(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる! 作:大目玉
その勇者の様子は、あきらかにおかしかった。
モブのくせに一人で1ユニット扱いってのは、まあ勇者なら分からんでもない。
だが、そいつは紫色の瘴気をまとい、殺意をみなぎらせた目で俺たちを見ていた。手にはいかにも不気味な、禍々しい作りの剣。はじめて見る剣だったが、その異様な雰囲気はどこかで覚えがあった。
はじめて見る……つまり、ここまで出てきたことのない剣……。
「あっ」
俺がその正体に気づいたとき、勇者は奇声をあげて襲いかかってきた。
この剣、デビルソードだ!
俺はパオラを突き飛ばし、カチュアを抱きかかえてとっさに床を転がる。
石の割れ砕ける音が響いた。
デビルソードは石の床を容赦なく斬り裂いた。深い亀裂が床に刻まれ、無数の破片が俺たちのところまで飛んでくる。とんでもねえ威力だ。あのまま立ってたら、俺とカチュアはそろってやられてたぞ。
カチュアをかばうように立ちあがって、斧をかまえる。
勇者が俺を睨みつけた。どす黒い殺意。狂気に満ちた顔つき。
なるほど、デビルアクスを持ったときの俺ってこんな感じだったのか。そりゃハーマインもびびって悲鳴あげるわ。
あの時の俺は、ハーマインをあのごつい鎧ごと両断した。
となれば、こいつの攻撃を武器で受けるなんてのはもってのほかだ。
カチュアが両手で剣を握りしめて俺の隣に並ぶ。
「この男は、いったい何ものなんですか……?」
そうか、まあ普通は知らねえよな。俺は、離れたところにいるミネルバやパオラにも聞こえるよう大声で叫んだ。
「むやみに斬りかかるな! こいつが持っているのはデビルソードだ! 一撃で仕留められなかったらやられるぞ!」
声に反応したのか、勇者が床を蹴って俺に迫る。さすが勇者だけあって速い。
そのとき、どこからか飛んできた稲妻が勇者を襲った。ミネルバのサンダーソードだ。
動きが止まったその瞬間に、俺とカチュアはそれぞれ左右に飛んだ。
手斧を投げつける。勇者の脇腹をかすめたが、奴はひるみもしなかった。もしかして痛覚が麻痺してるのか?
勇者が俺に向かってくる。
ぎりぎりまで引きつけ、床を転がる。斬撃を避けたつもりだったが、肩から鮮血飛び散り、鋼の斧を弾き飛ばされていた。手が痺れている。骨をやられなかっただけマシか。
床に落ちた鋼の斧を見れば、刃の部分が真っ二つになっていた。予想通りとはいえ、背筋が寒くなる。
パオラやカチュアはもちろん、ミネルバとも戦わせられねえな……。
俺は立ちあがって、勇者と向かいあいながらじりじりと右へ移動した。虎の子の銀の斧を、左手で握りしめる。あと1回ぐらいかな、これ。
痺れたままの右手で乱暴に手招きをして、勇者を挑発する。獣のように咆えながら、勇者が俺に斬りかかってきた。
大振りの一撃を、俺はおもいきり後ろへ飛んでかわす。かすっただけでも体を持っていかれそうな、強烈な斬撃。
さらに二撃目、三撃目とかわしたが、そこで壁際に追い詰められた。勇者が正面から突っこんでくる。俺は笑った。
「くたばりやがれ」
バヌトゥの吐きだした炎が、横合いから勇者を襲った。
炎に包まれながらも、勇者の動きは止まらない。だが、さきほどまでより鈍くなっている。痛みは感じていないだろうが、体がついてこないんだろう。
「デビルソードに支配されてなければ、こんな見え見えの誘導に引っかかることもなかっただろうな」
ミネルバがサンダーソードで追い討ちをかける。
そして、俺は銀の斧を叩きつけた。勇者の首が宙に飛び、床に転がる。同時に銀の斧の刃が大きく欠けた。壊れたんだ。グルニアでハマーンが手に入るまで、我慢か……。
だが、一息つく暇はなかった。
宝物庫から、盗賊がわらわらと四人現れる。こいつらも全員デビルソード持ちだ。
この王宮を支配しているモーゼスが残虐な男だという話を思いだす。やつにとっては兵士なんざ使い捨てだ。むしろ積極的にデビルソードを持たせたんだろう。
パオラとカチュアはそれぞれキルソードをかまえたが、緊張でガチガチだ。動きが硬い。
「びびるな!」
俺は鉄の斧を肩に担いで一喝した。
「たしかにデビルソードはおっかねえ! だが、あれを持っているのはただの盗賊だ! 斬られる前に一撃で仕留めちまえば問題ねえ!」
デビルソードやデビルアクスは、勇者や蛮族が持つからこそ怖い。その時はもう、弓矢か魔法の出番だ。
だが、盗賊ならそこまで怖くはねえ。こいつらなら対処できる。
俺の言葉に、すくんじまっていたパオラとカチュアは気を取り直す。ミネルバも、剣をキルソードに持ち替えて二人に並んだ。
こいつらが冷静さを取り戻せば、盗賊なんて敵じゃねえ。俺を含めた四人であっという間にかたづける。
そこに火竜が現れたが、予想していたバヌトゥがすばやくおさえこんだ。カチュアが武器をドラゴンキラーに持ち替えて、敵の火竜に斬りつける。
火竜は断末魔の悲鳴をあげて倒れた。
奥の廊下に戻って、宝物庫を確保したことを告げると、カシムとエステベス、ワインバーグが真っ先に喜びの声を上げた。
「宝物庫を占領したぞ!」
「ここの財宝は俺たちのものだ! 残念だったな!」
傭兵達が、敵に向かって口々に叫ぶ。さすが戦が上手い。
焦り出す敵を見ながら、俺はミディアに状況を尋ねた。
「ワインバーグがよく防いでくれている。それと、あのチェイニーという男はいったい何なんだ? 変装などではなく、文字通り化けているようにしか見えないが。武具まで……」
ああ、チェイニーのことは数人にしか説明してなかったな。面倒で。
「夜のベッドの中でなら教えてやる」
俺がそう言うと、ミディアはあからさまに憮然とした顔で「ならばいい」とはねつけた。
俺はワインバーグのそばまで歩いていき、敵の様子をそっとうかがった。
アーマーナイトとアーチャーの入り混じった大軍。一度、強烈な反撃をしてやったとはいえ、まだまだ数は多い。簡単に押し返せる状況じゃない。
だが、敵の隊列に乱れが見える。焦りだけじゃないな、こいつは。
数で勝っているせいだろう。俺たちを舐めている。強引に押し切れば勝てると踏んでいる。
チャンスだ。
「もう少し踏ん張ってくれ」
ワインバーグにそう言って、俺はその場から離れた。マリアとシーマを呼んで、考えたことを話す。シーマは顔を輝かせた。
「分かった。ぜひやらせてくれ」
「もし予想外の敵が出てきたら、防御に専念しろ。こっちも一気に攻勢に出るし、やばいと分かったら同じ手で援軍を送る」
俺が言うと、シーマは頷いた。俺はさらにミネルバやミディア、リンダを呼んで、作戦を説明する。狭い廊下で、俺たちは慌ただしく動きまわった。
「いくぞ」
俺の言葉に、マリアはワープの杖を握りしめる。この王宮で手に入った財宝の一つだ。
ワープの杖の力で、シーマがグルニア軍の背後に現れる。
突然出現したシーマに、グルニア軍は慌てふためいた。
「我が名はシーマ! グラの名誉のために槍を振るう者なり!」
シーマは鋼の槍を振りまわして、アーチャー達を次々に薙ぎ倒す。
もちろん反撃に出たグルニア兵もいるが、一撃や二撃でシーマを倒せるようなやつはいない。シーマはその厚い装甲で猛反撃を耐えきり、再び槍を振るってアーマーナイト達を突き倒す。
俺たちも反撃を開始した。奥の廊下に迫っていたアーマーナイトの集団に、リンダとエステベスが魔法を叩きこんで吹き飛ばす。そうしてできた空白地帯に、ワインバーグと、ワインバーグに変身したチェイニーが飛びこんだ。
アイルトンとカシムが弓矢で支援し、ミネルバたちが入れ替わり立ち替わりアーマーキラーを振るって敵兵の数を減らしていく。
ちなみにアランはバヌトゥと一休みだ。まあ頑張れそうなんだけど、ちょっと不安だし。
逃げ惑うグルニア兵たちを、俺たちは容赦なく叩きのめしていく。
ほどなく、グルニア兵たちは逃げ散っていった。
連中の死体を踏み越えて、俺たちは玉座の間へと向かった。