狩人狩り   作:長須くん

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確信

 身体の傷も癒え、また狩人の仕事を再開させた。

 幸いにもこのところ獣達はおとなしくなりを潜めているようで、その間に狩人達は次にいつ来るか判らぬ獣狩りの日の為の準備に余念が無い。

 身体を充分に休め、狩の腕を上げる訓練をし、消耗品を製造・補充し、武器の修理・開発に居住区はにぎわっていた。

 夜は愉しみの時間も設けられるほどには余裕が持てた。

 酒を飲み、肉を食い、束の間の人間らしい営みがそこにはあった。

 そんな時は、ヘンリックもガスコインも懇意にしている者たちと食事を共にした。

 羽目を外すことは無かったが、彼らなりに普段よりは格好を崩していた。

 

 ある晩、音がして目が覚めた。

 何かがかすかに軋む音。

 重い物が一定の間を置きながら軋んでいる。

 まだ夜半過ぎ、夜明けまで間がある。

 

 今夜は天気が崩れてからだんだん雨脚が酷くなり、獣狩が早々に引き上げられた。

 狩人が今いる部屋はヘンリックの工房で、金のない彼は居候をさせて貰っているのだった。

 隣は主寝室、のはずだ。雨音に混じって時折声も聞こえる。

 まさか狩人の家に物盗りも有るまいとは思ったが、念の為と忍び足で壁に耳を当て、音の正体を探った。

 

 程なくして顔がカッと熱くなった。

 

 あれはヘンリックの呻き声。

 一体何を、と思うよりもさまざまな事を察した。

 ああ、ガスコインと…。やはりそう言う事か、と。

 何時もの無愛想な態度からは想像できないうわずった声が、家具の軋みと共に聞こえてくるのは、なんだか冒涜的な感じがした。

 自分の憧れている人の喘ぐ艶めいた声を聞いて、男同士の罪深い行いを咎めるよりも、ついその顔を想像してしまう誘惑に負けた。

 どんな悩ましい顔を相棒のガスコインに見せているのだろうと、後ろ暗い興味が後からあとから湧き出てくる。

 

 唐突に、大怪我を負ったあの日の昼下がり、工房でヘンリックに唇を奪われた時の事が喚起された。

 なぜ彼自身がそうされたのか判らないまま、自分の気持ちをもてあましていた。

 己の唇に指をやり、禁断へのときめきに思わず触れてしまったあの瞬間を、戸惑いながらも反芻する。

 

 自分は男なのに男を求めそうになっている。

 好きにされたいと思ってしまっている。暗い部屋の中で壁にもたれながら狩人は逡巡していた。

 あのまま状況に任せていたらどうなっていただろう。

 自分がまったく別の人間になってしまいそうで恐ろしかった。

 知らない世界に溺れてしまいそうで恐ろしかった。

 そんな自分を見てヘンリックが失望する事が、何より一番恐ろしかった。

 

 ならばやはり今までどおり何も無かった顔をしてやり過ごすのが良いのだろう。

 ヘンリックの知らないところで己の欲は発散させればよいだけの事。

 こんな禍々しい思いを抱くなど身の程知らずというもの…。

 

 ああ、それにしても思ったよりもしなやかな唇だった…。

 もし…。もしも、その唇で身体を這われたりしたら。

 ぞくぞくと官能的な期待に鳥肌を立たせて、身体が未知の興奮に震えた。

 ヘンリックの身体の下で寝台を軋ませて自分が喘ぐ妄想…。

 

 ヘンリックに…。

 

 あっという間に体の中心に熱が集まり、たまらず手で己を掴むまではよかったが、慣れているはずの行為が何故だか初めてのようにぎこちなく、鼓動は早鐘のように胸を打った。

 興奮に手が小刻みに震え、そっと動かしてみると熱い吐息に絡めて思わず声が漏れ出た。

 自分の手がまるで別人の手の様な気さえしたほどで、壁に身体を預けると隣の部屋の音を聞きながら妄想を昂らせ好きなように喘いだ。

 男の名前を小さく呼びつつ息を荒げては、熱を持ってそそり立つ自身をまるでその人が弄ぶ様に苛め抜き、叫んでしまいそうになる口に布を嚙ませて自らを黙らせ、息苦しさに恍惚となり、そしてあっという間に白い放出に至った。

 

 自分を慰めた事など健康な人間ならば当たり前にあるが、この時ほど深い快感を得たことは無かった。

 隣室の音はまだ続いている。

 あの人の声がする。

 条件反射のようにまた勃ち上がったそれを再び絞り上げる。

 そうやって何度も登り詰めた。

 ついには、ああ…と、精も根も尽き果て、おまけにひどい罪悪感にさいなまれながらぐったりと深い眠りに落ちていった。

 

 雨はますます酷く降り続き、いまだ夜は明けていない。

 

 

(つづく)

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