(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
と言いたいところですが、予想外というか、まだリアルが忙しかった……!
というわけで、すみません。今日はこれだけになります……。
軍資金が豊かになったことで、俺たちはいろいろなものをそろえることができた。
一つは輸送隊。これまでは特に書く必要もなかったから省いたが、まあボロ馬車に武器や食料を積んで、ロバとか牛とかに引かせていたと思いねえ。それが全面的に新調された。
また総大将用の馬車。これも新しく立派なものになった。
とはいえ、普段は俺もニーナもこれには乗らず、その後ろに続く地味な色の馬車に乗る。奇襲を警戒してのことだ。
これらを用意したのは商人のララベルだ。もちろん正規の料金を支払った。ララベルにしても、俺たちと取り引きをしてるって証明になるし、一族への覚えもよくなるだろう。
そのララベルだが、ついてくると言ってきた。
俺たちがパレスへ発つ日、当たり前のように馬車の前で俺を待っていた。荷物を背負って。
「ぜひ、私を連れていってくださいませ。各国の道具屋にも顔がききますし、お役に立ってみせます。もちろん私的な部分でも」
流し目をしてきながらの台詞が実に色っぽい。これから出発ってんでなければ、いますぐ馬車の中に連れこんでいるところだ。
正直、非戦闘員はあんまり増やしたくねえんだが、こいつが役に立つのは間違いない。
これからの戦いは、征服のための戦いになる。占領政策に商人の協力は欠かせねえ。
「わかった。だが、俺の戦には一切口を出すな。それが条件だ」
「もちろんです」
ララベルは俺に抱きついて全身で喜びを表した。うーん、この過剰なスキンシップ、どうにかならねえかな、こいつ。
俺がララベルを連れていくことを告げると、シーダとニーナが真っ先に、それからレナが控えめに反対した。信用できるのかってことらしい。大陸規模のチェーン店を展開している一族って、そりゃ警戒するわなあ。
「あのな、商売ってのは物資の補給にも関わってくるんだ」
俺はシーダとニーナに歩み寄り、商人の必要性を説いた。
「服はただじゃねえ。武具もそう。お前らが食ってる飯や酒もそう。これから俺たちが向かうグラやグルニア、マケドニアの商人たちが、俺たちにまともなものをまともな値段で売る保証はねえ。そういうのを調達できるやつがいるんだ」
「……それは分かりましたが、真面目な話をしながら私たちの体をさわるのはやめてください」
ニーナがうつむきがちに言った。シーダは顔を赤くして黙りこんでいる。
俺は説明しながら、二人の胸や尻を丹念にまさぐっていたのだ。いや、ほら、服の大事さを実地で説明してあげないとねえ。ぐへへへへ。
ともかく、二人は納得したのでララベルはついてくることになった。
ああ、そういや今のうちにやっておかねえと。
俺はララベルを呼ぶと、ファイアーエムブレムを見せながら言った。
「さがしものを頼みたい。お前の一族の情報網を使ってもらえるのが望ましい。金はいくらかかってもいい」
俺は、ファイアーエムブレムの表面にある五つの穴を指さした。
「この穴にはまるぐらいの大きさの宝玉……オーブをさがしている。色は赤。持っていると元気が湧いてくるような、そんなものだ」
第二部十八章で、オレルアン王は旅の商人に大金を払って命のオーブを買ったと言っていた。あれがどのタイミングなのかは分からねえから、とりあえず商人の情報網を使わせてもらおう。オレルアン王が持っていたなら、出させるなり買うなりすればいい。
「前金だ」
金貨の入った皮袋を、俺はララベルに渡した。さすがに百枚分はちと重いか。
ララベルはそれを受けとって不思議そうに首を傾げた。
「これは、パレス奪還時にガザック様がいただいた恩賞ですよね? それをすべて預けてくださるんですか?」
「おう。足りない分はグラを攻め落としたら用意するから、それまで待て」
さすが商人というか、俺がもらった恩賞の額は知っていたらしい。全額ってのも、たぶん重さで分かったんだろう。
「いいえ、いいえ。わかりました。ガザック様の決意の程、たしかに受けとりましたわ。なんとしてでも、お望みの品を見つけだしてみせましょう」
ララベルは笑顔で皮袋を握りしめた。
グラ王国に侵入した俺たちは、町や村で補給をしつつ情報を集め、グラ軍を適当に蹴散らしながら前進した。
ちなみにニーナの方針で、町や村から食料なんかを買う時には金を払っている。これは俺も賛成したが、抵抗する町では略奪をすることも約束させた。
もう占領政策は始まっているんだ。従う奴とそうでない奴とで、扱いを変えないといけない。ニーナはそこまで考えてないだろうが、これまでのことを考えると、体験させていって徐々に分からせるしかない。
そして、町や村で逆らってきたところはなかった。グラ軍の士気が低いのと、アカネイアの占領政策は恐ろしいという噂があるのと、同盟軍の指揮官は海賊あがりでとんでもない奴だという噂のせいだそうだ。いやいや、とんでもないなんてそんな。たまに町を焼き払うぐらいだゾ。
そうして俺たちは、グラ城の前にたどり着いた。
グラ城のつくりを大雑把にいうと、マップでいう左上が塔、左下が居館、右下が宝物庫になっている。
左上の区画が塔であることを俺は意外に思ったが、考えてみればゲームのマップでも、そこだけ入り口の地形が階段になっていた。海伝いに居城へ回りこもうとする奴に、塔の上からバンバン矢を射かけるってイメージだったんだろう。再現されると鬱陶しいことこの上ない。
正面の橋が跳ね上がっているのも、城の入り口のイメージか。
跳ね橋の向こう側には、スナイパーが1ユニット待ちかまえてる。さらに、正面と左手の二本の通路をアーマーナイトの一団がふさいでいる。
こいつらのせいで、シーダとミネルバは城の外側からしか偵察ができなかった、ぐぬぬ。
何とか、もうちょっと内部を詳しく知ることはできないもんか。地図に、俺の知っていることを反映させることができないってだけじゃねえ。これまでがそうだったように、城の内部で俺の知らないことが起きている可能性がある。
しかし、グラは弱いってイメージだが、こうしてみるとけっこう面倒だ。アストリアがいない分、楽なスタートを切れるかと思ったんだが。
テントの中で、俺はテーブルに広げた地図を睨みつけながらどうやって攻めるか考えていた。そこへ、ミネルバが入ってきた。
ミネルバは二人の騎士を連れていた。緑色の髪をセミロングにした美人と、青い髪を肩のあたりまで伸ばしている美人だ。お……きたきたきましたよ。
「ガザック殿、少し時間をもらえるだろうか。紹介したい者たちがいる」
二人の騎士が前に進みでる。それぞれ礼儀正しく俺に頭を下げた。
「マケドニアの天馬騎士団に所属していたパオラと申します」
「同じく、カチュアと申します」
「ガザック殿には以前話したことがあっただろう。私の信頼する騎士たちだ。我が軍に加えてほしい」
「おう、分かった。とりあえずはミネルバの下についてくれ。必要な武器や道具の用意はミネルバに任せる。いいな?」
「心得た」
俺とミネルバのやりとりがあまりにあっさりだったからか、パオラもカチュアも不思議そうな顔でミネルバと俺を交互に見る。いざグラ攻めってタイミングで駆けつけたんだから、まあ疑われても不思議じゃねえしな。
いやいや、君たちは顔パスですよ顔パス。ついに、ついに主力がきた! 即戦力、ドラフト一位待ったなしな面子が!
「それから、重要な報告がある。二人とも」
ミネルバが言い、パオラたちを見た。パオラとカチュアはやや緊張気味に言った。
「私たちは南から、グラ城を迂回するように飛んできました。その時、グラ城の内部が少しだけ見えたんです」
「塔と居館に挟まれた中庭に、勇者と傭兵の部隊がいました」
パオラとカチュアがそれぞれ言った。俺は目を丸くして二人を見つめる。
「詳しく頼む。規模は?」
二人の話を聞いて、俺は地図に敵の配置を書き加える。勇者が1ユニット、傭兵が2から4ユニット。俺は地図から顔を上げると、二人の天馬騎士を見つめた。パオラの両手を取って強く握りしめて、真剣な顔で言った。
「妹ともどもいますぐ嫁に来てくれ」
ミネルバにテントの隅へ連れていかれて懇々とお説教されました。
いや、真剣ですよ僕ぁ。たぶん誠実ですよ。めいっぱい愛しますよ、ベッドの中で。肉奴隷とか愛人契約とか俺の女になれとか言わなかっただけいいじゃん。
お説教が終わると、俺は気を取り直してミネルバに言った。
「全員呼んでくれ。攻め方を決めた」
ミネルバが二人を伴ってテントから去ると、俺はあらためて地図を見つめた。
そりゃそうだ。国が滅びるかどうかって瀬戸際なんだ。なりふりかまわず傭兵だって何だって雇うだろう。傭兵を雇うのは俺たちの専売特許ってわけじゃねえ。
それに、第二部ではジオルの娘のシーマもやはりサムソンを傭兵として雇っていた。傭兵は、グラにとって当然打つべき手の一つなわけだ。
いまの段階でこれが分かったのはでかい。天馬騎士団の援軍だけだとたかをくくっていたらえらいことになっていた。
やがて、全員がそろった。総大将用のテントも広いものになったんだが、それでも全員がそろうときつい。もっとでかいものを用意するか。
俺は地図を見せながら、おおまかな敵の配置と予想される動きを説明した。
「ミネルバはパオラを連れて東の海から迂回。宝物庫の裏手に回ってくれ。宝物庫にスナイパーが潜んでいる可能性があるから、むやみに近づくな。ただ、お宝を持って逃げようとする盗賊を叩き潰して回収しろ。その後は戦闘を避けつつ、敵を脅かせ」
「落城の危機にあるとなれば、そのような輩も出てくるか。承知した」
ミネルバは頷いた。
「次に正面からの攻撃だが。まず、リカードに跳ね橋を下ろさせる。敵のスナイパーの部隊は傭兵たちに頼む。囲んで動きを封じろ。その脇を通って、マチスとミディアでアーマーナイトの部隊を蹴散らせ。アーマーキラーの準備はいいな?」
「ああ。どれだけいようとも相手にしてやれる」
「もちろんだ。私の部隊だけでもやってみせる」
ミディアが胸を張る。いや、それは危険だからやめて。俺は笑って言った。
「気負うのは結構だが、アーマーナイトと戦うだけで息切れするなよ。前哨戦に過ぎないからな。アイルトンたちとカシム、リンダはマチスたちの援護だ。リンダ、オーラは使うな。サンダーやブリザーの扱いにも慣れてもらわねえと困る」
「わかったわ」
不満そうだが、リンダは頷いた。実戦経験のなさを自覚したんだろう。いいことだ。
ちなみに、パレス奪還戦で俺たちはボルガノンを手に入れている。味方が使える魔法の中では一番命中率の低いものだが、いずれリンダが成長したら使わせてみよう。
「レナ、マリア、ウェンデルは後方で回復に専念。リカードは跳ね橋を下ろしたら後方に下がれ。ララベルも後方。バヌトゥも後方にいろ。もしやばくなったら頼む。カチュアはレナたちと一緒にいて、伝令と偵察を頼む。で、俺とニーナ、シーダはちょっくら別行動をとる」
俺の最後の言葉に、シーダとニーナは不思議そうな顔をした。事前に話してないからな。
「では、正面の攻撃の指揮は誰が執るのですか?」
「マチスだ」
ニーナの質問に、俺は笑顔で答えた。いやあ出世したねえ、マチス君。
「お、俺が!?」
マチスは驚いて呆然と立ちつくす。俺は笑った。
「お前もずいぶん戦ってきているんだし、そろそろやれるだろう。武勲をたてたら、次の町では『知勇を備えた騎士』とかかっこよさ五割増しで売り出してやるぞ」
笑いが起こった。リカードとカシムがそれぞれ便乗する。
「そりゃ褒めすぎだね。『お気楽猪騎士』とかでいいんじゃない?」
「私としては『愛する妹のために今日も槍を振るう』というのを強く推したいですね」
「お前らなあ!」
マチスは顔を真っ赤にして怒鳴った。正直、戦力として頼もしいかといえば、サポートつけないと不安になるぐらいではあるが、なんだかんだでこいつも成長してはいる。
つきあいが長いと、見えてくるものもある。たしかにこいつはいい加減でお調子者だが、マケドニア貴族って生まれ育ちの割に、あまり人を見下さない。
レナもそうだから、家庭環境によるものなのかもしれないが、とにかくこいつは狩人のカシムや盗賊のリカードとも対等につきあっている。考えてみれば、第二部の三章でもジュリアンを認めている節はあったしな。この点は貴重だと思う。ぶっちゃけミディアに見習わせたい。
笑いがおさまるのを待って、俺はマチスに言った。
「アーマーナイトを蹴散らしたら、中庭まで進め。そして、敵の傭兵隊を適当におびき寄せて城の出入り口まで後退しろ。俺は、他に敵の援軍があるんじゃないかと踏んでいる。まとまってかかってこられると厄介だ」
傭兵隊。塔の弓兵隊。天馬騎士団。各個撃破するしかねえ。銀の剣一本持たせて放りこんでおけば無双できるようなユニットなんてうちにはいませんからね!
「で、敵の傭兵隊はこちらの傭兵隊で食い止めて、その間にマチスとミディアは敵の居館の背後に回りこめ。ミネルバたちと合流して、裏手から攻めこむんだ。その後は状況次第だな」
ここまで細かく指示を出すのもどうかと思うが、マチスだしなあ……。天馬騎士団はアイルトンとカシムでどうとでもなるだろうが、そこまで口に出すことはできない。
俺は全員を見回した。
「俺たちが戻ってくるまでは、マチスの指揮に従え。いいな」
そして、俺たちは行動を開始した。