最強冒険者コンビの大活劇~パートナー居るのに協力する必要が生まれない~   作:イリーム

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22話 アルゼルの動き その2

 

「あの男……!」

 

 春人はアルゼルの姿を目にし、少し頭に血が上ってしまった。どうしても思い出す光景というものがあるのだ。アルゼル自体はなにもしていないが、その傍らのゴイシュが女性に手を出していることは明らかだ。

 

 

「ストップ、春人」

「アメリア?」

 

 向かって行こうとする春人を制止したのはアメリアだ。頭に血が上り出している春人を止めたとも言える。

 

「アルゼル・ミューラーも近くに居るし、私達は行かない方がいいわ」

「でも、俺たちが行かないと……」

 

 春人はそう言いながら、再び女性の方向に目をやった。

 

「ひひひ、まあ話は向こうでゆっくりな?」

「い、いや……!」

「人の宝壊してそりゃねぇよ。けっこう高い代物なんだぜ?」

 

 ゴイシュは宝玉のような物が壊れていることをアピールする。本当に高価な物かも判断させないまま、一般人の女性を連れて行こうとしているのだ。しかも、元々は痴漢を働いたのはゴイシュの方である。

 そんな理不尽な状況でも、周囲の人々はなかなか言い出せないでいた。明らかに怖がっている。ゴイシュはCランク冒険者とはいえ、一般人よりもはるかに強いことは明白だったからだ。

 

「まずいですわね。人ごみのおかげでこちらには気付いていないようですけれど、このままではあの方は酷い目に遭ってしまいますわ」

「だから、俺たちが行けば大丈夫ですよ」

「大丈夫よ、ほら」

 

 アメリアは指を差して春人に声をかけた。その先にはギルドのメンバーが何人かやって来てきていた。

 

「ゴイシュさん、どういうつもりですか?」

「ちっ!」

 

 ギルド本部から出てきたのはBランク冒険者のアルマークである。その隣にはイオの姿もあった。倍ほども歳下の彼らではあるが、ゴイシュの表情は曇っている。

 

「ゴイシュさん、いい加減にしてよね! 全部見てたけど、どう見てもその宝玉大したものじゃないし! 冒険者の面汚し! 痴漢!」

「てめぇ……!」

 

 16歳のイオに叱責され、ゴイシュはかなり怒りを露わにしていた。だが、各上の相手でもある為、武力に訴えることはできないでいた。本日も専属員として働いている彼らは、街の治安を守ることも任務としている。警察的な働きもあるのだ。

 

「ゴイシュ、その辺にしておけ。もう行くぞ」

「アルゼルさん! だが、あの野郎……!」

「放っておけ」

 

 アルゼルの有無を言わせない言葉と目線に、ゴイシュも黙ってしまった。そしてそのまま二人は去って行った。正直、アルゼルに動かれれば、アルマーク達は危険であったのだ。少年少女二人はその場で汗を拭って安心した。

 

「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ、無事でよかったです」

「お怪我はないですか?」

 

 続いてアルマークとイオは解放された女性の気遣いを始めた。それを見た春人は自分よりも歳下ながら、彼らに尊敬の念を浮かべていた。

 

「よかったですわね、あの方も無事みたいですわ」

「ええ、そうですね。アルマークとイオはさすがだな」

「う~ん、アルゼルの奴、やけに簡単に引き下がったわね。こんなところでなにやってんのかしら?」

 

 女性が助かったことに嬉しさを感じながらもアメリアはアルゼルの行動について、不穏ななにかを感じていた。

 

 

 

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「わかっただろ、ギルドの行動は早い。制圧はギルドとその周辺ということになる。そうすれば、アーカーシャの心臓部を抑えたも同然だ」

「そうですね……しかし、あいつら……ぶっ殺してやりてぇ」

 

「目立つ行動は避けろよ。とにかく、お前らは、レジール王国の私設部隊と合流すればいいんだ」

「わかってますよ、私設部隊と協力すれば、あんな奴ら……あのくそ餓鬼の前でイオの野郎を犯してやるのも楽しそうですね~」

 

 少し離れた場所で、ゴイシュは先ほどのアルマークとイオの姿を思い浮かべながら舌なめずりをする。どこまでも底辺の考えを巡らせていた。

 

「それは自由だが、時間の確認は怠るなよ」

「へへへ、わかってますよ」

 

 ゴイシュは近々、訪れるであろう楽しみに心を震わせている。先ほどの一般人の女性を解放してしまったことは既にどうでもよくなっていた。

 

 

 

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 それから、アルゼルはゴイシュと別れ、アーカーシャの裏路地の辺りで待機していた。誰かを待っているようだ。そして、すぐにその人物は現れた。

 

「よう、待ってたぜ」

 

 アルゼルが見据える先、そこには緑の髪をヘアバンドで留めた女性の姿があった。いつもの教会の礼服を着ていないため分かり辛いが、彼女はアルトクリファ神聖国の神官長の1人であるエスメラルダ・オーフェンである。彼女はアルゼルの前まで来ると、葉巻に火をつけた。

 

「依頼の件で来ただけよ」

「わかっている、なにも要求なんてしねぇよ。で、どうなんだ? 引き受けてくれるのか?」

「グリフォンを5体、貸してあげるわ。料金は前払いで100万ゴールド。どうかしら?」

 

 それなりの金額と思える額を申し出るエスメラルダ。しかし、アルゼルはにやりと笑みを浮かべて承諾した。

 

「わかった。ならば、ドルネ金貨1枚でいいな」

「ええ、そうなるわね」

 

 アルゼルは懐から金色に輝く通貨を取り出す。そして、そのまま彼女に手渡した。この1枚で100万ゴールドに相当する。通貨の金貨は3種類あり、それぞれドルネ金貨、ネバータ金貨、トリオス金貨と別れている。それぞれ純度に応じて希少性が変わり、その下に銀貨や銅貨があるのだ。日本で言えば、1万円札の上に10万円札、100万円札が作られているようなものである。

 

「毎度あり。言っておくけど大切に使いなさい」

「くくく、もちろんだ。しかし、レベル90のグリフォンを5体も召喚できるとは。さすがは神聖国最高の召喚士様だな」

 

 アルゼルはそう言いながら、普段着に身を包んでいるエスメラルダの身体を舐めまわすように観察した。神聖国で最も優秀な召喚士の身体を品定めしているようだ。

 

「そんなことはどうでもいいわ。それよりも、このことは他言無用。私もあなたの目的まで問わないわ」

「ああ、全てが終われば俺は神聖国の人間だ。俺の力は役に立つだろう」

 

 無表情のエスメラルダとは違い、アルゼルは不気味に笑っていた。彼の真の目的が垣間見られる瞬間と言えるのかもしれない。

 

「しかし、本当に召喚術は便利だな。術者より高位のモンスターは呼び出せないとはいえ」

「例外もあるけど、基本はその通りね。召喚術は単純に数の暴力で攻めることも可能よ」

 

 モンスターを召喚するということは、それだけ戦闘力がプラスされることを意味する。そう言った意味でも召喚能力は非常に重宝されるのだ。

 

「興味はないけれど、あなたは何がしたいのかしら? 亡命を考えるのであれば、すぐに神聖国を目指せばいいだけ……」

「目くらましは多いに越したことはないからな。万が一のためだよ」

 

 アルゼルは笑いながらも、彼女に真意を伝えることはなかった。

 

 

 

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 それから、約1週間が経過した。春人とアメリアは、警戒をしながらもオルランド遺跡へは何度か向かっていた。

 

「春人、がんばってね~応援しちゃうっ!」

「アメリア……」

 

 アメリアは冗談っぽく投げキッスを仕掛けながら、遺跡の7階層でモンスターと戦う春人を応援していた。

敵はレベル82のマッドゴーレムだ。スライムのような柔らかい身体は、内部の核を破壊しない限り、再生し続ける強敵となっている。さらにゴーレムの割にかなり素早い行動も特徴となっている。

 

「レベル82……かなり高いレベルになってきたかな」

 

 マッドゴーレムの掴むような両腕の攻撃を避けながら、春人はレベル帯について考えていた。レベル80を超えるモンスターも登場し出しているのだ。あまりにも連戦になると、体力は確実に減らされて行くだろう。

 

「春人~~! 余裕見せすぎ! さっさとユニバースソード抜けば~?」

「だったら、手伝ってほしいな……」

 

 春人は闘気を収束させる籠手は装備しているものの、ユニバースソードを抜く気配はない。抜けばすぐに勝負が着いてしまうという確信があるからだ。それよりも、彼は籠手を装備した状態での自分の動きの向上を学習していた。

 

「やっぱり、グリーンドラゴンを倒した時より断然動きが良い。これなら、レベル110のモンスターまでは素手でも行けそうだ」

 

 普段はネガティブに考える傾向のある春人だが、いざ戦闘を行う際は自信家へと変貌する時がある。戦闘が終われば、また元に戻って行くといった感じだ。

 

「ゴアアアアアア……」

 

 避け続ける春人に、マッドゴーレムは痺れを切らしたのか、さらに速度を上げて殴りかかって来た。しかし、それでも春人には届かない。例え、命中したとしても彼の現在の防御を貫通することはできないが。

 

「そろそろ仕留めるか……核の位置は……」

 

 マッドゴーレムとの戦いで自分の強さを測り終えたのか、彼は攻勢に転じた。そして、左腕をマッドゴーレムの胸に突き立てる。

 

「ガオオオオオ……!」

 

 マッドゴーレムは苦しいそうな低いうなり声を上げた。春人は見事に核を取り出しており、すぐさま破壊する。

 マッドゴーレムはその瞬間、身体の形成を維持できなくなり地面に溶けて行くように崩れて行った。大きな結晶石がその場には残され、併せて黒い正方形の箱も出てきた。

 

「ふう」

「お疲れ様、春人」

 

 遺跡の壁にもたれて観戦していたアメリアが春人に近づいてきた。アメリアもただ観戦していたわけではなく、他のモンスターを彼女は蹴散らしてはいたのだ。手には結晶石を大量に抱えている。

 

 

「今日の稼ぎはバッチリね。マッドゴーレムの結晶石だけで5万ゴールドはありそうだし」

 

 春人が手にした結晶石を見ながら、アメリアは独自に鑑定した。基本的にレベルの高いモンスターほど、その結晶石は高価になる。もちろん、残す結晶石にも幅はあるが。

 

「これはなんだろ? 黒いケースみたいだけど……開かないや」

「私も分からないわね。かなりのレアアイテムかもしれないわ、鑑定すればわかるでしょ」

 

 アメリアに促され、一旦そのケースは春人が懐にしまった。

 

「ところで、あれって8階層への階段かな?」

 

 マッドゴーレムと戦ったエリアの先……そこには地下へと続く階段が用意されていた。

 

「そうみたいね。いよいよ、このオルランド遺跡も終わりが見えそう。こんなに早く探索できるのも春人が組んでくれたおかげよ。感謝しかないわ」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

 アメリアの感謝の言葉に春人は頷く。アメリアはオルランド遺跡を彼と攻略しきった際の達成感を早く味わいたいと考えていた。

 

「でも、8階層はさらにレベルは上がるでしょうね。ミルドレアは隠しエリアもあると言っていたし」

「どの程度のモンスターが眠っているのか気になるね」

 

 7階層で最大の敵はレベル82のマッドゴーレム。さらに上の存在が出てくる場合はグリーンドラゴン以上の存在も考えられた。

 

「確か……アルトクリファ神聖国の本に書いてある魔物で、最大の脅威は「鉄巨人」だったはず」

「鉄巨人……?」

 

 アメリアは真剣な眼差しとなっていた。鉄巨人は全身を鎧のようなもので纏ったモンスターであり、巨大な剣を振るう。神聖国で残されている書物の中では最大のレベルを誇り、その数値は400と記されている。

 

「確か、フィアゼスの直属の配下の1体で各地の制圧には鉄巨人は猛威を振るったとか記されていたわ」

「そんな化け物が……? この奥にも、もしかしたら……」

「うん、可能性は否定できないわね」

 

 アメリアと春人は改めて8階層への階段に目を向けた。さきほどの話を聞いた後ではその階段の先が底なし沼のように感じてしまう。果たして戻って来られるのか。

 

「とりあえず探索はここまでにしましょう。戻るのも疲れるし、今日はここで休もうか」

「え……? いや、もうすでに20時間以上潜ってるよ?」

 

 既に彼らは日付が変わるほどの時間を探索している。その間、アーカーシャには戻っていないのだ。

 

「いや、ほら……また泊まると色々と」

「なによ? なんか問題でもあるの?」

 

 アメリアは乗り気ではない春人に口を尖らせて抗議した。泊まりの探索は賢者の森でも経験はしているが、今はアルゼルの問題など色々と立て込んでいる。また、余りにも酒場を空けると不味い状況になりかねないと、春人は感じていた。

 

「問題はないけどさ……」

「春人は私と噂になるのは嫌?」

 

 アメリアの突然の質問。この場所が各遺跡の中でも指折りの危険地帯ということを彼ら二人は忘れているようだ。とても会話の内容が釣り合っていない。

 

「嫌なわけはないけど……」

 

 春人としてもアメリアとは色々と噂が流れていることは知っている。単純にそれは嬉しいと感じる彼であったが、脳裏にはエミルの顔が浮かんでいた。

 

「なら、いいじゃない。ね?」

「う、うん……そうしようか」

「よしよし、決まりね」

「でも、アルゼルの件は大丈夫かな?」

 

 春人は最も心配している目下の最大の脅威についてアメリアに言った。しかし、アメリアの表情は変わらない。

 

 

「そうね、レナ達にも言ってあるし、ブラッドインパルスも今はアーカーシャに居ると思うし。私としては、アルゼルの奴がなにを考えているのかの方が心配だわ。あいつは本当に私設部隊で鎮圧できるなんて考えてるのかしら」

 

 いまいちアルゼルの思考が読めないでいる現状をアメリアは心配していた。なにか別の目的がある……彼女の脳裏にはそういった言葉が駆け巡っている。

 

 アルゼル・ミューラーの件は心配な二人ではあるが、今は疲れを癒す意味も込めて7階層でキャンプを張ることにした。

 

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