(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「ファイアーエムブレム」6

 翌日、俺はニーナの執務室を訪れた。

 ニーナの他に、シーダとレナ、ミネルバ、マリア、リンダも集まって、ニーナを手伝っている。

 俺が来る少し前までは、ボアとミディアもいたらしい。俺が二人の印象をシーダに聞いてみると、シーダは苦笑を浮かべて答えた。

 

「お二人とも、礼儀正しい方ですよ」

 

「ニーナ王女の前で、あえて言わせていただくが、少々居丈高だったな」

 

 ミネルバが横から言った。シーダは困ったような笑みを浮かべ、レナとマリアは静かにしている。ニーナと、そしてリンダは失望の表情を隠そうとしていない。

 

「つまり、生粋のアカネイア人らしい態度を見せたわけか」

 

 俺が言うと、ミネルバとマリアはようやく苦笑を浮かべた。

 リンダも生粋のアカネイア人のはずだが、こいつの場合、流浪人やって最終的には奴隷商人に買われてるからなあ。虜囚の身だった二人とはいろいろ違う。

 しかし、このリンダの境遇考えると、以前から思っていたことではあるが、やっぱりガトーってミロアのことたいして評価してなかったんじゃ……まあ今はいいや、そのことは。

 

「あの二人は、お前らの何が気に入らないってんだ?」

 

 空いている椅子にどっかと座って聞くと、リンダが俺を睨みつけた。

 

「あんたよ」

 

 意味が分からねえ。俺は他の女たちをぐるりと見回した。レナが言った。

 

「私たちが、あなたの、その、愛人であるというような……」

 

 愛人! いい響きだ! まあ微妙に違うんだが、他人から見た認識はそんなもんかもしれねえ。

 

「体を許しているのは事実だがな」

 

 ミネルバがさばさばとした口調で言った。

 

「つまり、私たちはガザック殿の忠実な下僕だと思われたわけだ。不本意だが、いちいち説明するのも馬鹿馬鹿しくてな」

 

「ガザック様。あなたがこちらに来たということは、何かあったのですか?」

 

 ニーナが遠慮がちに話題を変えた。まあ、あの二人を悪く言われるのは気分がよくないだろう。俺は笑顔で頷いた。

 

「ラングだが、無事に叩き殺したぞ。奴の屋敷もおさえた」

 

「……もう少し言い方を何とかしてもらえませんか」

 

 ニーナは頭を抱えた。俺はかまわず、ラングのことに加えて、ララベルが協力を申し出てきたことを話した。聞き終える頃にはニーナも立ち直った。

 

「ララベルの一族には私も何度か会ったことがあります。御用商人ではありませんが、パレスに何度か通って、それに近い位置を占めていましたね」

 

「そうなのか? そんなこと全然言われなかったぞ」

 

「たぶん、私が会った者とは違うのでしょう。ラングと一緒にいたということは、アドリア侯爵家の御用商人なのでしょうね」

 

 ふーん。まあ一族だしなあ。俺は話題を変えた。

 

「そろそろ、ワーレンから商人の一団が来るだろう。生活に必要なものを満載したやつ」

 

 以前、ワーレンにいた時に俺がニーナに命じたやつだ。

 俺たちがパレスを取り戻す頃に、生活に必要なものを大量に用意してパレスに持ってこい。そういう内容の手紙をニーナに書かせて、評議会の商人一人一人に出した。

 

「それに合わせて、城下町に金をばらまくぞ。生活に必要なものを買うようにという但し書きをつけてな」

 

 金は、ララベルが買いとったラングのお宝だ。俺たちの懐からは銅貨一枚も出ないので問題はない。

 

「ですが、そのような但し書きをつけても守られるでしょうか」

 

 ニーナが首を傾げる。シーダたちも同感のようだ。素直な連中だ。俺は笑った。

 

「いいとこ三割だろうな。別の三割は別のものを買って、残り四割は使わずに貯める」

 

「それじゃあ、ほとんど意味がないんじゃない?」

 

 マリアが顔をしかめる。こいつ、どんな顔をしても愛敬があるんだよな。世が世なら天才子役になれるかもしれん。

 

「俺は、むしろそうなってほしいんだ。そうなりゃ、目端の利く商人が次の需要をつかんで、またパレスに来る。今回、一仕事して満足してもう来ねえ、なんてのは困るんだよ」

 

「でも、商人たちにとっては予定の三割しか売れないわけでしょ?」

 

「だからこそ、生活に必要なもの、ってこっちは注文つけたんだ。パレスで余っても、五大侯爵家の土地へ持っていけばさばけるだろ。あっちもこっちも焼け野原だからな」

 

 俺の言葉に、マリアは納得して感心した顔になった。

 

「私たちがワーレンの商人と交渉し、そうした品物をすべて買って、民衆に配布するというのでは駄目なのですか?」

 

 シーダが聞いてきた。俺は首を横に振った。

 

「ただだと、必要以上に持っていっちまうからな。一人一人、何が必要かは違うし、てめえに考えさせて、てめえの金で買わせた方がいい」

 

「たしかにそうですね。わかりました」

 

 シーダは納得して頷いた。こういうところ、こいつは本当に民衆思いで素直だ。

 

「ああ、それとワーレンといえばな」

 

 レナが見ている書類を横から覗きこんで、俺はあることを思いだした。

 

「カーツがまとめている義勇兵の部隊な、あいつらはワーレンに帰すぞ」

 

 意外だったらしい、シーダとニーナ、ミネルバが俺を見た。

 

「いいのか? 私たちの戦力は足りているとは言い難いが」

 

 ミネルバが言い、続けてニーナが言った。

 

「ディールでも、そしてこのパレス奪還の戦いでも、彼らは懸命に役割を果たしてくれたと思いましたけど」

 

 俺はため息交じりに二人に答えた。

 

「あいつらの面倒を見ることのできるやつがいねえ」

 

 俺はレナに緑茶を淹れてもらって、そいつ片手に説明した。

 カーツたちは義勇兵だ。

 言ってしまえば、一時的な情熱、熱狂で兵士に化けている民衆だ。

 ニーナの言ったように、たしかにこいつらは頑張った。

 だが、それは誰かのサポートがあったからだ。ディールでは、ヴィクターたち戦士部隊がそばにいた。パレス奪還戦では、ミネルバやマチスたちが見ていた。

 

 このまま育てていけば、カーツたちは、もしかしたら素晴らしい成長を見せてくれるのかもしれない。それこそ「聖魔」のアメリアのように。

 だが、現時点ではまだ練度が足りない。不安がある。

 こいつらを活かすには、ベテランのサポーターがいる。ベテランでなくとも、それなりに面倒見がよくて判断力のある奴が。

 アイルトンやミネルバ、それにマチスあたりなら任せられるだろうが、こいつらにそんなことをやらせている余裕はねえ。

 

 この先の戦いは、グラ、カダイン、アリティア、ラーマン寺院を挟んで、グルニア、マケドニアってところだ。

 いくらか楽といえるのは、次のグラまで。

 カダインも敵の戦力はたいしたことねえが、砂漠っていう難所に加えてガーネフが出てくる。ゲーム通りなら。

 アリティアからはたぶん激戦続きだ。

 

「ミネルバが言ったように、俺たちは戦力不足だ。今後の予定としては、まずグラの平定だが、予備兵力を置かない戦いをすることになる。本来戦闘に参加しない連中にも、戦ってもらうことになるかもしれない」

 

「その時は、かまわず戦うことを命じてください」

 

 シーダがまっすぐ俺を見つめた。俺は首を横に振った。

 

「お前はこれまで通り偵察と伝令だ。ただ、要求がはねあがるのは覚悟しておけ。これまでより早く、加えて、数もこなしてもらうことになる」

 

 これまでは、俺が「知っている」ことを隠しつつ、現場を確認してもらうための偵察だった。

 だが、パレスの守備にワーレン攻めのグルニア兵が混じっていたことや、アカネイア勢と戦ったことを考えると、俺の知識とのずれについても考えた方がいい。

 レフカンディにおけるマリオネスの一件は俺の自業自得だったが、パレスの件は違う。

 

「だが、前にも言ったが、お前に死なれると困る。俺は無茶を要求するが、無茶はするな」

 

「本当に無茶な要求ですね」

 

 シーダは苦笑した。いや、これ割と本音なんだがな。今後、ますます偵察と伝令の重要性は上がっていくんだから。まあ、こいつは分かってるだろうが。

 

「わかりました。無茶をしないように、頑張ります」

 

 シーダが笑顔で言うと、緊張した空気がやわらいだ。 

 俺はあらためてニーナに尋ねる。

 

「で、カーツたちのことはどうする?」

 

「ここまで私たちについてきて、戦ってくれたのです。精一杯の感謝を込めて、送りだしたいと思います」

 

「送りだすって、具体的には?」

 

 俺が突っこんで聞くと、ニーナは困惑したように首を傾げたが、しっかり答えた。

 

「一人一人、手を取ってお礼を言いたいですね。百人はいなかったはずですから、それぐらいの時間は取れるはずです。あと、できれば何か贈りものを手渡しで……」

 

 俺はついにやにや笑っちまった。こいつ、これを素で言ってるんだからおっかねえよな。リンダが胡散臭いものを見る目で俺を見る。

 

「ちょっと、何を考えてるのよ」

 

「いや、別に? さすがお優しいニーナ様万歳って思っただけだ」

 

「からかわないでください。何を言いたいんですか?」

 

 ニーナが顔をしかめた。俺は言った。

 

「お前らしいやり方だと思う。褒めてるんだぞ? で、俺は、お前のそういうところを利用させてもらう。カーツたちに、ワーレンに帰ったらニーナのことを広めるように頼んでおく」

 

 無事に帰ることができれば、カーツたちはディールやパレスでの戦いを誇らしげに話すだろう。それはいい。俺たちの宣伝にもなるからおおいにやってほしい。

 ただ、そこでついでにニーナのことを広めてもらえれば、ニーナに好意的な集団ができあがる。ワーレンの中に。あの時の演説を思いだしてくれる奴もいるかもしれない。

 

 利害が絡めば話は別。それは真理だが、時に利害よりも義理や感情を優先させる奴が出てくるのもまた事実だ。

 また、利害で考えればどちらに協力してもよくて、迷うという場合、そこで最後の一押しになるのはやっぱり義理や感情だ。

 カーツたちを、そういう層に仕立て上げる。

 

 そう説明して得意げに笑うと俺を、レナとリンダが呆れた目で見た。

 

「ニーナ様の善意をそのように利用するのは、あまり賛成できません」

 

「ニーナ様が下心を持っているように思われたらどうするのよ」

 

「何を聞いていたのかね、君たち。俺は、ただカーツたちに『ニーナ様って優しい人だったよな? そのことを家族親戚友人知人にも熱意を込めて伝えてあげてくれ』って言おうと思ってるだけだぞ。だいたい、カーツたちをどうやって送りだすのか、俺は何一つ指示しなかっただろう? 全部、ニーナが自分で考えて言っただろう?」

 

「そういえば、あなたはそういう人でしたね。あの時もサクラというのを使って……」

 

 ニーナがため息をつく。

 

「前にも言ったと思うが、ガザック殿はつくづく兄と話が合いそうだ」

 

 ミネルバが腕組みをして肩をすくめた。マリアが苦笑する。うーん、ミシェイルって嫌な奴だな。

 俺は笑ってニーナを見た。

 

「今、俺が言ったことを意識する必要はねえ。お前は素直に感謝して、送りだしてやれ。あいつらのおかげで戦いが楽だったのは間違いねえからな」

 

「最初からそれだけを言ってくれればいいのに」

 

 ニーナは怒ったように口を尖らせた。だが、本気で怒っているわけじゃないのが分かる。

 

「ですが、贈りものをどうしましょうか。できれば、一人一人に勲章を用意したいところですが、それでは時間がかかります」

 

「即物的だが、一人に一枚金貨を渡してはどうだろうか」

 

 ミネルバが提案した。悪くない。シーダが首を傾げる。

 

「少し露骨ではないでしょうか。なんだか傭兵扱いしているようにも思えます」

 

「じゃあ、その金貨に飾りをつけるのはどうですか?」

 

 そう言ったのはマリアだ。

 

「たとえば絹布でリボンを作って、金貨に結ぶとか……」

 

「金貨と絹布なら、すぐに用意できますね」

 

 ニーナが顔を輝かせる。レナも頷いた。

 

「リボンを作るお手伝いなら、私もできます」

 

「そのリボンに、ニーナ様が感謝の言葉を書くのはどうでしょうか。『あなたの勇戦に感謝して』というような」

 

 リンダが身を乗りだす。俺も似たようなことを考えていたが、これならこいつらで問題なさそうだ。

 楽しく意見を出しあっている六人を見て、俺は立ちあがった。

 

「俺は城下町で飲んでくる。後は任せた」

 

 俺はエステベスに頼んで、闘技場に使えそうな傭兵がいるかどうか、調べてもらっていた。やっぱり戦力が足りねえしな。

 よさそうなのを一人見つけるたびに金を出すと言ったら張り切ってたんで、向こうに着くころには一人ぐらい見つかってるだろう。それに、もう一つ頼みたいことができた。

 

 あと、カーツたちを帰らせることを、城下町で情報収集がてら遊んでいるカシムやマチス、リカードに教えてやらないといけない。あいつらだって、カーツを送りだしたいだろうからな。

 シーダやレナから聞いた話だと、どうも最近こいつら三羽烏というか三馬鹿トリオになってるんだとかなってないんだとかって話だが……。

 馬鹿騒ぎやらせたら気の合う面子ではあるんだろう。詐欺師にバカ兄貴に盗賊だからなあ……。


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