最強冒険者コンビの大活劇~パートナー居るのに協力する必要が生まれない~   作:イリーム

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98話 マシュマト王国 その4

 

 マシュマト王国の首都アルフリーズ。冒険者組合の中心の建物は荘厳な様式を呈している。

 

 ギルドマスター……アルフリーズの冒険者組合の長であり、住民や冒険者たちの推薦で選ばれる。一般人という扱いではあるが、実際は国王との謁見も可能なほどの権力を有している。史上最高額とも噂されている国家任務も国王からギルドマスターに託されていた。

 

 

「あ~、くそう。闇の軍勢、どうすんの?」

「ザックさん。行儀悪いですよ」

 

 

 ギルドマスターこと、ザック・ボンバーディア。年齢は39歳を迎える既婚者だ。冒険者の心得もあり、Sランククラスの実力を誇っている。彼を叱責した人物は書記長のネラ・オルカスト 32歳。

 

 眼鏡をかけた秀才といった印象のある女性であり、黒いカーディガンのような物を身に着け、ロングスカートを穿いている。美人ではあったが、堅い印象の受ける人物であった。

 

「まったく……なんでザックさんがギルドマスターなのか、未だに不思議ですよ」

「まま、ネラちゃん。そう言わずに。俺も妻さんを養わないといけないんだからさ」

「なら、ちゃんと仕事してください。高給取りが怠けてたら話にならないじゃないですか」

「へいへい。しかし……闇の軍勢ね……」

 

 いつもの軽い会話を挟む二人。彼らにとっては日常の光景であったのだ。そして、一通り終わってからザックが真剣な表情を見せるのもいつも通りだ。彼は自室の机に置いてある書類に目を通した。

 

「依頼を受ける連中は……ソード&メイジ、ビーストテイマー……それからナラクノハナか。おいおい、マシュマトの誇るSランク冒険者はどこ行ったの?」

 

 寝ぐせの直っていない黒髪を掻きながら、ザックは顔をしかめる。さらに、煙草に火を付けていた。

 

「ソード&メイジもビーストテイマーも他国の冒険者じゃねぇか。ったく、俺が冒険者だった頃は、自国のピンチには真っ先に駆け付けたものだけどな」

「もう10年くらい前の話ですよね。Sランク冒険者、ザック・ボンバーディアの活躍も相当に聞きましたよ」

「ネラちゃん、博識だね。お望みとあれば、いつでも聞かせてあげるからね?」

「いえ、結構です。ザックさんの活躍が興味ないわけではないですが、今は遠慮しておきます」

「あらら、残念。でも全く興味ないわけでもなくて安心したよ。で、あいつらはどうしてんの?」

 

 ザックはネラに尋ねた。あいつらというのはアルミラージとレヴァントソードの2組のことだ。

 

「アルミラージのメンバーは分かりませんが、レヴァントソードはグリモワール王国の調査依頼を受ける気らしいですよ」

「グリモワール~? 先日、爆弾投下した危険国家じゃねぇか。なにやってんのよ……もしかして、あの国に協力する気か?」

「それはわかりませんけど。もしも、戦争の際にグリモワールに就かれたらピンチですよね、なんせ……」

 

 ネラは一旦言葉を止めた。そして、少し間を置いて話し出した。

 

「4人とも、ザックさんより強いですし。もちろん、全盛期のザックさんよりも」

 

 ネラの言葉にザックから笑顔が消えた。無精ひげを生やした彼ではあるが、口元は引き締まり、だらしなさを感じさせない表情になっていた。

 

 レヴァントソードのメンバーは全員が当時の自分以上の実力者だ。それは彼自身が感じていることであった。10年前とはいえ、マシュマト王国のSランク冒険者として一時代を築いた存在のザック・ボンバーディア。

 

 自らに絶対の自信を持っていただけに、それを越えられるということは気分の良いものではない。だが、事実は受け止めなければならない。彼はそれを認める度量も持ち合わせていた。

 

 グリモワール王国の宣戦布告はもちろん彼らにも届いている。Sランク冒険者のレヴァントソードの動きは注視しなければならなかった。

 

「前途多難だね、全く……北の闇の軍勢だけで精一杯だってのに」

 

 ザックは頭を抱えながら書類を読み通していた。白い鎧を纏った聖騎士と仮面の人物が率いる闇の軍勢……マシュマト王国に攻め込んで来た場合は大変な事態になる。

 

「でも、ソード&メイジとビーストテイマーですよ? Sランク冒険者の2組……彼らが受けてくれるなら、なんとかなりませんかね?」

 

 ネラは思いの外、部外者である春人達を高く評価しているようだった。もちろん、これには理由がある。

 

「アルトクリファ神聖国での一件を解決した功績があるからね。神聖国そのものが事を荒立てたくないのか、その事件について隠蔽しているから、外部に情報が生き渡ってないけどね」

 

 ザックは溜息をつきながら、別の書類に目をやった。そこにあったのは、ブラッドインパルスがアシッドタワーで見つけた文献の写しだ。

 

「フィアゼスの親衛隊……やれやれ、こんな化け物が世の中には居たんだね」

「レベル1200は正直信じられないですが……もしも事実なら、ソード&メイジたちは恐ろしく強いことになりますね」

「そうだな。まあ実力的には勝てない戦いだったらしいけどね。どのように収束させたのか興味のあるところだが」

 

 レベル1200はアテナとヘカーテのことを意味する。彼らほどの権力があれば詳細情報はともかくとして、隠蔽されていた戦いの概要くらいは入手が可能だったのだ。

 

 本来であれば、驚異的な強さを持つモンスターが野に放たれたのだから、国家規模で警戒しなければならない事態であるが、アルトクリファ神聖国はそれを望んでいなかった。フィアゼスへの信仰心が厚いからだ。

 

 また、春人たちもあれから彼女たちの情報を拡散させはしなかった。それは神聖国からの申し出があったこと以外に、アテナ達を信じたということも挙げられる。

 

 2か月以上が経過した現在でも、彼女たちが武力を行使して、国などを襲ったという情報はなかった。アテナやヘカーテ達がその気になれば、一国程度は簡単に手中に収めることができる。それを行っていないのは、彼女たちが人間を襲っていないことの裏付けでもあった。

 

 

「ネラちゃんの言う通り、ソード&メイジやビーストテイマーであれば闇の軍勢の件も任せて大丈夫かもしれないね。おまけに、ナラクノハナには彼女も居るわけだし。どのみち、アルミラージやレヴァントソードが居ない以上は、頼むしかないけど」

「ええ、マシュマトの王家から出された1億5千万ゴールドの依頼ですからね。Sランク級の冒険者じゃないと達成はできないと思います」

 

 ネラも今回の依頼の難易度の高さは理解していた。その為、先の3組以外の返事がないことも承知していたのだ。ほとんどの冒険者は報奨金の額を見ただけで受けようとは思わない。だからこそ、依頼を受けに来る者が非常に限られることは想定内であったのだ。

 

「もう、依頼自体を打ち切っても問題は……ん?」

 

 ネラが話していた時だった。彼女の仕事用の通信機がけたたましく音を鳴らしていた。何事かと感じ、すぐに彼女は通信機を取る。

 

「はい? どうしました? ……えっ?」

 

 通信機を耳に付けた彼女は通信機の先の人物と話しをした。だが、直後に彼女の表情は青くなっていたのだ。

 

「どうした、ネラちゃん?」

 

 彼女の異様な雰囲気を察知したのか、ギルドマスターであるザックは咄嗟に声をかけた。彼女は震えながら、ゆっくりとした口調で言う。

 

「北の国境が突破されたらしいです……」

 

 ネラは悲痛な言葉をあげていた。「誰に」という言葉は抜けていたが、言葉にするまでもない状態であった。闇の軍勢が攻めて来たということだ。

 

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