(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「ファイアーエムブレム」10

 夜中のパレスの一室で、地図を囲むように、俺たちはソファに座っている。

 

「貴様の見識についてはよくわかった……」

 

 ミディアが深いため息をついて、顔を上げた。

 

「だが、私たちの戦略も、貴様の戦略に見劣りするものでは……」

 

「本気で言ってるのか?」

 

 俺が聞くと、ミディアは言葉の続きを呑みこんだ。

 

「まず、二、三ヵ月間パレスに居座って力を蓄えるって時点で駄目だ。俺がグルニアかマケドニアの指揮官なら、一ヵ月の内にパレスを攻める」

 

「どのように、ですか……?」

 

 ニーナが恐る恐るといった感じで聞いてきた。

 

「ぱっと思いつくものだと、グラに防衛強化のためって言わせてグルニアとマケドニアに援軍を要請させる。両国は、たいしたことない数の兵を送るとグラに伝える。これは囮だ。それで俺たちの注意を引きながら、大軍をパレスに向ける」

 

 今パレスを攻められたら、俺たちは確実に負ける。数の差で。

 数日間過ごしてみて分かったが、このパレスを守りきるには、ある程度の兵が必要だ。パレスを守る兵、北東の出入り口を守る兵、パレス周辺の砦を守る兵、そして敵の飛行戦力を撃退する兵。

 竜騎士団と天馬騎士団、それから飛竜が山を越えて押し寄せたら、南から突破される。砦をおさえられたら、チェスや将棋でいう「詰み」にはまる。何やっても無駄無駄無駄ァー。

 

「ワーレンの商人も言っていただろ。連中に再侵攻の計画があるって」

 

「だが、必ずしもそうするとはかぎらないだろう……!」

 

 ミディアはなおも食い下がった。

 

「相手がこちらを警戒して手をこまねいている間に、こちらが準備を終えることだって」

 

 うーん、必死なのはいいが、余裕が足りねえな。

 ミネルバなんかは、こういうの楽しそうに話してくるからなあ。目をキラキラさせて。ぼろが出るのが怖いんで、俺はなるべく早めに切りあげてるが。

 

「いいぜ、つきあってやる。お前たちは準備を整えて、めでたく海に出たとしよう。だが、この侵攻は派手に失敗する。なんでか分かるか?」

 

「海にいるところを、マケドニアの天馬騎士団と竜騎士団に襲われるというのだろう。だが、アカネイアにはメニディ家の育てた優秀なスナイパーの部隊がある。他の侯爵家もアーチャーの部隊ぐらい備えている」

 

 ミディアは胸を張って答えた。俺は首を横に振った。

 

「俺がマケドニアの指揮官なら、そんなことはしない。ドルーアとグルニアに援軍を頼みつつ、アカネイア軍をマケドニアの領内深くまで引きずりこむ。そして、竜騎士団と天馬騎士団を使って退路と補給線を断つ。補給部隊にまでアーチャーを大量に配置はしねえだろう? で、アカネイア軍が疲れきったところで三方向から、こう」

 

 俺はミディアの頭にチョップを振りおろす真似をした。ミディアが愕然とした顔になる。唇を震わせて、必死に反論の言葉を探しているようだった。俺は容赦なく続けた。

 

「マケドニアからグルニアは近い。カミュの率いる黒騎士団は騎兵の集団だ。すぐに到着するだろう。ドルーアは地続きだ。竜族を送りこんでくるのに苦労はしねえ」

 

 ミディアは地図を食い入るように見つめる。

 高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するとか言ってきたら病人判定待ったなしだったが、さすがにそこまではいかなかったか。ようするに、銀河○雄伝説のアムリッツァなわけよな、これ。詰んでるんだよ。

 俺は余裕の表情でニーナを見た。

 

「何か質問はあるかね、ニーナ君。なければ、いよいよお待ちかねの……」

 

「ま、待ってください。気になることがあります」

 

 ニーナが慌てて言った。

 

「戦略会議に出席したのは私とミディア、ボア、そして侯爵家の代理の者たちです。代理の者たちがそのような提案をしても、ミディアやボアが反対して違う結論になるかもしれないと、あなたは考えなかったのですか?」

 

「数日前まで牢屋にぶちこまれてた奴らの発言力なんざ、たかが知れてるだろ」

 

 当然だって顔で俺は答えた。ミディアは地図から顔を上げて、悔しそうな目で俺を見つめた。

 

「三年前にニーナを守れなかった。挙げ句、そのニーナに救出されるまで、何もできなかった。それがお前に対する連中の評価だ。他に、親父のことも何か言われなかったか? たしか、お前の親父はパレスを守る司令官だっただろ。お前の親父がカミュを撃退していれば、今日のようなことにはなってなかったとか、そんなふうに」

 

 ミディアの目に涙がにじんだ。ああ、言われたか、やっぱり。

 

「だから、お前は他の連中に対して強く出られない。ボアは戦略に詳しくないだろう。それに、あいつはどっちかっていうと、全員の意見を集めて利害を調整する人間だと俺は思っている」

 

 前にも言ったが、ボアはニーナ第一主義だ。

 ニーナを神輿にしてあっちこっち駆けまわる俺の戦略に対して、基本的にパレスから動かず、パレスを出てもすぐに戦いを終わらせる(ように見える)案に飛びつくのは当然だ。

 他の連中の意見を退けることは、たぶんしねえ。それができるなら、ハーディンへの扱いだってもうちょっとマシだったと思うしな。

 

「そういや、ボアはどうした?」

 

「自分の部屋で休んでいます。よほど結果が堪えたようで……」

 

 ニーナが嘆息した。

 突然、ミディアがソファから立ちあがった。観念したように俺に向き直る。

 

「私の負けだ。好きにするといい。犯したいなら犯せ」

 

 ニーナが息を呑む。俺はミディアの顔を見上げて観察した後、首を横に振った。

 

「いや、今はいらねえ」

 

「どういう意味だ?」

 

 ミディアが怒ったように詰め寄る。俺は嫌味たっぷりに言ってやった。

 

「お前、偉そうなんだよ」

 

 ミディアが顔をしかめる。こいつは根深い。ミネルバが、こいつと話して腹を立てたのがよくわかる。

 加えて、こいつは他の女と事情がちと違う。俺はこいつの恋人や同僚を殺した相手だからな。俺の女にするにしても、もうちょっと段階を踏む必要がある。

 

「納得しました、約束を守ります、身を任せます、ってツラじゃねえ。高貴な貴族である私が、卑しい海賊との約束をありがたくも守ってやろう、さあ抱け、ってツラだ。命令なんだよ、お前の態度。女に不自由してるわけでもねえのに、なんでお前みたいなのをわざわざ抱かにゃならん」

 

 俺はミディアを無視するように、ニーナを見た。

 

「さっき、ミディアの代わりに、って言ったよな。たっぷりじっくり可愛がってやる」

 

「ま、待て……!」

 

 ミディアが慌てて俺とニーナの間に割りこんできた。もう夜遅いんだから騒ぐなよ。

 

「わ、私をお前の女にすると言っただろう! これ以上ニーナ様を傷つけるな!」

 

 いや、もう傷つけるどころじゃないんだが。ニーナの体で俺が触ってないところってたぶんないぞ。

 ニーナはといえば、どうしたものか分からずおろおろしている。

 

「わかった。じゃあ、一つ条件をつけてやる」

 

「条件……?」

 

「お前、同盟軍の将として俺に従え。戦場では俺に服従しろ。ニーナのために、ディールの名誉挽回のためにと思って、戦って戦って戦いまくれ。それで俺を満足させることができたら、俺の女にするってのは取り消してやる」

 

 俺にしては甘い処置だが、こいつは必要な戦力だからな。

 ただ、満足することは決して、決してありませんけどねー。

 

「分かった! アカネイアの騎士として、恥じない戦いを見せることを約束しよう!」

 

 ミディアは笑顔になり、胸を張って宣言した。ちょろい、ちょろいなー。しかし初めて笑顔を見たが、なるほどやはり見てくれはいい。おっぱいの形もいいが、尻がなかなか俺好みだ。

 

 そして、ミディアの後ろで、ニーナが、またやりやがったこいつ、みたいな顔で俺を見ていた。お前、今この場で俺に喘がされたいか。人に見られながら抱く趣味はありませんが、臣下に見せつけックスをやってさしあげてもよろしくてよ?

 ともあれ、どうにかミディアを使えそうで安心した。成長率? そんなもん気にしてられる段階じゃねえんだわ。パラディンってだけでスタメンよ。


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