最強冒険者コンビの大活劇~パートナー居るのに協力する必要が生まれない~ 作:イリーム
「さて……どのように分断させるか、だが……任せても大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫だと思いますわ」
ミルドレアからの質問にレナは余裕をもって答えていた。分断というのは闇の軍勢とその頭目を分けさせることを意味していたのだが……レナ、ルナには作戦があるようだ。
「ルナ、やりますわよ」
「わかってる、レナ」
ミルドレア、リッカの二人から横方向へ距離を取る二人。ある程度の距離を話してから敵の方を観察してみた。まだ動く気配はない。こちらの出方を伺っているのか、どのように戦うかを決めている途中なのか。それなら丁度いいとばかりに、先手を撃ったのはこちら側だった。
「ダブル召喚……!」
静かに、そして力強く放たれた言葉は強力な光を生み出した。レナ、ルナの切り札であるタナトスが生み出されたのだった。巨大な鎌を持ったドクロの怪物が姿を現す。
「おいおい、ありゃあなんてモンスターだ? 見たことねぇな」
「……あのモンスターの相手は私達がしましょう」
タナトスの相手に名乗りを挙げたのはランファーリだった。近くをうろついている蒼い獣と一緒に戦うようだ。
「レオタイガー、久しぶりに強敵かもしれませんよ」
「グオオ……」
レオタイガーと呼ばれた蒼い獣は、ランファーリの言葉に呼応するかのような態度を見せていた。軽く唸っているのだ。
「大丈夫なんだろうな? ランファーリ。負けましたじゃ話にならないぜ?」
「行けるのかい?」
「闇の軍勢の指揮も私が執りましょう。グロウとアインザーも足元をすくわれないようにしてください」
レナとルナの二人はどんどん離れて行っている。それを追うかのようにランファーリも距離を取り始めた。同時に3000体近い闇の軍勢も動き出す。分断は成功したと言えるだろうか……闇の軍勢を指定ポイントまでおびき出すことが目的なわけだ。
タナトスを召喚したのは、レナとルナの二人が最も危険であることを認識させる為だった。最も危険なところに闇の軍勢は向かうだろうという予想だったのだ。
「君の相手は僕だ。あの時の雪辱を晴らさせてもらおうか」
「アインザー・レートルだったわね……」
リッカを前線に立たせていたのにも理由があった。アインザーが名乗りをあげてくるという予想だったわけだ。グロウの方はミルドレアに視線を合わせている。
「お前は確かアルトクリファ神聖国のミルドレア神官長だな? なかなかの大物が釣れたわけだな」
「大物が釣れただと? 随分と余裕じゃないか。その余裕が命取りにならなければいいがな」
「ふん」
グロウとミルドレアという対峙になった。これも予想の範囲内だった。すぐに戦闘は開始されることになるのだが……。
「私はここで離れさせてもらうわ」
「ああ、ご苦労だったな。後方で待機していてくれ」
リッカはあくまでも囮だった。アインザーを前に出させるためだけの存在だ。彼女の実力では勝てないことが分かっていた為に、無理に戦わせることはしなかった。しかし……予想外のことがここで起こってしまう。
「うっ、身体が……! これってまさか……!!」
「どうした……?」
このタイミングでリッカの身体は動かなくなってしまった。正確には別の人格に操られているといった方が正しいが。この場で起きるのは想定外のことだった。
「あなたは何をしているんですか? こんな場所に来ているとは……困ったものです」
「私の中で勝手にしゃべらないでくれる!? あんたは誰なのよ……!」
「私はランファーリと言います」
「ランファーリって……さっき、そんな名前の奴がいたじゃない……! あれとはどういう関係なの?」
「それを教える意味はありません。あなたはこの場から去ればいいのです。今はそれで許してあげましょう」
「ふざけないでよ……!」
リッカは心の中で聞こえる声と対決している様子だった。もちろん、周りでは何が起こっているのかわからないでいたが。かなり不気味な光景と言える。
「何が起こっているのか分からないが、まあいい。隙だらけだ、死ねよ」
先制攻撃を開始したのはグロウだった。得意の土属性攻撃を仕掛ける。巨大な流砂を生み出し、ミルドレア達に向かって流したのだ。高速の流砂は瞬く間に彼らを呑み込んだ。
「ふはは! まともに食らいやがったぜ! 神官長が聞いてあきれるが足手まといが居ては本来の力を発揮できまい! 終わりだ!」
「あ~あ、あの女は僕の獲物だったのに……」
「こういうのは早いもの勝ちだからな! 残念だったな、アインザー!」
「まあ、どうでもいいけどね」
アインザーも流砂に巻き込まれた二人が助かっているとは考えていなかった。それだけグロウの能力を高く評価しているわけだが……。
「勘違いしているようだが、お前の真の相手はこの私だ」
「……! お前は……!」
アインザーの前に現れたのはタナトスレーグだった。瞬間移動でもしたかのような現れ方にアインザーは汗を流す。気配を辿ることができなかったからだ。
「ふふふ……やはりいたのか。いない方がおかしいとは思っていたけど」
「この前は逃がしたが今回はそうはいかん。確実に仕留めてやろう」
「残念だが、今回はグロウも一緒なんだ。そう上手く行くかな?」
アインザーがそう言うと、グロウはすぐに流砂をタナトスレーグに流し込んだ。高速の流砂はタナトスレーグを包み込む。
「行ける……! 死ね!」
流砂に巻き込まれ隙だらけになったタナトスレーグに向かって、渾身の髪の刃での攻撃をお見舞いした。いつぞやとは違う……全力の髪の刃ということだ。この連続攻撃を捌けるはずはない。アインザーも勝利を確信していた。
「ははは! 意外にも呆気なかったな!」
「そうだね、グロウ。君と共闘できて良かったよ」
「気持ち悪いことを言ってんじゃねぇよ」
賞金首ランキングでは上位に位置するグロウとアインザーの二人……そんな二人が全力を出し共闘したのだ。並みの実力者では確実に命を落としていただろうか。それこそ、レベル80を超えていても助かる術はなかっただろう。普通であれば……。
「そんな攻撃で私を倒せると思っていたのか?」
「なに……!?」
流砂から強引に上がって来るタナトスレーグ。髪の刃による攻撃も効いている素振りを見せていなかった。さらに……。
「なかなか強力な流砂だが、俺のバリアを貫通するまではいかなかったようだな」
「なに……ミルドレアまで……!?」
リッカだけならば命を落としていたであろう攻撃……しかし、彼女はミルドレアのバリアに守られて平気だった。こちらも流砂をかき分けて前に躍り出た。
グロウとアインザーの二人はタナトスレーグとミルドレアに挟撃される形になっていた。リッカはミルドレアの後ろで片膝をついている。
「リッカ……大丈夫か?」
「私って一体……はあ、はあ……」
正気に戻っていたリッカであったが、動揺している様子は隠し切れていなかった。ミルドレアの言葉も届いていないようだ。
「さて……今度はこちらから行かせてもらおうか。足手まといにはなるなよ、人間」
「誰に言っているのかと思えば、俺に言っているわけか」
「その通りだ。足手まといになれば容赦なく殺すぞ?」
「言ってくれる……リッカの仲間だという話は嘘だったのか」
「仲間だと……ふん、冗談にもなっていないわ」
ミルドレアとタナトスレーグの二人は言い争いをしていた。グロウとアインザーを眼中に留めていないと言った印象だ。さきほどの攻撃で相手の実力を測った結果と言えるだろうか。
「今だアインザー! 隙だらけのこいつらに髪の刃を喰らわせてやれ!」
「わかった!」
言い争いを敵の射程内で行っている……そんなものは命知らずの馬鹿がすることだ。死んで悔やむがよいとばかりにアインザーは髪の刃での攻撃を行った。だが、二人とも言い争いをしながらその攻撃を防いだのだ。
「ば、ばかな……こんなことが……!」
「全力の髪の刃だぞ……!?」
攻撃を凌いだが、タナトスレーグもミルドレアもアインザー達に視線を向けた。さきほどよりも怒っている顔立ちで。
「邪魔をするな!」
「お前らは眠っていろ!」
タナトスレーグ、ミルドレアによる強力無比な反撃……二人ともまともに受けてしまった。
「ぎゃああああああああ!」
命こそ捨て去ることはなかったが、骨が砕ける音と共にグロウとアインザーは吹っ飛ばされた。同時にノックアウトされ、勝負ありと言える状況だ。
「私の攻撃に任せていれば良いものを……余計な攻撃が混ざったから死んではいないようだな」
「あいつらは重要な証人だ。簡単に殺すな」
「なんだと? 私に命令するつもりか?」
「リッカの言葉なら従うんだろう? あとで彼女に言わせるさ」
「ぬ……ぬう……」
実際のレベル差で言えばかなり離れている二人ではあるが、言葉での勝負であればミルドレアがやや勝っているようだった。彼らの言い争いはしばらく続いたと言う……。