最強冒険者コンビの大活劇~パートナー居るのに協力する必要が生まれない~ 作:イリーム
「行くぞっ!」
勝機を見出したのはルインスキーの方だった。素手での戦いであれば自分に分があるとの判断だ。連続で拳をぶつけていく。
「くっ、鋭い……!」
「ふん、この程度か!」
やや春人からは自信のない言葉が出て来た。その言葉を聞いてさらにルインスキーは攻勢に転ずる。
「高宮春人は防戦一方ですね」
「まあ、本気の死闘ならともかく素手での戦いでハーミットに勝てるわけないさ」
「彼は試合巧者だからな」
ニナ、カヤック、マジニの3人もルインスキーの勝ちを疑っていなかった。高宮春人の実力は相当なものだとは思っている。それでもルインスキーが勝つと思っているのだ。特に武器を捨てた戦いであった為に余計にそう確信させていた。その判断は正しいのか、春人は防戦一方になっている。たまに攻撃を繰り出すこともあるが、強力無比の剣撃とは違い明らかに威力が足りていない。いや、威力は十分かもしれないがルインスキーには届かないのだ。簡単にいなされてしまっていた。
「どうした!? 高宮春人!」
春人の攻撃をいなしてはすの隙に素早い打撃をお見舞いするルインスキーだった。攻撃をいなされて反撃されるので、上手く防御もできていないのだ。春人としても苦い表情を見せている。
(この戦い……あの時のことを思い出すな)
春人が思い出しているのはトネ共和国の暗殺者ギルドのボスである、クライブとの戦いであった。あの時は彼がハイパーチャージを使ったから驚かされたが、2倍になっても春人の圧勝で終わっている。しかし、素手での戦いが慣れていなかったのは、あの時から共通であった。
しかも、今回の相手は……。
「はあっ!」
「うっ!」
カミソリかと思わせるような切れ味の鋭い蹴りが飛んできた。春人は避けるが、後ろの木は真っ二つにされてしまっていた。春人としても本当にカミソリを彷彿とさせる蹴りに驚かされている。
(強い……流石はSランク冒険者だ。クライブさんよりも強い……)
ハイパーチャージを使ったクライブよりも上だと春人は認識していた。先ほどの木をなぎ倒す蹴りの衝撃波といい、常人離れが過ぎているのだから。素手でも余裕で人間を殺すことが可能な殺傷能力だった。
このように圧倒的に春人は不利な立場となっていた。素手での戦いを申し込んだがゆえの不利と言えるのだが。言い換えればボクサーと素人格闘家のような違いがあるのは間違いない。
「ちっ……!」
しかし、ルインスキーの表情にも焦りが見えていた。圧倒的に有利な立場で戦いを行えている彼ではあるが、先ほどから何かを悟ったのか、表情が曇っている。
「ハーミット・ルインスキーだっけ? あの男、ちょっと焦り始めてない?」
「そのようだな。ようやく気付き始めたのかもしれん。違和感……これに気付けるのは流石と言うべきか」
アメリアとミルドレアは冷静に話をしていた。二人とも、春人が敗れるとは考えていないようだ。先ほどの劣勢を見ても意見に変わりはない。
「ハーミット、大分焦っている……どういうこと?」
「わからんが、あいつなりの違和感を感じているのではないか?」
「私もそう思うが……どういうことだ?」
ニナ、カヤック、マジニの3人はどうやら分かっていないようだった。ただ、ルインスキーの変化に気付いているといった印象だ。この段階でルインスキー以外のレヴァントソードの面子の実力が分かるものとなっていた。春人とルインスキーの素手勝負について来ることはできないレベルだということだ。
「ミルドレア、あっちに居るレヴァントソードの面子だけど……どうやら驚いているみたいね」
「そのようだな。ルインスキー以外の面子はレベルはそこまで高くはないようだ。それでもSランク相当ではあるだろうがな」
ルインスキーの焦りに驚いている3人だった。ミルドレアはそのことを看破し、彼らのおおよその強さを算出する。自分やアメリアよりは下と判断したのだ。
「……ふう、どうしたんですか? 動きが止まりましたよ?」
「……」
突然、攻撃の手を止めたルインスキーに春人は不可解な表情を見せた。新しい攻撃を仕掛けて来るのかもしれないと思い、ガードだけは崩していない。ちなみにサキアのガードは一時的に解除している。
「お前……ダメージを受けていないな? どうやら近くに側近の影みたいなのがいるようだが……」
「サキアを看破した……? ルインスキーさんは……」
「なかなか手練れかもしれません。この男」
影状態のサキアが言った。しかし、その口調は特に驚いているという風ではない。春人の半分のレベルの彼女でも負けないことを意味していた。
「どうなっている。その影が援護しているというわけじゃないみたいだ……なのにどうしてお前は攻撃を喰らわない?」
「簡単な話です。あなたの攻撃ではマスターの防御を貫通できないだけのこと。それだけレベル差があるということでしょう」
サキアは影状態を解除して人間の姿を現した。ルインスキーに挑戦的な言葉を投げかける。
「モンスターか、てめぇは……?」
「その通りです。名前はサキア。マスターの下僕になります。以後、お見知りおきを。あなたの実力を見ていましたが、マスターの半分のレベルである私よりも弱いかと思われます。どれだけマスターと実力が離れているかはこれでお分かりでしょう」
「そんな馬鹿な……いや、だが先ほどまでの攻防の結果を考えれば正しいのか……」
ルインスキーは拳を握りしめ、歯を食いしばっていた。叩きつけられた現実を受け入れられないようだ。相当に悔しいのだろうか。
しかし、このまま戦っていてもいつかはルインスキーが負ける勝負ということになる。攻撃の頻度が大きい分、体力を消耗するからだ。春人は防御だけしていればいいので、それほど体力が削られない。そして、改めて感じる春人の闘気の強さ……ルインスキーは生唾を呑み込んだ。
「くそっ……やめだ……!」
攻撃態勢を解除しルインスキーは言った。その言葉で戦いは決着したのだ。春人としては学ぶ部分の大きい戦いであったが、結果的には勝利を収めた形だ。