(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
楽しんでくださっていた皆様には、本当にお待たせしてすみませんでした。
正直に申しあげると、リアルが滅茶苦茶忙しかった→夏バテで何日かくたびれてた→だれた、の流れを経て、割と少し前までぐでーっとしていました。
あと直近が真面目回(当社比で)なので割とめんどくさかった、もある。
ともあれ、我らがガザックが海賊王になるかもしれないお話を再開します(グラ編が終わったらまた2週間ぐらい間を空けますが……)。よろしくお願いします。
俺とシーダ、ニーナは北西にある村へと向かった。塔からの矢を避けるべく、俺は小舟で海を渡り、シーダはペガサスで空を行く。ニーナはシーダの後ろに乗った。
ちなみにニーナは変装している。純白の法衣を着た旅のシスター。現役のシスターであるレナに手伝わせたんで見事なもんだった。顔は、法衣についているフードで隠した。
俺たちは村に入った。
「この村に何かあるのですか?」
気になるのか、フードの位置を何度も直しながらニーナが聞いてきた。
「すぐに分かるさ」
俺たちはわざと大通りを堂々と歩く。俺たちとグラ軍の戦が始まったからだろう、真っ昼間だというのに人通りは少ない。
村の中央まで来た頃、一人の男が俺たちに向かって歩いてくるのが見えた。
金髪で、超がつくほどの涼しげな面立ち。背は高く、黒い軍衣がよく似合っている。気負った様子はなく、それでいて隙のない動き。腰には剣。離れたところからでも、凄い奴だというのが分かる。英雄の風格ってやつか? さすがステージボスは違う。
そいつは道を尋ねるような気さくさで、俺に話しかけてきた。
「君が、同盟軍の総指揮官ガザックか……」
「おうよ。お前は黒騎士団のカミュだな?」
俺が笑って言葉を返すと、カミュは驚いたように足を止めた。剣の間合いで。おっかねえ奴だ。
「来ると思ったぜ。お前に会わせたい奴がいてな」
俺は傍らのニーナを見る。ニーナはカミュを呆然と見つめて、立ちつくしていた。言葉も出ないほど驚いていた。
背中を軽く押してやると、ニーナは弾かれたように飛びだして、カミュの胸に飛びこんだ。その拍子に、フードが脱げて金髪が広がった。感極まってニーナは叫んだ。
「カミュ! ああ、カミュ……!」
「ニーナ……? なぜ……」
カミュは信じられないという顔でニーナを見つめた。ニーナはカミュの胸に顔を埋めて、ただカミュの名を繰り返し呼んでいる。ようやく母親を見つけた迷子みたいに。
「明日の朝までお前に預けておいてやる」
俺はカミュたちに背を向けて歩きだす。
さて、こいつが吉と出るか、凶と出るか。
俺とシーダは適当な宿をさがして入った。村とはいえ、グラ城の近くにあるだけあって、宿もそこそこしっかりしている。
食事をすませて部屋に入ると、シーダは待ちかねたというふうに聞いてきた。
「あの、どういうことなんでしょうか……?」
「あの金髪野郎はな、グルニア黒騎士団の団長カミュだ」
ベッドに腰を下ろして、俺は言った。シーダはびっくりして目を丸くする。
「あの人が……。名前だけは聞いたことがありますが、どうしてこんなところに」
「偵察だろうな。あいつは行動の自由を制限されていたはずだが、俺たちがパレスを取り戻したことで、ようやくグルニアも考えをあらためたってわけだ」
ゲームでは、マルスがどういう奴なのか気になって見に来たんだろう。ニーナを預けるに足るかどうかを見極めるために。
シーダは驚きから回復すると、おずおずと俺の隣に座った。
「ガザック様は、どうしてカミュ将軍がここに来ると?」
「ここに来るまでに集めた情報の中に、少し気になるものがあってな。念のためにニーナも連れてきた」
実のところ、カミュの情報なんてこれっぽっちも手に入ってねえ。あいつ、完全に姿を隠してここまで来やがった。知らなかったら、マルスと同じく気づくことはなかっただろう。
シーダはじっと俺を見つめている。曇りのない目で。
疑うのは分かる。敵の重要人物がこの近くに来ている、なんて胡散臭い情報を俺が信じて、ニーナまで連れだしたわけだからな。
しかし、シーダが俺に聞いてきたのは、別のことだった。
「ニーナ様とカミュ将軍は、どのような関係なのでしょうか」
「……ニーナから聞いてねえのか?」
俺が聞くと、シーダはこくりと頷いた。考えてみりゃ、敵将を愛してるなんてたしかに話しづらいか。ゲームでも、マルスに打ち明けたのは十六章の冒頭でだったしな。
「三年前、カミュはパレスを攻め落としてニーナを捕らえた。それが二人の出会いだ。それから二年間、ニーナが捕虜としての生活を送ったのは知ってるな? 他の王族と違い、どうしてニーナが死なずにすんだのか。カミュがあいつの処刑に反対して、守り続けていたからだ」
「……凄い方ですね」
シーダは感嘆してため息をついた。実際すげえよ。あのメディウスに、よくまあ公然と逆らったもんだ。
だが、さすがにこれはカミュの意志だけで何とかなったとは思えねえ。
ガーネフがカミュを助けたんじゃないかと、俺は考えている。ガーネフには、シスターの力を利用した儀式についての知識がある。いずれ、ニーナを何らかの形で利用するつもりだったんじゃねえか。
「ニーナも最初はカミュを憎んでいたようだが、二年の間に少しずつ考えが変わっていったらしい。カミュの方もだ。今じゃ敵味方にわかれつつも相思相愛ってやつだ」
「……そのことは、ニーナ様から聞いたのですか?」
ためらいがちに聞いてきたシーダに、俺は下卑た笑みを浮かべて言った。
「噂はいくつか聞いていた。確信を持ったのは、ニーナを初めて抱いた時だ。あいつはカミュの名を何度も呼びながら泣きじゃくってなあ」
定期的に、俺たちの関係を分からせておかねえとな。俺自身、情が移ってる自覚がある。
シーダは俺を非難するように顔をしかめたが、口に出しては何も言わなかった。俺は話を続けた。
「ニーナがあいつを上手く説得できれば、俺たちにはこの上なく頼もしい味方が加わる」
カミュの人望から考えて、あいつについてくる兵は多いだろう。それに、グルニアは混乱して戦いどころじゃなくなる。場合によっちゃ、アリティアを放っておいてマケドニアに向かうことだってできる。
シーダは首を傾げた。
「ガザック様は、カミュ将軍を説得してほしいとニーナ様に言ったのですか?」
「いや、何も言ってねえ。カミュを見たときのあいつの驚きっぷりを見ただろ」
「はい……」
シーダはよく分からないという顔をしている。俺は言った。
「ニーナって腹芸ができねえだろ」
「そう、ですね……」
パレスの時のことを思いだしたのか、シーダは遠慮がちに頷いた。
「だから、あえてあいつには何も言わなかった。俺が事前にこうしろああしろと言ったら、それを気にして顔に出る可能性がでかいからな。カミュを口説くには、ほんのちょっとでもそういうのがあったらたぶん駄目だ」
ニーナの意思だけで説得しないと、カミュには届かねえ。ニーナ以外の奴の意思を感じとったら、あいつは耳を傾けないだろう。
「でも、それではニーナ様がカミュ将軍を説得するとはかぎらないのでは……」
不安そうな顔でシーダが言った。俺は笑ったが、緊張しているのが自分でも分かる。
「あいつはわかってるはずだ。このまま俺たちが軍を進めていけば、遠からずグルニアとやりあう。チャンスは今しかねえんだ。十中八九、説得する」
十中八九。そう、絶対とは言いきれない。
説得しても、カミュがうんと言わない場合だってあるだろう。
ニーナとカミュが手を取りあって駆け落ちする可能性だってある。
十六章では、グルニアはもう滅亡寸前だった。だからカミュは祖国に殉じた。
だが、今の時点ではグルニアはまだまだ元気だ。
今なら、ニーナへの愛が祖国愛に勝るかもしれない。
カミュがニーナを連れてグルニアに行く可能性は、たぶんない。それをやったら、グルニアがドルーアと戦う羽目になる。カミュは私情に祖国を巻きこまない。
とはいえ、こればっかりは本当に先が読めない。博打だ。
バクチってのはな……外れたら痛い目見るからおもしれぇんだよ! そう言った氷炎将軍フレ○ザードは見事に博打に負けて滅んだ。
俺たちも、この博打に負ければ滅ぶ。
だが、勝てばカミュが仲間になる。それは文字通りの勝利を意味しているといっていい。
沈黙が訪れる。しばらくして、シーダは笑顔をつくった。
「ニーナ様が、カミュ将軍の説得に成功するといいですね」
「あまり気にしてもしょうがねえぞ」
俺は床に寝そべった。ローアングルから見る太腿とスカートの奥もなかなか乙なもんだ。俺の視線に気づいて、シーダはスカートをおさえた。うははは、愛い奴め。
「お前も休め。村の中を歩きまわっててもいいが、あまり遠くには行くな。何かあったらすぐに動けるようにしておけ」
たとえば、カミュへの刺客が村に現れるとか。
グラ攻めで俺の予想しないことが起きるとか。
あまり気が抜けねえんだよなあ。それさえなければベッドもあることだし、こいつを存分に可愛がってやるんだが。
「では、お言葉に甘えて出かけてきます」
シーダは俺に一礼すると、部屋を出ていった。俺は床に寝転がったまま眠る。
どれぐらい時間がたっただろうか。足音が聞こえて、俺は目を覚ました。床に置いておいた斧をつかむ。「ただいま戻りました」というシーダの声に、斧を手放した。
部屋に入ってきたシーダの手には、小さな笛が握られていた。横笛だ。
「さっき、村の中を歩いているときに、これが売っているのを見つけたんです」
「……笛が好きなのか」
「あまり上手ではありませんが、タリスではよく吹いていました」
今は尺八をよくやってもらっているがな! 夜にな! と言おうとしたが、さすがに可哀想だったのでやめておいた。こんな状況だ。暇潰しは欲しいだろう。
シーダはそっと横笛を口に当てる。穏やかな旋律が流れ出した。
転生前も、今も、俺に音楽の才能は微塵もない。だが、それでもこれはいい曲なんじゃないだろうか。聞いていると気分が落ち着く。
再び俺は眠りについた。