金で買えないスキルはない ~『外資系投資銀行に勤める俺が、異世界転生して金の力でチートする』~ 作:上下左右(じょうげさゆう)
俺は購入した奴隷たちに早速株を買い集めてくるように命じた。ステータスが高い者を選別して購入しただけあり、株所有者のリストを渡すと、すみやかに行動を開始した。
たった一人、エルフのリーゼを除いては。
「私は人間の命令には従いません」
リーゼは俺と目を合わせようとすらしない。これなら軽蔑の視線を向けられた方がマシだ。どっちも嫌だけど。
「俺が主人なんだ。契約は守ってもらう」
「嫌なものは嫌です」
奴隷が主人の命令を拒否することは可能だ。ただし拒否すれば、激しい罪悪感を抱くようになっている。
だから大抵の奴隷は主人の命令を喜んで実行する。そのはずなのだが。
「なぜそんなにも人間を嫌う。というより人間が嫌いでも構わないから、俺の命令は聞いてくれ」
「人間の命令を聞くくらいなら、舌を噛んで死んだ方がマシです」
リーゼは強情な態度を崩そうとしない。なるほど、セール品になる訳だ。
「私の両親は人間に殺されました。そして妹も私と同じ奴隷として売られました」
「それが人間を嫌う理由か……」
「私は家族と一緒に暮らせればそれでよかった。なのに人間たちは自分の欲望のために、私たちを襲ったのです!」
エルフは魔王領の森に住む一族で滅多に人前に出てこない。近代文明とも縁のない生活をしており、自然と共生しながら暮らしている。
「だがエルフの奴隷として価値は低いんだろう。なぜわざわざ襲うんだ」
「人間たちは遊び感覚で私たちを狩るのですよ」
人間の中には反魔人派と呼ばれる者たちが存在する。そいつらは魔王領の魔人を襲い、奴隷として売っているのだそうだ。
本来なら無理矢理奴隷として売却するのは違法である。
例えばサイゼ王国では三種類の奴隷しか認めていない。
犯罪奴隷と戦争奴隷と借金奴隷だ。
犯罪奴隷はその名が示す通り、犯罪を犯した者が更生のために奴隷となる制度だ。期間限定の奴隷で、服役期間が終われば奴隷から解放される。
戦争奴隷は戦争で捕虜となった者が奴隷になる制度だ。魔王領のような頻繁に戦争をしている国には多いが、サイゼ王国にはほとんどいない。
借金奴隷はサイゼ王国で最も多い奴隷で、借金を返せなくなった者が自分を売るのだ。元会社経営者なども多く、優秀な人材は借金奴隷であることが多い。
リーゼも借金奴隷で登録されていた。つまりリーゼは拉致され、架空の借金をねつ造され、奴隷として売られたのだ。
人間にこんな暴挙を行えばすぐに逮捕されるが、魔人相手だと黙認されているのだと、リーゼは語る。
「リーゼが人間を恨む理由は分かった」
「あなたは分かっていません、魔人の奴隷がどんな目に遭うか」
奴隷の人権は保障されている。形式上はそうなっている。だが奴隷の人権を無視した行動をした場合に取り締まるのは人間だ。人間は魔人相手だと恐ろしいほど冷たい。
「私と妹を買った主人は最低でした。毎日毎日私たちを殴りました。優しい時は血を吐けば許してもらえますが、機嫌が悪いと地獄のような暴力と回復魔法を組み合わせ半永久的に嬲られました。何度も死のうと決意しましたが、私が死ねば妹に暴力が集中します。死にたくても死ぬわけにはいかなかった」
リーゼは昔を思い出し、ポロポロと涙を流す。
「あなたは酒瓶で頭を殴られたことがありますかっ! あなたは犬でも食べない残飯を無理矢理食べさせられたことはありますかっ!」
あるわけねえじゃん。
そう答えたら関係は修復不能になるんだろうな~。
「私たち姉妹に飽きたのでしょうね。ご主人は私たちを奴隷商人に売りました。妹は生きているか死んでいるかもわかりません」
「なるほど。まぁ、人間を嫌いになるのは仕方ないと思う。だから交換条件ならどうだ?」
「人間とは交渉しません!」
「そう無下にするな。君にとっても悪い話ではない。奴隷となった妹を探してやると言えばどうだ?」
リーゼの長い耳がピクンと動く。心が揺さぶられている証拠だ。
「……人間なんて信頼できない」
「人間は信じなくてもいい。だが俺は信じてくれ。必ず妹を見つけ出してやる」
奴隷は主人の命令を拒否すると罪悪感を覚える。妹を助けたいという気持ちと混ざり合い、リーゼは俺との交渉に応じる。
「私は何をすればいいのです?」
「奴隷たちをまとめて、投資家たちから株を買い集めてくれ。ただし一つ注意点がある。実際に売買契約を行うのは、俺が指定した日程にして貰う」
「なぜそんな面倒なことを?」
「奇襲攻撃を仕掛けるためだ」
五パーセント以上の株券を保有すると、大量保有していることを連絡しないといけなくなる。そうなれば俺が企業買収しようとしていることに気づかれ、対策を打たれてしまう。
蓋を開ければ、買占めが進んでいた。そういった状況を作り出すのが目的だった。
「では俺のために頑張ってくれ」
「あなたのためではありません! 妹のためです!」
リーゼはリストを手にして、投資家たちのところへ向かう。 見て分かるほどにやる気に溢れていた。
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