最強冒険者コンビの大活劇~パートナー居るのに協力する必要が生まれない~   作:イリーム

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65話 天音 美由紀 その2

 

「おいおい、お前が遠征に出たらアーカーシャはどうなるんだ?」

 

 バーモンドの酒場にて言い争いをしている二人の若い男。実際は言い争いというほど切迫したものではないが、片方は春人、もう片方は悟だ。周囲の冒険者からすれば実力差があまりにも違う二人の言い争いは面白く見えていた。

 

「非常に情けないことだとは「フェアリーブースト」としても自覚はしているが……あんたらなしでは、この街を守りきれないのは事実だ。アルマークとイオ……彼らの台頭にはもう少し時間がかかるだろうしな」

 

 悟とは別に、やや恐縮した態度で春人に話しかけるのは「フェアリーブースト」のリーダーであるヘルグだ。現在は寄宿舎の長も務めている人物である。

 

「ええ……それは、理解してるんですが」

「春人、お前は金か? 金が目的なのか? 正直大量に稼いでるだろ?」

「いや……依頼を受ける以上、お金が目的と言われても仕方ないけど」

 

 悟はリザード討伐に出向く春人達をなんとか止めようと必死だった。原因はこの前の鉄巨人の襲撃が大きく絡んでいる。悟としても、春人を止めなければならないことは情けなさを感じつつも、理屈ではないのだ。実力差、この街を守れる力は一朝一夕では育たず、自分達では不十分なのだから。

 

「金なら、適当に探索するだけで数万ゴールドは余裕なんだろ? 俺なんて、月1万ゴールドの支払いもカツカツなんだぞ?」

 

 この前、1万ゴールドの支払いを済ませたばかりの悟。当然彼のレベルでは支払うことができなかったので、「フェアリーブースト」のチームとして合同で支払った。来月からは自らで必ず支払うという思いを募らせていた。

 

「いや……お金は確かに余裕はあるけど……」

「てめっ! 自慢か、自慢のつもりか!?」

「ははは、なんだか悟、随分と性格変わったね」

 

 心の底から彼を賞賛する意味合いで春人は語った。春人の柔らかい笑顔に悟も力を抜く。

 

「まだ1か月も経過してないのにな……お前や、他の苛めてた連中にも土下座したい気分でいっぱいなんだ……自らがやられる立場になって初めてわかる……俺はゴイシュの野郎と同じことをお前にしてたんだよな」

 

 悟の瞳はもはや以前の彼とは違う。「フェアリーブースト」と寄宿舎での経験が彼に与えた影響は大きかった。悟は別人のように丸くなっていたのだ。いくつか命の危険を乗り越えたということも大きいだろう。

 

 そんな彼の嘘偽りない表情と言葉に、春人も心から喜んでいた。

 

「悟……まあ、俺も暗かったし。原因は俺にもあったよ」

「春人、お前……すまねぇ」

 

 傍らで見守るヘルグは二人の友情が育まれていることに嬉しさを感じているのか、その表情は穏やかだった。

 

「でもよ……さすがに、お前の状況は容認できないぜ?」

「えっ?」

 

 春人は悟の表情が一変したことを見逃さなかった。悟は涙目になりながら、精力的に働いているエミルの方向に目をやる。

 

 春人と悟の話を意識しながらも手を休める様子を見せないエミル。偶に春人と目が合うと、照れながらも頭を下げていた。

 

「お前、エミルちゃんと付き合ってるんだよな?」

 

 目から血を流しそうな勢いで春人に迫る悟。もちろん、噂では付き合っているわけではないことは知っていたが、敢えて確認しているのだ。

 

「い、いや……付き合ってるのかな? そう言われるのは嬉しいんだけどさ……」

 

 春人は小指のアメリアとのペアリングを見ながら、回答に戸惑っていた。そんな態度に悟の中の怒気は増していた。

 

「て、てめぇ……! アメリアとも怪しい仲だと聞いてるぞ! 二股か、二股なのか!?

羨ましい! 俺だってやったことないのに!」

「……悟、本音が出てるよ……」

「非常に不愉快です。マスターに最も近いのはこの私。この生物にそれをわからせましょう」

 

 虫けらを見るような目つきで影状態から人間形態に変わったのはサキアだ。春人の恋愛事情に、自分が含まれていないことに不満が募っているようだった。頬を膨らませてあからさまに春人に言った。

 

「サキア……あはははは、今日は良い天気だよな~」

「マスター……ごまかしても駄目ですよ」

「そうだぜ、春人? お前は誰が本命なんだ?」

「ほ、本命って……! そ、それは……」

 

 悟とサキアに言い寄られ、思わず顔を赤くして視線を逸らしてしまう春人。本命など、自分が口にしていい内容ではないと思っているのか、春人としても非常に答えにくい状態になっていた。この時、働いているエミルは恐ろしく真剣な表情で聞き耳を立てており、2階に居たアメリアも同じく真剣に聞き耳を立てていた。春人の口から誰の言葉が出てくるのか、アメリアとエミルは緊張しながら待っていたのだ。

 

 だが、彼の脳裏に焼き付いていた人物……春人自身にも意外な人物が思い浮かんでいた。それは、二度と会えるはずのない者……クラスの委員長として慕われていた相手。

 

 苛められていた春人にも優しく接してくれた人物。そんな彼女を春人は尊敬し、好意を寄せていた……彼女の名前は天音 美由紀……。

 

 

「おかしいな……なんで今になって鮮明に……?」

「どうした、春人?」

 

 春人は少し涙を浮かべていた。そんな彼に、悟も不審に思って尋ねる。二度と会えるわけがない……悟のような奇跡は決して重なるはずもなく……しかし、会えるものならもう一度会いたいと切に願っていた……。急遽転生された春人にとって、唯一の心残りと言える相手でもあったのだ。

 

「おい、大変だぞ! 「シンドローム」のメンバーが瀕死で運ばれてきた!」

 

 そんな時、バーモンドの酒場に響く怒号。すぐ外から聞こえてきた言葉だが、春人やアメリアにも鮮明に聞こえた。「シンドローム」が瀕死? 確かに数日姿を見せていなかったのは事実……だが、彼らほどの実力者が瀕死とは、少し信じがたい事態だ。

 

「春人っ!」

「ああ、すぐに行こう、アメリア!」

「了解、そうこなくっちゃね!」

 

 2階で聞き耳を立てていたアメリアもすぐに1階へと降りてくる。異常事態を感じ取った二人は、悟を置いてすぐに酒場の外へと走り出した。

 

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