(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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一ヵ月ぶりですね! 
ほんと申し訳ありません……。何が二週間後や……(白目 
豪雨に台風に先日は地震とどえらい夏ですが、皆さんはご無事だったでしょうか。
めちゃくちゃ遅れましたが、諸々がようやく復旧した我が家から、我らがガザックの物語を再開したく思います。


「アリティアの戦い」1

 アリティアに着いた俺は、さっそくシーダとカチュアを偵察に放った。

 二人の帰りを待ちながら、王宮を目指して進軍する。

 まずシーダが戻ってきた。その顔は真っ青だ。

 

「王宮のまわりの空を、ペガサスナイトの大軍が埋めつくしています……」

 

「数はわかるか?」

 

 俺が聞くと、シーダは顔を流れる汗を拭おうともせず、頭を下げた。

 

「申し訳ありません。敵の正確な数はわからず……。ただ、ペガサスナイトだけで、我が軍よりも多いのは間違いありません」

 

 そうか、そうか。ペガサスナイトだけでね。

 俺はシーダを手招きすると、抱き寄せて尻を揉んでやった。シーダは驚いて「きゃっ」と声を上げたが、すぐにおとなしくなる。それを見計らって、俺はシーダを離した。

 

「ご苦労。下がって休め」

 

 俺はレナを呼ぶと、シーダに何か飲みものを出すように言った。

 去り際に、シーダはこちらを振り返る。

 

「ガザック様は怖くないのですか……?」

 

「当然だろうが」

 

 俺がふんぞり返って笑うと、シーダは安心したような微笑を浮かべた。

 いやいやいやいや、怖いに決まってんだろ。

 ペガサスナイトだけで、って何だそれ。

 事前に予想はできてたけど。腹はくくってたけど。

 でも、びびった顔を見せられねえのが総大将のつらいとこだ。笑うしかねえ。

 

「お前にも戦場の一部を任せることになる。ただ、無理はするな」

 

 俺の言葉に、シーダは気を取り直したようだった。

 

「はい! 全力を尽くします!」

 

「何度でも言っておくが、無理はするなよ? 死なれると困るからな」

 

 そうしてシーダとレナがいなくなると、俺はバヌトゥを呼んだ。

 

「また出番かな」

 

「おう。今まで以上の激戦になる」

 

 普段はひなたぼっこばかりしてマリアの遊び相手を務めているバヌトゥだが、伊達に年をくっちゃいねえ。呑みこみが早い。俺は聞いた。

 

「人間を焼き払ったことはあるか?」

 

「多くはないがな」

 

 これまで、バヌトゥには同じ竜族の相手をしてもらっていた。

 だが、今度はそうはいかねえ。火竜の破壊力と鱗の硬さを、人間相手に発揮してもらうことになる。

 

「頼む」

 

「心得た」

 

 バヌトゥが去ると、今度はカチュアが戻ってきた。

 

「西にある二つの村ですが、どちらも門を閉ざしていました。戦に怯えたのだと思います」

 

 ああ、そう。アランは俺に顔も合わせたくねえと。

 予想してたがな、くそったれ!

 いや、ここまで来る間に情報を集めていたんだが、俺の悪名に「叡智の殿堂たる神聖な学院を焼いた蛮族」みたいなのが加わっていてなあ。

 何が神聖な学院じゃい。魔王の別荘じゃねえか、あれ。

 

 しかも、マルスたちを殺したのが俺だってなぜか広まってる。

 あれを知ってるのってタリス王ぐらいじゃないのか。誰がばらした。ガーネフか?

 

 マルスの親父のコーネリアスはまともな王様だったらしく、おかげでその息子と部下たちを殺した俺の評価は地に落ちているどころか地の底をえぐってマイナス域だ。

 リカードやララベルに調べさせてもみたが、やはり俺は敵視されている。コーネリアスを討ったグルニアは当然憎いが、俺も憎いと。

 

 あのなあ、マルスを殺さなかったらこっちが死んでたんだぞ。

 今になって思いだしてみるとさ、ジェイガンが銀の槍持って一騎駆けしてきたじゃん。

 あれ、問答無用で海賊を殲滅するぞってことだよな。正しいけど。俺がマルスの立場でも海賊の言い分なんざ聞かずに叩き潰すけど。

 とはいえ、戦場でのことだから、なんてアリティア民が理解するわけはねえ。

 あれこれ考えていると、ニーナがやってきた。

 

「どうしましょうか」

 

 困り果てた顔でニーナは言った。アリティアのことだ。

 

「私たちの方針として、グルニアに支配されているアリティアを解放しないわけにはいきません。ですが、解放した後も私たちに非協力的な態度をとるとなると……」

 

「いっそ、グルニア、マケドニアと話しあって、アリティアを隅々まで焼き払うか」

 

「私がそれは名案ですね、とでも言うと思いますか?」

 

「じゃあ、どうする。お前の考えを言え」

 

 俺が言うと、ニーナは考えこんだ。

 

「アリティアの民をまとめているリーダー的存在がいるはずです。その人をさがして、話しあいましょう。話せばわかるとは言いませんが、あなただって、アリティアを敵地にしたくないと思っているでしょう?」

 

「まあな」

 

 俺は仏頂面で言った。

 このアリティアを、スルーするわけにはいかない。

 ここからグルニアなりマケドニアなりに向かえば、俺たちは前後から挟撃されるからだ。最悪の場合、アリティア、グルニア、マケドニアの三方向から攻められる。

 このアリティアにいるグルニア軍、マケドニア軍はきっちりかたづけて、敵の兵力を削っておきたかった。

 

「とりあえず、情報戦には情報戦でやり返すか」

 

 俺は、思いついたことをニーナに説明した。

 

 

 エリス王女はドルーアに捕らわれており、同盟軍は彼女の救出を考えている。

 エリス王女を救出できたら、彼女にアリティアの統治を任せるつもりである。

 コーネリアス王はアカネイアに忠誠を誓っていた。ニーナ王女は彼に深く感謝し、その死をひどく悲しんでいる。アリティアを解放した暁には、彼とリーザ王妃、そして志半ばに倒れたマルス王子を盛大に弔うであろう。

 同盟軍の司令官ガザックも、マルス王子のことは好敵手と思っており、戦場のことゆえに加減はできなかったが、彼を討ったことを後悔しない日はない。

 同盟軍が願うのはアリティアの平和であり、アリティアの民が安らぎを得ることである。グルニアとマケドニアは我々が蹴散らすので、その後の再建と復興に力を尽くしてほしい。

 

 

「マルス王子のことを好敵手と思っていたんですか?」

 

「全然」

 

 ごめんなー。マルス、ほんとごめんなー。正直、あの時は死にものぐるいだったからそれどころじゃなかったし、後悔しているかっていうと、あまりしてねえしな。

 

「エリスがドルーアに捕らわれているのはたしかだ。コーネリアスがアカネイアに忠誠を誓っていたかどうかは知らねえが、本人はもう死んでるから何とでも言える」

 

「……わかりました。コーネリアス王がアカネイアの要請に応えて軍を動かし、勇敢に戦ったのは事実です。それでいきましょう」

 

「ああ。交渉は任せる。俺は戦で勝つ方を担当するからよ」

 

 俺が言うと、ニーナは苦笑を浮かべた。

 

「頼りにしています。あ、そういえば」

 

 何かを思いだしたように、ニーナは言った。

 

「あなたに称号を授与することが決まりました」

 

「称号?」

 

 俺は顔をしかめた。ニーナは頷く。

 

「正式に授与するのは、アリティアを解放したあとになりますが……。ドルーアに支配されていた国々を解放した功績を称えて、というものになります。何か望みの称号はありますか? なければ、こちらで考えますが」

 

 称号ねえ。

 あれか、光の王子、スターロード・マルスみたいなものか。なんで光の王子なのにスターなんだろうな。二部をクリアしたら英雄王になっちゃうし。

 

 俺にふさわしい称号ならやはり、海賊王だろうな。

 

「アリティアの王宮を落とすときまでに、考えておく」

 

 このとき、俺はとりあえずのつもりでそう言った。

 

 

 王宮が見える場所、十三章のスタート地点あたりに着いたところで、俺たちはテントを張った。今度はミネルバとパオラを偵察に出す。敵の武装を知るためだ。槍と手槍だけだと思うが、油断はできない。

 二人はすぐに戻ってきて報告した。

 

「おかしなことをやっていた。四騎一組で、樽を吊り下げている」

 

「樽?」

 

 ミネルバの説明に、俺は首を傾げた。パオラが地面に図を描きながら補足する。

 

「四騎のペガサスと樽をそれぞれロープで結んで、四騎がかりで運ぶつもりのようです。ペガサスナイトのほとんど半数がそうしていました」

 

「樽……」

 

 何だろうと考え、まさかと思い、俺は顔面蒼白になった。

 体中から汗がどっと噴き出す。緊張と恐怖で心臓がバクバク鳴り始めた。

 やつら、まさかゲームの枠を超えやがったのか?

 ありえない話じゃねえ。そもそも、ゲームだったらここにいるはずのない連中だ。

 軍議に使っているテーブルを、俺はおもわず殴った。ミネルバとパオラが驚いた顔をしたが、それどころじゃない。

 この数日間の俺の努力がぱあになった。水の泡だ。戦術を大至急立て直さないといけない。俺はミネルバとパオラを睨みつけた。

 

「主だった連中をいますぐ集めろ! 大至急だ!」

 

「わかった」

 

 ミネルバは俺の態度に目を丸くしていたが、理由も聞かずに素直に従ってくれた。パオラを連れてテントを出ていく。

 一人きりになったテントの中で、俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 

 たった今まで、俺はこう考えていた。

 マケドニア軍は、いっせいにこちらへ飛んできて、俺たちを包囲して殲滅しようとするだろうと。

 それに対して、こちらは円陣を組む。円陣の南側は俺と手下たち、東側はミネルバとパオラとカチュア、西側はバヌトゥ、北側はワイアットとワインバーグの傭兵組。

 マチスとミディア、シーマは円陣の中に待機させるが、負傷者が出たら入れ替えでどこかへ出す。弓使いや魔道士やシスターは全員円陣の内側。

 俺はこれでマケドニア軍の大攻勢を耐えきろうと思っていた。いかにスムーズに兵を入れ替え、もたせるかを考え続けてきた。

 

 だが、それは全部無駄なものになった。

 だって、敵の戦い方が全然違うんだもんよ。

 ほどなく全員がそろった。何人かは俺の顔を見てぎょっとした。後でニーナから聞いたんだが、俺はよほど凶悪な面構えをしていたらしい。

 

「ペガサスナイトの大軍団が、海の向こうにいるのはもう知ってるな?」

 

 前置き抜きで軍議を始める。何人かが頷いた。俺はあえて聞いた。

 

「敵は、どんなふうに攻めてくると思う?」

 

「数を活かして私たちを包囲し、殲滅するつもりだろう」

 

 ミネルバが言い、パオラとカチュア、それからシーマとミディアも頷いた。普通はそう考えるよな。俺もそう思ってた。

 

「違う」

 

 俺は首を横に振った。

 

「奴らの狙いは火攻めだ。ぐずぐずしてると、ここら一帯を火の海にされるぞ」


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