最強冒険者コンビの大活劇~パートナー居るのに協力する必要が生まれない~   作:イリーム

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94話 レベル99の魔物 その2

 

 人間には火事場の馬鹿力という能力が備わっている。一般的にはどんな人間にもあるもので、その瞬間は本来の力以上のものを行使できるというものだ。

 

 ある意味ではリッカの変貌はそれに該当するのかもしれない……いや、彼女の「変化」は火事場の馬鹿力という言葉程度では言い表せないものであった。明らかに別の「何か」だ。

 

「な……なにが、起きている?」

「リッカ……?」

 

 同じチームメイトであるナーベルとミーティアも初めて見るといった表情になっていた。赤い瞳は同行を収縮させており、感情を伴っていない。そして、なによりも異常なほどに強力な闘気を展開させている。リッカは別人になったかのような雰囲気を持ち合わせていた。

 

 瞳は赤く虚ろ……まるで意志を持っていないかのような佇まいだ。武器を破壊され驚いているミノタウロスではあるが、すぐさま態勢を立て直し、今度は素手でリッカに向かって来た。戦闘能力は落ちたとはいえ、レベル45のリッカでは到底敵う相手ではないが……

 

「グアッ!!」

 

 リッカの髪の刃の一撃は、先ほどまでとは比較にならないほどレベルアップをしていた。ミノタウロスの両腕を一瞬で切り飛ばしたかと思うと同時、首も視認できない速度で切り落としていた。

 

 当然、ミノタウロスは絶命し二度と起き上がることはなかった。ミノタウロスの死を確認……その周囲にも強力なモンスターが居ないことを確認した時点で、リッカの闘気は消えて行った。

 

「……誰なの、あんた……」

 

 リッカは周囲に気付かれない程の小声でそう言った。なにかに戸惑っているようだ。

 

 彼女の変貌ぶり、そしてその戦闘能力を見た他の者たちは、リッカに声を掛け辛い状況となっていた。彼女から放たれる闘気も消え去ったことを確認してから、ナーベルが恐る恐る声を出す。

 

「助かったよ、リッカ。お前に命を助けてもらうのは何度目かな。情けない限りだ」

「気にしないでよ、ナーベル。仲間じゃない」

 

 ナーベルの声に気付いたリッカはいつもの調子に戻っていた。虚ろな瞳も消えている。

 

「あんな能力を持っていたなんてな……。あれが、リッカの全力か?」

 

 ナーベルは初めて見た彼女の能力に対して質問をした。さすがに素通りするわけにも行かないと踏んだのだ。レベル換算にすれば、どれほどの数値になるか見当もつかない。100を楽に超えることだけは確実だが。

 

「……まあね、そんなところ。私ってピンチになると強くなるからさ~、安心してよねっ!」

 

 ナーベルの質問に対し、リッカは戸惑った表情で返した。声質こそ、今までの元気なものだったが、表情は多少曇っていたのだ。

 

「まあいいわ。とにかく助かったわ、リッカ。あなたが居なければ、私達もどうなっていたかわからないしね」

「ミーティア……うん」

 

 ナーベルだけでなく、ミーティアもリッカの表情の変化には気づいていた。彼女の様子から、二人はそれ以上の言及をしなかった。困らせると感じたからだ。リッカはミノタウロスを葬り、自分たちを救ってくれた。今はそれだけわかれば十分だ。

 

リッカ自身もそれに気付き、二人には感謝していた。

 

「あんたらには、世話になった」

 

 一通り、彼女たちの会話を聞いていたヘルグが前に現れた。恐縮した表情をしている。

 

「あんたはヘルグ……だっけ? 見た目はそこらのゴロツキみたいな感じだけど、さすがにリーダーだけあるじゃん。特別に無料にしといたげる、感謝しなさいよね」

 

 リッカなりの冗談なのだろうか。彼女はヘルグに対してそう言った。ヘルグは自らの実力が分かっているからか、特に不快な表情はしていない。丸いサングラスを付けた彼は見た目は完全にチンピラの風貌だったが、対応は大人だ。

 

 リッカとしてはそこまで馬鹿にしたわけではない。それはヘルグにも伝わっていた。あくまでも現在のランク間の差を言葉に表しただけだ。しかし、悟には通用しなかった。

 

「俺達のリーダーを馬鹿にするなんていい度胸だな、お前は。人外な能力使ってる分際で。レベルいくつだよ、今の?」

「はあ? なにあんた、命助かったくせにその態度は……」

 

 さすがのリッカも頭に来たのか、表情を一変させた。先ほどの人外レベルの能力を悟は仕返しとばかりに馬鹿にしているのだ。ヘルグを低く見られた仕返しということなのだろう。リッカも非常に高い能力を発揮した為に、そのことに関しての言葉には敏感になっているのだ。

 

 彼女は一体どういう存在なのか……ナーベルやミーティアの心の中にもその思いは少なからず存在していた。

 

「あんた、一度ぶっ飛ばされたほうが良さそうね」

「………」

 

 悟も煽りすぎたことを自覚したのか腰が引けていた。彼の態度は命を助けてもらった相手にする態度ではない。ヘルグやラムネは一触即発の雰囲気を感じ取ったのか、リッカを宥め始めた。

 

「待ってくれ。悪かった、リーダーとして俺が代わりに謝る」

「ごめんなさい、リッカ。助けてもらったのに」

「……あんた達の態度に免じて、今回だけは許してあげる」

 

 ヘルグとラムネの素直な謝罪に心を動かされたのか、リッカは構えていた髪の刃を下げた。さすがに刃状で攻撃する気はなかったが、ハンマー上で軽く悟を小突く算段だったのだ。

 

 

「しかし、ミノタウロスに遭遇するなんてな。出会う確率なんざ、1パーセント程度だろうに、運命ってのは厳しいもんだぜ」

 

 話が一応落ち着いたことを見越したのか、レンガートが口を開いた。彼が言った確率は適当なものだが、自然発生のミノタウロスに遭遇する確率は決して高くはない。

 

 リッカが居なければ、ほぼ確実に全滅していたことからも、彼らは命拾いしたのだ。しかし、そこまで含めて運命と言えるのかもしれない。そうなると彼らはこんなところで死ぬ運命ではなかったことになるわけだ。

 

 どこまでが必然で、どこまでが偶然なのか……それは誰にも予測はできない。

 

 

「さて、とにかく窮地は脱したわけだが……また、強敵が現れるかもしれない。一旦、引いた方が良さそうだな」

「そうね、あなた達も帰った方がいいと思うわよ。そろそろ、体力の限界でしょ?」

 

 ナーベルとミーティアはそれぞれ、フェアリーブーストにも忠告をする。ヘルグ達の体力は確かに限界に近づいていた。これ以上の探索は危険すぎる状況だ。ネオトレジャーの3人はそれだけ言うと、遺跡を出るべく足早に去って行った。

 

「今日は確かに限界に到達してるぜ。帰るとするか」

「そうだな」

「賛成よ」

「……くそっ、見てろよ……!」

 

 フェアリーブーストの面々も体力の限界を感じ、アーカーシャに戻る考えだ。悟も同じ考えではあったが、彼は去っていくリッカに対して、憎しみとも思える感情を露わにしていた。

 

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