(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
例によってやりこんでいたころ、気になっていたことがある。
ガーネフのキャラクターについて。
第二部十章でのウェンデルの話だと、もとは正義感の強い立派な若者だったという。ところが、ガトーはそんなガーネフの心の弱さを見抜き、オーラとカダインをミロアに委ねた。
ガーネフは嫉妬に狂って闇のオーブを盗み、オーブに心をとらわれた。
闇のオーブには野心や欲望や負の感情を増幅する力がある。それによってガーネフは世界征服をたくらむに至った……というわけだ。
原因はガトーじゃねえかというのは横に置いておくとして。
欲望が増幅されたとはいえ、嫉妬心から世界征服に至った過程が俺にはよく分からなかった。感情が突っ走りすぎた人間は、割と何やってもおかしくねえってのはあるが。
世界征服ってのは単なる八つ当たりの思いつきなのか、それとも……。
「世界を我がものとしたら」
ガーネフは嬉しそうに笑った。不気味だ。
「てはじめに、各国の王都に魔道学院を設置する。基本的な構造はこのカダインと同じだが、国の豊かさや人口によって規模を調整する必要はあるだろう。そして、それぞれの国のすべての子供に読み書きと算術を教え、素質のある者には魔道士あるいはシスターとしての道を進ませる」
ん……?
「魔道士とシスターを大陸スケールで量産する気かよ?」
「魔道の進歩と発展のためには、まず母数を増やさなければならん。裾野を広げなければならん。魔道の素質がない者もいようが、読み書きと算術を学べば研究や分析、整理などの役には立とう」
んん? まさか、こいつ……。
「だが、教える側が圧倒的に足りなくなるんじゃねえか、それ」
「これから増やしていく。それに、基礎としての読み書きと算術を教えるだけなら司祭でなくともできよう。見込みのある魔道士やシスターに経験を積ませる意味も兼ねて任せてもよい」
「じゃあ、教わる側の問題はどうだ? 読み書き算術を教えるってのはいいことだと俺も思うが、農民の子はガキのうちから親の手伝いだ。職人の子や漁師の子もそうだ。学ぶ時間がねえ。親だって、字を勉強するぐらいなら仕事を覚えろと言うだろうよ」
「時間はつくらせる」
ガーネフは握り拳を振りあげて力説した。
「今でも、小さな神殿や孤児院で多少の読み書きを教えているところはある。まったく下地がないというわけではない。そこへ、魔道をより普及させることで余暇を生みだす」
俺は呆気にとられた顔でガーネフを見つめた。
うん、この世界でこの発想はすげえ。すべての国で実施するってんなら、たしかに大陸征服しないと手をつけられない話だ。
そして、こいつ自身が語ったガトーとの対立理由とも一致する。
魔道を争いや売買に利用することを嫌うガトーへの、幻滅、失望、軽蔑。
ゲームで語られていた嫉妬がなかったとは、思わない。だが、その嫉妬が「自分の考えを世界規模で実行して成功させて、自分の正しさを証明してガトーとミロアを見返す」という地点に行き着いたのならば。
そこまで感情と決意がふくれあがるのかって疑問は当然あるが、そもそもこいつがこうなった原因は、感情を増幅させる闇のオーブだ。
「たとえばファイアーだ」
興が乗ったのか、ガーネフは話を続ける。
「火を熾すには、木を擦り合わせるか火打ち石をぶつけるしかない。だが、ファイアーをより手軽に、より多くの人間が使えるようになれば、火を熾すための時間も、燃料も減らすことができて余裕が生まれる」
やべえな、聞いててわくわくする部分がある。
これ、うまく転がすことができれば世界がひっくり返るぞ。
王侯貴族を中心に据えた体制ではなく、魔道士がすべてを握る魔法の帝国の誕生か。
とはいえ、どうも聞いてて何か危なっかしさを感じる。
もう少しつつくか。
「だが、より多くの人間が手軽に魔法を使えるようになれば、犯罪に使われる危険性も出てくるだろう」
海賊が犯罪の危険性を説くのは見逃してくれ。
「それについてはどうする? 法を厳しくして締めあげるのか? それだけじゃ埒があかないと思うが」
「海賊にしては、貴様は頭が回る」
ガーネフはふぉふぉふぉって感じで笑った。宇宙忍者かよ。
「高位とされる一部の魔法に、使用者制限がかかっていることは知っているか?」
専用魔法のことか。リンダ専用オーラとか、マリク専用エクスカリバーとか。とはいえ、実名を出すのはまずいな。
「……たとえば、女しか使えないリザイアのことか?」
「そうだ。わし直属の、法を執行する組織を編成して、そうした魔法を持たせる」
俺は少し考える。直属って部分が引っかかる。それに、法はそこまで万能だろうか。それとも俺が考えすぎなのか。
その時、リンダが小声で俺に言ってきた。
「ちょっと、なに呑気におしゃべり続けてんのよ」
「今いいところなんだ。もうちょっと黙って……」
そこまで言って、俺は考え直した。リンダに尋ねる。
「お前、ガーネフの話、理解できてるか?」
リンダは眉をひそめて首を横に振った。
「全然。途方もなさすぎて想像つかないわよ」
そうだろうな。ガーネフ自身がどこまで自覚しているのか知らねえが、先を行き過ぎた構想だ。そりゃガトーから危険視されるわ。
「とりあえず、もうしばらくおとなしくして、聞くだけ聞いてろ」
俺はガーネフに向き直った。考えもまとまったしな。
「お前のその構想が実現すると、魔道士やシスターの地位はかなり高くなるんだろうな。今の貴族並みってとこか?」
「そんなところだろうな」
ガーネフは当然だろうという顔で肯定する。
「優れた者が、その能力で高い地位につくのは当然のこと。むしろ、今のように血筋などというくだらぬものを重視することこそがおかしい。それに先ほども言ったが、魔道の素質に恵まれなかったとしても、研究や分析で成果を出すことができる」
ゼロ○使い魔を、俺は思いだした。魔法を使える者は貴族として、それ以外の大多数は平民として扱われる世界。
行き着く先は、あれと同じとまでは言わないが、似たものになるだろう。魔道がメインの評価基準になっても、血筋が軽視されることにはおそらくならない。それどころか、魔道の素質に遺伝的な要素が関わるなら、むしろ重視されるようになる。
だが、そのへんは説明してもわからねえだろう。いや、わかるかな、こいつなら。でも説明が長くなりそうだな。
「それだけ大がかりなことをやれば、反対する連中が当然出てくるだろう。現在の地位を脅かされることになる貴族や、魔法の台頭によって仕事を失う者、魔法を恐れ、警戒する者……」
「聞く耳を持つ者は説得してもよいが、そうでない者は粛清するしかあるまいな」
予想通りの答えが返ってきた。俺は次の疑問をぶつける。
「何十年単位で時間がかかりそうだが、お前、途中でおっ死ぬんじゃねえか」
「そうはならぬさ」
ガーネフはまたふぉふぉふぉと笑った。うーん、お前がガトーに嫌われたの、その笑い方もあるんじゃねえかな。とても正義感があるようには見えねえ。
「わしは不死の力を手に入れる。そのために、強靱な生命力を持つメディウス……マムクートどもと手を組んだのだ」
俺は絶句した。
世界征服の次は、不死か。
字面だけなら、典型的な悪の魔道士が求めるものだが、こいつの発想は悪の魔道士じゃねえ。ある意味、もっと危険なものだ。
「不死者となった暁には、神話においてナーガが人間を見守り続けたように、わしは魔道士たちの神となって、魔道の発展を、この大陸の行く末を見守り続けよう」
俺はもう一度ため息をついた。
なるほど。魔法での犯罪について、法で厳しく締めあげれば問題ないとやたら楽観的にかまえていたのは、自分が永遠に頂点に立つことが前提なら納得がいく。
「俺のように魔道に縁のない人間には、今の世界の方が住みやすいな」
「ならば今からでも学べ。学ぶ意欲のない者に生きる価値などない」
……ひとつ踏みこんでみるか。
「純潔のシスターを生け贄に捧げる魔道の儀式ってのを聞いたことがある。お前はこいつをどう思う?」
「必要なら、生け贄を捧げるべきであろう」
即答かよ。ていうか、やっぱりそうか。
パーツの一つ一つは悪くないんだがな……。全部合わせると不死の独裁者が支配するディストピアができあがるぞ、これ。
今でもたいがいとち狂ってるが、これがさらに狂った挙げ句に何もかも破綻するとしか思えねえ。
こいつがほどほどでくたばるならな……。システムって、代替わりで是正、調整されていく部分があるんで、まだ希望が持てるんだが。
正義感の強い立派な若者。
ウェンデルが、おそらくガトーから聞いたのだろうガーネフ評。
それはたぶん、間違いではないんだろう。
ガーネフの構想は面白い。
いわゆる平民層が学問によって底力をつければ、貴族は力を削がれ、文化や文明は今より発展するだろう。
子供の面倒を見る神殿や孤児院に予算が下りれば、救われるガキも今より増えるだろう。
新たな歪みもたくさん生まれるだろうが、それは何をやっても起きることだ。
そのあたりまでなら、多くの人間が喜ぶのだろうと思える。
だが、ガーネフはそこで止まることはないだろう。
救った人間をも挽き潰しながら、先へ先へと進んでいくに違いない。
こいつの目的はあくまで魔道の発展であって、暮らしをよくするとかそういうのはついでだから。ついで、をこいつは考慮しない。
いつか壁にぶち当たり、魔道の研究が停滞しても、多くを犠牲にして。
「わしの考えが気に入らぬようじゃな」
ガーネフが言った。
「不思議な男だ。ガトーでさえ理解できなかったことを、貴様は理解している。いや、わしにも見えていないものが見えているかのようだ。いったい何者だ? ただの海賊ではあるまい」
「ただの海賊だよ」
俺は笑って言った。ところで、長話している間にM・シールドの効果が切れたりしてないだろうな。切れてたら死ぬぞ、俺。