(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
ニーナと墓地で話をした日から四日間、俺は毎晩ラングと宴会を楽しんだ。
何せ戦勝祝いの宴会の記憶がまったくねえからな! ここで多少は楽しんでおかねえと!
人の金で飲む酒の何とうまいことよ! うはははは!
ニーナの態度から想像してはいたが、ラングは自分の立場の危うさを正確に理解しているようだった。俺には毎日接待攻勢。賄賂を持参し、豪勢な食事を並べ、褒めちぎってきた。高級娼婦も複数用意してきたが、俺は最初の夜に来たララベルを指名し続けた。
「ずいぶんとあの娘にご執心だな」
「体の相性がいいと言うんでしょうかね。飽きるまで可愛がってやりたいと思いまして」
本当は、とっかえひっかえするのが怖いからなんだけどな。
ララベルは毎晩おとなしく俺に抱かれている。役割を果たそうとしてか割と積極的に攻めてくるんだが、他の女もそうだとは限らない。
俺のことを殺すのがラングのためとか思いこんでるような女がいるかもしれない。そういうのに襲われたら危険だ。
だからって、ララベル相手に気が抜けるかっていうと、そうでもないんだが、まあ神経はあまり磨り減らさずにすむわけですよ。
「気に入ってもらえて何よりだ。ガザック殿の側に置くよう取りはからおう」
「いいんですか? いや、ラング殿には本当に感謝しております。ニーナ姫ときたら、あれこれ命令してくる割にこういうことにもうるさくて……」
「ははは、大変だな」
もちろん俺はラングが喜びそうなこともたっぷり言ってやった。
ニーナとは毎日会って説得している、今後の戦いのためにも、ラングの経験と兵力が必要だと主張した、五大侯爵家に死者が多く出ており、今後の治世を考えればラングの存在は貴重であるとも言った、その甲斐あって、ニーナも少しずつラングを許す気になっているようだ……。
もちろんほぼ全部嘘だが、ニーナに毎日会っているのだけは本当だ。何せ戦後処理がまだ終わってないからな。多少は手伝ってやらないと。
ニーナにもしっかり言ってある。ラングのことを許そうかどうしようか迷っているふりをしろと。こういうのは細部が肝心だからねー。
「まことに有り難い。わしもパレスに来てから色々な者に会っているが、五大侯爵家の栄光も過去のもの、といったところでな。わしが面倒を見てやらねばと思っている。その暁には、ガザック殿にもぜひ協力いただきたい。なに、ニーナ姫などこのパレスに押しこめておけばいいのだ」
こうして話している間も、俺はもちろんこいつを警戒している。時々、こいつは馴れ馴れしく肩を叩いて顔を寄せてくるからだ。親愛表現なのかもしれないが、そのたびに俺は緊張しっぱなしだ。
それにしても、ラングの財力はすごい。
俺が財宝をもっとよこせと遠回しに要求しているのもあるが、こいつは初日に俺に贈ってきたのと同じだけの財宝を二日目も三日目も四日目も用意してきた。金銀財宝、毛皮に宝石。
五大侯爵家の一つ一つが一国に匹敵するってのは誇張じゃないらしい。総指揮官とはいえ、たかが海賊の俺を丸めこむためだけに、これだけのお宝をつぎ込めるんだからな。とはいえ、三日目にはさすがに額に青筋が浮かんでいたが。
まあ、俺以外にもニーナを説得できそうな奴を接待漬けしているだろうからなあ。パレス奪還から何日か過ぎて、各地のアカネイア貴族が少しずつパレスか城下町に来ているようだし。
ラングが自分の領地からどれだけのお宝を持ってきているかは知らないが、それなりの負担ではあるだろう。できれば十日は搾ってやりたかったが、そろそろ限界か。
そして五日目の晩。ラングはすっかり慣れた様子で、ララベルを伴って俺の部屋を訪れた。
俺は笑顔で賄賂を受けとったあと、乾杯する前にラングに言った。
「実は、ラング殿に話が三つある。一つは悲しい話、もう一つは苦しい話、最後に喜ばしい話だ」
この台詞で分かる人には分かるだろう。そう、「蒼○航路」だ。
「はあ」
ラングは不思議そうな顔をして俺を見た。この海賊、何を言いだすんだって顔だ。
「まず、ラング殿から頂戴した財宝の大部分を返さなければならねえ。これが悲しい話だ」
「いやいや、何を言うのだ、ガザック殿」
ラングは慌てて手を振った。
「返すなどとんでもない。あれはガザック殿が好きに使ってくれ」
「勘違いするな。あんたが巻きあげたもとに返すんだ。つまり、アカネイアの民にな」
「ど、どういう意味だ……?」
ラングは、すぐには事態が理解できないようだった。俺はかまわず続けた。
「次は苦しい話だ。あんたにもてなしてもらうのは、今夜が最後になった」
言い終えるやいなや、扉が開いて十数人の男たちが勢いよく入ってきた。アイルトンたちだ。誰もが手に斧か弓を持っている。
アイルトンが素早く進みでて、呆然としているラングを突き飛ばし、床にねじ伏せた。更に二人の手下がラングを押さえつける。
ラングは顔面蒼白になって叫んだ。
「な、何をする! どういうつもりだ!?」
「お前の首をはねる」
ソファから立ちあがって、俺は告げた。
「実に、実に苦しい話だ。もうこんな夜がこないと思うと。それに、あんたに従う部下たちの心境を思うとたいそう心苦しいし、アカネイア貴族の敵意が俺に向けられるとなれば、それは大変苦しいものだろう」
「なっ、なっ、なっ、なっ……」
驚きの余り、ラングは声をわななかせた。
「ふ、ふざけるな! そんなことをしてみろ、我がアドリアの貴族諸侯が黙ってはおらんぞ! 数千の兵がこのパレスに押し寄せたら、貴様ごとき卑しい生まれの薄汚い海賊なんぞ、ひとたまりもないぞ! そうなってもいいのか!」
必死の恫喝を、俺は凶悪な笑みを浮かべて受け流した。
「さて、最後に喜ばしい話だ。お前の裏切りの罪をもって、アドリアはしばらく王家の直轄領となる。具体的にはこの戦争が終わるまでの間だ。ニーナの信頼する者が代官としてアドリアを治める。お前に忠実な部下は全員クビ」
俺は自分の首をとんとんと叩く。この場合のクビってのは、そういう意味だ。見所によっちゃ助けないでもないが。
「娘狩りは廃止、税も半分にする」
「ま、待て! 考え直せ、ガザック!」
恫喝が通じないと悟ると、ラングは引きつった笑みを浮かべて訴えた。
「財宝が足りなかったか!? この五倍、いや、十倍さしあげよう! なに、領地に戻ればその程度の量はすぐに都合がつく! 若い娘もだ! あのような小娘についていって、何の得があるというのだ!? わしにはグルニアにもマケドニアにもドルーアにも伝手がある! 地位が欲しければいかようにも用意できるぞ! わしの娘をやってもいい! そうだ、それがいい! そうすれば次期アドリア侯爵家の当主だ! いい話だろう! ニーナなんぞに従うより賢明な選択ではないか! な! な!」
「……俺が、お前じゃなくてニーナにつく理由を知りたいか?」
俺がラングを見下ろして聞くと、ラングは顔を汗まみれにしながら何度も頷いた。
「お前、ニーナを抱いたことはあるか?」
ラングは何を言われたのか分からないって顔で俺を見上げた。まあ当然の反応だな。こいつの女好きの度合いからして、妄想したことぐらいはあるだろうが、さすがに手を出せるわけがない。
「俺は何度もあいつを抱いている。あいつはいい女だぞ」
俺は軽く手を挙げた。手下の一人が斧を振りあげて、振りおろす。
ラングの首が飛び、床を赤く染めながら転がった。