でもこっちの方がやりやすいんだよね
仕方ないね
俺は憂鬱だった。
時代は移り変わり周りは争い事は増え、妖怪の類も最近見ない。
一番初めにあった妖怪は千年前以上。
最後にあった妖怪は小豆洗ってるおっさんだったか、握手をしたら心が洗われるとかいうから求めて見たら拒否されたんだったかな、まぁ仕方ない。
「し、白色の面!白死人が出たぞー!」
出たんじゃなくてそっちが見つけたんじゃないか。
森の中で俺が木に寄りかかっていると、なにやらごつい鎧を着た男が俺を見て仲間を呼んだらしい。
俺は薄汚れた白い服、というかローブみたいなものを見やる。
この服のせいで白死人なんていう呼ばれ方をされている。
由来は白い服着た死人だ。
そのままだ。
別の場所では白人形とか白い悪魔とか呼ばれてるらしいがそれはそれこれはこれ。
とにかくここにいると面倒な事になるので身体全身に霊力を漲らせその場から離れる。
動くだけで力を消費するっていうもんだから困っちゃうね。
「残念ですがここでボッシュートでーす」
!?
すっと身体が浮かぶ感じがしたと思いきや目玉がたくさんある空間を通り抜け、緑の大地へとまた降り立つ。
時間にして数秒も経っていないだろう。
「お久しぶりね、白仮面さん」
ゆらりと立ち上がった俺に話しかけてきたのは中々自己主張の激しい服と少し大きすぎる様な帽子を被った妖怪、八雲紫だ。
丁度後ろに立たれているので首だけを傾けシャ〇度を連想させる様な見向き方をする。
「貴方がその振り向き方するとただのホラーじゃない」
せやろか。
仕方が無いので俺は身体全体で紫の方を向く。
こんな細かい動きだけで自分の力を消費するので出来るだけアクションは起こしたくないのだ。
しかしその前にここはどこだろうか。
「ま、いいわ。そんなことよりようこそ、幻想郷へ」
切り立った崖の端に立ち、その下に広がる人里をバックに両手を広げいかにも決まったぜという顔をした紫がいる。
だが残念ながら全く理解が出来ない。
俺が訳分からんという思考が読めたのか何なのか、突然彼女は説明をし始める。
これは長いぞ。
『っていうわけだからその博霊神社ってとこに行って来て!』
その言葉を最後に紫はドロンした。
しかも詳しい場所も教えずに。
とにかくそれっぽいところを歩きまわりながーい階段を見つけたのだが、既に空は真っ黒、夜だ。
これを最後の希望と思い、俺は早速階段の一段目に足をかける。
すると身体全身にピリリと電流が走ったような感覚を受ける。
おそらくこれは侵入者を察知するための結界だろう。
今までに紫が親切だったことなど一つも無い、ゴール地点がスタートの可能性だって大有、いや今回はそれの可能性が大だ。
何が言いたいか、簡単だ、ここの主に歓迎されていない。
「やっと来たわね。有無を言わさず潰してやる!」
空から女性の声、姿を見やるとそこには赤い巫女服に身を包み、その両手には大量の札、まさかあれだけの量を投げつけてくるのか?
じっと彼女を見つめていると、何か動いた素振りをした後、その場からパッと消える。
次の瞬間。
ドガッ!!
ザザザザッと地面を思い切り滑りながら止まる俺。
顔面に衝撃を受けて吹っ飛ばされたのだろう、ぶれる視界の中巫女服が綺麗に蹴りをかましているのが鮮明に映ったのだ。
そんな状況整理をしていて動かない俺を見て巫女服は腕を組みながら頭を傾げる。
「・・・うそ。まさか本当に有無を言わさず潰しちゃった?」
まさか、伊達に一万年以上死んでないぞ。
白い仮面を付けた何かがゆらりと起き上がる。
それを見た巫女はやっぱりねといった感じの顔で札を構える。
ぐぐぐと白仮面は右腕を後ろに引き、まるで何かを殴るための構えのようなポーズを取る。
何か来ると警戒した巫女は札を白仮面に向かって一気に飛ばす。
まさに弾幕、一個の塊と化した札が白仮面に飛んでいくが、その中心を貫き何かが飛んでくる。
「ッ腕!?」
そう、腕だ。
巫女はそれを間一髪で避け、一度空中へ退く。
彼女が投げた札は白仮面の姿を隠す程大量に張り付き、身動きが物理的に動きにくくなっている。
「・・・おかしい。あの量の封の札を喰らえば紫でも動きが止まるのに難なく歩けるなんて、まさか妖怪の類じゃないっていうの?」
疑問が浮かび、思考のために巫女に少しの隙が出来る、それをヤツは見逃すことは無かった。
左腕を巫女に向かって投げ飛ばす。
これに巫女は反応出来ず、右足を掴まれてしまう。
「くっ、本体と離れてもある程度の動作は出来るとか・・・!」
といっても本体と離れているならば別にそこまで気にする必要は無いと油断した時、彼女の右足を掴んでいる左腕から本体の付け根まで霊力によるつながりが出来たかと思いきや、瞬時にその霊力は千切れた部分をつなぐ腕の肉となり、白仮面の方に思い切り引っ張られる。
「でたらめすぎっ・・・!」
引き寄せられ白仮面に近づいた時、いつの間にか復元していた右手による霊力と纏った一撃をかまされる。
しかし巫女はそれを身体を逸らす事によってギリギリ避け、逆に左手を白仮面に巻き付け筒後ろに回り、左手の右足拘束を無理やり解き、白仮面の背中にお返しだと言わんばかりの霊力を纏わせた衝打を撃ち込む。
あまりに衝撃が強かったのか、白仮面の身体はまたもや吹っ飛び、階段に身体を何度も打ちつけながら上に飛んでいく。
「階段よりこっちの方がやりやすいでしょ」
白仮面を追い越し博霊神社の前に陣取る巫女。
その挑発と取れるセリフに応じる様にゆったりとした起き上がり方でなく、素早く巫女の前に躍り出る。
その時の白仮面の構え方は先程までとはまったく違い、身体から発せられる力が妖力に変っていたのだ。
腰は90度まで曲がり、顔の向きは正面、腕は重量に従い下にだらりと垂れたまま、不気味な構えだ。
「構え方が気持ち悪かったり霊力も妖力も扱えるって?何者よアンタ・・・」
若干顔をひきつらせながらも札を手に取る巫女だったが、白仮面はそこにすかさず潜り込み顎を狙った衝打を放つ。
これまた間一髪で巫女は避け、カウンターと言わんばかりにサマーソルトキックを放つが、身体をあり得ない角度で逸らされ避けられる。
「全く、紫も面倒なヤツ連れて来るわ・・・」
「・・・なにこれ」
翌朝紫が見たのは派手に荒らした形跡のある神社の敷地と、仲良く力尽きている白と赤だった。
これはひどい