最強冒険者コンビの大活劇~パートナー居るのに協力する必要が生まれない~   作:イリーム

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59話 親衛隊 その2

 

「んじゃ、早速始めようぜっ」

 

 指なしグローブ越しに手首をおりながら器用に骨を鳴らすアテナ。準備運動なのだろうか、軽くスクワットも試みていた。意外にも大きな胸が揺れている。

 

「ミル……本気で戦うの?」

「どの道、逃げられる相手でもないだろう。どうやら、あいつは鉄巨人を使うことはないようだ。1対1の勝負で逃げるわけにはいかんな」

 

 アテナは8体の鉄巨人を背後へと立たせ、大刀を高らかに掲げさせた。そして、アテナは前方へと歩み寄り、ミルドレアを見据えた。後ろの非常に強力な戦力はただのパフォーマンス要因になっている。

 

 自らの力の誇示か、アテナの性格がよく分かる演出だと言えるだろう。

 

 

「大したものだな。鉄巨人がただの観客代わりとは……」

「へたに出て来ても足手まといだからな。お前は、鉄巨人の1体は倒せるんだろうな? 本当に頼むぜ」

 

 ミルドレアへのアテナの投げかけ。ミルドレアからすれば、彼女の返答はイエスだ。比較的簡単に1体を葬ったと言えるだろう。だが、目の前の側近はそれが出来ることが最低条件……当然のことかのような口調で話す。

 

「鉄巨人を倒したのは紛れもない事実だが、まさか鉄巨人を相手にそんなことが言えるモンスターが居るとはな」

「私を誰だと思ってんだよ。ま、1発や2発で死ぬなよ? 頼むぜ」

 

 そして、アテナはこれ見よがしに右の拳に力を溜めた。態勢を低くした状態からの突撃。あまりにも隙だらけの直線的な攻撃だ。

 ミルドレアにそんな攻撃は命取りだ。カウンターで確実に合わせられるし、彼が相手でなくてもそれくらいならば容易にできる者は多い。だが、アテナは誰もが予想する攻撃を、あまりにも予想通りの突進でミルドレアに向かって行った。

 

 あまりにも予想通り……のはずの攻撃だが、不思議と付け入る隙がない……カウンターを合わせようものなら、アテナの拳で木端微塵にされかねない程の気配が漂っていた。

 

 ミルドレアは瞬時にバリアを展開し、防御に全神経を集中させた。鉄巨人でも、突破までに30秒という戦闘に於いてはあまりに命取りの時間を要した代物だ。そのバリアにアテナの右拳が接触する。

 

「……なにっ?」

 

 ガラスのような割れた音……ミルドレアの耳には確かに、ガラスの瓶を地面に落としたような音が聞こえていた。アテナの右拳がバリアを一撃の下に粉砕したのだ。アテナの初撃はそこで勢いが停止する。だが、続けて二撃目が繰り出された。

 

「やっぱりこの程度か……まあ、期待はしてなかったけどな」

 

 そのまま、アテナは攻撃を止めることはなく、拳を振り抜いた。直撃を受ければ命さえ危うかった攻撃……だが、彼女のその一撃は空を切り、ミルドレアは眼前から姿を消していた。

 

 

「へえ、瞬間移動か? 随分と高レベルなことできるじゃねぇか」

 

 アテナの鋭い獣のような眼は、瞬間移動したミルドレアを目で追っていた。決して場所は看破することはできないはずの光速以上の移動……。ミルドレアは汗を流していた。

 

「どういうからくりだ? テレポートを看破するとは……いや、それよりも一撃で俺のバリアを貫通することの方が問題か……」

 

 ミルドレアは冷静に物事の整理をしているが、内心は穏やかではない。今まで全てのモンスターに対して展開してきた己のバリア。そのバリアを一撃で粉砕し、即刻自らの真の戦闘スタイルへと移行させた存在が目の前に居るのだ。

 

 圧倒的なアテナという側近の存在……ミルドレアとはいえ、加減をすればたちまち瞬殺されかねない。彼は全力でアテナを葬る覚悟を決めた。

 

 

「お前は危険すぎる。ここで確実に始末する」

「私に対して随分な言葉遣いだな。現代の人間は相当に身の程知らずってことかよ」

 

 お互い、再び目線が交差した。ミルドレアは手元に氷の槍を作り出し、アテナは右拳に再び力を灯す。二人の戦いは、まだ始まったばかりだ。

 

「……ミル……」

 

 隠しエリアの傍らでは、エスメラルダが固唾を呑んで見守っている。彼女にできることは、ひたすらミルドレアを信じるのみだった。

 

 

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 時を同じくして、アクアエルス遺跡……

 遺跡の4階層の隠し扉は開かれ、「シンドローム」のメンバーが中へと入っていた。荘厳な壁画等に覆われ、明らかに内装の違う遺跡として有名ではあったが、最後の隠しエリアはオルランド遺跡のそれと酷似していた。

 

 赤いカーペットが中央に敷かれ、それは隠しエリアの中央から伸びる階段まで続いている。そして、階段の奥にはオルランド遺跡と同じく荘厳な棺がセットされていたのだ。

 

「これはどういうことかしら? 今までとは明らかに様子が違うわね」

「……確かに」

 

 先行しては言っているのはアンジーとジャミルの二人。周囲には4体のアンデッド化したキマイラを連れている。だが、先ほどからキマイラ達は脅えている様子だ。棺の方をしきりに見ている。

 

「へいへい、キマイラ共の様子がおかしいな! アンデッド化してんのによ」

「それに~~。周囲も~~おかしい~~~~」

 

 後から入って来たオルガとメドゥ。中の雰囲気の異様さにはエースの彼らも警戒を露わにしていた。

 

「……なんだ?」

 

 そして、そんな異様な周囲から忍び寄るモンスターの影。先ほどまで何も居なかったはずだが、青い巨体が2つ姿を現した。棍棒を携えた1つ目の巨人だ。

 

「これは……サイクロプスか? メドゥ、レベルはどのくらいかわかるかい?」

 

 ジャミルはすぐにサイクロプスの存在に気付き、メドゥに声をかけた。間髪入れずに彼女も声をあげる。

 

「……レベルは380くらい~~」

「……380? 強いな……そんな者が2体……ぬっ!?」

 

 ジャミルはメドゥの言葉を聞いて多少驚きを見せた。しかし、その表情はまだ余裕があったと言えるだろう。問題はその直後に起きた。

 

 彼らの前方に位置する荘厳な棺の前……その両脇にもいつの間にか二つの影が生まれていたのだ。1つは漆黒の体毛に覆われた、巨人よりもやや小柄な狼の姿。

 

赤く鋭い目からは敵意の視線が降り注いでいる。そしてその隣には、白銀の体毛に覆われた美しい狼の姿があった。こちらは比較的穏やかな表情で座り込んでいる。

 

「あれは……なんだ?」

 

 ジャミルは2体の狼の姿を捉えた瞬間、戦慄を覚えた。明らかにジャミル達の近くに居るサイクロプスとは異質な気配を感じたからだ。より高レベルの親衛隊のメンバー。彼の脳裏にはそれがよぎった。

 

「おいおいおい、なんだありゃ? 狼だよな? メドゥ!」

 

 ジャミルよりも先にメドゥに話しかけたのはオルガだ。既に顔中に汗を流している。メドゥも狼の姿を見てからは様子がおかしい。

 

「レベルは……500? 600? ……違う……もっとある……」

「なんだと……?」

 

 メドゥも驚きの表情は隠せず、狼たちを見据えている。2体それぞれが非常に高レベルだった為だ。

 

 予想外の能力の高さにジャミル達は即座に最大限の警戒態勢を取った。自らが操るレベル137のキマイラ4体を一瞬の内に蹴散らしたフォーメーションでもある。

 

 だが、サイクロプスや狼たちはすぐに攻撃を仕掛けてくる様子を見せない。それどころか、全員棺の方向に目をやっていた。そして、棺はすぐに開かれ、中からは眠たそうな表情をした獣耳を有する少女が出てきたのだ。

 

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