用意されていた肉体に僕の魂を挿入する作業はすぐに終わった。
そして、鏡を見てみたのだがこれがまぁ何と言いますか……192cmの高身長にして、眉目秀麗のイケメン、声は爽やか系………いやいやいや、誰だよ。
生前の僕の肉体は、168cmという低いのか普通なのか微妙な身長であり、「町中歩けば20人くらいは見つかりそうだ」と誰か(恐らく友達)に言われたことがある記憶が残っているほどの平凡な顔であったため、コレが自分になるのだと言われると………違和感しかなかった。
「いやはや、これは…身体的大出世じゃないか圭一くん。」
おい神様、その言い方だと僕の前世が酷かったみたいになっちゃうからやめてくれよ。
「それじゃあ圭一くん………転生後の君の設定を説明するよ。」
名前:神田 圭
年齢:16歳
家族構成:(母)神田 律
(父)神田 正樹
(妹)神田 愛
「名前の方は以前と同じはできないけど、似た名前にしておいたから、浸透はしやすいかもしれないね。」
そう言い神様は僕にウィンクをした。
「詳しいことは神田家から聞いてくれ。事情は話してある。それと………。」
「それと?」
「それと、神田家には他にも君のような『ちょっとした事情を持った人たち』が居候をしている。これらを踏まえた上でもう一度似た質問をする。」
神様は一拍置いて、
「君は転生するかい?」
「はい!」
僕にはやらないといけないことができてしまった。それは、下界で生きる理由となり、この意志をリセットするわけにもいかない理由だ。特殊な人たちが居候をしていようがいまいがどうだっていいのだ。
神様は僕の返事を聞くと満足げに頷き、そして、立ち上がる。そして、部屋の隅にある棚に向かい、置いてある電話機に手を伸ばす。
(どこに電話をかけるのだろう……そもそも、神様に電話って必要なのか?)
そう思っていると、神様は子機を耳に当て電話を始めた。
「もしもし、こちら日本190721番地区/霊長類科/ゴリラ系部門担当の神様ですけど、例の日本人の件でお電話………あ、はい……そうです……はい…はい…………ありがとうございます。えーっと、ですね、本人は残留的転生の方をご希望という………はい………はい……ありがとうございます。それでは、本人にもそう伝えておきます。………はい……失礼します。」
前に神様自身が『人間と同等の意思を持っている』と言っていたが、なるほど確かにそうである。この電話の対応の仕方はまんま人間そのものだ。
「圭一………いや、今はもう圭くんか……このゲートを抜けたら下界に行ける。」
そう言うと神の隣に黒い穴が発生する。奥の方を覗き込むと光が見える。あそこまで行けばいいのだろうか。
「もしかしたら、君と会うことはもうないだろう。少しの付き合いではあったが、元気に暮らせよ。………さぁ、規定があるから長居はできない。走れ!」
僕は神様にお辞儀をして走り出した。
後ろを振り向いたわけではないが、僕の背後では穴の入り口が閉じられたのだろう。
前方の出口以外は真っ暗な空間であったが、不思議と地面がどこにあるのかは把握できていた。
次第に出口の穴が広がっていく――いや、これは僕が穴に近付いているだけだ。
思っていた以上に出口は明るくなく、ただ暗い空間だからこそ出口の明るさが目立っていただけだ。
温度が鮮明になっていく。
景色が鮮明になっていく。
感触が鮮明になっていく。
これらの感覚は前からあったが、ここまで繊細に感じ取れるようになったのは――僕が生き返りに向かっている証拠だろう。
呼吸が生まれる。
鼓動が生まれる。
疲れが生まれる。
生の実感をより強く感じるたびに、僕の体は走ることを休めようとする。
しかし、それでも僕は走った。
出口の奥から月が見える――今は夜だったのか。
出口は目の前、そのままの勢いで僕は穴から飛び出た。
「現世に帰ってきたぜ!」
僕は第二の人生に胸を踊らせ叫んだ。
To be continued………