疼く痛みに目が覚めた。
重い瞼をうっすらとこじ開け、淡い燭台の光さえも眩しく感じる現世に若者は引き戻された。
寝台に寝かせられて居ることを理解し、鼻が嗅ぎ慣れた皮ワックスの匂いを捕まえると、直ぐにここが何処か判った。
無意識に目が姿を探す。
ヘンリック。ヘンリック、どこ。どこに居るんですか…。
少し頭を動かすと直ぐそばに組んだ足が見えた。
その上方に視線をずらすと無精ヒゲを生やした初老の男が、居眠りをしていた。
ヘンリック。
何故かすごくホッとした。よかった。居た。
手は怪我をしていなかったので、ゆっくりと痛みを避けながら、大層な努力で初老の男の膝に触れた。
跳ねるように目を覚ました男は、一瞬の瞼のしばたきののち、がば、と自分に向き直った。
そして視線を合わせると、静かに深く、これ以上無いと言うくらい深く息を吐いた。
「ガスコイン。」
相棒の名前を振り向かずに呼ぶと、隣の部屋から巨躯がぬっと顔を出し、おお、気がついたかと、緊張が解けた声で足早にやって来た。
「交代してくれ。湯を沸かす」
素っ気なく言うと怪我人に響かぬ様に静かに退席した。
代わりにガスコインが座ると顔を覗き込んで来た。
「ふむ、意識はハッキリしてそうだな。峠は越えた。よく頑張ったな」
返事の代わりにわずかに若者は笑ってみせた。
「後は輸血液と安静で治して行けば良い」
医療教会に所属していたこの神父のおかげで、的確な処置を施され一命を取り留めることができた。
「おまえ、三日三晩死んだ様に眠ってたんだぜ。」
身体はピクリとも動かず、心の臓だけが辛うじて生存を主張していたのだと言う。
ガスコインは背後を気にしながら声を落とすと、
「あのジジィな、お前を襲った獣を恐ろしい勢いでミンチにしてたぜ。いつもは急所を手際よく撫で切って可能な限り汚さないんだけどな、狂ったように潰してた」
俺が止めなかったらずっと叩き潰していただろうよ、とも。
少し驚いた。可能な限り綺麗に始末するのは、何頭もの獣を相手する為の最良の体力温存法だと、当の本人から口酸っぱく言われて来たからだ。
「それでずっと付きっ切りでここに座ってお前を看病してたんだ。俺が代わるから少し休めと言ったんだが、あのクソジジィ、頑として言うこと聞きゃしねえ」
と、ガスコインは可笑しそうに笑った。
「ありゃ、お前の事を相当気に入ってるぜ」
(つづく)
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