(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
次の日の夜遅く、俺の部屋を二人の女が訪れた。ニーナとミディアだ。
二人とも薄地の寝間着の上にカーディガンを羽織っている。ミディアは、ランプの明かりだけでも分かるぐらいに顔を青くして、震えていた。それだけで俺には結果がわかった。
俺はソファに座って酒を飲んでいたが、空いているソファを勧めながら聞いた。
「どうだった?」
「……あなたの言った通りになりました」
ソファに腰を下ろして、ニーナが信じられないという顔で言った。その隣で、ミディアはうつむいて何も言わない。俺はいやらしい笑みを浮かべて聞いた。
「ミディアちゃんはよーく体を洗ってきたのかな? さっそく脱いでもらおうか。さあ、おじさんの隣に座って座って」
三人ぐらいは並んで座れるでかいソファだ。俺は自分の隣をばんばんと叩いた。ミディアはびくっと顔を上げて、いまにも泣きそうだ。げひひひひ、ちっとは反省したか。
「私が身代わりになります。ですからミディアのことは……」
ニーナがミディアをかばう。俺は笑った。
「そうしたらお前がもたねえだろ。毎回、自分の分だけでひーひー言ってるくせに」
ニーナは赤面して黙りこむ。ミディアはショックを受けた顔でニーナの横顔を見つめた。聞かされてなかったのか。まあ、お前もこれから俺の女になるんだがなあ。
ミディアは俺をキッと睨みつけると、ソファから立ちあがった。
「私のことでニーナ様にご迷惑をかけることはできません」
大股で歩いて、ミディアは俺の隣に座る。へえ、薄地の寝間着だから分かるが、ちゃんと出ることはそれなりに出てるんじゃねえか。おっぱいはシーダ以上レナ以下ってとこか。
俺はミディアの肩を掴んで乱暴に引き寄せた。さて、どうやっていたぶってやろうか。
「どうして彼らの戦略を予言できたのか、教えてくれませんか」
ニーナが必死な口調で言った。少しでも先延ばしにしようって魂胆か。
「それは私も知りたい。なぜ、昨日の時点であそこまで当てることができた?」
ミディアも俺を見つめた。こっちも必死ではあるが、純粋な疑問でもあるようだ。
「おう。ちょっと待て」
俺は立ちあがって、部屋の隅に用意していた地図を持ってきた。たぶん聞いてくると思ってたからな。そいつをテーブルに広げた。
「ミディア、お前はニーナからどこまで聞いた? 一年前にパレスを脱出してオレルアンにたどりついたことや、パレスを取り返すまでにどう戦ってきたのかは聞いてるか?」
「それはもちろんうかがった。ニーナ様にそのような苦しく辛い思いをさせてしまったこと、私の命を差しだしても足りないほどのことだと思っている。どのようにお詫びのしようもない……」
ミディアはつらそうに顔を歪めて肩を震わせた。うーん、分かっちゃいねえな。
「お前の後悔はどうでもいいんだが、その話を聞いた時、驚かなかったか?」
俺が聞くと、ミディアは意味が分からないという感じで顔をしかめた。ニーナもだ。言葉が足りなかったか。
「ニーナはオレルアンから、ドルーア打倒の檄を飛ばした。だが、誰も応えなかった。俺たちがオレルアンからマケドニア軍を追い払った後、ニーナは各国に宣戦布告の手紙を送った。アカネイアの民も知ったはずだが、誰も反応しなかった」
ミディアは驚きと動揺で目を丸くする。俺は続けた。
「ワーレンでニーナは演説を行った。これもアカネイアの民は知ったはずだ。義勇兵の一団が編成できるぐらいには盛りあがったんでな。だが、やはり誰も反応しなかった。俺たちがパレスのふもとまで来て、城下町を解放した後も、ニーナのもとに駆けつけたアカネイアの民はいなかった」
正確には、メニディ家のジョルジュは来てたんだがな。ニーナに会う前に俺を狙ってきたのがあいつのミスだ。そういや、あいつのことどうすっかな。売国奴云々はあいつを怒らせるための挑発だし。メニディ家の態度次第で決めるか。
「おそらく、ドルーアの監視が厳しくて、みんな、動こうにも動けなかったんだと思う……」
「騎士の一人、銅貨の一枚も送れなかったってのか?」
弱々しく、しかし必死に擁護するミディアを、俺はせせら笑った。
「身内をかばうのもけっこうだが、誰も応えてくれなくて心細い思いをしていたニーナ王女殿下のお気持ちを考えてみたらどうだ?」
一気にまくしたててしまわないように、途中で酒を挟みながら俺は言った。こいつは自分の言い分が弱いことを自覚している。一手ずつ確実に追いこんだ方がいい。
「お前んとこのディールも、俺たちがジューコフを討ったときでさえ、何も言ってこなかったな。将軍の戦死による混乱で、間違いなく監視の目は緩んでいたはずなんだが。お前のことが心配で動けなかったとしても、臣下なら、せめて詫びの手紙ぐらいはよこすべきじゃねえか?」
ミディアは反論に詰まって縮こまった。特にニーナのことが効いたようだ。
なんで手紙すらよこさなかったのか。
知らないふりをするためだ。知っていて見捨てたということにしたくないから、知らなかった、気づかなかった、で押し通す腹だ。
しかし、自分で言ってて思ったが、よくハーディンの奴はニーナを見捨てなかったな。
俺だったら、どれだけ我慢しても二ヵ月過ぎたところでニーナをドルーアに献上してオレルアンの安泰をはかるわ。愛? 愛か……。報われねえの知ってるとせつないわあ……。この世界でハーディンをころころしたのは俺だけど!
「アカネイアの貴族にとっちゃ、自分の安全、自分の領地が第一なわけだ。それは分かる。海賊が手下を食わせないといけないように、貴族だって臣下を食わせなきゃいけねえからな。ニーナに味方しても勝ち目がないという計算も、オレルアンの頃までなら仕方ねえ」
俺がわざわざ海賊と並べてやると、ミディアは渋い顔をした。これから少しずつ慣れさせてやる。
「だが、俺たちがパレスに迫ってもご覧の有様だ。そんな時勢を読めないぼんくらどもが、パレスに来て何をするか? ニーナの無事を喜び、勝利を祝い、自分たちが動かなかったことについてあれこれ言い訳をする……」
俺は地図を見て、パレス周辺の侯爵家の領地を指さした。
「そして、自分の領地のために、軍資金と兵の支援を頼むってとこだろう。自分の領地が平和になれば、ニーナに協力もできる。アカネイアの平和にもつながる。そんなことを言ってな」
「会議室のそばにリカードを潜ませておいたのではと思いたくなりますね……」
ニーナがため息をついた。ああ、それやってもよかったな。
「あいにく、昼間は俺もリカードも城下町に行っててな」
リカードには、ここでも仕込みをやらせている。吟遊詩人をさがしてニーナを称える詩を歌わせるというやつだ。なかなか順調のようで、次は画家でもさがそうかと話しあった。
なお、おまけ感覚で作らせてみた「疾風の義賊リカード」という詩もなぜかウケてしまったので、第二弾第三弾としてカシムとマチスのプロデュースも考えている。
後世には、この三馬鹿が同盟軍の三巨頭扱いされるかもしれん。いっそシーダやレナも売り出すべきか……。
考えるのは後日にして、話を戻そう。
「そんなふうに自分のことしか頭にねえ奴らが、ドルーアと戦うと聞かされたら、どう考えるか。協力してほしけりゃ先に手を貸せと言い立てる。だから、兵と物資を揃えるのに二、三ヵ月を費やす。その上で、最短距離を通って短期決戦ですませようと考える」
俺が地図上のアカネイアからマケドニアまで指を走らせ、さらにドルーアを指でつつくと、ニーナもミディアも深刻な顔で地図を見つめた。
「あなたは、昨日の時点でこれだけのことを考えていたのですか……?」
ニーナが驚いた顔で言った。ミディアも、俺を化け物か何かでも見るような目で見ている。
俺は呆れた顔で言った。
「お前、ここに来るまでに、俺がどれだけ地図とにらめっこしてきたと思ってんだ」
原作知識を利用してのショートカット。
ロマンだ。格好いい。俺だって何度も考えた。
だが、この世界では、オレルアンを平定した頃には、俺はその夢を諦めていた。
味方が絶望的に足りねえからだ。アリティア軍もオレルアン軍もいなかったからな。
この貴族どもにこっちから声をかけなかったのも、俺の臆病さからだ。レフカンディ侯爵家とかに会いに行って、知らない戦場で知らない敵と戦いたくねえし。この戦力で。
ニーナが連中に会いに行かなかったのは、たぶん拒絶されるのが怖かったんだろう。オレルアンに逃げてからは、ほとんどいないものとしてアカネイア勢に扱われてたわけだからな。
「奴らがマケドニア経由でのドルーア攻めにこだわるだろうと踏んだ理由は、もうひとつある。グルニアだ」
俺は酒を水に変えて、地図上のグルニアをつついた。ニーナもミディアも、意味が分からないってふうに首を傾げた。俺は意地悪な笑みを浮かべて言った。
「奴らは、グルニアに対して苦手意識というか、恐怖心を持っていると俺は思っている。怖くてたまらねえんだよ。パレスはカミュに攻め落とされ、領地もグルニア軍に荒らされ、この三年間やられっぱなしで逆らえやしなかったからな。連中、グルニアは遠すぎるとか、ドルーアさえ潰せば降伏するだろうとか言ってなかったか? 奴らはグルニアに近づきたくないんだ。この戦略ならグルニアに近づかずにすむ。一応はな」
一応はな。それを強調して、俺は説明を終えた。