(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「アリティアの戦い」3

 灯台を占領した俺たちだが、一息つく余裕はまだない。

 南側は南側で、グルニア軍の騎兵部隊がいるからだ。かといって、灯台の中に立てこもったら、橋を落とされて完全に孤立する。

 俺はミディアとシーマ、アーマーナイトの傭兵ワインバーグに橋の死守を命じる。死守とはいえ、アイルトンとカシムの援護つきだ。マチスも控えている。リブローもあるから、レナとマリアで使い回せる。ミネルバたちよりは楽だろう。

 

 そのミネルバたちには、マケドニア軍に備えて海上で待機するよう言った。グルニア軍にはホースメンもいるから全然気が抜けねえ。

 だが、グルニア軍がいる以上、マケドニア軍も火攻めはできない。さっきの戦いで分かったが、奴らはまだ樽の落とし方にも、火の制御にも慣れてねえ。この点はありがたい。

 それに、この場所も悪くはない。北西にある四つの砦から遠いからだ。あっちの砦から出てくる援軍は、計算に入れずにすむ。

 

 そうして指示を出し終えた俺は、バヌトゥを連れてチェイニーに会いに行った。

 チェイニーは、客室を改造した牢屋に放りこまれていた。

 

「な、何だ、あんたは!? 海賊か?」

 

 ずかずか入ってきた俺を、チェイニーは警戒の目で見る。だが、続いて入ってきたバヌトゥを見て、驚きの表情になった。

 

「バヌトゥの爺さんじゃないか。どうしてこんなところに?」

 

 おお、やっぱり知りあいだったな。

 

「悪いが、感動の再会は後でやってくれ。こっちは立て込んでんだ」

 

 俺はチェイニーの前に立つ。

 

「お前、竜族に変身できるよな? 火竜に化けることはできるか?」

 

 ここでも前置きを省く。天馬騎士団も竜騎士団も、かなり討ちとりはしたが、まだ残っている。

 こいつが何に使えるか、そいつは重要なポイントだ。

 

「あんた、何者だ?」

 

 俺はチェイニーの前に握り拳を突きつけた。もうちょっと頭に血が上ってたら、胸ぐらを掴んでいたところだ。

 

「後にしろって言ってるだろうが。この灯台の外に放りだして、グルニアとマケドニアに始末させてもいいんだぜ、神竜族」

 

 チェイニーは目を丸くして俺を見つめる。バヌトゥが言った。

 

「チェイニーよ。疑問はあるじゃろうが、今はこの男に力を貸してやってくれぬか」

 

「俺じゃなくて、バヌトゥやチキのためだと思え。それならやりやすいだろうよ」

 

「……わかった」

 

 三秒ほどの間を置いて、チェイニーは頷いた。

 

「何をすればいい?」

 

 まず俺は、火竜に変身できるかどうかを聞いた。

 こいつの「変身」能力、「紋章の謎」では、システムとストーリーとで少しずれがある。

 システム上では、竜どころか、そもそもチキやバヌトゥに変身することができない。変身の対象にできねえんだ。

 だが、第二部十一章では、こいつはチキに化けてマルスをからかった。

 そこに期待したんだが、チェイニーは首を横に振った。

 

「無理だ。俺に、竜石を使う力はない。バヌトゥの爺さんに化けることはできるが、それでも竜石を使うことはできない」

 

 駄目か、ちくしょう……。竜石を使い回してバヌトゥとローテを組ませる夢は潰えた。

 まあいい。次善の策はある。

 

 

 日が暮れるころになって、敵もさすがに灯台から離れた。

 ちなみに、灯台の北側の橋はマケドニア軍に落とされた。連中にしてみれば、俺たちを追い詰めたつもりなんだろう。後は南側の橋さえ奪えば、封じこめることができるからな。

 だが、連中は分かってねえんだろうなあ。

 こっちにゃ海賊がいるってことにさ。

 

 

 真夜中を過ぎて、明け方までもう少しというころ。

 俺は手下たちを連れて、灯台の北側から出た。

 敵の目は灯台の南側に釘付けのようで、俺たちはひそかに海を渡って、あっさり王宮のある島にたどりつく。

 島の南に向かい、この島と他の島を唯一つなぐ橋の前に立った。

 頑丈な造りだが、木製だ。王宮の生命線なのに石造りじゃねえのかと思ったが、案外このあたりは洪水が多いのかもしれない。何らかの設計思想がありそうだ。

 ともかく俺たちには都合がいい。

 

「やれ」

 

 橋は盛大に燃えた。

 

 

 俺たちは王宮前の砦を占領する。二つ並んだこの砦には、それぞれアーマーナイトとソシアルナイトが3ユニットずつ待機していたが、隊長級を全員牢屋に放りこみ、それ以外を外へ放りだした。もちろん武装は奪ってだ。

 ジェネラルの一部隊が北から向かってきたが、返り討ちにする。

 その時にはグルニア軍とマケドニア軍も俺たちに気づいていた。

 

 グルニア軍は炎上する橋の前で立ち往生するしかねえ。マケドニア軍は空から向かってきたが、夜明け前とあって動きは遅い。

 そして、俺たちの上空にミネルバが現れた。ただ一騎で。

 夜目にも鮮やかなその姿は、マケドニア軍の注目を集めるのに十分だった。勇んで向かってくるマケドニア軍に対して、ミネルバはすばやく背を向けて北へと飛んでいく。

 マケドニア軍はほとんど全軍でミネルバを追った。

 それを待って、灯台に控えていた同盟軍が動きだす。俺が橋を燃やしたのは、やつらへの合図でもあった。

 灯台の陰に潜んでいたミネルバとパオラ、カチュア、シーダが翼を羽ばたかせて、マケドニア軍に背後から襲いかかった。

 最初に一人で姿を見せたミネルバは、チェイニーが化けた偽者だ。マケドニア軍はまんまと引っかかって、隙を見せた。

 ミネルバの動きは上手かった。一撃を与えた後、すぐにパオラやカチュア、シーダにも命じて後退し、マケドニア軍を誘いこんだんだ。灯台近くで待ちかまえていたアイルトンとカシムの射程内に。

 マケドニア軍は次々に倒れ、生き残ったやつも北へと逃げていく。

 

 そのころには、マチスやミディア、火竜になったバヌトゥたちもグルニア軍と戦闘をはじめていた。グルニア軍にはパラディンが1ユニットいるのが少し気がかりだが、何とかなるだろう。

 ミネルバたちとチェイニーが、俺たちのところへ降りてきた。その顔には緊張感がみなぎっている。一仕事終えたって顔じゃねえ。

 

「どうした?」

 

「ガザック殿、北西の敵が動きだしている。砦を出て、村の東側の海岸に向かっているのが見えた」

 

「東側の海岸……?」

 

 十三章のマップを思いだす。

 王宮があるこの島の北西部と、二つ並んでいる村の東の海岸。両者の距離は一マス分。たぶん、こちらの岸に立てば向こう岸が見えるだろう。

 だが、距離が短いとはいえ海には違いない。それを渡る手があるってのか。

 城の門を守るホルスタットを討ちとって、さっさと城内に突入したいところだったが、そうは問屋が卸してくれないらしい。

 俺はシーダを手招きした。

 

「様子を見に行くぞ」

 

「わかりました」

 

 疲れているだろうに、シーダは気丈に笑顔を見せる。

 ミネルバたちを砦で休ませて、俺はシーダのペガサスに乗って北西の海岸に飛んだ。王宮の近くにいた司祭を、ついでとばかりに手斧で始末する。

 東の空が明るくなってきている。夜が明けようとしていた。

 海岸が見えてきた。

 

「げっ」

 

 視界に飛びこんできた光景に、俺は呻いた。

 対岸に、グルニア騎兵の大軍がいる。奴らは、漁師が使うような舟をいくつも並べて鎖でつなぎ、その上に板を置いて橋をつくっていやがった。もう半分近くできている。

 ずるくねえ……? マケドニア軍だけならともかくグルニア軍までさあ。マケドニア軍に入れ知恵されたのか、それとも奴らの行動を見て影響されたのか。

 

「どうしますか、ガザック様……」

 

 シーダも愕然としている。あの橋が完成したら、グルニア軍は一気に海を渡ってなだれこんでくるだろう。俺たちだけじゃひとたまりもない。

 

「砦に戻るぞ。俺たちは運がいい」

 

「運がいい……?」

 

「やつらはまだ橋を完成させてねえ。だから、まだ何とかできる」

 

「……はい!」

 

 シーダが力強い返事をして、ペガサスを羽ばたかせる。

 運がいいってのは嘘じゃねえ。ミネルバがいま見つけてなかったら、やばかった。

 あれ、舟橋とか言ったっけ? 昔からある手だから、対処法ももちろんある。ぶっちゃけ空から火攻めされるよりはだいぶ楽だ。

 砦に戻ってミネルバたちに見たものを説明する。ミネルバは難しい顔になった。

 

「舟を大量に用意して橋代わりにするというのは私も聞いたことはあるが……どうする?」

 

「一旦やつらに最後まで作らせた上で、ぶち壊す。お前らは敵を食い止めてくれ。ただ、敵にはホースメンがいる」

 

「分かった。騎士として、地上で迎え撃てばいいのだな」

 

 ミネルバは頷くと、パオラとカチュアを連れて飛び立った。シーダとチェイニーは留守番だ。この砦を空っぽにはできねえからな。焼くのはもったいないし。

 俺は手下たちとともに、砦の中にある舟と樽、油をありったけ持ちだした。灯台にも舟があったが、砦にも舟がストックされているのがアリティアって感じだ。

 砦を出て、王宮の北西の海岸に向かう。グルニア軍が橋を作っている場所より少し上流を目指した。

 

 海岸に着いた俺たちは、海流を大雑把に掴む。難しくなかったのは、腐ってても海賊だからだろう。流れはそれなり。勢いをつければ、やれそうだ。

 俺たちは運んできた舟を海面に並べ、そのすべてに油でいっぱいの樽を積みこんだ。それから手分けして乗りこむ。

 火攻めのお返しをしてやる。

 

「いいか! 敵の矢が届くところまでいったら、もう海に飛びこめ!」

 

 手下たちに怒鳴って、舟を進ませる。ほどなくグルニア軍が見えてきた。

 とりあえずにせよ、やつらは橋を完成させて、さっそく渡りはじめていた。対岸で、ミネルバたちが懸命に迎え撃っている。

 俺たちに気づいたホースメンの一部隊が、弓をかまえた。

 

 だが、遅い。

 

 この時点で、俺たちの乗っている舟には十分な勢いがついている。

 俺たちは樽に火をつけると、次々に海へ飛びこんだ。樽を乗せた舟は炎の塊となり、さらに勢いをつけて舟橋に向かっていく。

 立て続けの轟音。舟橋が燃えあがり、海面が赤く染まる。すさまじい光景だった。

「火を消せ!」という叫び声がいくつもあがったが、馬に乗って細い橋を渡っているのに、そんなことをする余裕なんてあるわけがねえ。

 混乱からぶつかり合いが起き、グルニア兵たちは馬もろとも海に落ちて、上がってこられずに沈んでいく。

 広がる炎がグルニア兵を火だるまにし、舟橋を焼く。人間の悲鳴。馬の悲鳴。阿鼻叫喚とはこのことだ。やっぱ火はいいのう、伊勢長島を思いだすわい、ふははははは。


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