(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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中途半端で申し訳ないですが、ここまでで前半戦です。
後半戦は明日の更新で。


「魔道の国カダイン」2

 砂漠が広がっている。

 暑い。さっきから汗が止まらねえ。こういうところだって分かってたから、水を大量に用意させておいて正解だった。

 兵たちを見ると、割と二割ぐらい暑さでだれてる。なんだってガトーはこんなところにカダインをおったてたんだ。

 ちょっとリンダにブリザー使わせてみたら凍えかけた。うーん、魔法って極端。

 

 俺たちは目の前の小島にいた魔道士たちを即刻追い払うと、そこに陣を展開しながらパオラとカチュアを偵察に出した。

 そして、帰ってきた二人の報告によると、ドラゴンナイトもペガサスナイトもただの一騎も見当たらなかったという。ガーネフの子飼いだろう魔道士や司祭しかいなかったと。

 

「わかった。ご苦労さん」

 

 俺は二人をねぎらって下がらせる。唸った。

 ミシェイルの野郎、やっぱり兵を引き上げていやがった。

 

 グラの戦いで、天馬騎士団の援軍は来なかった。

 その時、俺は思った。もしかして、ミシェイルが戦略を考えられるぐらいに成長したのかもしれないと。もしくはカミュあたりに知恵を借りたか。

 原作のミシェイルはグラに援軍を出し、カダインにもドラゴンナイトやペガサスナイトを待機させていた。貸しを作るための政治的な配慮だと思うんだが、結果として、奴は合計24ユニット分の兵を失った。

 だが、この世界のミシェイルは援軍を出さずにすませた。

 24ユニット分の兵を温存した。

 たぶん、奴はアリティアでそれをまとめてぶつけてくる。アリティアにはグルニアの大軍がいて十分に勝算があるし、自国とグルニア以外の戦場がそこしかないからだ。

 うわーっ、アリティア行きたくねえ。

 どうしたもんか悩んでいると、ミディアがやってきた。俺はびっくりしながらも、中に通した。

 こいつが自分から俺のとこへ来たのってはじめてだぞ、いったいどういう風の吹き回しだ。

 テントに入ってきたミディアは、敵を見るような目で俺を睨んでいたが、三十秒ぐらいたってやっと口を開いた。

 

「この戦場での、私の役割は何だ?」

 

 俺は困惑した顔でミディアを見た。

 

「何だ? ずいぶんやる気じゃねえか」

 

 俺が言うと、ミディアは真面目くさった顔で言った。

 

「貴様は、勝つつもりなのだろう。ここでも、この先も」

 

「そりゃ当然だろう」

 

 こいつが何を言いたいのか分からない。俺が顔をしかめていると、ミディアは少しためらった後に言った。

 

「私は、敗北しか知らなかった。三年前にパレスが陥落したとき、私は何もできなかった。ニーナ様に救出していただいた時もそうだ。だが、グラで、私ははじめて勝利を知った」

 

 ああ、そうか。こいつも割と不遇な人生歩んでんだっけ。初期値が低いのも案外そのせいかもしれねえ。

 ミディアは拳を握りしめて身を乗りだす。

 

「だから、私に役割を与えてくれ。勝利に貢献できるなら、どんなことでもやる!」

 

 まずはその直情的な性格を直せや。

 そんなだからお前第一部でも第二部でも捕虜になった状態からはじまるんだよ。第二部なんて成長させる余裕がねえ段階で出てくるし。

 

 そう言ってやりたかったが我慢した。なんか万年最下位だった野球チームがはじめての勝利の味に酔って奮い立ってる感があるが、とにかくやる気があるのはいいこった。

 

「よし、お前の今回の役目はこうだ」

 

 俺は地図を取りだすと、俺たちがいる小島から学院までの進路を指でなぞった。ここから西に曲がりつつ北上するコースだ。

 

「ミネルバといっしょに突っ走れ。聖水は十分に持たせてやるから切らすなよ」

 

 こいつも大事な戦力だ。ここで少しでも経験を積んでもらわないといけない。東側の宝箱とカダインマージの集団は、パオラとカチュアに任せよう。で、シーダに両方の様子を見てもらいつつ、レナとマリア、ウェンデルで後方支援。

 アイルトンやカシムたち、それから傭兵組は今回待機だな。予想外の援軍の可能性を考えて、レナたちを守るように言っておこう。

 

「わかった。必ず役目を果たす」

 

 ミディアが意気揚々とテントから出ていくと、入れ違いにシーダが飛びこんできた。

 

「ガザック様、東の草原に黒い竜巻が……!」

 

 おお、おいでなすったな、魔王。

 

 

 俺たちがいるこの小島には、北と東にそれぞれ橋がかかっている。

 俺はリンダだけを連れて、東側の橋まで行った。シーダが報告してくれた黒い竜巻は、なかなかの速度でこちらへまっすぐ向かってくる。

 

「あいつはガーネフだ」

 

 俺は、後ろに立っているリンダに言った。ちなみにリンダは初めて会ったときのように男装している。ガーネフとは十年以上前に一度会ったことがあるらしいので、念のためだ。

 

「あんた、大丈夫なの? M・シールドだけでガーネフに立ち向かおうなんて……」

 

 さすがにリンダも緊張と恐怖で顔色が悪い。

 

「俺のことはいいから、自分のことに集中しろ。さっきも言ったが、わかってるな?」

 

 俺がリンダを連れてきた理由は一つだ。

 

「ええ、わかってるわよ。ガーネフが魔法を使うところをしっかり見て覚える、でしょ」

 

 リンダは勝ち気に言い返す。よし、上等だ。

 

「お前は絶対に手を出すな。奴が使ってくる魔法を観察することに集中しろ」

 

 リンダをガーネフにぶつけるって案は、今のところ変わってねえ。

 だが、ぶっつけ本番で失敗するのは御免だ。ここで、せめて相手を見させておく。マフーを目に焼きつけさせる。発動の瞬間や速度をつかませる。

 マフーをくらうのは、俺の仕事だ。今後のことを考えると、一度体験しておく必要はあるしな。

 強い風が俺たちに吹きつける。黒い竜巻がいよいよ迫ってきた。俺は銀の斧を肩に担ぐ。マフー相手にゃ通用しないはずだが、それも念のために確認しておきたい。どういう理屈なのか。

 

「ほう……。これを見て逃げずに踏みとどまるとは……勇気があるのか、愚か者か」

 

 竜巻の中から嘲笑が聞こえた。竜巻が前進を止めて、その中から黒い人影が現れる。

 いかにも悪の魔道士って感じの濃緑のローブ。凶悪なツラ。わし鼻。

 ガーネフ(SFC版)だ。

 

「よう、負け犬」

 

 馴れ馴れしい笑顔で、まずは軽くジャブ。ガーネフの顔から笑みが消えた。

 

「負け犬、とは何だ……?」

 

「お前、ガトーからオーラもカダインももらえなかったんだろ。みじめな負け犬じゃねえか」

 

「ほう……」

 

 ガーネフの体を、黒と紫の入り混じった不気味な瘴気が包み込んだ。結構離れてるのに、すげえプレッシャーを感じる。顔が引きつりそうだ。

 

「面白いことを言う小僧だ。もう少しさえずってみるがいい」

 

「俺の知ってる話だと、ガトーに認めてもらえなかったお前は、一晩中悔し泣きをして酒瓶を五本空けた後、ガトーの大事なものを盗んでカダインからいなくなったってことだが」

 

「空けた酒瓶は十本だ」

 

 空けたのかよ。挑発するためのでまかせだったのに。

 ガーネフは余裕たっぷりに笑った。

 

「それから、わしが酔わずにいられなかったのはな、ガトーに幻滅し、失望し、軽蔑したからだ」

 

 まずいな。俺が気圧されてる。

 というか話が違うぞ、ウェンデル。くそ、ゲーム知識で安心してるんじゃなくて、本人から聞いて裏を取っておくべきだったか。

 

「自分の実力を認めてもらえなくて、ガトーは見る目がないと幻滅した、とそう言いたいのか? 実力のない奴ほど、逆恨みだけは得意だもんな」

 

「貴様のような無知無学無能の三拍子揃った海賊風情には、話しても分からぬだろうよ」

 

 この会話でもう4ターンぐらい経過していてくれねえかな……。いや、まだマフーを見てないからもうちょっと続けるか。

 しかし、嫉妬とか逆恨みじゃないとすると、どんな理由でガトーに幻滅したんだ、こいつ。

 

「じゃあ何か。魔道についての考え方の違いだとでも言う気かよ? わし鼻」

 

 とりあえず身体的特徴をからかってやる。怒ってマフー撃ってこい。

 だが、ガーネフはあきらかに怒りはしたが、まだ冷静さを保っていた。グリ○デ様か。

 

「その通りだ。貴様は、ガトーが魔道についてどのような考えを持っていたか、知っているか」

 

 俺は顔をしかめた。これは俺を試しているんだろうか。ガトーにどれだけ近いか。

 

「……幸福をもたらすものとして魔道を教えた。だから、その魔道が戦いに利用されたり、金で売買されるのを嫌った、って話なら聞いたな」

 

 第二部九章の冒頭で語られるエピソードだ。第一部の終章でも、ガトーは「はるか昔、愚かな人間たちに愛想を尽かし、この世との関わりを断った」と言っていた。

 俺の言葉に、ガーネフは肩を揺らして笑った。

 

「そうだ。まったくもって馬鹿馬鹿しい。愚かしいとしか言いようがない。そうは思わぬか」

 

「人間を分かっちゃいねえ、って意味でなら、たしかに馬鹿だと思うぜ」

 

 俺はそう答えた。こいつは本音だ。

 何百年も人間に混じって生きていながら、ガトーは人間の欲望を理解していなかった。

 俺もそうだが、人間ってのはたいてい欲深い生きものだ。

 腹一杯食べたがる。よりうまいものを食いたがる。

 いい服を着たがる。いい服をたくさん持ちたがる。

 立派な家に住みたがる。周囲の環境がより整った家を望むようになる。

 

 俺はそれを悪いこととは思わない。俺だっていい酒を飲みたいし、美女はこれからも抱いていきたい。楽をして勝てるならどんどん楽をしたい。最後についてはできた試しがねえが。原作知識あるのにおかしいな。

「欲は海水やで。飲めば飲むほど喉が渇くもんなんや」って台詞はナニワ金○道だったか。

 人間が魔道を争いに使い、量産し、売買するのは必然だ。

 

「わしも、そう思った」

 

 ガーネフがどこか懐かしそうに笑った。

 

「争いは、魔道の質を高めた。ライブやリライブでは足らなくなり、リブローやリザーブを生みだした。ファイアーやサンダーでは足らなくなり、エルファイアーやトロンを生みだした」

 

 サンダーからトロンは、いくつか段階をすっとばしてねえかな。まあ、この世界にはエルサンダーとかサンダーストームとかねえけど。

 

「魔道が金で売買されることの、何が悪い。生きていくには金がいる。研究するにも金がいる。金を求めて、魔道の研鑽を積む者が現れるなら、魔道の進歩と発展のためにはよいではないか……」

 

 ガーネフの声に強い感情が混ざり始めた。

 

「学のない海賊にしては、いいところを突いた。魔道についての考え方の違い。その通りだ。ガトーは、あの白き賢者は、魔道の発展を望まなかった。エルファイアーより強力で、ボルガノンとはまた違う魔道を! ライブとはまた異なる回復や治療の力を! そうしたわしの訴えはことごとく退けられた。ミロアの腰巾着めが、よく分かっていないくせにガトーの味方をしたものだから、また腹が立った」

 

 昂ぶってきたのか早口になってきやがった。

 ミロアの名が出てきたことに、俺の後ろにいるリンダが反応する。俺はさりげなく、リンダの腕を軽く叩いた。おとなしくしてろ。まだ話は終わってねえんだ。

 

「聞いた話じゃ、お前はこの世界を自分のものにしたいそうじゃねえか」

 

 世界征服をたくらむ悪の魔道士。

「暗黒竜と光の剣」が発売した頃には珍しくなかった悪役の類型。

 

「その願いがかなったら、その後はどうすんだ?」


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