(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「ファイアーエムブレム」8

 俺がミディアとボアと会うのは、パレス奪還戦以来だ。

 

「ごきげんよう」

 

 皮肉たっぷりに笑ってやると、ミディアは顔を青くして体を固くした。ボアは真っ白な眉を吊り上げて、怒りを隠さずに俺を睨みつけている。

 場を取りなすように、玉座からニーナが言った。

 

「あなたを呼んだのは、今後の戦略について話をしたいと思ったからです。あなたの立てた戦略について、この二人が異議があると……」

 

「そうだ」

 

 気を取り直したミディアが、俺に向かって一歩進みでた。

 

「栄光あるアカネイアの貴族として、あのような戦略は認められない」

 

「私も同感だ」

 

 ボアがゆったりとした司祭服を揺らして大きく頷いた。

 えっ。お前らがそれ言うの? 俺の戦略って基本的に加賀○三with任天○スタッフプロダクトなのに?

 

「どのあたりが気に入らないのか、拝聴しよう」

 

 俺が挑発するような笑みを浮かべて言うと、ミディアが言った。

 

「言われなければ分からないのか? 第一に時間がかかりすぎる。第二に戦いが多すぎる。負けることはおろか、兵の消耗についてもまったく考慮されていない。所詮は海賊の浅知恵だ」

 

 へえ。俺は少し感心した。ミネルバと同じことを言った。ということは、それなりに学んでいるってことか。伊達にパラディンじゃねえんだな。

 そして、俺はニーナが俺を呼んだ理由を理解した。

 ニーナはかなり成長しているが、戦略についての理解はまだ足りない。これは仕方ねえ。何でもかんでも短期間で習得できるわけねえからな。

 俺の口から出た以上は俺の戦略なんだし、俺が言わないといけない。

 俺は、ミネルバに説明したことと同じことをミディアに言った。だが、ミディアは納得しなかった。

 

「常に勝って進む前提なら、どんな戦略だって立てられるだろう。そんな代物に、ニーナ様を巻きこむな。貴様と取り巻きどもだけでやれ」

 

「負けた場合に備えるのは当然として、基本的には勝つ前提で話を考えるもんだろう。俺の案に反対だというなら代案を出せよ」

 

 うんざりして俺は言った。こいつは何を言っても納得しないと分かったからだ。理屈はそれなりにある。だが、根っこにあるのは俺への敵意だ。まあ無理もねえが。

 ミディアは、そうくると思ったとでもいうふうに、自信たっぷりに頷いた。

 

「そのつもりだ。明日、私たちは新たな戦略を決め、ニーナ様に承認していただく。貴様のような海賊はもはや不要ということだ」

 

 俺は顔をしかめた。

 

「その言い方からすると、まだ決まってねえのか。私たち、ってお前以外に誰がいるんだ?」

 

「サムスーフ、レフカンディ、メニディの代表たちが、今日、パレスに着く予定だ。その三人に私とボア様、ニーナ様の六人で話しあい、明日の夕方までに決める」

 

 俺は唖然としてミディアを見つめた。

 ああ、そういうことか。ふーん……。

 

「アドリアから代表は来ないのか?」

 

「貴様がラングを殺したのだろう」

 

 ミディアは呆れた顔で言った。

 

「私もラングは許せぬと思っていたが、ニーナ様の許しを得ずに行動を起こすとは何ごとだ。ニーナ様が急いで代官を派遣するよう手配されたからいいものの、アドリア中が混乱するところだったぞ」

 

 俺は笑いを噛み殺すのに苦労しながら、そっとニーナを見た。ニーナは何とも困った顔で、とりあえずしかめっ面を作っている。

 俺とニーナは、ラングの件について、表向きはそういう形で処理していた。その方が都合がよかったからだ。

 俺はもう一つ気になったことを聞いた。

 

「アドリアの代表がいないのは分かったが、ラングと同じく裏切り者のサムスーフが来るってのはどういうことだ?」

 

「何も知らないのか。サムスーフ侯爵家のベントは、部下に殺されて裏切りの報いをとっくに受けている。もう一年近く前のことだ」

 

 ほほう。一年前ね。一年前か、そうか。

 

「予言してやろうか」

 

 凶悪な笑みを浮かべて、俺は言った。ミディアとボアは意味が分からないというふうに、戸惑った顔をする。

 

「明日、お前らがどんな戦略を立てるのか、当ててやろうかって言ってんだよ」

 

「何を……」

 

 ミディアは馬鹿馬鹿しいというふうに吐き捨てた。

 

「侯爵家の代理の者たちは、まだパレスに到着していないのだぞ。当然、大筋さえ決まっていない。それなのに、当てるも何もないだろう。それともお前は海賊ではなく、呪い師や占い師だとでもいうのか?」

 

「いいや、俺はただの海賊だ。呪いも占いも知らねえよ」

 

 俺はおもいっきり馬鹿にするように笑って、ぐいと顔を近づけながら言った。

 

「底が浅いんだよ。お前らは」

 

 ミディアとボアは、その場に立ちつくした。たぶん、今まで生きていてこんなことを言われたことはなかったんだろう。俺は言葉を続けた。

 

「そんなお前らの戦略を言い当てるぐらい、こちとら朝飯前だ」

 

「なっ……」

 

 我に返って、ミディアは怒りの表情を見せた。腰に手をやってから、そこに剣を差してないことに気づいたぐらいに。ニーナの前なんで、剣を預けていたんだろう。危ねえ危ねえ。

 

「海賊ごときが、我々を侮辱するのか!」

 

「お前らの馬鹿さ加減を笑うのに、海賊かどうかが関係あるのか? そんなんだから底が浅いってんだ。牢屋暮らしが長かったせいで、ずいぶん頭が悪くなったみたいだなあ」

 

「そこまで言うのなら、今この場で語ってみせるがいい」

 

 ボアが語気も荒く言った。怒りを表すように、白い太眉がわさわさ揺れている。

 

「どうした、言えぬのか。知っている、と言うだけなら簡単だからな」

 

「いいぜ。説明してやる」

 

 ボアが息を呑み、ミディアは顔を強張らせた。

 

「二、三ヵ月ほどアカネイアから動かず、力を蓄えて兵を揃える。船団も仕立てる。その後、海を渡ってマケドニアを攻める。お前らとしてはドルーアを一気に攻めたいんだが、あの国は北と東と西を険しい山々に囲まれてるからな」

 

 ミディアも、ボアも、ニーナも目を丸くした。俺は続ける。

 

「で、マケドニア軍を一戦で破って、マケドニア領内を突破して南からドルーアに攻めこみ、メディウスを討つ。グラ、カダイン、アリティア、グルニアは放置だ」

 

 俺が説明を終えると、沈黙がこの場を包み込んだ。ミディアもボアも、そしてニーナも驚いた顔で俺を見つめている。地図も用意せずにすらすら説明したのがよほど意外だったようだ。

 

「そ……」

 

 十秒と少しぐらいたって、ミディアはようやく声を絞りだした。

 

「そのようにならなかったら、どうするのだ! 言葉には責任が伴うものだぞ」

 

 精一杯声を張りあげてはいるが、さっきよりも力が欠けている。俺は嘲笑した。

 

「もし違っていたら、俺の首をくれてやるよ」

 

「二言はないな? 本当に、その首をはねるぞ」

 

「ああ。だが、もし俺の予言通りになったら、どうする? 言葉には責任が伴う。おおいにけっこうだ。お前にも責任を果たしてもらう」

 

 俺が言うと、ミディアはあきらかに怯んだ。だが、すぐに胸を張って頷いた。

 

「いいだろう。お前の言う通りの結論が出たら、私の首を持っていくがいい」

 

 うーん、この度胸、さすが第二部で闇堕ちハーディンに公然と逆らって殺されかけただけはあるぜ。アストリアとは散々衝突しながら結ばれたんだっけか? さもありなんて感じだ。

 

「首はいらねえ。お前、俺の女になれ」

 

「なっ!」

 

 ミディアと、ニーナが同時に叫んだ。ニーナが玉座から立ちあがって俺を怒鳴りつける。

 

「何を考えているのですか、あなたは!」

 

「いえ、ニーナ様。ご心配には及びません」

 

 ミディアは怒りに顔を赤くしつつも、冷静さを取り戻した。ニーナをなだめつつ、俺を睨みつける。

 

「いいだろう。どうせ、貴様の言う通りにはならないのだ。その条件を呑もう。明日の夜、首を洗って待っているといい」

 

「明日の夜、俺の部屋に来い。体を隅々まで綺麗に洗ってな」

 

 下卑た笑みを浮かべて言い返すと、ミディアは殺意を込めた目で俺を見た。怒りだけじゃない、恐怖を押し潰そうとしているんだろう。

 ボアがニーナに言った。

 

「それでは、ニーナ様。私どもはこれで……」

 

「……ええ。ご苦労様でした、二人とも」

 

 ニーナが玉座に座り直してねぎらいの言葉をかけると、二人は一礼して去っていった。この場には俺とニーナだけになる。ニーナはため息をついて、俺を睨みつけた。

 

「あなたを呼ぶべきではなかったのかもしれません……」

 

「そう怒るなよ。女を一人増やしたぐらいで」

 

 俺が笑って言うと、ニーナはまた玉座から立ちあがって怒鳴った。

 

「そういうことではありません! なぜ、戦略とやらを話してしまったのですか。あなたの言った通りになったとしても、ミディアとボアの二人でいくらでも修正できるでしょう」

 

「何だ、俺の心配をしてたのか」

 

 意外だという顔で俺が言うと、ニーナはため息をついた。

 

「あなたの存在が貴重なものであることは、私だって分かっています……」

 

 ニーナはいつになく真剣な顔で俺を見た。

 

「いいですか、私も弁護しますから、ミディアに謝ってください。あそこまで言ってしまった以上、何もなしではさすがにすみません。せめて鞭打ちぐらいですむように……」

 

「心配するな」

 

 俺はニーナに歩み寄ると、その肩を軽く叩いた。

 

「当たるぜ、俺の予言。お前が考えるべきはミディアを慰める言葉だ。言っておくが、お前がどれだけ弁護しても俺は撤回しねえからな」

 

 ミディアを抱きたいかというと、もちろん抱きたいに決まっているが、それより先に、奴の鼻っ柱をばっきりへし折ってやる必要がある。

 とにかく俺に従属させて、戦場での命令に四の五の言わず従うようにしないと、危なっかしくて使えねえ。ただでさえ戦力不足だってのに、貴重なパラディンを役立たずのままで放っておけるか。


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