「とゆ~か、少年のマネジメント能力より、あのサブライターが欲しい」
……………………俺が馬鹿にされてるのか、真司が褒められているのか。
すると紅坂朱音は伊織を指さして、
「こいつの妹もこの前の作品でさらに一皮剥けた。あいつは間違いなく柏木センセに匹敵する才能をもってる」
確かに、あの二人はこれからも切磋琢磨しあえるいいライバル関係だと思うし、出海ちゃんは今の柏木エリに対抗できる数少ないイラストレーターの一人だ。
あの二人を同時に起用することは神ゲーを創るにあたっていい選択だろう。
…………それがディレクターやプロデューサーの頭痛の種になるかならないかはともかく。
真司のほうも、実力は確かだ。俺が知っている他の有名シナリオライター、それこそ霞詩子とでも張り合うことが出来るだろう。
そして、真司のライターとしての色は俺の色よりも、霞詩子のそれに近い。
だからこそ、霞詩子と組んだときにはまた新しいものを見せてくれるだろう。
「いや、でも…………」
それでも、俺はOKを出せない。
確実にあの二人の今後に役立つことでも。
「んじゃ、それを持って行って見せてきな。あの二人がほんとうにクリエイターなら、これに参加しないという選択肢はない」
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俺と恵は、二人で話し合うために、1階にある喫茶店に降りた。
さっきまでは驚いてばかりだったけれど、一度落ち着くとついさっきまで感じなかった興奮が体の奥底から湧き上がってきた。
紅坂朱音が、俺たちblessingsoftwareと、霞詩子と、柏木エリ。
このメンバーで神ゲーを創ると。
そう宣言したことに、そこまで俺達が評価されたことに。
何も言わない俺を不審に思ったのか、恵が俺の顔を覗き込んできた。
「それで、倫也くんはどうするつもりなの?」
「…………あれを二人に渡さないわけにはいかない。クリエイターへの依頼を通さないのは、このサークルの代表として出来ない」
「それで、あの二人があの人の企画に参加するって言ったらどうするの? それでもいいの?」
「恵…………」
「私は嫌だよ。またサークルがバラバラになっちゃうのは」
ここまで話の本質に踏み込んでくるのは、さすがに予想外だったけど。
「blessingsoftware代表としては、あの二人を手放したくない」
「なら──」
「けど、一人のクリエイターの安芸倫也としてあの二人を手放したくないかと言われれば違うって答える」
恵が誰よりも、それこそ俺よりもこのサークルのことを想っているのは分かってる。
けれど…………。
「俺がそう言うだろうって思ったから紅坂さんはblessingsoftwareごと、なんて提案をしたんじゃないかな」
まあ、そのせいで俺が前から言ってた『霞詩子と柏木エリを紅坂朱音から取り戻して新旧blessing software で神ゲーを創る』っていうのを先にやられたんだけどな!
結局、あの企画書を読んでしまった時点で、俺は選択権も、選択肢すら自ら手放したのだ。
出海ちゃん達にこれを渡さないという選択肢はない。
俺の中で、選択肢なんて一つしかなかったんだ。
そう、まるでフラグ管理に失敗してBAD エンド一直線になってしまったときの共通ルート最後の選択肢のように……。
…………言葉の選択間違えたなぁ……。
それはともかく、恵がなんて言おうと、俺のこの気持ちは変わらない。
だからこそ、恵をどうやって懐柔……じゃなくて説得するかが一番大事なんだけど…………。
「…………うん、そこまで言うなら仕方ないね」
………………大事なんだけど…………………。
────え? 今なんて言った?
「そこまで言うなら仕方ないねって」
「え、いやだってなんで……?」
日本語がおかしいなんてことは気にしちゃいけない。
「なんでって言われても……」
「だ、だって恵、お前、俺がフィールズクロニクルのヘルプに行ったときすげぇ怒って──っ」
「倫也くんそのときなんの相談も無かったしあれは私たちのサークルにはなんの関係もなかったよね」
「そ、その通りで…………」
「でも、今回は内容はともかく、ちゃんとした話だったし。参加するか参加しないかは、二人が決めることだから。……私個人としてはいかないで欲しいけど」
「…………」
「私は倫也くんとか、出海ちゃんや竹宮くんみたいにクリエイターじゃないし、三人が決めたことを無理矢理覆すのはできないし。…………ううん、ちょっと違うな。そんなこと、したくない」
っていうのが、正しいのかも。
そんなことを言いながら、恵はちょっと困ったかのように苦笑した。