディアとボアが閉じこめられていた客室の前につくと、そこには全軍がそろっていた。

 俺はマチスから状況を聞く。宝物庫にいたジェネラルは、こいつとエステベスが倒したということだ。アーマーキラーの扱いにすっかり慣れたようだ。

 

「奥にいる火竜はどうしやすか?」

 

 アイルトンに聞かれて、俺は奥にたたずんでいるバヌトゥを見た。

 

「悪いな、また頼む」

 

「悪い、と言う時ぐらい、申し訳なさそうな顔をしてほしいものだな」

 

 バヌトゥはそう言ったが、本気ではなく皮肉交じりの冗談のようだった。手下たちが「違えねえ」と笑った。

 ミディアたちの件が片付いた以上、あとは掃討戦でしかねえ。とはいえ、何が起こるか分からねえからな。これ以上、油断はできねえ。

 敵の火竜は、こちらも火竜と化したバヌトゥで注意を引き、ミネルバとリンダで葬った。

 聖水を使うよう全員に指示を出して、玉座の前の広間にミネルバとマチスを突入させる。

 アイルトンとカシムが続き、さらに火竜状態のバヌトゥが広間へ歩いていく。最後に、カーツ率いる義勇兵たちが入っていった。

 魔道士たちはたちまち一掃された。

 

 玉座に居座るボーゼンの面倒くささは、ボルガノンを使うことだけじゃない。回復の杖を持った司祭に左右を固めさせていることだ。しかも、この司祭を倒せば、控えているスナイパーが穴埋めとばかりに出てくるというおまけつきである。

 問題はスナイパーだ。

 俺はバヌトゥとカシムに指示を出して、ボーゼンの左(画面的には右)にいる司祭をまず焼いた。そして、キルソードを持ち、聖水をふりかけたミネルバが間髪入れずボーゼンに斬りかかる。

 

「ドルーアにたてつく反乱軍の兵士ども……うぬっ、貴様、ミネルバ王女か!」

 

「そういえば、見覚えのある顔だな」

 

 驚愕するボーゼンに、ミネルバは涼しげに応じる。

 

「裏切ったとは聞いていたが、まさかこのようなところで会うとはな……。わしのボルガノンで骨まで焼き尽くしてくれるわ!」

 

 炎の魔法が大地を走り、火柱を噴きあげる。だが、それに耐えて、ミネルバはボーゼンを斬り伏せた。

 

「この程度で勝ったと思うな。ドルーアは不滅なのだ……ぐふっ」

 

 そうして空になった玉座へ、俺が足を進めた。司祭を鉄の斧で脅しつつ、その奥の回廊を睨みつける。

 案の定、スナイパーが飛びだしてきた。放たれた矢を、俺は斧で弾き返す。この玉座に俺が立ちふさがらなかったら、こいつに行動の自由を許しちまうからな。しかし、人手不足をさっそく実感してるぜ。

 司祭とスナイパーは、杖と武器をそれぞれ捨てて降伏した。また、奥の部屋にいたソルジャーたちも同じく降伏する。

 そいつらが拘束されるのを確認すると、俺はニーナのところへ歩いていった。

 

「出番だ、総大将」

 

 ニーナは頷いた。玉座の前まで歩いていくと、ニーナはこちらを振り返って兵たちを見回す。

 

「みなさん……」

 

 そう言って、ニーナは両手を胸の前に持っていき、目を閉じた。

 

「みなさん、本当にありがとうございます。あなたがたの助けがなければ、今日、私がここにいることはなかったでしょう。どれほど感謝の言葉を並べても、まるで足りない思いです。アカネイアの王家に生まれた者として、みなさんの勇気と奮戦には必ず報いることを、ここに約束させていただきます」

 

 誰もが黙って耳を傾けている。ニーナは凛とした顔で続けた。

 

「まだ、戦いは終わっていません。ドルーア、グルニア、マケドニア、そしてグラの四王国は健在であり、遠くアリティアは圧政に苦しみ、カダインも悪の司祭ガーネフの支配下にあります。諸国を解放し、過ちを正す。そのための戦いは、今までよりもさらに苛烈で、厳しいものとなるでしょう。ですが、私たちは大陸全土に平和を取り戻さなければなりません。私たちのためだけではなく……」

 

 この時、ニーナは一旦言葉を切った。俺の方を見たように思えた。だが、それは一瞬のことだったから、はっきりとは分からなかった。

 

「家族のために、友人のために、愛する人々のために、失われてしまった大切な人たちのために。神々に彼らの魂の安らぎを祈る時、彼らに笑顔で語りかけられるように!」

 

 誰もが、自然と目を閉じた。

 あるいは胸に手を当てた。

 拳を握りしめた。

 この世にいない者たちへ呼びかけるかのように。

 俺も、無意識の内にそうしていた。

 

「私には、ちからがありません。あなたがたに支えられて、ここまでたどりつけたように。私が示すことができるのは、ドルーアと戦うという意志だけです。だから、お願いします。あなたがたのちからを、いまいちど貸してください。ドルーアと戦うために」

 

 誰かが声をあげた。

 誰かが拳を突きあげた。

 声は次第に増えて大きくなり、突きあげられる拳の数もまた、増えていった。

 俺も拳を突きあげた。

 歓声が、玉座のあるこの空間を包み込んだ。

 ニーナを称える歓声は、いつまでも続いた。

 

 アカネイア・パレスは、同盟軍の手に取り戻された。




ガザック軍編成
ガザック   シーダ   アイルトン
海賊     カシム   レナ
マチス    ニーナ   リカード
ウェンデル  バヌトゥ  エステベス
カーツ    マリア   ミネルバ
リンダ

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