紅坂さんと会った翌日。
俺はblessing softwareのメンバーを集めて、昨日あった全てをある1点だけ伏せて話した。
紅坂朱音に会ったこと。
紅坂さんが、俺たちに依頼があること。
そして、あの紅坂朱音が出海ちゃんと真司の二人を、クリエイターとして欲しがっていたということ。
「…………倫也先輩。それで、僕と出海にどうしろって言うんですか」
「そぅですよ、倫也先輩。その話だけ急に聞かされても訳が分からないというか…………」
そう戸惑う二人の目の前に紅坂さんから預かった企画書を差し出す。
「これが、その企画書だ。これを見て、決めて欲しい」
二人は顔を見合わせて、やがて覚悟を決めたように、企画書を手に取り、紅坂朱音の世界にトリップしていった。
真司のほうは、あの人のように、ブツブツと何かを口にしながら、足を細かに揺らしながら、時折、イライラしたように爪を噛みながら。
出海ちゃんのほうは、真司のそれとは正反対に、ただただ静かに、それを読み進めていて。かといって淡々と読んでいるわけではなく、イラストを描くときのように、ひたすらそのことだけを考えている様子で。
俺はといえば、紅坂朱音に実力を認められた二人を誇らしく思っていながら、紅坂朱音に、遠回しに俺の実力が二人に追いついてない、見合ってないと言われたことを悔しく思っていた。
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二人が現実に回帰してきたのは、企画書を読み始めてから、約2時間後だった。
ほぼ同じタイミングで意識を現実に戻した二人は、またも顔を見合わせてから、口を開いた。
「先輩、僕は…………これに参加したいです」
「私も、やります!」
そこから出てきたのは代表の俺にとって最悪なはずの宣言で、クリエイターの俺にとって悔しい宣誓で、消費型オタクの俺にとって最高の台詞だった。
「そっか…………じゃあ、俺から伝えておくよ」
「でも倫也先輩、blessing softwareは…………」
出海ちゃんはなんの躊躇いもなく、この話の唯一の(俺たちの)問題点に切り込んできた。
それと同じタイミングで、今まで静寂を貫いていた恵が出海ちゃんの声に反応しようとした俺を制して、
「二人とも、ちょっといいかな。倫也くんはちょっと待ってて」
と言って、二人を部屋の外に連れて行った。
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僕と出海を連れ出した加藤先輩は、階段を降りてリビングの椅子に座ると、僕達にも座るように言って、話し始めた。
「……二人は、あの企画に参加したいんだよね?」
「……はい」
「はい!」
去年の今頃までは、自分が創作活動をするだなんて考えたこともなかったけれど、創作の愉しさを、苦しみの先にある最高の瞬間を知ってしまった今は、むしろ、創作活動をしないことをこそ考えられない。
そして、そのうちに、自分の中でもっとすごい作品を創ってみたい、すごい企画に参加したいという気持ちが、むくむくと育ってきていた。
それに、その気持ちとはまた別に、自分がこのサークルにある意味のきっかけである霞詩子と共同で創作できるから、という理由もある。
紅坂朱音も、こっちの世界に踏み込む前の僕でも知っているほどに有名で、そんな雲の上の存在から声をかけられて、嬉しくないわけが無い。
出海もたぶんそんな感じだと思う。
自他共に認めるライバルである、澤村英梨々=柏木エリと同じ企画をする。いままでより直接的に評価されるわけだから、やる気が出ないはずがない。
blessing softwareであるままその選択ができるなら、迷うこともないだろう。
「私は、私個人としては、二人には行って欲しくない」
「…………理由を、教えてください」
だから、加藤先輩がそう言った理由が、僕にはよく分からなかった。
「たとえ、あの人が筋を通して、blessing softwareのまま参加していいと言っても、私は、あの人を信用できないし、去年の“あれ”を見てると、二人が絶対に壊れないとも思え────」
ドンッ!
「「ふざけないでくださいっ!」」
「──っ」
「…………ふざけないでください。それ、相手によっては洒落にもなりませんよ」
「勝手にあの人より下にしないでください、恵先輩。ソレだけは聞き捨てなりません」
「決めました。加藤先輩が何を言おうと参加します」
「私も、恵先輩がなんて言ってもやめません!」
「「絶対です!」」
「──そっか、ごめんね、二人とも」