「──それで、これはどんな状況なんですか?」
「わざわざ私から言うまでもないでしょう?」
「そうですね」
僕と霞先生、柏木先生が会ったことがあるのは倫也先輩の部屋でたったの4~5回だけだけれど、そのときに毎回こんな雰囲気になっていたし、倫也先輩たちからもこの二人に何があったのか軽く聞いたことがあるのでこうなった理由はそれとなくわかる。
閑話休題。
「それじゃ、始めましょうか」
「はい、そうですね」
「……………………」
「…………」
「……いい加減、その子どもっぽいところを直しなさい英梨々」
「うるさいわね、詩羽。そっちこそいい加減にその根暗を直しなさいっ」
柏木先生と出海のこと以外で去年、この二人について学んだことがもう一つだけある。
それは、このあたりで止めておかないと永遠とお互いに罵倒を繰り返す、ということだ。
「あの、そろそろやめて貰っていいですかね。
────なんの話をしに来たのか忘れてないですよね?」
「もちろんよ。忘れるわけ無いでしょう?」
「じゃあ、すぐに話に入りましょう」
「ええ、そうね」
「……ところで、出海と柏木先生はどうしてここに?」
「それを私に聞かれても困るのだけれど……。ねえ英梨々、あなたなぜここにいるのかしら?」
「────偶然ここに居ただけよ」
────────。
まあ、キャラデザ担当の二人もいるとそっち関係の打ち合わせも出来ていいと思うから、理由はなんでもいいんだけど。
「波島さんはどうなの?」
「────偶然です」
「…………」
「……………………」
「……」
「ほんとに偶然なんですよぅ」
────。
「ま、まあとりあえず始めましょうか」
そんなこんなで、僕達の打ち合わせはぐだぐだっと始まった。
そして、紆余曲折を経て…………。
「霞先生、この企画のコンセプト理解できてます?」
「あら、理解できていないのはあなたのほうだと思うのだけれど?」
「だから、このキャラのバックボーンはこれでは薄すぎるわ。こんな薄っぺらいキャラクターではユーザーの心は掴めない」
「……言ってくれますね……。これ以上このキャラのバックボーンに踏み込むと物語が重すぎてクドくなるの、わかりますか」
「それをそうしないのが私たちの仕事でしょう?」
「──っ」
「──ちょっと波島出海。なによこのデザイン」
「柏木先生の絵がかわいくなかったので書き直しました」
「書き直しましたですって~? ふっざけんじゃないわよ。こっちのデザインに余計なパーツ突っ込んだだけのくせして」
「────っ。……それじゃあ何がいらないのか全部挙げて貰いますっ」
「そうね、まずは──」
と、まあ、こんな感じに。
いや、滞ることもあったけど、出海や柏木先生が居てくれたおかげで、キャラクターの作り込みはいい段階まで進んだ。二人はキャラに関してはなんの憚りもなく話に入ってくるから、ありがたかった。
ストーリーのほうは、とりあえず、二人でそれぞれ考えてきて、その二つで検討していくことに決まった。
─────────────────────────
「はあ~、疲れた」
紅坂さんとの打ち合わせを無事に終えた俺たち二人はつい先刻まで地獄の様相を呈していたテーブルに突っ伏していた。
『ま、とりあえずこんなもんだろ』
今から一時間ほど前にそう言った紅坂さんは、何か締め切りでも抱えているのか、そそくさと帰っていった。
「なあ、伊織」
「なんだい、倫也君?」
「お前、rouge en rouge にいるとき毎回こんな打ち合わせしてたのか……?」
「まあ、そうだね」
まじか。毎回これだと絶対誰か死んでるだろ。
「まあ、そのおかげで辞めていったプロデューサーがそれはまあごろごろと」
「ですよねー」
「倫也君は、大丈夫かい?」
「ま、ある程度覚悟はしてたし。……それに、一昨年のあれを見てるからな」
「ああ、そういえばそうだったね」
伊織は納得したとばかりに返事をすると、紅坂さんが散らかしていった(そりゃ俺達も多少は散らかしたけれど)書類を集めて、自分の担当分であるスケジュール・容量の部分を鞄に詰め込んで立ち上がった。
「それじゃ、僕はもう帰るけど、倫也君も帰るかい?」
「そうだな」
俺も自分の担当分を持って立ち上がる。
「じゃ、支払いは朱音さんが終わらせてるはずだからとっととお暇しようか」
と、いう感じで紅坂さんとの最初の打ち合わせは幕を閉じた。
倫也たちの打ち合わせはそのうち回想シーンで出てくる……かもしれません。