(FE紋章の謎の世界に転生したので)海賊王に俺はなる!   作:大目玉

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「海賊王・ガザック」3

 玉座の間に突入する前に、敵の司祭たちとスナイパーを弓矢と魔法でかたづける。

 俺は玉座の間をそうっと覗きこんだ。

 奥の方に、青みがかった鱗に覆われた巨大な竜がたたずんでいる。モーゼスだ。

 

「あれが魔竜か……」

 

 俺のすぐ後ろで、同じく玉座の間をうかがっているミネルバが息を呑んだ。ミネルバだけじゃない、ほとんど全員が緊張しているのが分かる。

 魔竜ってここで初登場だからな。火竜はがっしりした体格をしているが、魔竜は全体的に細身でスマートだ。

 そして、モーゼスの前に四人の騎士がいる。遠目にもわかるのが、四人ともデビルソード持ちってことだ。いやな野郎だな、モーゼス。

 

「あれは……」

 

 その騎士達を見て、アランが目を見開いた。

 

「アリティアの騎士たちです。あんな真似をするとは……!」

 

「何とかしてやる余裕はねえ。全員殺すぞ」

 

 俺は冷淡に言った。騎士ならそこそこだろう。少なくとも盗賊と同列には扱えない。俺はアランを見た。

 

「戦えないってんならモーゼスに集中しろ。でなけりゃここで待機だ」

 

「いや……。戦います。私の務めです」

 

「そうかい。まあ、数が多すぎるから俺たちもやる。いいな?」

 

 何か、アランが解放同盟のリーダーになっちまったの分かる気がする。こうやってストレス溜めていくんだろうなあ……。

 俺は魔道士たちとハンターたちに下がるよう言った。

 

「モーゼスは魔法を受けつけねえ。騎士だけでやる」

 

 デビルソード持ちの騎士には通じるけど、うっかり仕留め損ねたら一撃でやられるからな。それはちょっと怖い。

 シーマとワインバーグもここで待機。これ以上伏兵はいないと思うが、万が一に備えてレナとマリアを守ってもらう。

 

 ミネルバ、パオラ、カチュア、ミディア、ミネルバに変身したチェイニー、そしてアランに俺を加えた七人で突入することにした。

 俺以外の全員にドラゴンキラーを持たせる。アランの分は、マチスに渡す予定だった分だ。さらに聖水も使っておく。

 

「行くぞ!」

 

 俺が先頭に立って飛びこむ。ウォームが飛んできた。やっぱり、モーゼスのそばに司祭が潜んでいやがったか。だが、聖水のおかげでダメージはない。

 パオラたちが俺を追い越してモーゼスへと駆けていく。

 

「ふふふ……人間どもよ、のこのこと死ぬために現れたか。わしはメディウス皇帝の第一のしもべ、バジリスクのモーゼスじゃ」

 

 モーゼスが咆えた。玉座の間が震動するほどの迫力。恐ろしい威圧感。そして、四人のアリティア騎士がデビルソードを振りあげて向かってくる。

 俺たちは散開した。俺とアラン、パオラとミネルバに騎士達が襲いかかってくる。狂気に満ちた顔。分かっちゃいたが、何を言っても無駄だ。

 大振りの一撃を避け、こちらの一撃で仕留める。ミネルバとパオラもそうした。

 アランはデビルソードをかわしながら懸命に呼びかけ、無理だと悟ると、その騎士の右腕を斬り飛ばした。デビルソードを持った手が、血の尾を引いて床に転がる。

 これには俺も一瞬期待したが、その騎士の顔つきも、まとう瘴気にも変化は起こらなかった。

 その騎士は唸り声を上げながら、自分の右手が握ったままのデビルソードを拾いあげ、アランに斬りかかる。

 

「……許せ」

 

 アランはその騎士の首を刎ねた。

 モーゼスが咆えた。違うな、笑ってやがる。いちいち癇にさわるヤローだ。

 カチュアとミディア、チェイニーがモーゼスに迫る。

 モーゼスは金色の炎を吐いた。それを避けたところへ、長い尻尾が唸りを上げてカチュアたちを薙ぎ払う。更に、倒れたミディアに前脚を叩きつけようとした。

 ミディアはとっさに横に転がりながら、ドラゴンキラーで前脚を打ち払う。黒い血が飛んだ。

 俺は胸を撫で下ろしつつ、緊張が高まるのをおさえられなかった。

 ゲームの魔竜は守備力と魔法防御が高い以外はたいしたことなかったはずだが、こいつは手強い。

 玉座の間の外からリブローが飛んで、カチュア達を回復させる。俺たちは七人でモーゼスを取り囲んだ。

 

 だが、モーゼスはしぶとかった。炎や尻尾を牽制に使い、前脚を叩きつけたり、爪で引き裂こうとしてくる。また、蛇が不意に首をもたげて獲物に食いつくように、隙あらば噛みつこうとすらしてきた。

 かといって牙や爪ばかり警戒していると、炎や尻尾で不意打ちをされる。戦いは思った以上に長引き、変身の解けたチェイニーが一旦離脱して体勢を立て直さなければならなかった。

 ちなみにウォームを使ってきた司祭だが、気がついたらモーゼスの尻尾攻撃で壁に叩きつけられて死んでた。敵味方おかまいなしかよ。

 魔法が効けば隙を作れるかもしれねえが、効かねえしな。弓矢……。パルティアはニーナに預けっぱなしだしなあ。

 そこまで考えたとき、俺は一つの手を思いついた。これから先に試そう。

 俺は呼吸を整えながら、慎重にモーゼスとの距離を詰める。

 

「そういや、お前、何て言ってたっけ? メディウスの第一のしもべ、だったか?」

 

 火のブレスが届かない範囲で、俺は鉄の斧を肩に担いで、余裕たっぷりにモーゼスを見上げる。こっちは色々あって怒りが溜まりに溜まってるしな、多少発散させてもらう。

 

「それなら、メディウスがなんで戦いを始めたのか、もちろん知ってるんだろうな」

 

 モーゼスは乗ってきた。小馬鹿にするように吐き捨てる。

 

「知れたこと。貴様ら人間どもを根絶やしにするためよ」

 

「じゃあ、なんで人間を根絶やしにしようと思った? もちろんそれも知っているよな」

 

 俺がことさらに冷笑を浮かべて聞くと、モーゼスは黙った。

 ミネルバ達は不思議そうな顔をしている。まあ黙って見てろ。

 

「あれれー? お返事が聞こえてこないぞー? まさか知らないなんてことはねえよな。同じ魔竜族のゼムセルは知ってるのに、メディウス皇帝の第一のしもべが知らないわけはねえよなー」

 

 十九章のボス、魔竜のゼムセルはこう言っていた。「この大地はすべて我らのものだった。それを侵したのは、お前達人間なのだ」と。

 モーゼスの声に怒りがにじんだ。

 

「……貴様、なぜ人間ごときがゼムセルの名を知っている?」

 

「それより答えろよ。なんで、メディウスは人間を根絶やしにしようとしたんだ」

 

 モーゼスは答えない。両目を鋭く光らせ、ブレスを吐きだした。

 だが、怒りのせいで直前のモーションが大きすぎる。バレバレだ。俺は余裕でかわす。

 そして、パオラとカチュア、それからアランがドラゴンキラーを手に走った。さすが歴戦の戦士たち。隙は見逃さねえな。

 モーゼスの前脚に斬りつける。黒い血が飛び散って、モーゼスが悲鳴をあげた。尻尾を振りまわしてパオラを吹き飛ばす。マリアがすかさずリブローを使って、パオラの傷を癒やした。

 

「貴様ら……!」

 

 モーゼスが咆える。俺は斧を振りまわしながらブレスが届かないギリギリの距離で挑発する。モーゼスの目は俺しか見てねえ。

 カチュアとアランが下がるのを待って、ミネルバとミディアが突撃する。二人は後脚に斬りつけた。

 モーゼスが体勢を崩して横転する。それでも前脚を振りまわして、ミディアをはね飛ばした。

 ミネルバはミディアを気遣いながら、すぐに後退する。そこへ、呼吸を整えたカチュアと、それから俺が襲いかかった。モーゼスの背中をドラゴンキラーと鋼の斧で斬りつける。

 モーゼスは怒り狂い、なおも暴れ、ブレスを吐き散らしたが、ますます動きが雑になっているので俺たちにはほとんど当たらない。そして、ミディアやアランがモーゼスの腹や腰にドラゴンキラーを突きたてはじめた。

 アランの動きは大胆で、俺から見ても無謀なほどだったが、それだけに一撃一撃が力強く、モーゼスの生命力を確実に削りとっていく。

 黒い血溜まりの中で、少しずつ、少しずつ、モーゼスの動きが弱々しくなっていく。

 

「グフッ」

 

 モーゼスが黒い血を吐きだした。

 

「ヤルナ……ダガ、ソノテイドデハ……メディウスサマハ、タオセヌ」

 

 やがて、力尽きたモーゼスの首がかくんと床に落ちた。動かなくなる。

 魔竜の巨躯が、紫がかった煙に包まれる。

 その煙が消えると、老人の死体が横たわっていた。

 

「これがマムクートか……」

 

 アランが驚きを隠せない顔でモーゼスの死体を見下ろす。俺はアランに声をかけた。

 

「気持ちは分かるが、マムクートじゃなくて竜族と呼んでやってくれねえか」

 

 アランは眉をひそめた。

 

「あなたがたの味方に対して言ったわけではありませんが……」

 

「それでもだ。お前、日常的に半病人と呼ばれてえのか」

 

 アランの敵意を買うことになっても、ここは聞き流してすませるわけにはいかねえ。俺個人の感情だけじゃない、今後の方針にも関わってくる。

 アランは体ごと俺に向き直った。

 

「私としては、この者の首を王宮の門の前に晒したいぐらいなのですが……」

 

「解放同盟とやらの力だけで王宮を取り戻したと思うなら、そうすりゃいいんじゃねえか」

 

 俺とアランは睨みあう。

 

「……あなたは、敵に敬意を払う性格には思えない。なぜ、そこまでするのですか?」

 

「勘違いするなよ、半病人」

 

 俺はせせら笑った。

 

「お察しの通り、俺はこいつに敬意を払っちゃいねえ。払う気もねえ。だが、役に立っているやつに気を利かすのは、大将の仕事の一つだ」

 

 アランは離れたところにいるバヌトゥを一瞥した。ため息をつく。

 

「……では、何と呼べばいいのですか」

 

「竜族だ。呼び慣れれば、こっちの方がはるかにいいぜ」

 

 その後、王宮に、アリティアとアカネイアの軍旗がいくつも掲げられる。

 それが勝利の証であり、知らせだった。


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