最強冒険者コンビの大活劇~パートナー居るのに協力する必要が生まれない~   作:イリーム

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1章 冒険者生活
1話 異国の地 アーカーシャ


「なにか食べないの?」

「ちょっと酔ってきてるし、今はいい」

 

 酒場では二人の男女がテーブルで談笑をしていた。テーブルを挟んで男の方は高宮 春人(タカミヤ ハルト)、その前に座る少女はアメリア・ランドルフである。二人はアーカーシャの街の酒場「海鳴り」にて酒盛りに興じていたのだ。

 

「私とこうやって組んで1か月になるけどさ、どういう事情で、酒場に下宿することになったの? よく考えたらあんまり聞いてなかった」

「あれ? 異世界から来たっていうのは何回か言っただろ」

「それは聞いたけど、詳しい話は聞いてないし。ま、この際だし改めて教えてよ」

 

 目の前の少女は春人が異世界からの住人であることを本気で信用している。もちろんそれは真実であり、彼は地球から転生されて来たのだ。本人も理由まではわからず、こちらに過ごして1か月になる。

 春人は自分がこちらの世界に脚を踏み入れた時のことを思い出した。あれは、雨の日……。春人は高校2年生であり、東京の学校に通っていた。傘を差しながら歩いていたのが地球での最後の光景……。

 

 

 

 春人が目覚めたのは、見慣れぬ崖付近だった。特に怪我をしていた様子はないが、傘は持っておらず、鞄も無くなっていた。自分はどうしてしまったのか……春人はなにが起きているのか全く思い出せず、わからないでいたのだ。

 その時、彼に声をかける男が居た。

 

「おい、こんなところで何してやがる!?」

 

 現れたのは日本人には見えない外国風の男。生やしている髭も濃く、色黒でかなり筋肉質な男だった。しかし、言葉は普通に通じている……見知らぬ場所、異国の大地に自分が居ることを知らされたのは、それからすぐのことだった。

 

「おい、春人! 酒が足りなくなってるぞ! 裏から持ってこい!」

「はい!」

 

 異国の地に飛ばされた春人は、最初に出会った男、バーモンドに連れられて、アーカーシャの街を訪れた。それなりの規模の街であり、そこの酒場の店主をしているのがバーモンドである。行くところもない春人を彼は自分の店で寝泊まりすることを許したのだ。

 

 ただし、商品の品出しから買い物まで、様々な仕事を行う対価としてだが。最初の春人はわけもわからず働かされ、慣れない仕事に戸惑っていた。異国の地で言葉が通じるのが不思議と感じる間もなく、彼は酒場での仕事は忙しかった。そして、日本に居た頃は運動もろくに出来なかった自分が、そこよりもはるかに忙しい仕事をこなせていることに気付いたのはそれから数日経ってのことだった。バーモンドからの言葉が原因だ。

 

「おめぇ、冒険者やった方がいいんじゃねぇか?」

「冒険者……ですか?」

 

 汗だくになりながらも休むことなく薪割りをこなしていた春人に、バーモンドが放った言葉だ。聞き慣れない単語に春人は意味がわかっていない様子だった。だが、名称からより肉体的な仕事だろうとは推測できた。それと同時に自分の肉体の変化も。

 

 冒険者はモンスターの討伐などを引き受ける仕事となる。傭兵などの仕事も含まれているが、このアーカーシャでは少し意味合いが変わってくる。アーカーシャの街のギルドはほとんどが遺跡の探索要員で構成されているのだ。

 

 過去の英雄の遺した遺産。その発見を夢見て、一攫千金を狙った冒険者がこの地に集まる。そして、地域に存在する洞窟や遺跡に脚を踏み入れるのだ。つまり、トレジャーハンターの色合いが濃い地域となっていた。

 

「おめぇ、冒険者で稼いだ方が生活できるんじゃねぇか? とりあえず登録してやってみな。宿代はツケにしといてやるからよ」

 

 そして、半ば強引に決定したバーモンドの提案で、春人はその日の内に冒険者となってしまったのである。

 

 

 

「へえ、そんな経緯で冒険者になったの、春人」

「うん、まあそんなところ」

 

 春人は酒場のテーブルで向かいに座っているアメリアに、自らが冒険者になった経緯を話していた。アメリアは端正な表情を崩して大きく笑っている。

 

「あははははっ! おまけに異世界から来たとか……面白すぎでしょ、春人」

「俺としては何がどうなってるのかわからないんだが……1か月経過してやっとこの街を本物だと思い込んだほどだぞ?」

「まあ、気持ちはわからないでもないけど」

 

 アメリアは春人を見ながら、酒に手をつける。彼女は17歳だが、この世界では特に酒の年齢制限はないのだ。

 

「でも、バーモンドさんもそうだけど、俺の話を信じてくれたのは驚いたよ」

「まあ、普通なら信じないけどね。春人の場合は別って気もするし」

 

 アメリアは屈託のない笑顔を春人に見せていた。彼ら二人の出会いは、春人が冒険者になった日の翌日。かの英雄の遺した遺跡の1つに、春人が最初の冒険として脚を踏み入れたのがきっかけだ。

 

 その遺跡は街から比較的近くのエリアで、岩などに阻まれた平原の奥地。サイトル遺跡と呼ばれた場所である。そこで出くわしたのは、本来であれば死を覚悟しなければならないモンスター。最初の冒険に派遣される、探索され尽くした遺跡に出現することなど到底考えられないモンスター。この世に未練が残った冒険者の馴れの果て……亡霊剣士がそこには居たのだ。

 

「亡霊剣士を見た時は、あんたは確実に死んだと思ったわ」

「レベル41の化け物だっけ……」

 

 春人が踏み入れた遺跡のモンスターレベルは高くても10程度。レベル41のモンスターが現れることなど考えられなかったのだ。冒険者になったばかりの新米は、運が悪ければレベル5程度のモンスターにも殺される可能性があった。

 近くでその遭遇を見ていたアメリアは、春人が死んでしまうと判断したのだろう。だが、そうはならなかった。彼は、店で売られている平凡な鉄の剣を片手に亡霊剣士との死闘を繰り広げ、見事に打ち破ったのだ。

 

「正直驚いた。あんな光景、7年間で初めてだったし」

「そういえば、アメリアは10歳から冒険者やってるんだっけ」

 

 アメリアは幼少の頃からアーカーシャで冒険者として活躍している。幼少の頃より鍛えられた彼女は、非常に強力な冒険者として名を轟かせていた。そして、運命的な出会いを果たした二人。アメリアはそれまでは単独で遺跡の探索を行っていたが、春人とは組むことになったのだ。

 

 それから数週間が経過し、春人は驚くほどの成長を遂げていた。いや、才能を開花させたといった方が正しいだろうか。たった1か月という時間で、春人の名前は街中に知れ渡り、二人のコンビは最強クラスの冒険者として、ギルドでも認知されるに至っている。

 

「正直ありえないわよ。たった1か月で、オルランド遺跡の6層まで行ける人なんて」

「自分でも信じられないよ……こんな俺が」

「だからかな、異世界の住人って言われても納得できたのは」

 

 アメリアは語る。日本という国に住んでいた春人からすればアーカーシャの街は、まさに剣と魔法の世界を体現したような所であったのだ。広大過ぎる宇宙全域で考えればあり得る話かもしれないが、超能力のような世界が実在したわけだ。

 

その場所に転生し、向こうでは具現化されなかった武力という才能が開花している。春人自身、最初は信じられないでいたが、1か月が経過した今となっては理屈ではないことを実感として持っていた。

 

 春人は現在では実感しているのだ。自らの強さがこの世界の基準と比較して相当に高レベルであることと、おそらくもう以前の世界には戻れないということを。まさに理屈ではなく、理解という言葉で彼は悟っていたのだ。なぜこのようなことになったのか、まったくわからない状況ではあるが、彼はそれを理解し、享受する余裕も兼ね備えていた。

 

 

「この世界は異世界からのワープみたいなことはあり得るの?」

 

 春人はアメリアにそんな質問をかけてみた。春人も予想はしていたが、彼女は首を横に振る。

 

「まさか、そんなのあり得ないわよ。ただ、春人のそんな才能見せられたら、納得もいくかもってだけ。過去の文献の中には大量の人間が一晩でモンスター化した現象や、直径数十キロメートルの大穴が一瞬の内にできた現象なんかもあるらしいし。そういった本当かどうかわからないお伽話のレベルだけどね」

 

 アメリアは平然とした口調ではあるが、述べている例えは非常に大きなことであった。言い換えれば、春人の存在そのものがお伽話のレベルであり得ないということだ。最強クラスの冒険者である彼女にそこまで言わせるということが、春人の中で自信にも変わっていた。

 

 

「バーモンドさん! 酒場の前で喧嘩ですよ!」

 

 と、その時バーモンドの酒場に現れたのは一人の青年であった。焦った表情でバーモンドの名前を連呼している。

 

「おう、相手は誰だ? 冒険者か、モンスターか?」

 

 荒くれの店主バーモンド。焦った青年とは違い度量が大きく余裕の表情で尋ねる。青年も彼の態度に冷静さが戻って来たようだ。

 

「冒険者です……まだ、ここに来たばかりの奴みたいですけど」

「他国の冒険者ってのは始末に負えねぇな、で? やられてるのは仲間か?」

「はい、すんません」

 

 青年はバーモンドに謝るが、彼は青年を責めるようなことはしない。

 

「おい、春人。行ってくれるか?」

「ええ、わかりました」

 

 

 

 バーモンドよりもさらに冷静な春人はゆっくりと立ち上がる。こんな事態、まだここに来て1か月だが何度目になるのかわからない。周囲の客も春人が立ち上がったのを見て、軽い歓声が上がった。黄色い声援すらチラホラと聞こえてくる。

 

「すいません、春人さん。迷惑かけますっ!」

「いえ、そんな……」

 

 自らより年上の冒険者の青年。春人は名前の知らない相手だが、相手としては尊敬の対象になっていることに恐縮してしまう。アーカーシャは実力主義世界の側面も持ち合わせているのだ。青年の態度はある意味自然とも言える。

 

「まあ、冒険者ってのは荒くれ者の巣窟みたいなところあるしね。喧嘩が日常茶飯事な方が健全なのかも」

「まだ1か月だけど、こうも喧嘩が多いと納得できるよ」

 

 アメリアの言葉に苦笑いをしつつ、春人は酒場の外へと歩いて行った。そして、喧嘩を吹っかけた相手であるよそ者は、春人の言葉に耳を傾けることがなかった為、その場でしばらく倒れ込むことになってしまった。

 




「アルファポリス」にも投稿しております。読んでいただければ光栄です。
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