「──うわ」
僕は思わず、感嘆の声を上げた。
「──すごい広いですねぇ」
出海は、広さの程度を口にした。
「──本当に、無駄にね……」
倫也先輩は、その場の人口密度の異常さを的確に指摘した。
「お、来たか」
そして紅坂朱音は、こちらを見て軽く手を振ってきた──。
というわけで、今僕達がいるのは株式会社紅朱企画の仕事場(?)だ。
といっても、そこにあるデスクのほとんどは、だれもいないどころか、物すら置いていないので、ぶっちゃけ、紅朱企画の仕事場というより、紅坂朱音個人の仕事場って言われた方がしっくりくる。
実際、この昼間の時間帯でも40席くらいあるデスクのうち、5席しか使われてない。
……そのうち紅坂さんは2席使っていたけれど。
「えと、初めまして。blessingsoftwarシナリオライターの竹宮真司です」
「は、初めましてっ! 原画の波島出海ですっ」
この人がこれからのクライアントということになるので、一応、挨拶はしっかりしておく。
確かに、すごい人だけれど、尊敬する気持ちはあるけれど、これから、対等に付き合っていかなくちゃいけない存在だ。
「っあ~、初対面ってことで一杯やるか?」
「真司達は未成年ですよ!? いや俺もだけど!」
付き合っていかなくちゃ、いけないのかぁ……
「──まあいい。今日おまえらを呼んだのは、ま、そこの二人と会っておくってのもあるが、ゲームの仕様決めが一番だ」
「──? 紅坂さんのことだから、細部はともかく、おおまかな仕様はもう決めてると思ってましたけど」
「ま、最初はそのつもりだったんだけどな~。少年たちがサークルごと参加するってんなら、話は別だ」
倫也先輩や伊織先輩から軽く話は聞いていたけれど、実際に相対してみると、この人すごいフランクだな。
姿勢が凄い。
椅子に左足を掛け、背もたれの後ろに両手を放り出してふんぞり返っている。
「企画書見たなら分かってるよな? このゲームは恋愛シミュレーションゲームにする。そしたら、ライターの色によって仕様もかなり変わるだろ?」
「それは、確かに」
「霞センセみたいなタイプだったらシナリオ重視のADVになるだろうし、少年みたいなタイプだったら、選択重視のゲームになるだろうし。ま、つってもおまえは霞センセよりだろ?」
「そう、ですね」
「じゃ、その方向でプロット組んでくれ」
「……紅坂さん」
そう声をかけたのは倫也先輩だ。
「シナリオとイラストと音楽はこっちの制作でいいんですけど、ゲームのプログラムはどこに頼んだんですか? 俺たちがプログラムするなら1年以上かかりますよ?」
いくらいい素材が上がっても、それを形にできなければ決してゲームにはならない。
だからこそ倫也先輩はそれを確認する。
「それは心配すんな」
そう言った紅坂さんはこう続けた。
「スクリプトはうちの社員にやらせる。数にしたら、そうだな、50人はいるか」
そんなにいるのか……。今は4人しかいないのに…………。
「そういうこった。じゃ、次の打ち合わせは……2週間後でどうだ? それだけあれば形にはなるだろ?」
カチンときた。
「──はい、分かりました。それでは2週間後にプロットの確認とキャラデザの方向決めをしましょうか」
「──霞センセにはもう話してある。しっかり話し合うんだな。波島出海、お前はプロットが上がるまで特に何もない。ただし動き始めたら死ぬほど忙しくなるから覚悟しておくんだな」
「……………………」
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そんなこんなで、僕と出海と紅坂朱音の嵐のようなファーストコンタクトは終わったのだった。
「──ところで倫也先輩。なんで氷藤先輩達は呼ばなかったんですか?」
「そうですよ。美智留先輩たちも呼んだ方がよかったんじゃないですか?」
「──実は、美智留、今長野の自分ちに帰ってんだよね」