最強冒険者コンビの大活劇~パートナー居るのに協力する必要が生まれない~   作:イリーム

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126話 アーカーシャにて その2

 

「悟あんた……喧嘩でも売りに来たの?」

 

 

 リッカは同じ歳の悟を相手に本当に迷惑そうにしていた。周囲から見れば、あるいは仲が良さそうに見えるかもしれない二人だが、お互いに思い切り嫌っているのが事実だ。二人が恋愛関係に発展することはあり得ないだろう。悟としてもリッカの性格は大嫌いだと言えるからだ。

 

「喧嘩を売る程、俺も暇じゃないんでな。それに……喧嘩を売っても勝てないことは分かっている。お前も変な言い掛かりを付けて、襲って来ないようにな」

 

「……」

 

 

 リッカの眉間にしわが寄った。ナーベルとミーティアはそれを敏感に感じ取り、焦っている様子だ。悟は力でははるかに劣るが、それを自覚しているのが恐ろしいと言えるだろうか。彼はリッカを怒らせる術を習得しているのだ。

 

 ナーベルやミーティアの態度とは裏腹に、タナトスレーグだけはどうでも良いという態度を取っていた。彼からすれば、人間のイザコザなど興味がないのだろう。事実、レーグの興味はアーカーシャにもなく、リッカの強さ……正確には彼女を操ったと思われるランファーリと名乗った者の真相に集約している。その秘密はぜひ知りたいと思っているが、他の情勢についてはさして興味がなかった。

 

 その気になればアーカーシャを全滅させることも可能なレーグではあるが、そのことにも興味がない。ただし、自分の生まれた意味……それがどういうものなのかを知りたいとは思っている。

 

「悟……あんた、少しは強くなったからって調子に乗ってない? 最近はお化けガエルは余裕になったみたいだけど。まだレベル20にも達していないって?」

 

「ちっ……確かにそれは正しいが、別にそれはいいだろ? リッカなんて春人のことが気になって仕方ないって聞いてるぜ?」

 

 

 悟からの返しにリッカの表情が変わった。少し赤らんでもいる。

 

「なによ……あんたには関係ないでしょ?」

 

「そりゃ、関係ないけどよ。親切心から忠告してやろうかと思ってな」

 

「はあ? 忠告……?」

 

 

 リッカは嫌な予感がしていた。認めたくはないが、悟からは無視できない言葉が出て来ると予見できたからだ。悟は春人の同郷……それだけに自分よりも、彼のことに熟知しているのは明白だった。

 

「春人はやっぱモテるからな。有名なところでも、冒険者のアメリアや、この酒場の看板娘のエミルが有力だぜ?」

 

「そ、それは……」

 

 

 直接の面識はないに等しいが、当然、リッカも知っている面子だった。エミルに関しては先ほどからも接客で目に映っている。外見上の美しさでは自分でも決して負けていないという自信があるリッカだが、この数カ月での絆という部分では大きく負けていた。彼女は春人に会ったことがないのだから。彼の顔は知っているが、実際に話したことはない。

 

「さらに、もう一人の看板娘である委員長……天音美由紀だっているんだ。委員長は春人の初恋の人物なんだぜ?」

 

「……」

 

 自分のことのように話す悟に嫌悪感を抱いているリッカだった。自分の手柄でもないのに、どうしてここまで言えるのか。典型的な寄生虫野郎を思い出した。もちろん悟がそこまで腐った人物ではないことは分かっているが、感情的には似た印象を持っている。

 

「あんたが自慢気になる理由が分からないけど。全て、春人の手柄であって、悟の手柄じゃないんでしょ? それを自慢気に話すとか……バカじゃないの?」

 

「な、なんだとお前……!」

 

 

 今度は悟がリッカに煽られた形だ。怒りはするが、実力的に負けているので彼も言葉でしか返せない。別の意味合いではあるが、案外、良いコンビなのかもしれない。決して恋愛関係になることはないが……。

 

 

「悟もそろそろいいだろう?」

 

「ヘルグさん。すみません」

 

「いや、謝る必要はないが。それより、あんたらは北のマシュマトに行くつもりなのか?」

 

 

 ヘルグからの話題の変更が唐突に行われた。リッカも空気を読んで静かになる。ここからは、それぞれのリーダー同士の会話だ。

 

 

「ええ、マシュマト王国には行こうと思うわ」

 

「そうか。じゃあ、後はラブピースの壊滅とその後の手続きを行える冒険者が必要ってわけだな。イリュージョニストの面子は重傷だからな」

 

「一命はとりとめたようで安心したわ」

 

「ああ」

 

 

 Bランク冒険者のイリュージョニストの面々はなんとか一命は取り留めたが、しばらくは活動が不可能な状態だった。彼らが動けない以上、ラブピースの後始末は難しくなってくる。フェアリーブーストでは少し実力不足だからだ。

 

「俺達だけだと、後始末は難しくなる。ネオトレジャーが参加できないなら……他のAランク冒険者チームに依頼する必要があるかもな」

 

「へえ、自分達の実力をしっかりと把握してるんじゃない。流石はリーダーね。悟とは大違い」

 

「なんだと、リッカ!」

 

「そういう言葉はどうでもいいから。文句あるなら掛かって来なさいよ」

 

「くっ……」

 

 

 怒りを見せた悟だったが、流石にリッカに向かって行くことは出来なかった。彼の攻撃ではリッカの闘気を貫通出来ずにダメージを与えられないのだ。

 

「アーカーシャの専属員として有名だったセンチネルも、アーカーシャから離れてしまったからな。今から戦力になるチームを選ぶにしても……」

 

 

 ラブピース討伐に参加した冒険者チームはイリュージョニストやネオトレジャー、フェアリーブーストになっている。他のチームは全く参加していないのだ。今から新たにチームを招集するのは難しかったが……」

 

「へいへい、俺達のことを忘れていないか?」

 

「ふふ、確かにそうだな」

 

「ふぉふぉふぉ、若い者達だけで行うのは微笑ましいがの。偶には頼ってもらっていいんじゃよ?」

 

 

 そんな場面で現れたのは……Sランク冒険者のブラッドインパルスの面々だった。

 

「じ、ジラークさん達……どうしてここに?」

 

「なに、偶然ではあるが、お前達の話を耳にしたからな。リッカ達は春人に会いに行くのか? センチネルの二人と同じだな。彼らも俺に挨拶をして行ったが」

 

 

 センチネルの二人……アルマークとイオの二人は一足早くアーカーシャから出ていた。他の専属員を信頼しての行動ではあるが、もしも、何か不足の事態が起こった時の事を考えてジラークには挨拶をしていたのだ。

 

 

「レベル75のモルドレッド達では処理しきれない事態……そういうことを想定して、俺に挨拶をして行ったわけだがな」

 

 センチネルの二人もジラーク達の実力を信頼していたことになる。しかしそれは、ブラッドインパルスに責任が集中することでもあった。先のラブピースの騒動といい、彼らが関与出来ない事態はどうしても起こり得る。

 

「ネオトレジャーの面子もしばらくアーカーシャを離れるとすれば……なかなか、俺達の存在が重要になってしまうな」

 

「それは……」

 

 リッカ達からすれば、Sランク冒険者の彼らに評価されるのは嬉しいことだった。でも、それだけに申し訳ないと思うことも出て来てしまう。

 

「リッカを初め、お前達は事実上は他のAランク冒険者よりも強いからな」

 

 

 ジラークの言葉は事実であった。ネオトレジャーの面子はSランク冒険者を除けば最強格と言える実力に達している。

 

「それはとても嬉しいことですが、私達も常にアーカーシャの近くには居れませんので……」

 

「確かにその通りだな、ミーティア。だから、春人に会うというのはお前達の経験になると思う。是非、行って来てくれ」

 

「ジラークさんに言われると自信に繋がるわ。これで、心置きなく春人に会いに行けるわね!」

 

 

 ジラークに認められたからか、リッカも満足しているようだった。若い冒険者はジラークが初恋になることが多い。リッカの場合は尊敬の対象というだけで、初恋自体は会ったこともない春人になるわけだが。例え恋にならなくともジラークは尊敬の対象になることが大半なのだ。それだけ大人の魅力を持っているということだろうか。

 

「ま、会いに行けばいいんじゃねぇの? 春人のモテっぷりを見て絶望するのも経験だろ」

 

「……」

 

 少しだけ不機嫌になるリッカだった。悟から言われたので余計にだ。

 

「まあ、リッカも落ち着いて。モルドレッドにブラッドインパルスの方々が居てくれれば、アーカーシャは大丈夫そうなんだし。ラブピースも崩壊するだろうから余計に安心ね」

 

「まあ、これで心置きなく行けるってわけよね」

 

 

 誘拐事件のアジトを陥落させたのだから、これ以上、ラブピースを維持することは出来ないはずだ。ブラッドインパルスが跡継ぎをしてくれるのであれば猶更だ。

 

 

「春人の奴は……全く羨ましいよな。ただでさえ、アメリアちゃんにイングウェイ姉妹と旅に出ているんだぜ?」

 

「確かにな。偶然だろうが、ハーレム状態になっているな」

 

「それに加えてセンチネルのイオちゃんにリッカちゃん、ミーティアちゃん、ナーベルちゃんだろ? 周りが女ばっかりじゃねぇか」

 

「まあ、アルマークもいるがあいつはイオと繋がっているしな。ふむ、なかなか面白そうだ」

 

 

 ジラークも思わず舌を巻くほどであった。普通の男からすれば小石を連続で投げたい気分になるだろう。それくらい羨ましい状況だと言える。

 

「ったく、春人の奴……昔とは全然違うじゃねぇかよ」

 

「そんなに昔とは違うのか?」

 

「ええ、まあ。苛め……じゃなかった。大人しい奴でしたからね、以前は」

 

 

 悟は呆れながらも苛められていたという発言は止めておいた。彼なりの優しさと言えるのかもしれない。発言したところで誰も信じないというのも含まれてはいるが。

 

「大人しい奴ね……今でも性格的には大人しいみたいだが、かなりの戦闘狂らしいとも言われているな。案外、二重人格かもしれんぞ」

 

「はは、どうですかね」

 

 普段の態度と戦闘面での態度では全く違うという意味では正しいのだろう。悟も春人の通常状態は何度も見ているのでそれは分かっている。

 

 彼の現状は元々がリア充である悟からしても羨ましい状況だった。彼が最終的に誰を選ぶのか……とても重要な気がしている。場合によっては血みどろの争いになるかもしれないからだ。

 

 

 その後、程なくしてネオトレジャーの面子は北に向かい旅立って行った。タナトスレーグもそれに付いて行っている。春人を中心として実力者たちが集まっているのである。

 

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